
社会の枠に捉われないアウトサイダーにしか国の改革はできないのだろうなと思った『室町無頼』
【個人的な満足度】
2025年日本公開映画で面白かった順位:7/8
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★☆☆
映像:★★★★☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
原題:-
製作年:2025年
製作国:日本
配給:東映
上映時間:135分
ジャンル:時代劇、アクション
元ネタなど:小説『室町無頼』(2016)
公式サイト:https://muromachi-outsiders.jp/
【あらすじ】
※映画.comより引用。
1461年、応仁の乱前夜の京。大飢饉と疫病によって路上には無数の死体が積み重なり、人身売買や奴隷労働も横行していた。しかし時の権力者は無能で、享楽の日々を過ごすばかり。
そんな中、己の腕と才覚だけで混沌の世を生きる自由人・蓮田兵衛(大泉洋)はひそかに倒幕と世直しを画策し、立ち上がる時を狙っていた。一方、並外れた武術の才能を秘めながらも天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていた青年・才蔵(長尾謙杜)は、兵衛に見出されて鍛えられ、彼の手下となる。
やがて兵衛のもとに集った無頼たちは、巨大な権力に向けて暴動を仕掛ける。そんな彼らの前に、兵衛のかつての悪友・骨皮道賢(堤真一)率いる幕府軍が立ちはだかる。
【感想】
※以下、敬称略。
実在しながらもほぼ歴史に名が残っていない蓮田兵衛(大泉洋)を題材にした映画です。世直しや改革というのは、その社会で生きる人よりも部外者の方がやりやすいんだろうなと思う内容でした。
<こうやって一揆は起こるんだと歴史の勉強もなる>
本作で一番の見どころは終盤で起こる土一揆のシーンですね。日本史を学んだことがある人ならその名を知らぬ人はいないであろう“一揆”。中でも今回は土一揆と言って、本来であれば、室町時代の畿内において民衆が団結して支配者層に政治的要求をする行為を指します。が、本作ではぶっちゃけ暴動です(笑)農民や浪人、遊女などを総動員して、洛中になだれ込み、高利貸し業者の手にある証書を焼き払うためにあちこちに火をつけて大暴れしていました。万を超える人々が入り混じり、警備隊と衝突、大乱戦となっていく様子はメチャクチャ迫力ありましたね。特に、棒術を極めた才蔵(長尾謙杜)の軽やかな動き、ひとりで多くの敵をボコボコにする構図は爽快感あります。ある意味、主人公の蓮田兵衛よりも印象に残るかもしれません。
<アウトローが世界を変える>
さて、この映画を観てもうひとつ印象的だったのが、かつての日本の混沌とした光景です。格差が広がり、道端には今にも死にそうな人々で溢れ返っています。白骨化した遺体が転がっているのも珍しくありません。幕府は何もせず、役人も自らの保身しか考えていないんです。もはや世紀末ですね。さすがに現代の日本ではそこまでひどい状況ではないにせよ、560年経った今でも変わっていない部分はある気がします。
もし、現代でその格差を是正するとしたら、選挙でリーダーを選んだり(あんまり劇的な変化ってのはないですけどw)、SNSで情報を発信したりと、平和というか民主的というか、そんな手段が考えられますよね。それが室町時代だと暴力に訴えることもあったんです。しかも個人レベルをはるかに超えた規模で。法整備や社会体制が整っていなかったこともあるとは思いますが、民衆同士が団結して支配者層に怒りをぶつけるんです。もちろん、それによって命を落とす人もいますが、そのリスクを負ってでも支配に抗ったんですよ。なんて直接的で即効性のあるやり方だろう。今回は主に高利貸しの証書を焼き払うことで借金を帳消しにするべく戦いました。まあ、踏み倒したと言えば聞こえは悪いですが、もともと非人道的な利率だったんだろうから反発はあって然るべきですよね。現代の感覚では「それでも暴力はダメ」となると思いますが、気持ち的にスカッとします。こういうのは社会の枠組みに捉われない蓮田兵衛だからこそできたのではないでしょうか。その社会に生きる者だとどうしてもそこでの生活がかかってくるのであまり大っぴらなことはできませんよね。自分ひとりの問題で済まないかもしれませんし。それが部外者となると話は変わってきます。ルールもしがらみも関係ありません。そんなものは「うるせーこの野郎」、「知らねーよクソ野郎」ですよ。結局、最後はそう言ってぶん殴った方が早いことがありますし、洋画なんかはけっこうそんな展開になりがちですよね(笑)
<昔の日本人の方が強かった?>
そう考えると、昔の日本人って随分と荒くれ者というか、反骨精神があったなと思います。いや、今も反骨精神はあるし、単にやり方が変わっただけかもしれませんけど、そうは言っても昔はいつ人に襲われて殺されるかもわからない時代だったろうから、現代の人よりは警戒心も強く、自己主張も強く、腕っぷしも強かったかもしれませんよね。今もそんな日本人だったら、国際社会の中、海外に舐められることも少なかったかもなんて思ったり(笑)日本って昔はけっこう内乱の多い国でしたけど、よく言われる今のような日本人のおとなしさというのはどこで培われたものなんでしょう。明治維新?戦後のGHQの指導?
<そんなわけで>
内容としては戦国時代のアクション映画なんですが、格差の是正が目的という点においては現代にも通ずるものがあると思いました。それにしても、北村一輝は『グランメゾン東京』のスペシャル(2024)でも見せたように憎たらしい敵役がハマりますね(笑)