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人類史上最も難しいチームビルディングを実現させた『クレッシェンド 音楽の架け橋』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:17/25
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★★
映画館で観るべき:★★★★★
【ジャンル】
ヒューマンドラマ
パレスチナ問題
音楽
【原作・過去作、元になった出来事】
・楽団
ウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団
【あらすじ】
世界的指揮者のスポルク(ペーター・シモニシェック)は、紛争中のパレスチナとイスラエルから若者たちを集めてオーケストラを編成し、平和を祈ってコンサートを開くという企画を引き受ける。
オーディションを勝ち抜き、家族の反対や軍の検問を乗り越え、音楽家になるチャンスを掴んだ20余人の若者たち。しかし、戦車やテロの攻撃にさらされ、憎み合う両陣営は激しくぶつかり合ってしまう。
そこで、スポルクは彼らを南チロルでの21日間の合宿に連れ出す。寝食を共にし、互いの音に耳を傾け、経験を語り合い、少しずつ心の壁を溶かしていく若者たち。
だが、コンサートの前日、ようやく心がひとつになった彼らに、想像もしなかった事件が起きる――。
【感想】
これもまた見ごたえある面白い映画でした!イスラエルとパレスチナの対立問題を乗り越えてのオーケストラ。こういう民族紛争的なものは、日本では絶対作り得ないので、とても興味深く鑑賞できます。
<民族紛争の当事者たちによるオーケストラという強すぎる設定>
今回題材となったのは、イスラエルとパレスチナの若者たちを集めて作られたオーケストラです。実在するウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団がモデルですね。長らく対立を続ける両者が、オーケストラという最も一致団結しなければならない環境に置かれるっていう設定は、コンテンツとして強すぎるなって思います。なので、このいわゆるパレスチナ問題についての知識があった方がいいかなって思います。以下にわかりやすくまとめてあるので、よかったら読んでみてください。
もうね、気が合う合わないとか、そういうレベルの話じゃないんですよ。厳密に言えば、2000年という長い歴史にわたる争いなので、民族としてはお互いに憎しみや嫌悪感が積もりに積もってます。事あるごとに、相手を罵り、口論に発展し、大騒ぎになり、オーケストラの練習すらままならない状況でした。
<無理ゲーすぎるチームビルディングの過程が見ごたえあり>
普通に会社勤めをしていても、組織で働いている以上はチームビルディングに悩んでいる人も少なくないかもしれません。それが、今回は民族レベルの不和ですからね、、、根は深いです。。。そんな状況をまとめていくのも、世界的指揮者であるスポルクの役目です。
まず、自分たちのやるべきことは何かを、みんなの共通認識として持ちます。メンバーだって、ケンカするために集まったわけではないし、そもそも敵意があるわけでもないんです。だから、その共通認識さえしっかり握れれば、後はとにかく話し合いの連続。あえて相手への不満をぶちまける時間を作ったり。相手の立場になって考えるロールプレイングもしたり。自分や家族の身に起こった悲劇を共有したり。そうやって、徐々にお互いを知っていくことで、ひとつのチームになっていく過程は面白かったです。
これが集団スポーツとかだったら、もっと血気盛んな若者が多くて収拾がつかなくなりそうですけど、オーケストラですから。最も調和が必要とされる場所ですから。
あと、こういうのって相手へのイメージが先行していることもあるかもって思いました。今回出てくる若者たちは、直接の加害者や被害者はいないようでした。劇中での話を聞く限り、彼らの祖父母世代が一番犠牲になっているんじゃないですかね。自分たちが体験したことを、何回も何回も孫に話して聞かせるから、知らず知らずのうちに相手へのネガティブイメージがついちゃって。いくら対立している同士だからって、全員が全員相手を殺したいわけじゃないですよ。中には平和を望んでいる人だっています。そういうことも、合宿期間中における話し合いや練習を通して知ることで、お互いの理解がより深まっていたようにも思います。
あと思ったのが、みんな普通に英語はしゃべれるんだよなってこと。お互い母国語は通じないんだけど、共通言語として英語は当たり前のように使えていました。やっぱり言葉が通じないと、相手の考えていることもわかりませんよね。日本人が英語を話せないのは、単に使わなくてはならない機会が圧倒的に少ないからなんじゃなかろうかって、海外の作品を観るたびに思います。
<印象に残る"鍵"の話>
これはあまり本編とは関係ない話で恐縮なんですけど。劇中に出てくるメンバーのおばあちゃんが、首から鍵をぶら下げてるっていう話があるんです。現実にも、昔のパレスチナ難民は、首から鍵をぶら下げて生きていたらしいんですよ。それは、追い出された人たちが、いつか自分の家に帰れることを願ってのことなんですけど、そういう実際のエピソードを入れ込んでくるのはいいなって思いました。
<誰もが聞いたことのあるクラシックの名曲が心地いい>
ヴィヴァルディの『四季』から《冬》、ラヴェルの『ボレロ』、パッヘルベルの『カノン』など、今でもいろんな場面で使われるクラシック音楽は、いつ聴いても心が安らぎますよね。映画館の整った音響設備で聴くとなおさらです。しかも、演奏しているキャストたちは、みんな本物の演奏家たちなんですよ。映画の設定に沿って、メインの4人以外は、ユダヤ人とアラブ人の演奏家からキャスティングし、演奏指導もしたとのこと。そういった作り込みも素晴らしいです。
<そんなわけで>
あまりにも溝が深い対立を背景にしながらも、徐々にお互いを受け入れ、一致団結して音楽を奏でていく様子はとても見ごたえがありました。これはぜひオススメしたい映画です。