青学の箱根王座奪還に思うこと-2022
本日のnoteは、第98回東京箱根間往復大学駅伝の分析編です。今年の箱根駅伝は、青山学院大学が2位に10分51秒もの大差をつけての優勝を飾りました。往路・復路・総合の完全優勝。大会新記録、復路新記録も達成しました。復路はライバル校もお手上げ状態だったかもしれません。
前年の97回大会は4位、前哨戦の出雲、全日本は2位と敗れてはいたものの、指揮官の原監督が、『最強軍団』と公言し、並々ならぬ自信を漲らせていました。青山学院大学チームは、マスコミ対応にも積極的なチームですから、各方面でその強さの秘密について、解説や分析が行われています。2020年の優勝時に引き続き、青学の王座奪還に思った私の意見を残しておきたいと思います。
Ⅰ. 戦力の充実
駅伝観戦歴40年の私は、青山学院大学が成し遂げた過去5回の優勝を全て覚えているし、走った選手たちの記憶も鮮明に残っています。注目度が高いスター選手たちがいた過去の優勝チームと比較すると、今年のチームは派手さには欠ける部分があったものの、選手層・総合力は史上最強だったろうなあと思います。
強み①:選手層の厚さ
青山学院大学の選手層の厚さは多くの人々が指摘するところです。選手たちの持ちタイムがそれを証明しています。個々の選手の走力レベルが、かなり高いのは間違いありません。5000m13分台、10000m28分台を出していても、16人の登録メンバーからはじかれてしまう選手がでるくらい、チーム内で熾烈な競争があります。
強み②:安定感のあるエースの存在
近藤選手(3年)が、今シーズン急成長して、他校のスーパーエースとも遜色がない実力を兼ね備え、チーム不動のエースに成長したことは大きかったと思います。今季出場した全ての駅伝で決して外さない強さを示していました。順当に二区に起用されて期待通りにエースの仕事をし、区間順位こそ7位だったものの、順位を5位から2位に引き上げました。計算できるエースが上々の仕上がりでレースに臨めたことは、チームに安心感をもたらしていたと思います。事前調整が万全ではなかった実力者の岸本選手(3年)、佐藤選手(2年)を復路に回せる采配の余裕をもたらしていたと思います。
強み③:いぶし銀の最上級生
『箱根は四年生で決まる』ということばがあります。これは真実だと思います。優勝チームでは、四年生がいい仕事をするケースが多いです。私の記憶では、箱根駅伝では、これまで弱小と評価されていた学年の四年生たちがいぶし銀的な働きをして、チームが優勝したり、好成績を収めたりしている印象があります。逆に、最強・有望と言われ続けていた学年ほど足並みが揃わず、最終年で期待外れな結果で終わっているケースが少なくありません。
今回、青山学院大学の四年生で出走したのは、四区の飯田主将と六区の高橋副将の二人だけで、三年生に有力選手が揃っているチームです。しかしながら、四年生の存在感は大きく、走ることができなかった四年生たちの貢献も大きかったのだろうと想像します。
Ⅱ.マネジメント
マネジメントには、原監督の卓越したチーム・マネジメント能力と、選手個々のセルフ・マネジメント能力があります。
青山学院大学は、選手のセレクション段階で、競技能力以上に、チームカラーに合うかどうか、しっかりとした人間性を持っているか、を重視すると言われています。もともと同質性の高い集団になっているので、比較的マネジメントがしやすいという部分はあるかと思います。それでも、他校に比べて、選手の自律性が高そうなイメージはあります。
強み① ことばの力
原監督はもちろんですが、選手たちのインタビュー時の受け答えが整然としていて、毎回感心します。走るとはどういうことか、この練習やレースにはどういう狙いがあって、自分の役割は何か、できたこと、できなかったことは何か、ということを、クリアに理解し、言語化できるレベルまで整理されているということだと思います。
ことばの持つ力を、自らの強化に繋げている部分も感じます。この数年で原監督のことばの選び方が一層洗練され、重厚感が増した感があります。二年前に言っていたことから、更に進化しています。しかし、今のいいバランスは敢えて崩し、また新たな挑戦を加えていくんだろうなあ、と想像します。
強み② 箱根駅伝に照準を絞る
青山学院大学チームは、箱根駅伝を一年で最大のイベントと位置付けて、強化のポイントを『箱根で勝つ』に集中させていると思います。何だかんだいっても、日本で行われる陸上競技会で、最高の注目度と知名度のある大会は箱根駅伝です。箱根駅伝で強い印象を残した選手は、陸上関係者、駅伝ファンのみならず、多くの人たちからの知名度を得ます。それは、選手たちのモチベーションとなり、自信となり、陸上競技以外の分野でもプラスに働くと原監督は考えているのでしょう。誰よりも、箱根駅伝攻略に頭と時間を使っているという自信があり、世の中のトレンドを常に学んでいて、勉強を欠かさないからこそ取れる采配もあります。
もちろん、個人種目で世界で戦うことが目標で、箱根は単なる通過点、数ある大事な大会の一つに過ぎないと考えている選手もいます。そういうレベルの選手を育成するプランも、着々と準備されていると聞きます。大学では、世界のマラソンで戦えるランナーの土台を作る、という目標を掲げていて、既に数多くのサブテンランナーを輩出しています。
ただ、このチームにとって『箱根駅伝優勝』は、不変の目標であり続けるのだろうと思います。優勝へ到達するまでのアプローチや到達するまでのメソッドは変われど、スタッフや関係者には目標が徹底されている印象はあります。
強み③ 選手を知る努力
原監督は、選手掌握術がうまい、人間観察力に優れる、とよく評されていますが、それは日々の地味で泥臭い行動の積み重ねの賜物なのでしょう。自分の教え子たちに興味を持って接し、ひとりの人間として眺めているようです。
箱根に使える力があるかどうか、使えるとしたらどの区間に適性があるか、裏方に徹する献身的な心があるか、苦しい状況でも踏ん張れる人間的強さがあるか、といった総合的な観点からシビアに眺めている部分はあるでしょう。期待されて入ってきた素質ある選手たちを預かる以上、伸ばしてやれないのは本人に申し訳ない、信じて託してくれた中学・高校の指導者にも申し訳ない、という責任感の部分も強くあるでしょう。
ただ、選手を知る努力を惜しまず実践できるのは、天性の才能かもしれません。なかなか努力と使命感だけで、人間と濃厚な付き合いを結ぶことは難しいです。
Ⅲ. レースの評価
青山学院大学が盤石のレース運びで強さを見せつけたのは事実ですが、2位と10分51秒の差が、そのまま他校との実力差かと言われれば、それは個人的に疑問符がつきます。他の有力校との純粋な走力比較で、1区間1分以上の差があったとは思えません。
今回のレースでは、多くの要因が重なり、青山学院大学に有利に作用した面も少なくなかったと感じています。往路の箱根山中は風がきつかったものの、それ以外の区間と復路はレースコンディションに恵まれ、トップを走るチームに有利に作用しやすい状況でした。運も実力のうちではありますが、独走になったのは他校のミスにも助けられた部分が少なからずあったと思います。
鮮やかな勝利ではありましたが、今回の結果を以て、『大学駅伝は青山学院大学の一強』と断定するのは短絡的過ぎるでしょう。各大学の地道な取り組みにも素晴らしいものがあり、素晴らしい選手が育っていっています。大学長距離・駅伝全体の底上げが進んでいるからこそ、ハイレベルな戦いが見られる訳です。
サポートして頂けると大変励みになります。自分の綴る文章が少しでも読んでいただける方の日々の潤いになれば嬉しいです。