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青学の王座奪還に思うこと-2024

私の住む松本では、午後から雪が舞いました。雪は2時間程度降り続き、辺りを雪景色へと変えました。さて、本日は駅伝観戦歴40年超の私が、1月2、3日に行われた第100回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)を振り返り、私見をまとめてみます。駒澤大学圧倒的優位の予想を覆し、往路新記録、復路優勝の完勝で2年振りの総合優勝を飾った青山学院大学の勝因、駒澤大学の敗因を探ってみます。

青山学院大学の勝因

①往路での会心の走り

青山学院大学(以下青学)の総合優勝は、2位に6分35秒もの大差をつける圧勝でした。戦前の予想を覆す”番狂わせ”だったと思います。特に、従来記録を3分以上も更新した往路での強さは際立っていました。2‐4区で三連続区間賞を奪い、5区若林選手(3年)も区間新(2位)をマークしました。往路2位の駒澤大学(以下駒澤)も従来の往路記録を更新して走破したにもかかわらず、終了時点で2分38秒もの大差をつけられたのは、全くの想定外だったでしょう。

戦前の予想では、出雲・全日本を全区間首位の完全優勝を果たしていた駒澤が圧倒的な優勝候補に挙げられていました。学生トップクラスの篠原(3年)・鈴木(4年)・佐藤(2年)の各選手を1‐3区に配し、全区間首位通過での完全優勝を狙っているような布陣でした。

レースでは、1区の篠原選手が額面通りの強さを発揮して、歴代2位の好タイムで狙い通り首位発進しました。この時点では、早い段階で駒澤の独走態勢になるのではと感じさせる展開でした。ただ、これだけのハイペースにもかかわらず、後続校もさほど引き離されずに続きました。青学は、箱根初出場の荒巻選手(2年)が、順位こそ9位にとどまったものの、篠原選手に遅れること35秒の好位置で2区に中継したのが非常に大きかったように思います。

青学は、3000m障害が専門で、出雲(2区 区間賞)・全日本(2区 2位)を好走している成長株の黒田選手(2年)が、前半は有力校のエースたちと集団を形成してレースを進めると、後半には、駒澤の主将で大黒柱の鈴木選手を追い上げ、3区への中継では22秒差まで肉薄しました。黒田選手は区間賞を獲得。1時間6分7秒は、青学新記録、ラスト3㎞の戸塚の壁は、史上最速だったようです。

そして、3区の太田選手(3年)は、21.4㎞を59分47秒という驚異的なタイムをマークする爆走を見せました。先行する駒澤の”怪物”佐藤選手に追い付き、抜き去る衝撃のシーンが展開されました。今季のトラック10000m学生最速タイムを持ち、2023アジア大会5000m日本代表の佐藤選手が抜かれる事態は、駒澤は全く想定外だったでしょう。佐藤選手も1時間00分13秒の好タイムで走破しており、決して不調だった訳ではありませんでした。ただ、チームの切り札が抜かれたことで、藤田監督や選手たちに精神的な動揺が走ったことは間違いないと思います。

4区では青学・佐藤選手(4年)が前半から積極的に飛ばして、駒澤の主力の一人、山川選手(2年)を引き離し、ここで完全に青学がレースの主導権を握りました。区間記録ペースで快走した佐藤選手は後半も持ち堪えて、5区中継では駒澤との差を1分26秒に拡げました。途中股関節痛を発症し、本来の走りができなかった(区間6位)山川選手ですが、小雨の降る寒さや、3区での衝撃も走りに影響していた可能性があります。

5区では、青学・若林選手(3年)、駒澤・金子選手(4年)という2年前も対峙した経験者同士のぶつかり合いでしたが、冷たい雨の降る悪コンディションの中、若林選手の走りが勝りました。区間賞こそ、城西大学(以下城西)の山本選手(4年)に譲ったものの、区間3位の走りで健闘した金子選手を1分以上も引き離し、復路に有利な状況を作り出しました。

想定以上の走りを連発して築いたこのセーフティリードが、復路の青学選手達の思い切った走りに繋がったと思います。

②徹底的な箱根仕様のチーム作り

青学チームが、箱根に照準を絞って年間の強化計画を組み、箱根仕様のランナーを育成していることはよく指摘されるところです。原監督自身も、『箱根駅伝優勝』に並々ならぬ執念を燃やしていることを認めています。

今季の青学チームは、昨年までチームの主力を担ってきた強い前四年生が多数卒業し、戦力低下が予想されていました。出雲(5位)、全日本(2位)とチーム力は上向きだったものの、駒澤の抜きん出た強さの前に、手も足も出ない「完敗」といってよい状況でした。下馬評では、青学よりも、四年生に好選手が揃う中央大学(以下中央)や城西大学、近年躍進が著しい創価大学(創価)や國學院大學(國學院)を推す声も少なくありませんでした。

私自身、青学のここまでの完勝は全く想定していませんでした。報道によれば、11月後半から12月前半の強化の重要期間に、主力選手の多数がインフルエンザに罹患して、コンディションには不安があったとも言われています。それでも、各選手が本番にピークを合わせてくる調整力、勝負強さは見事でした。また、原監督の選手の特性とレース展開を想定しての区間配置は流石でした。私の想像ですが、原監督は、箱根で勝つ為のレースパターンを完全に掴んでいる気がします。今季急成長で勢いのある黒田選手に2区を任せられる目途が立っていたのも大きかったし、爆発力があり箱根では絶対に外さない太田選手を3区、経験豊富な四年生の佐藤選手を4区に持ってきたのも采配の妙だったでしょう。

『劣勢が予想されている時の青学は強い』ということを、またしても今回大会の優勝で証明しました。私は、青学の7度の優勝を全て鮮明に記憶しています。4連覇(2015‐2018年)を果たし、5連覇&三冠確実と言われていた2019年に東海大学に苦杯を舐めて以降、2020年、2022年、2024年と隔年で優勝を飾ってきています。2年前の2022年は、エースに成長した近藤選手(2区)の頑張りから、当時ルーキーだった太田選手(3区)、若林選手(5区)の快走、4年前の2020年は、四年生の吉田選手(4区)の区間新の走り、そして6年前の2018年、三冠達成時には、本番直前まで調子が上がらなかったと言われた秋山選手(3区)の快走など、青学優勝時には必ず往路で歴史に残る快走があるように思います。

駒澤大学の敗因

①敵は自分達という思い

駒澤の目標は、史上初の二年連続大学駅伝三冠、しかも「去年のチームを超えての三冠」でした。今季の駒澤チームは、田澤選手を擁し、史上最強と称された昨年のチームに劣らないだけの強力な戦力が備わっており、その目標は妥当なものと思われました。

前哨戦の出雲・全日本では、ライバルに一度も首位を譲ることなく圧勝してしまったことが、目に見えないチームのプレッシャーになっていたのかもしれません。当然の如く優勝候補筆頭に挙げられ、戦前には、「優勝は確実。焦点は、全区間首位での完全優勝がなるか?」というような雰囲気すら漂っていました。大八木総監督や藤田監督以下チームに油断や慢心があったとは思えませんが、「去年のチームを上回れば、確実に勝てる」という守りの意識が薄っすらとあったのかもしれません。今季あまりに強かった為、「敵は他チームではなく、自分自身」という、一歩間違うと驕りに近いような感覚に陥っていたのでは? という気もします。

実際、敗れたとはいえ、駒澤は非常に強いチームでした。往路は決してブレーキで優勝を逃した訳ではなく、3人のエースは、それぞれ額面通りの走りを披露しました。青学の飛び抜けた快走の連続の前に屈したというのが正確な評価でしょう。これで完全にリズムが狂いました。復路に起用された選手たちも決して悪い走りではなかったものの、全区間で青学に勝てなかったのは、「自分たちの走りをする」という心づもりで準備を進めてきた為、追うレース展開になった時の難しさを十分にシュミレーション出来ていなかったからかもしれません。

大変皮肉な話ですが、ここまでのレースで圧倒的な強さを発揮し続けていたため、想定外の事態で思わぬ脆さを露呈してしまった…… という評価になってしまいそうです。駒澤の選手達にとっては、本当に悔しい2位だったと思います。

②指揮官としての経験の差

私は藤田監督の現役時代の果敢な走りに魅せられ、選手時代も、監督になってからも、応援している藤田ファンの一人です。そんな憧れの人に対して「監督経験の差」というのは甚だ乱暴な意見ですが、駒澤・藤田監督自身もコメントされていたことなので、敢えて理由に挙げておきます。

藤田監督の育成能力・采配の力が低いということは決してないと思います。しかしながら、今回のレースでは、百戦錬磨の原監督の経験と執念に、指揮官としての一日の長があったような気がしてなりません。

名将・大八木監督から常勝軍団を継承することになった藤田監督にとって、この1年の心労とプレッシャーは図り知れないものがあったと思います。取材時の表情や言動から、相当に苦労している様子が伺えました。藤田監督は、実直・誠実で、人格的に非常にしっかりしているという評があります。現役時代の印象から、負けず嫌いで勝負師ではあるものの、他者との狡猾な駆け引きを楽しむというよりは、己との勝負、自己鍛錬を重んずるタイプの指導者のように見受けられます。今回のレースでは、その自分に厳しい、禁欲的という面が、不幸にも裏目に出てしまったような気がしてなりません。流れを掴み切れなかった反省は、来年以降の采配に活かされることでしょう。

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