四肢は吹き飛び、内臓は飛び散り、炎に包まれ、顔に穴があき、血の雨が降り注ぐリアルすぎる冒頭の戦闘シーンが戦争映画の金字塔と言われる所以だと思った『プライベート・ライアン』
【個人的な満足度】
「午前十時の映画祭14」で面白かった順位:4/15
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★★★★★★★★
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★★★★★★★
【作品情報】
原題:Saving Private Ryan
製作年:1998年
製作国:アメリカ
配給:UIP
上映時間:170分
ジャンル:ヒューマンドラマ、戦争
元ネタなど:実在の元陸軍兵士「ナイランド兄弟」
公式サイト:https://asa10.eiga.com/2024/cinema/1321/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
オマハ・ビーチでの激戦を生き延びたミラー大尉(トム・ハンクス)の下に、「3人の兄を戦争で失った末っ子のジェームズ・ライアン二等兵(マット・デイモン)を探し出し、故郷の母親の元へ帰国させよ」という命令が下った。
ミラーは中隊から古参軍曹ホーヴァス(トム・サイズモア)、狙撃兵ジャクソン(バリー・ペッパー)、カパーゾ(ヴィン・ディーゼル)ら7人の特命隊を編成し、生死も定かでないライアンの行方を追い、敵陣に潜入する。
【感想】
「午前十時の映画祭14」にて。1998年のアメリカ映画。戦争映画の金字塔ってたくさんあると思うんですけど、個人的には本作ほど戦闘シーンをリアルに描いた映画はないと思うほど、その圧倒的なクオリティに飲み込まれました。これを置いて他に金字塔と呼べる映画って、僕の中では『地獄の黙示録』(1979)もありますけど。
<冒頭30分ですべて持っていかれる>
多くの方がおっしゃる通り、この映画はやっぱり冒頭の戦闘シーンが一番の見どころでしょう。年老いたライアンが思い起こす1944年6月6日の出来事。イギリス軍、アメリカ軍をメインとする連合国軍の兵士たちががノルマンディー海岸とコタンタン半島東岸に上陸する、いわゆる「ノルマンディー上陸作戦」です。歴史上最大規模の上陸作戦と言われているそうですね。船の扉が開いた瞬間に飛んでくるドイツ軍の銃弾の嵐。そのせいで上陸前に命を落としていく兵士たちもたくさんいました。銃弾を避けようと海に飛び込むも、荷物が絡まって水死してしまう人も。何とかオマハ・ビーチに上陸した兵士たちでさえ、敵の激しい猛攻に次々死んでいきます。高火力の武器を前に成す術もなく、四肢は吹き飛び、内臓は飛び出て、血肉の雨が降ります。青い海も瞬く間に真っ赤に染まっていきました。中でも恐ろしかったのは、ミラー大尉が負傷した兵士を引っ張っている最中に爆撃され、その兵士の下半身がなくなっているシーンですまた、ミラー大尉がさっきまで会話していた隣の兵士が、次の瞬間には顔に大きな穴があいていたのも夢に出てきそうなぐらい惨かったですね。ここまで戦闘シーンを残虐に描いた映画は他にないかもしれません。エキストラ約1500人を投入したそうですが、この規模感はハリウッドならではですね。
<なぜライアンだけ助けるのか>
ストーリーについては、実は以前からずっと引っかかっていることがありました。それは「なぜ、ライアンだけ帰還させるのか」ということです。彼がお偉いさんの息子だとか、類稀なる才能を持っていて今後の米国の発展のために必要だとか言うならまだわかりますよ。だけど、そんな背景はまったくなく、あくまでも普通の兵士です。これ、さっき調べて知ったんですが、「ソウル・サバイバー・ポリシー」っていう規則に則っているみたいなんですよね。どういう規則かというと、「ある兵士が軍務により家族の他のメンバーを失った場合、その生存している兵士を徴兵または戦闘任務から守って生存させること」だそうです(ウィキペディアより)。だから、ミラー大尉たちはどこの馬の骨ともわからないライアンという青年を、「規則だから」という理由で探しに行くわけです。戦争と直接的な関わりがない身からしたら、兵士の家族には申し訳ないけれど、なかなか複雑な任務ですよ。実際に隊員たちも不満を漏らしていましたから。でも、軍人たるもの命令には忠実でなくてはなりませんからね。「ちゃんと任務を遂行した」ということで胸を張って家族の元に帰るために、ミラー大尉は粛々とライアンを探します。なお、この規則はサリヴァン兄弟というこれまた第二次世界大戦中に潜水艦で戦死した5人兄弟および、その後に戦死したボルグストロム兄弟という4人兄弟の2つの悲劇が元になって作られたらしいです。それを受けて、この映画は実在した4人のナイランド兄弟の話を元に作られました。
<アパムの最後の行動の動機は>
個人的には、アパムのエピソードが印象深いですね。彼はフランス語とドイツ語が話せるからという理由で急遽ミラー大尉に引っ張られた実践経験なしの人。他の兵士と比べるとなよっとしていますし、正直大した戦力にもなりません。そんな彼が、道中で捕虜にしたドイツ軍兵士と少し交流をするんです。その場はそれ以上でもそれ以下でもなく、ミラー大尉によってその兵士は目隠しをされて1000歩進むよう言われて終わります。もしこのままドイツ軍に元に帰ったら、また戦線復帰して自分たちの脅威になると異議を唱える隊員もいましたが、ミラー大尉も元は高校教師ということもあってか、優しいというか、人の命を無駄に奪うようなことはしないんですよね。そこがまたミラー大尉のいいところでもあるんですが、これが終盤の伏線になっています。
先ほど隊員たちが言った通り、終盤の戦闘でその逃がしたドイツ軍兵士が戦線復帰してミラー大尉たちに攻撃してくるんですよ。くるんですが、ラストで連合軍の勝利が確定した後に、アパムがそのドイツ軍兵士を射殺します。先の交流シーンを見れば、もしかしたら仲良くなれる可能性もあったかもしれません。でも、アパムは容赦なく撃ち殺しました。なぜでしょうか。もちろん、仲間を殺された恨みもあったでしょう。個人的には、アパムは初めての実戦でかなり極限状態に陥っていた中で、「自分も何かしなきゃ」というプレッシャーがあり、そんな中で敵兵と仲良くしている自分自身に混乱してしまい、そんな自分と決別する意味も含めて殺してしまったのかなと。なんにせよ、戦争は人を変えるなと思いました。
<そんなわけで>
とにかく冒頭の戦闘シーンだけでも観る価値のあるリアルさが半端ない映画でした。ミラー大尉の死に際に放つセリフと、最後の現代のライアンの彼に対する想いも感動的なので生きているうちに一度は観ておきたい映画だと思います。