【ネタバレあり】過去のジブリ作品を観ていればいるほどエモさを感じられるファンタジー映画『君たちはどう生きるか』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:37/102
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★★
映像:★★★★★
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:-
製作年:2023年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:124分
ジャンル:アニメ、ファンタジー
元ネタなど:小説『君たちはどう生きるか』(1937)
【あらすじ】
第二次世界大戦中の日本。
空襲で母親を亡くした牧眞人は、父親と共に疎開することに。
父は母の妹・夏子と再婚し、お腹にはすでに新しい命が芽生えていた。
眞人は疎開先で新しい暮らしを始めることになるものの、夏子のことを新しい母だと認めることができず、距離を置いた態度を取り続ける。
そんなある日、一匹のアオサギが眞人に「母親は生きている」と衝撃の発言をする。
また、時を同じくして身重の夏子も失踪。
かろうじて彼女が出歩く姿を目にした眞人はその後を追い、敷地内にある古いトンネルへとたどり着く。
使用人のキリコの制止に耳を貸さず、中に入っていった眞人は、そこで思いも寄らない事象に巻き込まれることになる―。
【感想】
スタジオジブリ長編アニメーション映画第23作目。事前に予告もなければあらすじや声優も公表されなかった異例の作品ですね。僕は原作小説は読んでいませんが、今回の映画の予習にと漫画版は読みました。簡単に内容を書くと、コペル君という中学生が、日々の生活の中に哲学的なことを見出し、メンターみたいな叔父との文通を通じて理解を深めていく話です。漫画なのに叔父さんの手紙が長すぎて、半分ぐらい普通の小説みたいになっていましたけど(笑)
<映画は完全オリジナルストーリー>
さて、今回の映画、何も情報がないので観るのを躊躇している人もいるかもしれません。ここではネタバレありの感想を書いていくので、もしまだ知りたくない方がいたら、ここでページをそっ閉じしてください。
今回の映画が原作小説通りの話だったら、一体どんな映画になるのか想像もできませんが、おそらく個人的には刺さらなかったと思います。そもそも漫画を読んでも大してハマらなかったので。。。自分が中学生のときに読んでいたら違ったと思いますが、今読むと「まあそうだよね」っていう冷めた感想しか持てなかったんですよ(笑)で、今回の映画なんですけど、ジブリらしいファンタジー映画でした。しかも、時空を超えたSF要素もあるけっこう壮大な設定なんです。ざっくり言ってしまうと、眞人はいなくなった夏子を探すために不思議な世界を冒険するって話です。
<わからない設定:石の目的>
壮大すぎるが故に、「なんで?」って思う設定もありました。それが観た人の間で賛否が分かれる理由だとは思うんですけど。まず、夏子を探してトンネルをくぐった眞人ですが、その先にある空間から「下の世界」に落ちていくんですよ。床の中に吸い込まれる形で。どういう仕組みかまったく謎ですが、とにかく眞人がいた世界とは別の、海に囲まれた世界へと移っていきます。
先に書いた方がわかりやすいので書きますが、実はこの世界、眞人の大叔父が作ったものです。眞人の疎開先の敷地内に塔があって、ずっと大叔父が建てたものだと言われていたんですが、真相は違います。その昔、空から大きな石が降って来て、大叔父がその石をとても気に入ったということで塔のように作り替えたとかなんとか。で、石との契約により、大叔父は石の中で海に囲まれた世界を作ったと。まあ、空から降って来たってことは、地球外のものなんでしょうね。石と契約ってことは、その石には意志があったということなのでしょうか(ダジャレではありません)。また、石が契約した相手に世界を作らせる意味は何なのでしょうか。
そもそも、夏子は自ら「下の世界」に向かったのですが、彼女はその存在を知っていた、、、?また、眞人が彼女を迎えに来たとき、「あなたなんて大嫌い!」と罵っていましたが、あれは眞人を元の世界に帰すための演技、、、?それとも本当に好きではなかった、、、?(姉の子とはいえ連れ子ですからね)ここらへん、1回観ただけだと判断がつきませんでした。
<わからない設定:記憶の扱い>
「下の世界」で眞人はキリコやヒミという女性と出会います。これもまたびっくりな設定ですが、キリコは眞人がいた世界にいる使用人のおばあちゃんの若い頃で、ヒミは炎を操る能力者ですが、眞人の母親の若い頃なんですよ。なんでも、この塔(石)はどの時代にも存在するようで、おそらくあらゆる時代に通じるハブ的な役割を果たしているんでしょう。作中には出てきていませんが、その設定ならきっと過去および未来の眞人へと通ずる道もどこかにあるんだと思います。ただ、「下の世界」から元の世界に戻ると、ここでの記憶はなくなるみたいなんですが、おばあちゃんのキリコが、最初に眞人がトンネルをくぐることを全力で止めようとしたのは、ここがいろいろ危険であることを知っていたからと思うと合点が行くんですよね。若い頃にここにいたんですから。となると、キリコには記憶が残っていたんでしょうか、、、?
一方で、ヒミは完全に「下の世界」での出来事を忘れるようです。というのも、作中で眞人の母親が一度だけ塔の中に消え、1年後に戻って来たというエピソードが話されます。おそらく、その1年の間に眞人が「下の世界」に行って被ったんだと思いますが、結局、眞人の母親は彼に「下の世界」についての話は何もしていなかったようですから。なお、終盤で「下の世界」が崩壊するときに、みんな自分たちが元いた時代に戻るんですが、ヒミ「眞人の母親にならなくちゃ」と言うんです。彼女はどういうわけか、自分が未来の眞人の母親であることを知っているようですが、そうじゃない未来を選ぶことができるかもしれないんですよね。それでもヒミはまた眞人の母親になるっていうんですから、ちょっと感動的なシーンでもありました。
<わからない設定:謎の生物たち>
また、「下の世界」には"わらわら"と呼ばれる、後に人間の赤ちゃんとなるシナプしゅみたいなキャラクターがいたり、人間の言葉を話すペリカンがいたり、二足歩行のインコが世界を牛耳っていたりと、唐突にいろんな情報が入って来るので、けっこう混乱します。てか、インコってなんだよって。なんでインコに支配させるんだよって(笑)大叔父が何でこんなよくわからない生き物を配置したんでしょうか(笑)
<タイトルの意味>
タイトルの『君たちはどう生きるか』。これは、大叔父が最後に眞人に提示した選択肢にすべてが集約されてるんじゃないかなって思います。大叔父は自分で世界を作り、それを管理していたんですが、その仕事自体は彼の血縁にしか引き継げないようなんですね。で、大叔父はそれを眞人に託そうとして、この石の中に残って新しく自分で世界を創るか、それとも今までの世界に戻って幸せになれるかどうかもわからない現実を生きていくのかを迫ります。すでに答えを書いてしまっていますが、眞人は後者を選びました。大叔父の作った世界で出来た友達(キリコ、ヒミ、アオサギ)のような人を、現実世界でも探すと言って。
おそらく、これって自分だけの世界に閉じこもるか、外の世界(社会)に出て現実を生きるかを選ばせたんだと思います。別にどちらが正解っていうわけでもないですけど、眞人たちが外の世界に戻ることを選択したということは、宮崎駿監督自身が外の世界に出た方がいいとメッセージを送ったとも受け取れます。彼自身、自分の世界を表現する映画監督という仕事をしていますが、そういう仕事をしているからこそ、大事なのは現実であるということを身を以て実感しているのかもしれません。
そういえば、『美少女戦士セーラームーン』のラストも、ガーディアン・コスモスが新しい星の歴史を始めるか、自分たちの星へ帰るかの二択を選ばせて、うさぎたちは現実に戻ることを選択していますし、『レディ・プレイヤー1』(2018)でも最後に「現実が何よりも大事だ」みたいなことを言っていたので、どの作品でもやっぱり夢や空想に逃げることはよしとはせず、現実の大切さを説くことは共通しているようですね。
<過去のジブリ作品へのオマージュがたくさん!>
この映画でもうひとつ面白かったのは、過去のジブリ作品を思わせる演出が多かったことです。キャラクターの仕草や風景などが「あ、これってあの映画のあそこじゃん」と気づくところがけっこうありまして。例をあげると、冒頭で眞人が玄関に上がるときに足をバタつかせて靴を脱ぐシーンがあるんですが、これはそのまま『となりのトトロ』(1988)でメイがやっていたと思うんですよね。「下の世界」に行って行方不明になった眞人たちを探す村人の姿は、同じく『となりのトトロ』でメイを探すシーンにも似ていました。また、眞人が母親の病院が焼けていると聞いて咄嗟に家を飛び出し、駆け足で病院へ向かう演出は『もののけ姫』(1997)で似たようなところがあった気がしますし、塔のコケの生えた外観は、どことなく『天空の城ラピュタ』(1986)に出てきそうでした。このように、過去のジブリ作品を観ていれば観ているほど、そのイースターエッグ的な要素にエモさを感じられるわけです。まあ、僕はジブリ作品を全部観ているわけではないので、気づかない部分もあったとは思います。有名どころだと『ハウルの動く城』(2004)や『崖の上のポニョ』(2008)は観ていないので、おそらくそこらへんにも通ずるシーンはあったんじゃないかなと。
<そんなわけで>
ちょっと設定が複雑すぎる部分もあるんですが、個人的にはとても楽しめる映画でした。また、過去にジブリ作品をたくさん観ている人は、ストーリー部分はともかく、過去作品へのオマージュ部分を見つけるのも楽しみ方のひとつだと思うので、劇場へ足を運んでみてはどうでしょう。