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多分、あなたたちは覚えていないだろうけれども〜人生は人喜ばせ合戦
この文章はとある企画にお誘いをいただいて書いている。
その企画とは、
・人に喜んでもらったこと
・してもらって嬉しかったこと
このふたつの巨大なアルバムを作ろうというもの。
さて、人に喜んでもらったこととなると、とんと思い浮かばない。
してもらって嬉しかったこととなると、枚挙にいとまがない。
その中には、妻にしてもらったこともたくさんある。
本来なら、そちらを書いた方がいろいろ丸くおさまるのだろうけれども、それはまた別の機会に書くことで納得してもらおう。
それは今から30年ほども前のこと、平成に入って間もない、そして、僕が結婚して間もない頃のこと。
ちなみに僕は平成元年に結婚したので、何周年かは計算しやすい。
その頃、僕は仕事上で色々悩んでいた。
今の会社の将来性、また、その中で自分がどこまで成長できるのか、この会社の収入で家族を養っていけるのか。
当時はバブルが崩壊し始めた頃で、そんな社会に対する不安もあったのかもしれない。
妻にも、もしかしたらと話してはいた。
僕が勤めていたタクシー会社では、内勤の社員も二種免許を取得して、時間のある時には、研修目的で営業に出ることが推奨されていた。
当時、三十歳そこそこの僕にとっては、事務所で上司と一緒にいるよりは、ひとりでタクシーに乗って外に出た方が気楽でよかった。
それは、まだ秋の観光シーズンには少し早い時期だったと思う。
秋の気配の中に、まだまだ夏の匂いも残っていた。
その日、ひと通りの日常業務を片付けると、特に何もなかったので、上司に断って、タクシーを運転した。
京都市内の中心部よりも、少し北の方、高野と呼ばれる地域を空車で流していると、男2人、女1人の3人組が手をあげた。
見たところ、3人とも三十代半ばあたりか。
ドアを開けて乗車してもらい、行く先を尋ねると、
「嵐山まで」
地図で見てもらうとわかるが、高野から嵐山までとなると、いくつものルートがある。
さて、どのルートで行くか。
その時、僕は後ろの3人とも、少し良さげな一眼レフをぶら下げているのに気がついた。
よし、観光道路で行こう。
観光道路というのは、今では「きぬかけの道」となっているようだが、金閣寺から龍安寺、仁和寺を経て、広沢池、大覚寺の前を通って嵐山に至る道路のことだ。
簡単にルートの説明をして出発。
途中の観光地の前では、少しスピードを落として走行する。
やがて、嵐山に到着し、渡月橋の手前で停車。
料金をいただいてドアを開ける。
その時に、降車する3人が口々に、
「ありがとう」
「ああ、気持ちよかった」
「そうだね」
3人の後ろ姿を見送りながら、30を過ぎた男が思わず涙ぐんでしまった。
何だろう、この気持ち、この幸福感。
そうか、うちのドライバーは、毎日会社の文句ばっかり言いながら辞めないのは、この仕事にこんなことがあるからなのか。
彼らは、毎日、こんな気持ちを味わっているのか。
その日、僕は会社に戻ると休憩室のドライバーにこの出来事を話してみた。
すると口々に、
「そうや、ありがとう、おおきに、それでスッと疲れも取れるわ」
「それが聞きたくてやってるみたいなもんやで」
その夜、寝る前に僕は、妻にひとこと、
「あのな、もう少しこのまま続けてみるわ」
恐らく、あの3人組は、自分たちのひとことがこんなに話題になり、ひととき誰かを支えたなどとは考えもしていないだろう。
もう、あの時にタクシーに乗ったことすら忘れているだろう。
でも、僕にとっては忘れることのできない出来事だ。
皆さんも、もしタクシーに乗るようなことがあれば、「ありがとう」とひとこと言ってあげてほしい。
もしかすると、そのひとことが、誰かの支えになるかもしれないから。
さて、長くなるので、僕の話はこのくらいにしよう。
冒頭のとある企画とは下のことだ。
また、いつかやってくる、ぼくらのキッツイ局面のために…
そして、もっともっとぼくらの可能性を伸ばしていくために…
巨大な「人喜ばせ合戦」のアルバムをつくりましょう!
「いつかやってくる、ぼくらのキッツイ局面」それは、僕の年齢からすると、もう誰かの局面かもしれない。
それでも、その誰かのために繋がることができれば。
少し前から、この企画があるのは、フォローさせていただいている方の記事で知っていた。
子供の頃から、皆が楽しそうに遊んでいても、自分から入っていけずに、少し離れて、さりげなく存在をアピールして誘われるのを待つ、そんな性格だった。
今回は、幸運にも、オラヴ153さんからお声をかけていただいた。
そして、このバトンを託すのは、老婆の日常茶飯事さん。
日常のさりげない出来事から、ご夫婦のこと、お孫さんのこと、お仕事のことを面白くまとめておられ、また、懐かしい昭和の話題もたくさんです。
ぜひ、お読みになってください。
そして、もうおひとり、めいさんです。
めいさんは、ショートショートを中心に執筆しておられます。
ユーモラスなものから、少しシリアスのものまで、ご年齢はプロフィールを見ると僕より少し年上のようですが、その発想力は尽きるところを知りません。
時々、エッセイも書かれています。
ぜひ、お読みください。
めいさん、勝手にバトンを回してしまいました。
申し訳ございません。
受け取っていただけると嬉しいです。
(もしどうもなあと言う時には、お手数ですが、チェーンナーさんの記事からチェーンナーさんにお返しいただいても結構です)