内容は恐ろしくヘビーなのに表現がマイルドであまり感情移入できなかった『ファミリア』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:4/4
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
製作年:2022年
製作国:日本
配給:キノフィルムズ
上映時間:121分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:なし
【あらすじ】
陶器職人の神谷誠治(役所広司)は妻を早くに亡くし、山里で独り暮らし。
アルジェリアに赴任中の一人息子の学(吉沢亮)が、難民出身のナディア(アリまらい果)と結婚し、彼女を連れて一時帰国した。結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に反対する誠治。
一方、隣町の団地に住む在日ブラジル人青年のマルコス(サガエルカス)は、半グレに追われたときに助けてくれた誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つ。
そんなある日、アルジェリアに戻った学とナディアを悲劇が襲い……。
【感想】
邦画にしては珍しく人種混合な映画でした。役所広司さんの演技が素晴らしすぎてそれだけで観る価値はあると思うんですけど、なんかうまく入り込めない、、、そんな内容でした。
<焦点が当たった在日ブラジル人たち>
今回の映画で一番の疑問は、なんで在日ブラジル人なんだろうってことです。舞台となっている街、車のナンバーから豊田市ってところを突き止めて、後で調べてわかったんですが、この豊田市がある愛知県って、在日ブラジル人の人口が日本で一番多いんですよ。そんな背景があっての本作だと知って「なるほど」と思いました。
<在日ブラジル人である必然性はほとんどない(笑)>
そんな在日ブラジル人の日常の苦労を描いた内容なのかなっていうと、それもちょっと違います。いや、実際にはいろんな苦労があるんでしょうけど、この映画ではそこにはフォーカスせず、日本の半グレ集団に目をつけられたマルコスたちがボコボコにされるって話なんですよ。で、なんで目をつけられたのかっていうと、その半グレ集団のリーダーである榎本(MIYAVI)が、個人的な理由で彼らを目の敵にしているというわけです。まあ、この榎本のキャラクターも取ってつけたような感じでもったいなかったと思うんですけど。「これ、在日ブラジル人に焦点を当てた意味あったのかな」っていうのが正直なところでした。
<比較対象として見てしまう"あの映画">
こう思ってしまうのにはもうひとつ理由があります。昨年観た『マイスモールランド』(2022)の存在です。この映画は、クルド人が多く住む埼玉県を舞台に、難民申請が不認定となってしまった家族の有様を描いた話で、実際にありうることを映画にしていた点でリアリティがありましたし、在日クルド人である意味がありました。だから、今回の映画も在日ブラジル人ならではの何かを描いたのかなと期待してしまったんですよね。ところが、実際は個人的な恨みを持つ半グレ集団とのいざこざっていう、どこでも当てはまりそうな設定だったので。。。(笑)
<並行して描かれるもうひとつのエピソード>
この映画では在日ブラジル人関連とは別に、もうひとつのエピソードが描かれています。それは、誠治の息子である学が赴任先のアルジェリアでテロに巻き込まれるという話です。在日ブラジル人が半グレ集団にボコられまくっている一方、平和だった神谷家では一人息子の学とその奥さんがテロの人質となっているわけです。いや、重すぎるだろって。。。ところが、そんな重い話なのにも関わらず、個人的にはいまいち心にズシンと来なかったんですよ。なぜなら、表現がマイルドに感じてしまったから。これは主観でしかないので、他の方がどう感じているかはわかりませんが、半グレのリンチ行為はおぞましい割に、「やってるフリ」感が強かったですし、テロのシーンも唐突かつ尺が短くて緊迫感がありませんでした。なんか、90年代の日本のドラマの暴力シーンの方がよっぽど怖かったように感じます。特に、テロのところは日本だとあんまりなじみがないかもしれません。これが洋画とかならまた別なんですけど。
<終盤がかなり駆け足>
終盤で誠治が半グレ集団に乗り込むシーンがあるんですけど、ここもけっこういきなりくるんですよ。そもそも「なんであなたが行くんですか?」って。いくら在日ブラジル人との交流が生まれたからといって、さすがに命を危険にさらすのはやりすぎだろって思いました。息子のこともあって、何か居ても立ってもいられない、そんな心境だったんでしょうか。ここは無理矢理話を終わらせに行った感じがしましたね。なんなら、誠治が半グレたちをひとりひとりぶっ殺すジョン・ウィックのようなアクション映画になったら、それはそれで面白かったかもしれませんけど(笑)
<そんなわけで>
在日ブラジル人の話と息子の話で分割されちゃったのと、重い話なのにあまり重く感じられなかった点で、個人的にはそこまで刺さらずでした。でも、最初に書いた通り、役所広司さんの演技は本当にすごくて圧倒されるので、それだけでも一見の価値はあると思いました!