"持たざる者"だったからこそ、人に与えることを知った彼女の姿に涙が溢れた『オードリー・ヘプバーン』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:6/73
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★×20
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観るべき:★★★★★
【ジャンル】
ドキュメンタリー
【元になった出来事や原作・過去作など】
・女優
オードリー・ヘプバーン(1929-1993)
【あらすじ】
オードリー・ヘプバーンが旅立って30年が過ぎ去ろうとしている今、知られざる本当の姿を描く、初のドキュメンタリー映画。
永遠の妖精と呼ばれ、美の概念を変えた革新的な存在でスターとしての名声を得たオードリー。世界中から「愛された」彼女は、その一方、実生活では愛に恵まれなかった。
幼少期に経験した父親による裏切り、そして第二次世界大戦という過酷な環境で育ったオードリーは、過去のトラウマと生涯向き合うことになり、私生活にも影を落とすこととなった。輝かしい映画女優として活躍する反面、幾度の離婚を繰り返して愛に破れていくが、後年はユニセフ国際親善大使として、子供たちへの深い愛情を注いでいく。
「人生の最後に、自分ことを好きになれた」と語る彼女の本当の人生とはー。
【感想】
いやー、泣いちゃいました。まさかドキュメンタリーで泣くとは思いませんでしたね。それほど、このオードリー・ヘプバーンの人格者っぷりに感動しちゃって。。。(泣)
女優としての彼女の功績は知っている人も多いと思います。数多くの映画に出演し、どれも名作として今でも語り継がれていますから。このドキュメンタリーでは、そんな大スターとして順風満帆に歩んでいると思われた彼女の知られざる裏側を描いています。
<オードリー・ヘプバーンの知られざるトラウマ>
オードリーが今でも愛されているのは、彼女が無償の愛を提供し続けたからだと思います。では、なぜそんなことができたでしょうか。そこに迫ったのが本作の見どころです。
幼少期に起こった父親の失踪、これが彼女の人生にとって一番大きな影響を与えたと言えるでしょう。大好きだった父親がいきなり家からいなくなったトラウマは、生涯彼女を苦しめ続けました。愛して欲しかったのに、それが叶わない。だから彼女は常に愛に飢えていたんです。
しかも、貴族出身だった母親も厳しかったようで、普通の母親がそうするようにあまり愛情を持って接してくれなかったんです。そのせいか、オードリーは自己肯定感が低く、自分の容姿にもコンプレックスがありました。もっと小柄で、鼻も低く、髪もブロンドがよかったと、今となっては贅沢な悩みとしか思えないようなことを本気で悩んでいたんですね。
あれだけ世界中の人々を魅了し、世界中の人々から愛された、まさに"アイコン"とも言える存在にも関わらず、オードリー自身は一番欲しかった人たちから、その愛をもらえなかったんですよ。そういう意味では、彼女は持たざる者と言えるのかもしれません。
<持っていないからこそ、そのありがたみを知る>
でも、そうやって愛に飢えていたからこそ、愛に感謝することを知ることができました。あくまでもイメージですが、愛されないと性格が歪んでしまいそうな気がするじゃないですか。ところが、彼女の場合は自分が得られなかった愛を、人を愛するという行為に変えることができたんです。そこが彼女の魅力でもありますね。得られなかったからこそ、自分は人に与えられる人になろうと。
そういう背景もあってか、彼女はとにかく家族との時間を大事にしていました。人気絶頂だったときに、仕事を断ってひっそりと郊外で暮らすぐらい。それは、大スターとして歩むことが彼女の望んだ人生ではなかったということの証明でもあります。女優であることよりも母親であることが、彼女の選んだ道だったんです。
<戦争体験の黒い影>
さらに、飢えていたのは愛だけじゃありません。第二次世界大戦後の影響で、食べるものもままならず、栄養失調になってしまった経験もまた、彼女の人生に大きな影響を与えました。大戦があって社会はその悲惨さを学んだはずなのに、晩年のオードリーはソマリアの難民キャンプを訪れ、栄養失調で亡くなる子供たちを見てたいそう心を痛めたそうです。だから、ユニセフの活動に尽力し、子供たちを助けることに人生を捧げました。自分が体験した辛さを、この子たちにも味わわせる必要はない、きっとそう考えたんでしょうね。
最後のオードリーの言葉が印象的でした。若干うろ覚えですが、幼少期の辛い体験がその後の人生に活かせたこと、そして無条件に愛せること。それが人生で得た一番の宝物みたいな言葉です。
<そんなわけで>
オードリー・ヘプバーンの魅力が満載の本作。ここまで愛を貫ける人、そうはいない気がします。外見の美しさ以上に、内面もとても美しいがゆえに、後世にまで渡って愛され続けるんだろうな。ギスギスした今の世の中だからこそ、ぜひ観てもらいたいです。いろいろ多様化して、みんなが同じものを観ることのない現代では、もうこういう人は生まれにくいかもしれないですね。