【ネタバレあり】強くてニューゲームを繰り返すうちに、何気ない日常の素晴らしさに気づいていく美しい映画『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』
【個人的な満足度】
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:About Time
製作年:2013年
製作国:イギリス
配給:シンカ、パルコ
上映時間:124分
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
元ネタなど:なし
公式サイト:https://theriver.jp/about-time-revival/
【あらすじ】
※映画.comより引用。
イギリス南西部に住む青年ティム(ドーナル・グリーソン)は自分に自信がなく、ずっと恋人ができずにいた。
21歳の誕生日に、一家に生まれた男たちにはタイムトラベル能力があることを父親(ビル・ナイ)から知らされたティムは、恋人を得るためタイムトラベルを繰り返すようになり、やがて魅力的な女性メアリー(レイチェル・マクアダムス)と出会う。
しかし、タイムトラベルが引き起こした不運によって、その出会いがなかったことになってしまい、再び時間をやり直したティムはなんとか彼女の愛を勝ち取るが……。
【感想】
※以下、全体的にネタバレ。
日本公開10周年を記念してのリバイバル上映。4Kレストア版とかデジタルリマスター版とかそういうのではなく、単に当時の映像をそのまま流すだけなので今年のランキングの対象ではないのですが、実はまだ観ていなかったので映画館で観れてよかったです。タイムトラベルモノではありますが、一般的に想起される同ジャンルの映画とはだいぶ違いましたね。設定自体はSFというよりファンタジーに近く、ラブコメよりも日々生きていくことに喜びを見出すヒューマンドラマの要素が強かったもので。
<いくらでも過去に戻れる強くてニューゲームな主人公>
いやー、ティムの能力、いいっすね~。暗いところで念じるだけで戻りたい過去へいくらでも戻れちゃう手軽さがうらやましいです。過去にしか戻れないとはいえ回数制限がないので、ある意味自分に与えられた時間は無限ですよね。日常のちょっとしたミスなどいくらでも修正可能なので、何回かやればパーフェクトな1日を過ごせるはずです。まさに"無限強くてニューゲーム"って感じですね。
ただ、自分が生きた過去にしか戻れないので、例えば遠い太古の時代や技術の発達した遠い未来には行けません。あくまでも、自分が生まれてから死ぬまでの100年かそこらの範囲の中を繰り返すしかないんです。そういう意味では、時間は無限ですけど、カゴの中の鳥と言いますか、やれることに限界はありますし、何回か繰り返していたらけっこうやることなくなっちゃいそうではあります。
<時空を超えることができても変えられないこともある>
当初、この映画はティムがメアリーと結ばれるために何度もタイムトラベルを繰り返すラブコメかと思っていましたし、そういう要素もあるっちゃあるんですけど、実はもっと大事なことを伝えてくれるんですよ。それは、ティムと彼の父親との関係性を通じて知ることができます。父親は末期ガンに侵されていました。元気に家族と過ごしていた過去に戻るため、彼もまたタイムトラベルを繰り返していたんですね。しかし、そこでその能力のもうひとつの条件が関わってきます。それは、「新しい命が生まれたら、その前には戻れなくなってしまう」というものです。
父親の病気の原因は、彼が若い頃から吸っていたタバコなんですけど、ティムが生まれる前には戻れないため、タイムトラベルではもう病気を防ぐことができません。やがて父親は死を迎えますが、ティム自身はタイムトラベルで父親が生きていた過去には戻れました。とこりが、ティムも大きな決断を迫られることになります。妻が3人目の子供を欲しがったのです。もし子供が生まれたら、もう父親が生きていた過去へは戻れません。3人目の誕生は父親の死後のことなので。だから、その3人目が生まれる前が父親と会える最後のチャンスだったんですよね。まさか、万能とも思えるタイムトラベルの能力をもってしても、愛する人の死を回避できないなんて悲しすぎますよ。そういえば、『タイムマシン』(2002)っていう映画も、何回時間を巻き戻しても最愛の恋人が死という運命からは逃れられないっていう設定だったことをふと思い出しました。
<1度しかない1日だからこそかけがえのない時間になる>
幾度となく同じ時を過ごしてきた父親は、幸せの秘訣として毎日を"二度"過ごすことをティムに提言します。1回目は普通に過ごし、それをもう一度繰り返すのです。緊張や不安で気づかなかった人生の素晴らしさに2回目は気づくそうで。これぞまさに強くてニューゲームの醍醐味ですし、人生をより完璧に近づける唯一の方法とも言えそうですよね。
でも、ティムはその1歩先を行きました。彼は途中からタイムトラベルを辞めたんです。それは、つまづいて転んで今の自分があるということを知ったから。完璧で綺麗な1日ではなく、不完全で失敗があってもそれもまた自分を形成する大事な要素であると悟ったんです。それこそが本当の自分だと。
彼の「この日を楽しむために自分は未来から来て、最後だと思って今日を生きていく」というセリフは印象的でした。この映画を観ると「何気ない日常こそが素晴らしい」と感じますし、それはそれでひとつの真実だとは思うんですけど、これは無限に過去を繰り返してきたティムやその一族の経験があってこその境地なので、観客が抱く感情とはだいぶ訳が違うんじゃないかと僕は思います。「世の中お金じゃない」というのを、凡人が言うのと金持ちが言うのとでは言葉の重みがまったく違うっていうのと似ているかもしれません。
<そんなわけで>
現実にはティムのような実感を得ることはできませんが、一度しかない1日をありのまま過ごすことの大切さをかみしめられる映画でした。この作品は、年老いてから観た方がもっともっとわかりみが深くなる気がします。あと、当時まだ有名でなかったマーゴット・ロビーとヴァネッサ・カービーが出ているのも感慨深かったです。