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注目したいのは主人公のキリエよりもイッコ!イッコの悲しい現実が今の元気のない日本を象徴しているようで心苦しかった『キリエのうた』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:114/143
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★☆
映画館で観たい:★★★★☆
【作品情報】
原題:-
製作年:2023年
製作国:日本
配給:東映
上映時間:178分
ジャンル:ヒューマンドラマ、音楽
元ネタなど:小説『キリエのうた』(2023)
【あらすじ】
※映画.comの文章を元に記載。
石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、歌うことでしか“声”を出せない住所不定の路上ミュージシャン・キリエ(アイナ・ジ・エンド)。
行方のわからなくなった婚約者を捜す青年・夏彦(松村北斗)。
傷ついた人々に寄り添う小学校教師・フミ(黒木華)。
過去と名前を捨ててキリエのマネージャーとなる謎めいた女性・イッコ(広瀬すず)。
降りかかる苦難に翻弄されながら出逢いと別れを繰り返す男女4人の13年間にわたる愛の物語を、切なくもドラマティックに描き出す。
【感想】
※以下、敬称略。
まず、なげぇっす(笑)体感的にとんでもなく長いってわけではないですが、それでも邦画のヒューマンドラマで3時間はけっこう体力使います。あんまりドラマチックかつドラスティックな変化がないので、観るならある程度尺の長さを覚悟をしておいた方がよいかと思いました。
<独特な歌声から生まれる歌唱力は圧巻>
この映画は、BiSHの元メンバーであるアイナ・ジ・エンドが映画初主演を務めるということで注目されている作品ですね。彼女のハスキーボイスをここぞとばかりに盛り込み、オリジナルソングだけでなく、数々の名曲のカバーも聴けるので、彼女を知らなくても曲自体はなじみがあると思います。彼女のファンの方からしたら、それだけでもうかなり感極まるものがあるんじゃないかと想像できますね。ストリートミュージシャンであるキリエが、その類まれなる歌唱力でどんどんファンを増やしていく流れは、オーソドックスな展開でとてもわかりやすいです。ただ、最初に書いたように、とにかく長いってのと、時系列が行ったり来たりで、しかもアイナ・ジ・エンドがひとりで2役(姉と妹)を演じているので、一瞬戸惑う部分はありますけれど。
<キリエもいいけど、一番注目したいのはイッコ!>
メディアでの扱いも大きいですし、やっぱり主人公であるキリエに注目が集まるのは自然なことだとは思いますけど、個人的には彼女の友人であるイッコの方が映画としては映えるんじゃないかなあって思いました。だって、彼女の歩む人生があまりにも悲惨なんですもん。。。
そもそもこの2人、対照的なんですよ。キリエはとにかく歌が注目されて、どんどん有名になっていくという、未来に向かって開けている感じがあります。悪く言えば、そこにおいてはほとんど障害もなく、トントン拍子に進んでしまっているようには感じたんですけど(笑)まあ、幼少期に震災で家族を失ったという重い過去はあるものの、どちらかと言えばそのエピソードは夏彦の方に重くのしかかっている気がしましたね。
キリエが上にあがっていく一方で、逆に下がっていってるのがイッコなんですよ。彼女は実家のスナックを継ぐのが嫌で大学受験します。祖母(浅田美代子)や母(奥菜恵)のように、女を武器にして商売することに嫌悪感があるみたいで。なのに、結局彼女は彼女でスナックではないですが、女を武器にした行為に手を染めてしまうんですよね(風俗とかではないです)。そうなってしまったのは母親の犯したミス(まあ母親も被害者ではあるんですけど)に寄るところもあるので、最近ネットやSNSでよく目にする"親ガチャ"じゃないですが、そういう環境に生れついてしまうと簡単には抜け出せないっていう感じがして、すごくもどかしい気持ちになりました。もちろん、本人の努力次第で何とかならなくもないんでしょうけど、せっかく自分の運命を変えられそうな機会に恵まれ、外の世界に手を伸ばしかけたときだったんですが、再び闇の底に引きずり込まれてしまったようで、いろいろ下がっていく今の日本を目にしているようで心苦しかったですね。。。
<キャストをよく見ると、、、ん、、、?>
あと、岩井俊二監督の遊び心なのか、別の映画監督を役者として起用するのがなんか笑えました『ラストレター』(2019)では『新世紀エヴァンゲリオン』(1996)で有名な庵野秀明を、今回の映画では『シン・ゴジラ』(2016)や『シン・ウルトラマン』(2022)の樋口真嗣がしれっといましたからね(笑)
<そんなわけで>
結局何がどうなったんだっていうハッキリした答えのない内容ではあるので、好みが分かれそうな映画ではあります。キリエの圧倒的な歌唱力を聴きながら、イッコの歩む人生に「明日は我が身」と危機感を覚えながら懸命に生きていくきっかけにはなる、、、かな?(笑)