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農業から音楽業界へ転向してその名を轟かせた『ロックフィールド 伝説の音楽スタジオ』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:9/34
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★★
映画館で観るべき:★★★★☆
【ジャンル】
ドキュメンタリー
音楽
【原作・過去作、元になった出来事】
・施設(音楽スタジオ)
ロックフィールド
【あらすじ】
今から50年以上前。ウェールズの片田舎で音楽好きの兄弟キングズリーとチャールズが家業の酪農場を引き継ぐ。
当時、エルヴィス・プレスリーに夢中だった2人は、農場の仕事の傍ら、屋根裏に録音機材を持ち込み、大胆にもレコーディングスタジオを作ってしまう。当初は友人らと使用する目的だったが、空き部屋を宿泊施設に改修したことで、兄弟は無意識に“世界初”の宿泊可能な滞在型音楽スタジオ、ロックフィールドを設立。
図らずもまたたく間に情報が広がり、バンドマンが録音したい場所として国際的な注目を集め出し……。
【感想】
洋楽好きにはたまらないドキュメンタリー映画だと思います、これ。すみません、僕はほとんど洋楽を聴かない人間なんですけど、それでも名前を知ってるぐらいの大物ミュージシャンたちが勢揃いし、代表曲のオンパレードでした。なので、彼らを知っている人には特にハマるんじゃないでしょうか。こういう“才能が集まる場”を提供できるのは、とても素晴らしいことだと思いますね。
<農業からまさかの音楽スタジオへ>
ロックフィールド設立者のウォード兄弟は農家の家系なんですよ。両親は継がせる気満々だったようですけど、本人たちにはその気なし(笑)10代でエルヴィス・プレスリーに影響を受けて、音楽の道を志すんですが、EMIに持ち込んだ歌は採用されずに終わりました。
それでも、家に録音機材を持ち込めば何かできるだろうとして始まったのが
ロックフィールドです。自分たちの音楽がダメでも、音楽自体が好きなことに変わりはなかったので、そこで何か形にしようと思ったのがきっかけだったんですね。形を変えても「好き」な気持ちを変えないことが大事なのかもしれません。
<世界初の滞在型音楽スタジオ>
当初は遊びのつもりだったけど、空き部屋を塾初施設に改装し、機材も本格的なものにすることで、世界で初めて滞在型の音楽スタジオが生まれました。業界内は狭いからかはわかりませんが、噂が噂を呼び、そこを使いたいというアーティストが後を絶たなかったそうですよ。
『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)を観たことある人は覚えていますかね。同曲を録音するとき、クイーンのメンバーは田舎のスタジオに籠もっていたと思うんですが、あそこがロックフィールドだったんですよ。てっきり気分転換に田舎へ行ったのだとばかり思っていましたけど、きちんとした音楽スタジオがあったんですね。
他にも、ブラックサバス、ザ・ストーン・ローゼズ、オアシス、コールドプレイなど、今となっては名だたるアーティストが利用していました。1970年だから現代に至るまで、実に200組を超えるアーティストがここで録音したそうです。
<クリエイティブに最高の場>
コールドプレイのクリス・マーティンは、ロックフィールドのことを「音楽のホグワーツ魔法学校」と形容していました。都会から200km以上離れた田舎。まわりは牛や豚などの家畜ばかり。「こんなところで録音できるの?」と、初めてここを訪れる人は目を疑ったそうです。
でも、どこまでも続く緑の平原ではっちゃけ、イカダに乗って遊び、ドラッグにまみれながら音楽を作る。24時間メンバーといっしょだから、創作やアイディアの流れを止めることなく、いい意味で囚人になれるのが魅力という声もありました。まあ、同じ場に同じ人とずっといる上に、みんなクリエイターですからね、感情がぶつかり合うこともしばしばあったようですけど。
日本で言うと、漫画家の手塚治虫や赤塚不二夫などが住んでいた「トキワ壮」みたいなものですかね。まあ、あれはたまたま同じアパートだっただけかもしれませんが。イメージとしては、合宿所に近いかもしれませんね。
<時代の流れには逆らえず>
70年代までは次から次へと利用者がいたため、スタジオも潤い、運営していたウォード一家もかなり裕福な生活ができたようです。ただ、80年代になってテクノロジーが進化してくると、コンピューターで音楽が作れるようになり、スタジオの利用者も減少、家計は苦しくなっていったとのこと。人気の音楽スタジオも時代の煽りを受ける形になったということですかね。
<アナログのよさ>
それを救ったのがザ・ストーン・ローゼズ。数週間の契約だったのが、14ヶ月も滞在したそうで(笑)90年代に入ると、利用者もまた増えはしたものの、現在ではスタジオと並行して貸別荘も営んでいるみたいなので、興味がある人は泊まりに行ってもいいかもしれません。
今はコンピューターひとつで音楽が作れるので、廃業に追い込まれている音楽スタジオも多い。レコード会社だって、毛の生えたての若造に、高級スタジオを貸して様子を見るなんてこともしません。でも、昔ここを使ったアーティストを筆頭に、生でヴァイブスを感じたい人には需要があります。結果として売れる音楽を生み出すことは大事ですが、成功するかどうかの前に、その音楽を作り出す過程も大事にしたいんですよ。「情緒と感情と共に魔法も込めたい」と言ったアーティストの言葉は共感できます。こういうアナログだからこそ生まれる文化や作品っていうのも必ずありますよね。
<そんなわけで>
この映画、内容のほとんどがアーティストたちのここでの思い出話がメインなので、彼らを知らない人にはハマりづらいかもしれません。でも、数々の名曲が生まれたこの“偉大なるモノ作りの場”を知れるという点では、非常に有意義な内容でした。広大な土地があってこその実績ですが、才能が集まる場っていうのも作れたら楽しいですよね、きっと。