BRANDLESSから学ぶMarketingとMillennialsのこと
前回のWARBY PARKERのnote掲載後、BRANDLESSという企業の存在を先輩から教えて頂きました。
なかなか興味深かったので、今回はBRANDLESSのMarketing戦略を分析しつつ、その主なターゲットになっているであろうMillennialsについて書いていきます。
本noteのハイライト
・Less is more - 人は選択肢が増えると購買意欲を失う
・Millennialsの購買行動に影響する要因は、お得かどうか、カスタマーサービス、ソーシャルグッドの順で重要
・BRANDLESSこそブランドが必要というパラドックス
Vol.2 BRANDLESS
BRANDLESSとは?
BRANDLESSは2017年7月にオープンしたばかりの日用品のECスタートアップ企業。ともにシリアルアントレプレナーである共同創業者のティナ・シャーキー(Tina Sharkey)とイド・レフラー(Ido Leffler)が「現在の消費システムはオワってる」と新しく立ち上げた日用品のEコマースがBRANDLESS。Fundingは$30M。本社はSan Franciscoで、MinneapolisにもProduct Development Team(調達部門ですね)がいて、そこにはアメリカの小売大手Targetで食料品部門の統括やってた人材もジョインしています。日本でいえばセブンアンドアイで食品部門の現場統括していた人が日用品ECのスタートアップにジョインする感じです。想像できませんね。
BRANDLESSのメインターゲットはMillennials(ミレニアルズ)という人たちです。
Source: http://www.goldmansachs.com/our-thinking/pages/millennials/
アメリカではもはや使い古された感があるワードですが、簡単にいうと
・1980年から2000年の間に生まれ
・アメリカでもっとも大きい消費者階層で(9200万人)
・一番最初のデジタルネイティブ世代で
・ソーシャルメディアも使いこなしてて
・消費意欲はあまり高くなく(学費などのローンがある)
・若くして結婚や持ち家など従来の価値観にとらわれない
そんな人たちのことです。
では、4P分析いきます。
Product
Productはすべてサプライヤーから直接BRANDLESSが仕入れ、「BRANDLESS」というブランドの下で販売されています。デザインは非常にシンプルで、Non-GMO, Organic, Fair tradeなどを明示しています。
BRANDLESSで取り扱う商品数は現状わずか数百点と決して多くはありません。というよりむしろ、厳選して商品数を絞っているというべきでしょう。Less is moreを意図的に狙っているのには理由があります。2005年に発表された研究者のBarry Schwartzによると、消費者は選択肢が多すぎると重要な決断(購買)を避ける傾向にあります。また、「よし、これを買おう」という確かさは揺らぎ、「間違ったの選んだかな」という後悔が増す傾向にあります。よって、あえて商品数を絞ることにより、カスタマーエクスペリエンスの向上を狙っているのでしょう。
Price
BRANDLESSで販売されている商品はすべて$3です。中にはお値打ち品もありますが、値段だけでいえば決して安いわけでもなく、スーパーで特売になっているナショナルブランド品のほうが安いケースもあります。ここで重要なのは、ProductにもみられるLess is moreの考え方と、価格設定に関するBEANDLESSのメッセージの2つです。
1つ目はすべて$3に均一化することで、ユーザーが価格をいちいち比較したりする手間を省いています。考えてみれば、私たちはAmazonで一番安くて、品質もそこそこの商品を探すのに一体どれぐらいの時間をかけているでしょうか?ほかのサービス設計もそうですが、BRANDLESSはPriceでもユーザーの貴重な時間をSaveするベネフィットを提供しようとしています。
2つ目は”Brand Tax”というワードを通じたメッセージです。BRANDLESSによると我々は普段の購買行動において、知らないうちにコストを支払わされていて、平均して約40%、美容系商品においては340%も本来払うべき金額に上乗せして支払っています。具体的には流通へのリベート、メーカーの商品開発費、保管・輸送費、そしてマーケッターが目指しているブランドへの付加価値などです。BRANDLESSはこれらを「悪」とみなし、WARBY PARKERのように従来存在した中間業者を排除し、メーカー側が一方的に設定した付加価値も排除し、透明性の高い納得感のあるPricingを実現する、とメッセージを発信しています。
いわゆる価格の透明性を高めているわけですが、この「透明性」がMillennialsをターゲットしたときのポイントになると思っています。下のグラフを見ると、MillennialsがRetailerを評価するポイントで最も重要なのが”Best deal”かどうかです。つまり価格と品質がマッチした商品を販売しているかどうかです。それを評価するためには、透明性が非常に重要で、透明性が高いほど評価がしやすく、さらに比較対象として既存のBrand taxが上乗せされた商品をうまく使っています。実際、BRANDLESSで買い物をしていくと、自分がいくらBrand taxを節税できたかが見える化されていきます。
価格の透明性というテーマは非常におもしろいので、次回以降、やりすぎなくらい透明なアパレルブランド”Everlane”についても調べてみたいと思います。
Place
これは言わずもがなオンラインのみでのサービス展開となっています。ちなみにBRANDLESSは自らを表現するときに"P&G for millennials"と言っているようなのですが、想像するに「P&Gのように複数のジャンルの製品を持ち、カスタマーを徹底的に分析したMarketingを通じ、Millennialsが満足する商品を作っていく」ということでしょうか。
ここでまたMillennialsに関するデータを2つ見ていきます。
1つ目はオンラインと店舗、どっちでの買い物を好みますか?という質問に対して、67%のMillennialsはオンライン、と答えています。まあ納得の結果ですね。
次に、「ブランドが実店舗を持つことは重要だと思いますか?」という質問に対して、最も高い割合でYesと答えたのもMillennialsでした。
「オンラインで買いたいけど、実店舗も重要だ」という一見すると矛盾した答えですが、その裏にあるのは「モノより体験を重視する」価値観があります。Cafemediaのレポートによると、体験よりもモノが重要と答えたMillennialsの女性はわずか35%しかいませんでした。Millennialsはモノよりも体験やサービスの質を重視する傾向にあります。WARBY PARKERがオンラインショップとしてスタートしたものの、近年積極的に実店舗をオープンさせている背景にはこういった傾向があったのではないでしょうか。商品だけでなく、体験こそがブランドを物語るのです。
Promotion
Promotionに関してはソーシャルグッドに関する取り組みをひとつだけ触れておきます。BRANDLESSではユーザーが一度買い物をするたびに、FEEDING AMERICAというアメリカ国内の食料支援機関を通じて、1食分($0.09相当)を寄付します。1オーダーあたりの寄付額は小さいですが、2017年5月からの1年間で165万食(約1650万円分)をコミットしています。$30M調達しているとはいえ、スタートアップが行う支援としてはかなり本気と言えます。
前回のWARBY PAEKERのケースもそうですし、他のDisruptive companyにも共通してみられるのが、上記のような社会問題に対する”本気のコミットメント”です。では、なぜスタートアップの企業たちはこのような取り組みを行うのでしょうか?1つ目の理由は起業家の思いからです。起業家自身が世界に存在する何かしらの問題を解決したい、という思いを抱えており、自らの事業を通じてそれを実現する形です。2つ目はMarketing的に重要な視点として、本気のコミットメントを通じてカスタマーから支持を得ることができるからです。下記のグラフはMillennialsは他の世代に比べて、社会的課題に取り組んでいる企業に対してRoyal customerになる確率が高いことを示しています。
Cause marketingという手法が数年前に流行りました。
コーズマーケティング(英語: Cause marketing)若しくはコーズリレーティッドマーケティング(英語: Cause-related marketing)は、特定の商品を購入することが環境保護などの社会貢献に結びつくと訴える販促キャンペーン。単なる慈善活動と違い最終的には企業のイメージアップ・収益拡大が目的である。- Wikipedia
上記の活動はコーズマーケティングと捉えることもできますが、むしろビジネスモデルに組み込まれた本業そのものであると思います。MillennialsはうわべだけのPRに非常に敏感です。一時的な活動や見せかけのきれいな言葉ではMillennialsに響くブランド体験を作り出すことはできません。
最後にTakeawayを簡潔にまとめていきます。
1)Sales strategy:Less is more
BRANDLESSがいままでのCPG企業と違うのは、顧客と直接つながることです。そのこと自体はAmazonと何ら変わりませんが、上記に挙げたようにProduct、Priceいずれをとっても、カスタマーエクスペリエンスを重視したビジネスモデルになっています。
2)Customer Understanding
BRANDLESSは自らをMillennislasのためのEコマースと称している通りMillennialsの購買行動に影響する3つの要因、1.お得かどうか、2.質の高いカスタマーサービス、3.ソーシャルグッドを兼ね備えたビジネスとなっています。自らのターゲットであるMillennislasの特性をよく理解し、それを形にしています。
3)Branding:BRANDLESS Brand
BRANDLESSはいままでのBRANDたちが消費者が知らない間に支払っていた不透明なBrand taxを排除し、すべてをシンプルにすることにより支持を集めようとしています。日本人なら同じようなあるブランドを思い浮かべますよね?そうです「無印良品」です。違うのは売り方やプライシングですが、コンセプトは似ています。アメリカにもDollar Store, Dollar Generalなどの”ブランドレス”のコンセプトは以前からあるので、決して新しいものではありません。では何が違うのか?それは消費者が購入する方法を変えようとし、直接消費者とつながる点です。
つまり、消費者はBRANDLESSがセレクションし、販売する商品を信用し、購入します。結局消費者はBRANDLESSというBrandを信用してモノを買うことになるのです。BRANDLESSは結局は自らのBrandをもとに、ビジネスを進めていくというパラドックスに陥っています。彼らの成否はBRANDLESSというBrandを確立していけるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
お読みいただきありがとうございました!