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死生観に悩む高校生たちが体験する、ひと夏の世にも奇妙な感動エピソード『サマーゴースト』

【個人的な評価】

2021年日本公開映画で面白かった順位:58/249
   ストーリー:★★★★★
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★★☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆

【要素】

アニメ
ヒューマンドラマ
死生観
感動
幽霊

【元になった出来事や原作・過去作など】

・小説
 乙一『サマーゴースト』(2021)

・漫画
 井ノ巳吉『サマーゴースト』(2021)

【あらすじ】

「サマーゴーストって知ってる?」

ネットを通じて知り合った高校生、友也・あおい・涼。都市伝説として囁かれる“通称:サマーゴースト”は若い女性の幽霊で、花火をすると姿を現すという。

自身が望む人生へ踏み出せない"友也"。居場所を見つけられない"あおい"。輝く未来が突然閉ざされた"涼"。

彼らにはそれぞれ、サマーゴーストに会わなくてはならない理由があった。生と死が交錯する夏の夜、各々の想いが向かう先は――。

【感想】

短編アニメーションということで、40分という短い尺の映画でした。それゆえに大変観やすくわかりやすい作品なので、僕はこれけっこうオススメしたいんですよ。以下にはネタバレも含みますので、まだ知りたくないよって方は、ここでページをそっ閉じしていただけれればと思います。

<短尺だからこそ実現できるわかりやすさ>

大体映画って90分~120分ぐらいあるのが普通ですが、本作は40分ととても短いです。通常のアニメが23分ぐらいなので、1.5本分といったところですかね。でも、そこがこの映画のいいところです。短いからこそ、無駄が一切ないんですよ。重要な要素をうまく詰め込んだストーリー展開と感情移入しやすいキャラクター設定が素晴らしく、涙を誘う構成に脱帽でした。

<感情移入しやすい3人のメインキャラクター>※ネタバレありです

特によかったのが、3人それぞれが幽霊に会いたい理由です。実は、幽霊は誰でも見えるわけではありません。それを目にするには「死に触れようとしていること」が条件になっています。つまり、死にたがっているかどうか、死について真剣に考えているかどうかってことですね。

あおいは学校でいじめに遭っています。未遂に終わりましたが、屋上から飛び降りようとさえしました。だから、彼女は幽霊の世界にもスクールカーストがあるのかどうかってことまで気にしていました。

友也は成績優秀で、親からも先生からも将来を期待されています。しかし、彼は本当は絵を描きたいんですよ。そういったジレンマを抱えている中で、本当に自分のやりたいことがわからなくなり、生きる目的を見失ってしまいます。だからこそ、死の世界から観た現実がどうなのかっていうことを真剣に考えています。

涼は最も死に近い人物です。なぜなら、彼は病気です。余命宣告もされています。他の2人とは違い、死が約束されている運命にあります。だから、死に対する恐怖を抱きつつも、どこか身近に感じている雰囲気があります。

どれもオーソドックスな設定ではありますが、その分わかりやすさと共感のしやすさがありますよね。40分という尺を考えるのであれば、これぐらいシンプルな方が観客に内容を伝えやすいかなって感じです。

<幽霊の真相>※ネタバレありです

そして幽霊です。名を絢音と言います。彼女の死因は自殺と噂されていたんですが、とある事情によって車にはねられてしまうという不慮の事故であることがわかります。その車の運転手が、事故をなかったことにするために、彼女をどこかに埋めてしまうんですよね。実は、彼女は轢かれたときにはまだ息があったんですが、生き埋めにされたことが直接の死因となってしまいます。

幽霊になった細かな経緯は不明ですが、彼女は自分の遺体がどこにあるのかわかりません。それを友也が主体となり、霊体となって探し回ります(線香花火をつけると霊体になることが可能)。それを探しまわっていく中で、志半ばにして亡くなった絢音との対話が生まれ、友也は「もう少し生きてみようか」と思い始めるようになります。

<友也が絢音のために必死になった理由とは>

自分が得をするわけでもないのに、友也が絢音の遺体を必死に探す理由までは、この短い尺の中ではっきりと描かれてはいません。ただ、僕が思うに、きっと絵を描きたいのにそれができない現実に嫌気がさしている日々の中で、はっきりとした目標が持てたことが大きかったのかなと思います。このミッションをクリアすることで、殻を破れるというか、一歩前へ踏み出せるきっかけになると彼は思ったのかなって。あとは、単純に絢音がかわいく見えたっていうのもありそうです(笑)やっぱり年頃の男の子だったら、かわいい子のために何かしてあげたいと思いますよね(笑)

結局、「死」って何なのか、誰にもわからないじゃないですか。だって、死んだら終わりですから。行ったっきり帰って来れない。死んで戻って来れるなら、「死ってこんなだったよ」って言えると思うんですけど。でも、わからないからこそ、自分で勝手な解釈を持てるし、死を美化した作品も世の中にたくさんありますからね、それらの影響で死を救済と捉えて、安直に「死にたい」と考えてしまうこともあるかもしれません。若いときなら特に。

ただ、この作品では絢音という死んだ人間と交流できます。それによって死を現実的に感じることができます。その結果、生と死の比較もしやすくなり、生きてみることを前向きに考えられるようになったっていうのもあるのかなーって僕は思いました。「自分は逃げ道として死を選んでいたのではないか」、「どうせ死んだら全部終わるんだから、そう考えたら別に怖いものなんてない」。死を身近に感じたからこそたどり着いた境地がありそうですよね。

その友也の姿勢を目の当たりにして、あおいと涼もまた人生を前向きに考えられるようなったのもいい流れでした.。それらを踏まえた上で、ラストは冒頭に繋がる感じになっていて、とても涙を誘うポイントでしたね。。。

<その他>

アニメなので、人によっては絵も気になるところですよね。この作品は柔らかいラフタッチなので、好みが分かれるかもしれません(僕は濃い目が好きですけどw)。あと、キャラクターの顔がどことなく『エヴァ』っぽく見えました。友也は碇シンジ、涼は渚カヲル、絢音はアスカって具合に。

全体を通して、僕はいい映画だと思いました。40分ですぐ終わりますし、料金も通常より安い(大人1人1300円)ので、これはオススメしたい映画です!


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