【ネタバレあり】あまりにもツッコミどころが多すぎてもはやギャグ映画になっていた『Dr.コトー診療所』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:171/195
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★☆☆☆
【作品情報】
製作年:2022年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:134分
ジャンル:医療、ヒューマンドラマ
元ネタなど:漫画『Dr.コトー診療所』(2000-)
テレビドラマ『Dr.コトー診療所』(2003-2006)
【あらすじ】
日本の西端に位置する自然豊かな孤島、志木那島。19年前に東京からやってきた五島健助=コトー(吉岡秀隆)は、島に“たったひとりの医師”として、島民すべての命を背負ってきた。
長い年月をかけ、島民とコトーの間には信頼関係が出来上がり、今や彼は島にとってかけがえのない存在に。数年前に看護師の星野彩佳(柴咲コウ)と結婚し、彩佳は現在妊娠7ヶ月。
しかし、志木那島も過疎高齢化が進んでいる。財政難にあえぐ近隣諸島との医療統合の話が持ち上がり、コトーに島を出て拠点病院で働かないかとの提案が。そうなれば、コトーは長年暮らした島を出て行くことになる。
そんな折、島に台風が接近し、甚大な被害がもたらされているという話が役場に入ってくる。次々と診療所に運び込まれる急患。限られた医療体制で対応を強いられる診療所は野戦病院と化す―。
【感想】
原作漫画は未読ですが、この映画のために放映当時は観ていなかったテレビドラマ版を一気に鑑賞しました。いやー、面白かったですね。ドラマは。「こりゃ今回の映画も期待できるぞ!」と思っていたんですが、実際に観てみると、、、かなり拍子抜けしてしまう内容でした。。。
<テレビドラマ版のおさらい>
テレビドラマ版を観ていない方は、ぜひそちらを先に鑑賞した方がいいですよ。何も知らずにこの映画を観ると、ほとんど何もわからないと思いますから。
シーズン1である『Dr.コトー診療所』(2003)は、東京からやってきたコトー先生が、四面楚歌状態になりながらも、患者さんと真摯に向き合っていくことで島民からの信頼を得つつ、島で起こる様々な怪我や病気を治していく過程が面白かったです。
『Dr.コトー診療所特別編』(2004)は、コトー先生の過去に関わりのあった三上先生(山崎樹範)のその後を描きつつ、基本的にはシーズン1のダイジェストなので、これは無理して観なくても大丈夫かなと思います。
その次の『Dr.コトー診療所2004』(2004)は、将来医師になるために東京の中学校を受験するに行く剛洋(富田涼)と父親の剛利(時任三郎)との関係性や、突如不幸に見舞われる星野家(柴咲コウの家族)の話がとても印象的です。スペシャル的な位置づけですが、内容的にはその後のシリーズにも大きく関わるところなので必見です。
シーズン2である『Dr.コトー診療所2006』は、彩佳が乳がんになるという大きな問題が発生します。島での診療活動も続けつつ、彩佳の身を案じるコトー先生の役どころが注目ポイントです。ここでは、彩佳の母親役を演じている朝加真由美さんと、彩佳の乳がんの主治を演じた堺雅人さんのキャラクターおよび演技力がすごくて一見の価値ありです。
<変わらない志木那島の美しさは健在>
さて、今回の映画ですが、目まぐるしく変化していく昨今の社会の中で、志木那島を流れる時間はほとんど変わっていませんでした。海に囲まれた自然豊かな光景に、島特有のあのゆっくりとした平和な時間。最高ですね。これはむしろ変わらないでいることに魅力があると思います。ちなみに、僕は前日までテレビドラマ版を観ていたので、そのままの流れで映画を観たんですが、実際にはシーズン2が放映されてから16年も経過してるんですよね。なので、キャストのみなさんが一気にお歳を召されたことにちょっと驚いてしまいました。でも、泉谷しげるさんだけはまったく変わっていませんでしたね(笑)
そんな島に一体何が起こるのかと思ったら、、、あまりにも情報を詰め込みすぎてギャグ映画になっていたんですよ。ここからは内容に触れてしまうので、まだ知りたくない方はここでページをそっ閉じしてください。。。
<複数のエピソードが同時に走る忙しさ>
今回の映画、前提となる設定が多すぎるんですよ。まず、剛利が漁業の最中に脚に大怪我を負ってしまい、歩くこともままならない状況に陥ってしまいます。そんな父を心配して息子の剛洋が島に帰るも、彼は彼で誰にも言えない秘密を抱えており、島に逃げてきたようなものなんですね。で、彩佳は妊娠7ヶ月目で、あまり無理をできる体ではありません。そして、コトー先生は本土に作ろうとしている拠点病院で働かないかと提案されると同時に、彼自身が大きな病にかかっていることも発覚してしまうんです。そんな状況の島に研修でフラッとやってくる判斗先生(髙橋海人)っていう。これらが同時並行で走っているというかなり忙しい世界観です(笑)
<終盤の設定はギャグ映画なのかファンタジー映画なのか>
すごかったのが終盤の嵐のシーンですよ。診療所に次々と運び込まれる急患。限られたスタッフでは手が回らず、現場はまさにカオス。「必ず全員助けますから」というコトー先生の言葉でさえ戯言に聞こえてしまうほど、現場はしっちゃかめっちゃか。そんな中、心肺停止したおじいさんに心臓マッサージを行うコトー先生ですが、その途中で彩佳がまさかの切迫早産疑惑で倒れちゃうんですよ。おじいさんの処置を判斗先生に任せ、彩佳のもとに行こうとしたコトー先生も、病が悪化してその場に倒れ伏しちゃって。そして、おじいさんの心肺も戻らず、判斗先生もお手上げ状態。島民は成す術なく、全員その場で呆然と立ち尽くすのみですよ。「そんな悲劇重なる?!」ってぐらいの偶然っぷりに思わず吹いちゃいました(笑)
そこで、咄嗟に剛洋がおじいさんの心臓マッサージを続けることで、奇跡的に復活します。また、剛利の呼び声でコトー先生は何とか目を覚まし、フラフラになりながらも、彩佳の処置を看護師に指示し、自身は別の患者のオペに。「そんな満身創痍な状態で、正確さが問われる手術なんてできるの?!」ってこれまた思わず吹きましたね(笑)でも、そんな心配をよそに、コトー先生は無事にオペを終えるんですよ。マスクに鼻血をにじませながら。超人か?って(笑)
もうね、情報詰め込みすぎですし、展開もツッコミどころありすぎですし、テレビドラマ版のよさをほとんど引き継いでいないように感じられました。あれだけ患者と真摯に向き合い、医者とは何かについて自問自答していたコトー先生も、最後は勢いと執念だけで突っ走っていたように見えたので。。。
<何も解決していない島のシステム>
この映画では、新参者の判斗先生が根本的なところを突いてきます。島とは何の関係もない若造だからこそ、躊躇なく言えるんでしょうね。要は、コトー先生に頼りっきりで、彼がダウンしたら島が終わるってことです。この20年、たまたまコトー先生みたいな人がやってきて、彼の善意と自己犠牲で成り立っていただけじゃないかと。いやもう正しさしかないですよね。今回、コトー先生が病気の治療で診療所を離れそうな状況になって初めて、みんな気づくんですよ。コトー先生にすべてを背負わせていたと。今まで何事もなかったから気づかなかったか、気づいても言わなかっただけで。その問題提議に対する答えが何もないまま、「平和が戻った、わっしょーい!」で終わるという無理矢理さに違和感を覚えました。
<そんなわけで>
16年ぶりに続編を作る意味があったのか、正直疑問が残る映画でしたね。テレビドラマ版が好きだっただけに、ちょっと残念に思う部分はありました。いい要素もあったのに、そこらへんはスルーしちゃったのがよくなかったかなあと。例えば、島を離れて拠点病院で働くことの是非や、次の世代へのバトンタッチなど、そっちを掘り下げた方が納得感あったかもしれません。唯一の救いは、主題歌が変わらなかったことぐらいですかね(笑)まあ、これまでシリーズをずっと観てきた人なら、今後続編があるとも限らないので、観ておいても損はないかなあとは思いました。