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組織が腐るきっかけ

今日は長期の休み明けで、地に足のつかないふわっとした一日になってしまいました。せめて、思考を深めてから一日を終えたいと思います。本日のテーマは、『組織が腐るきっかけ』です。

バーデン=バーデンの密約

1921年10月27日、欧州出張中の岡村寧次、スイス公使館付武官の永田鉄山、ロシア大使館付武官の小畑敏四郎が、ドイツ南部の保養地バーデン=バーデンに集まり、陸軍改革を語り合った会合は、『バーデン=バーデンの密約』と言われています。

この三人は、陸軍士官学校16期の三羽烏と呼ばれた俊秀たちで、現状を憂い、将来の陸軍は自分たちが背負っていくという野心を秘めたエリート将校でした。翌日には、ドイツ大使館付武官で、後に首相を務めることになる1期下の東條英機も合流しています。

この会合では、近い将来において大国との衝突は避けられないとの世界情勢分析から、陸軍内部に蔓延る派閥の解消・人事の刷新・軍制改革・満蒙問題の早期解決、革新運動を巻き込んだ総動員体制の確立等、幅広いテーマについて議論を重ね、後の軍部独裁体制樹立へと進んでいく端緒になったと言われています。

純粋に国の行く末を危惧しての発案であった、と語り継がれる反面、抜きん出た実力を認められてはいたものの、岡村は東京、永田は諏訪、小畑は高知の出身で、当時の陸軍を牛耳っていた主流派には属しておらず、このままでは頭を抑えられて、自らの抱く野心を満足させることが難しいという俗世的な判断もあったと言われています。

この為、自分たちの思想に近い人物を擁立して、陸軍改革を主導させるように暗躍した面が指摘されています。理想の実現には、権力の奪取が不可欠、その過程で邪魔な分子は暴力装置の発動によって排除することもやむなし、という危険思想が正当化されるようになる契機となったという評価もあります。

組織が腐っていく契機

リーダーのポジションには相応しくない奸物が、健全だった組織を腐らせていく事例は、古今東西枚挙に暇がありません。とはいえ、組織が瓦解していく原因がたったひとりの責任に帰されるケースは稀で、大抵は元凶と目される大物権力者の周囲で、作為・不作為を働く多数の人物が関係しているものです。不可侵の権力者を隠れ蓑にしてやりたい放題をやっていた狡い人間が状況を悪化させているケースが非常に多いように感じます。

太平洋戦争の責任を語る上で必ず名前が挙がる東條英機の側近には、『三奸四愚』と呼ばれて評判が頗る悪かった人物がいますし、最近問題になったビッグモーターでは、カリスマ社長以上に、息子の副社長やその取り巻き幹部の悪評が聞こえてきたりします。

組織は人の集合体だが、組織の論理で動く

陸軍内部の派閥抗争や権力争いの歴史を辿っていくのは、なかなか興味深い作業なので、今後も機会を見つけて、深掘りしていこうと思います。改めて思うのは、『組織は人の集合体だが、組織の論理で動く』ということです。強固で統制力のある組織ほど、長年培われてきた組織の論理は岩盤のようです。組織の周縁にいて権力を持てず、駒に甘んじる人間には、容赦なく残酷な役回りも割り振られてきます。

人事とは本当に面倒なものだな、と思います。

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