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クラシック音楽は、人と場所と楽しみ方が変わっていく


要約

・コンサート会場へ足を運ぶ人は少ないかもしれないが、クラシック音楽を楽しむ人の数が少ないわけではない
・お客さんと音楽家にとって運営側の動きが見える距離感になり、全員が良い音楽を全力で楽しむ体験が三者一体となることで生まれた。
・約2000席の音楽ホールに約10万人が来場した演奏会のライブ配信は、音楽を楽しむ新たな場所となる可能性を示した。
お客さんが運営を応援したり、お客さん同士で交流する文化の兆しが見えて、楽しみ方に変化が起こっている。

目次
1. 執筆のきっかけと想定読者
2. 人が、変わっていく
3. 場所が、変わっていく
4.楽しみ方が、変わっていく
5.さいごに

1.執筆のきっかけと想定読者

良い経験は与えられるものではなく、主体的に関わるものだと、深澤さんは言っている。およそあらゆる感動も、自然と自分の中で沸き起こるものだ。それは、経験と意味を結び付ける行為だ。僕たちは、『良い(よい)』と思うものに、もっと自由になって良い。人気投票や、平均値から離れた突飛なものを、選んでもいい。
――渡邊廉太郎さん、takram radio 2020年3月5日の回より

コロナウイルス感染予防として、人が集まるイベントは中止になっていく中、クラシック音楽のコンサートのライブ配信を実施する団体がいくつか話題にあがりました。

個人的には、この動きにかなり興味が惹かれました。なぜならば、クラシック音楽のコンサートは運営方法から企画そのものまで、デジタル化がなかなか進んでいないからです。

もちろん全ての組織や演奏会がそうであるとは限りませんが、紙のチケット運用して紙のチラシをどっさり貰うこと。コンサート後に写真撮影が許されることが、体感値ここ1,2年でやっと許される機会が増えてきたこと。

これらを思うと、ネット上でライブ配信だなんて夢のまた夢に感じるのです。それが実施されるわけですから、何かが変わる、と思いました。

そして、実際にライブ配信をいくつか見たことで、このライブ配信を実施した価値を感じました。

日本におけるクラシック音楽業界に変化をもたらす出来事になるのではないか。自分が感じたこの体験を書き残したいと思い、記しました。

想定読者は以下の通りです。

・クラシック音楽の演奏家(プロアマ問わず)
・音楽ホール運営者
・音楽事務所で働く人たち
・クラシック音楽を聴くのが好きな人たち

2. 人が、変わっていく

3月1日にKAJIMOTO運営「ホンマこんなときやけど やっぱ(音楽)好きやねんTV WINTER END PARTY 2020」を視聴しました。

リアルタイムでみていたところ、以下のように興味深いチャットを拝見しました。(3月8日現在、映像はアーカイブ化されているのでそちらでどうぞ)

演奏動画の画像は伏せています。

スライド1

発言時間を見て頂けると分かる通り、チャットが盛り上がっている。「音楽サロンに紛れ込んだ気分」とか、「生活にもっとクラシック音楽がこうやって身近にあってもいいよね」とか、演奏家と近い距離感で楽しんでいる様子がうかがえる。

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このように、お客さん同士で出演アーティストのチャンネル登録のはなしをし始めたりしている。ファン同士が自然と交流し、良い意味で勝手に盛り上がってくれる場所になっている。出演者は美味しいご飯と良い音楽を嗜んで楽しんでおり、それを見て幸せになる視聴者。最高の関係性だと思いました。

他にも、このKAJIMOTOの取り組みで言えば、Twitter上で、紅白の裏トーク的な立ち位置で、YouTube配信では映らない裏側を放映するライブ配信もしていましたね。1000人近くの人が、この小さな音楽界を視聴している…!とぞくぞくしました。

3.場所が、変わっていく

滋賀県のびわ湖ホールプロデュースのオペラ『ニーベルングの指輪 神々の黄昏』も、チケットが即日完売するほどの大人気ですが、無観客公演でライブ配信を実施しました。制作費が1億6千万円とのこと。
大人気のオペラ”無観客”で上演 ネットで無料配信 新型コロナウイルスの影響(Yahoo ニュースより)

ライブ配信は無料ですが、YouTubeのアーカイブ化といった形では残されないそう。公式ホームページでは以下のように書かれていました。

無観客公演を録画し、DVDを制作し、後日販売する予定です。
複数カメラで撮影、日本語字幕付きになります。

無断複製・無断転載禁止、とも書かれていましたので、視聴者の善意に委ねられた形の開催。こちらは各日なんと1万人越えの視聴者を記録したそうです。スコア開いて画面にかじりつく人もいれば、ちょっくらオペラってやつを見てみようかい、という人もいたことでしょう。中でも一番価値があるのは、超一流のオペラ体験を提供したこと。”本物”を1万人以上の人達が経験したことだと思います。

クラシック音楽のプログラムを”初心者向け”に考えよう、と試行錯誤する様子も様々な演奏会から伺えますが、これらの出来事はむしろそのままのクラシック音楽を聞かせてくれればいいということを示していると思いました。

もはやここまでくると、コンサートに足を運ぶ人は少ないかもしれないが、それはすなわちクラシック音楽には興味ないことを示しているわけではない。

4. 楽しみ方が、変わっていく

【観客のいない音楽会】ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第155回 Live from Muza!

3つ目の実例紹介は、東京交響楽団がミューザ川崎シンフォニーホールで行った、無観客コンサートです。

最終的には、約10万人が視聴したそう。2000席のホール座席に対してのこの人数ですから、単純計算すると、1座席につき50人がミチッと座っている計算になります。

終演時は、万雷の拍手で画面が埋め尽くされていました。

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こちらもコメント上にて視聴者同士で交流しているのが伺えました。

お客さんが運営を応援したり、お客さん同士で交流する動きがある。これは、面白い、と思いました。

なぜ面白いかというと、クラシック音楽を聴いている時間は、自分自身対音楽そのものが対面し合っている瞬間の連続だからです。そこに、他者が入り込む余地など基本的にありません。

勿論、誰かの家に集まってベルリンフィルのデジタルコンサートを視聴しながら語らうケースもあるでしょうが、ベルリンフィルを持ち出すのは色々と反則なので、話の焦点は、国内のクラシック音楽事情にスポットライトを当てさせてください。

物的空間に縛られず、能動的にコンサートを拝聴し、他者と交流をする。

今までとまるっきり反対のことで、これは新しい生のコンサートスタイルだし、何よりも、演奏会に関わっている人達全員が、笑顔になれる瞬間を紡いでいることが、本当に素敵なことだと思いました。

5. さいごに

生活者の課題を解決し、笑顔を作り続けていることは、すなわち、すべての生活者が生きていく「社会の課題を解決し、社会全体を笑顔にし続けているに等しい。社会の課題を解決する上に、そのブランドや商品が長く安定して売れ続ければ、雇用まで継続的に創出できる。
――佐藤尚之著『ファンベース』より

個人的に、もっとこういうのがあれば良かったな、と思ったのは、視聴者側の想いがもっと演奏者ないしは運営者に届くといいなと思いました。オペラの終幕で無音のカーテンコールを見るのは、何とも言えない切なさがありました。画面越しに、1万人以上が、拍手しているはずなのです。伝えられるはずのその想いが表現できるインタラクションデザインがあれば…!と思わずにはいられませんでした。

「伝えるべきものが、拍手だけなのか」というと、あれもこれもと話したくなりますが、アイデアや伝えたい思いの丈がありましたら、Twitterで執筆者にお声がけください。

https://twitter.com/marley_jpn

さいごに。

運営関係者の皆様は本当にお疲れ様でした。
いち観客として、暗いニュース続きで鬱蒼とした中、家に居ながら楽しい週末を送ることができました。
本当に価値のある体験を味わいました。
ありがとうございました。

「パセリがある時。ない時。」
「ある」「ない」「ある」「ない」
「寂しいでしょ?ないと殺風景でしょ?」
「この子たち言ってるでしょ。」
「ここにいるよーって」
――家森さん、ドラマカルテットより

当記事で取り上げさせて頂いた組織の公式サイトへのリンクを以下に貼りました。

書いていて思ったのですが、もっと気軽にお金を落としていけるシステムとかあれば良いなとちょっと思いました。LINEPayでピピっと送金出来たりしたらいいのに。

(金銭面のサポートがもっと具体的に出来る公式の行先をご存知の方いれば、随時ご連絡ください。記事に加筆するつもりです。)

外部サイト:

KAJIMOTO音楽事務所(公式サイト)

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール(公式サイト)

ミューザ川崎シンフォニーホール(公式サイト)

東京交響楽団(公式サイト)
→楽団サポートとして支援するなら、こちらからどうぞ

記事中に取り上げた本や人物:

1.takram radioナビゲーターの渡邊廉太郎さん。
いつも楽しく拝聴させて頂いております。

2.プロダクトデザイナー 深澤直人さん
その渡邊廉太郎さんが触れていた深澤さんは、プロダクトデザイナーの方です。

3.佐藤尚之著『ファンベース』
組織や企業にとって、なぜ『ファン』を大切にするべきなのか、どのような方法で大事に接するのか、分かりやすく書かれて読みやすい本です。

4.ドラマ『カルテット』
言わずもがな有名なドラマ。2017年に放映されていたそう。
センキュー、パセリ。
https://www.tbs.co.jp/quartet2017/








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