第74回男子・第35回女子全国高等学校駅伝競走大会 観戦記
2023年12月24日、師走の京都で高校駅伝が開催され、女子は神村学園(鹿児島)が5年ぶり2度目、男子は佐久長聖(長野)が大会新記録で6年ぶり3度目の優勝を飾りました。
今週末は寒さを避けて部屋で巣籠もりすると決めていて、テレビでライブで観戦しました。女子の第35回記念大会(10:20~)、男子の第74回大会(12:30~)を、駅伝観戦歴40年を超えるベテランの私が振り返ってみます。
【第35回女子】
女子は今年が35回の記念大会にあたり、県代表の47チームに地区大会で最上位に入った11チームを加えた58チームで争われます。下馬評では、昨年アンカー区間で逆転されて2位に終わり王座奪回に燃えている仙台育英(宮城)、高校総体1500m・5000mで2年連続二冠を達成した絶対的エース、カリバ・カロライン選手が最終学年を迎えた神村学園(鹿児島)、トラックシーズン好調だった三本柱が強力な立命館宇治(京都)が優勝候補のようです。入賞候補には、昨年初優勝を飾った長野東(長野)、上位常連のレース巧者、大阪薫英女子(大阪)、須磨学園(兵庫)の近畿勢が挙げられていました。
第1区6.0km(たけびしスタジアム京都~衣笠校前)
スタートから、3年連続で1区を務める(1、2年時は岡山代表興譲館で出場)大分東明のエース、奥本選手が飛び出し、昨年区間2位で区間賞有力候補の立命館宇治の山本選手、南関東地区代表・東海大相模の近藤選手らが後ろにつく展開となりました。残り1㎞を切って、奥本選手と山本選手のマッチレースとなりましたが、最後は奥本選手のスパートが勝り、山本選手を5秒差で振り切って、区間賞を獲得しました。
3位には冷静に集団でレースを進めた仙台育英の細川選手が11秒差で続き、4位には、昨年に続き長野東の名和選手が16秒差で続きました。「30秒差は覚悟していると」という優秀候補の一角、神村学園は、1年生の瀬戸口選手が13位、31秒差で中継しました。
区間賞 奥本菜瑠海(大分東明3年・大分)19分19秒
第2区4.0975km(衣笠校前~烏丸鞍馬口)
3位でタスキを受けた、2年連続登場の仙台育英の外国人留学生、デイシー選手が前半から積極的に飛ばし、先行する立命館宇治、大分東明を中間点までに捕らえて首位を奪取すると、そのままペースを緩めず快走し、3区中継時には2位の立命館宇治に37秒差をつけました。3位には中国地区代表で初出場の銀河学院が、高橋選手の3人抜き、区間2位の好走で上がってきました。神村学園は、1年生の野口選手が、順位こそ3人抜きで9位まで挽回したものの、首位とのタイム差は1分7秒まで広がり、黄色信号点灯と思われました。
区間賞 デイシー・ジェロップ(仙台育英2年・宮城)12分40秒
第3区3.0km(烏丸鞍馬口~北大路船岡山)
2区で予定通り首位に立った仙台育英は、2年連続同区間に出走する長岡選手が軽やかな走りを披露し、区間賞こそ追ってくる立命館宇治の1年生、芦田選手に1秒負けたものの、首位を堅持しました。3位には引き続き、銀河学院が粘り、4位長野東、5位は北九州代表の筑紫女学院が大健闘です。神村学園は8位で、首位とのタイム差は1分18秒と更に広がりました。5区に絶対的エースが控えているとはいえ、逆転するにはギリギリのタイム差です。
区間賞 芦田和佳(立命館宇治1年・京都)9分39秒
第4区3.0km(北大路船岡山~西大路下立)
仙台育英は、この区間に昨年1年生ながら、中学時代から全国レベルの活躍をしてきた磯選手を起用。区間賞を獲得した2位の立命館宇治・佐藤選手に30秒差まで詰め寄られましたが、区間2位の及第点の走りで、走破しました。神村学園は、2年生の小倉選手が5人抜きで3位まで進出、1分20秒差でアンカーのキャプテンに逆転優勝の望みを託しました。
区間賞 佐藤ゆあ(立命館宇治2年・京都)9分22秒
第5区5.0km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)
仙台育英のアンカーは、今年度一番の成長株という唯一の3年生、橘山選手、立命館宇治は、キャプテンの池田選手という実力者が走りますが、実力的には、3位から追ってくる、高校女子中長距離界の女王、神村学園のカリバ選手が一枚上です。中間地点で46秒差とし、そこから更にギアを上げて追撃していきます。立命館宇治をかわし、残り1㎞地点で仙台育英に18秒差までに迫り、トラックに入ってからも激しく追い上げました。必死に逃げる仙台育英をラスト50mで抜き去り、歓喜のゴールに飛び込みました。
仙台育英のアンカー、これが全国高校駅伝初出場の橘山選手は、ゴール後に泣き崩れ、勝負の非情さを印象付けるシーンとなりました。神村学園は、3位には立命館宇治、昨年優勝の長野東とデッドヒートを繰り広げた大阪薫英女が、ゴール前で振り切り、4位に滑り込みました。5位長野東、6位須磨学園、7位筑紫女学園、8位青森山田、と伝統校が入賞を確保し、大健闘の銀河学院は、最終区で順位を落とし、惜しくも9位となりました。
区間賞 カリバ・カロライン(神村学園 3年・鹿児島)15分09秒
勝手に寸評
ゴール直前で抜かれてしまったものの、2位の仙台育英にとっては、目論み通りのレース展開でした。1分20秒差を跳ね返して逆転したカリバ選手の走りが圧巻だったと褒めるしかないでしょう。
3位の立命館宇治は、優勝を狙っていただけにやや不本意な表彰台かもしれません。3区、4区の連続区間賞で力を見せたものの、2区、5区で留学生に力負けした感がありました。1、2年生主体の若いチームながら、4位に食い込んだ大阪薫英女は来年以降が楽しみなチームになりそうです。
【第74回男子】
男子は、6人の5000m13分台ランナーを擁し、高校駅伝史上最強チームの呼び声高い佐久長聖(長野)が優勝候補筆頭であり、留学生抜きでの大会記録更新に期待がかかります。昨年優勝の倉敷(岡山)は、3区の超高校級の強力留学生、キバティ選手、前回4区区間賞の主将・桑田選手でリードを奪って逃げ切りたいところ。注目の花の1区は、5000m高校歴代2位の記録を持ち、今季日本人高校生相手に負けなしで、世代最速ランナーの呼び声高い、須磨学園の折田選手が注目されます。強豪校の洛南(京都)、埼玉栄(埼玉)、八千代松陰(千葉)、仙台育英(宮城)、札幌山の手(北海道)、大牟田(福岡)、小林(宮崎)なども戦力充実で、注目されます。
第1区10km(たけびしスタジアム京都~烏丸鞍馬口)
外国人留学生の起用が禁止されており、高校長距離界の日本人トップランナーたちが顔を揃える「花の1区」には、今年も豪華メンバーが揃いました。5000m13分台のベストタイムを持つ選手が10人。都大路の1区は、前半にだらだらと上り坂が続く難コースであり、7㎞過ぎからはじまる競り合いが見所です。
昨年は西脇工の長島選手(現旭化成)が、スタートから単独で飛び出し、そのまま押し切って区間賞を獲得しましたが、今年は集団で進んでいきます。牽制でスローペースになりかけた2㎞を過ぎたあたりで、区間賞候補筆頭の須磨学園・折田選手が先頭に出て自らペースメイクし、有力校の選手達を振り落としていきます。
折田選手は快調で、まだ上り傾斜が続く6㎞で、ペースアップし、一気に振り落としにかかります。優勝を狙う倉敷の檜垣選手が遅れ、残り1㎞を前に、佐久長聖の主将、永原選手も振り落とされ、埼玉栄の松井選手(前回5区区間賞)とのマッチレースとなりました。残り1㎞で、松井選手がスパートしたものの、慌てず追走した折田選手は、残り300mから渾身のスパートを放って、貫禄すら感じさせる区間賞。4年前に八千代松陰・佐藤選手(現・青山学院大)がマークした日本人高校生最速タイの28分48秒の好タイムでした。6秒差の2位は埼玉栄・松井選手、3位には宮崎選手が好走した東洋大牛久(茨城)が9秒差で続き、佐久長聖・永原選手も17秒差の4位にまとめました。1年生の学法石川・増子選手が5位で続きました。優勝を狙う倉敷は、57秒差の16位発進とやや出遅れました。
区間賞 折田壮太(須磨学園3年・兵庫)28分49秒=日本選手最高タイ
第2区3km(烏丸鞍馬口~丸太町河原町)
2区は下り基調の短い3km。各校スピードランナーが起用されます。
先行する須磨学園を、埼玉栄・佐久長聖・学法石川が激しく追い上げていきます。5位で襷を受けた学法石川の齋藤選手が好調で、4人を抜いて首位に浮上しました。2秒差の2位で佐久長聖、3位埼玉栄、4位須磨学園も僅差です。倉敷が3位に上がり、以下、八千代松陰、埼玉栄と続きます。
区間賞は、3人抜きでチームを8位に押し上げた国学院久我山の寺田選手が獲得しました。倉敷は順位を1つ下げ(17位)、トップとの差も58秒に広がりました。
区間賞 寺田向希(国学院久我山3年・宮崎)8分14秒
第3区8.1075km(丸太町河原町~国際会館前)
3区は、全体的に上り基調の8.1075km。力のある外国人留学生ランナーの爆走などで、チーム順位の変動が激しくなる区間です。
先頭を走る学法石川・馬場選手を、佐久長聖・山口選手、須磨学園の堀野選手が2㎞付近でかわすと、肩を並べての先頭争いが繰り広げました。後方からは、昨年驚異の区間新記録を達成した倉敷・キバティ選手が、札幌山の手の1年生、サミュエル選手を引き連れて、前を行く選手を次々と抜いていきます。残り2㎞となった跨線橋を渡る手前で、佐久長聖・山口選手がペースアップして先行し、トップで4区中継では果たしました。
17秒差の2位には須磨学園が粘り、倉敷・キバティ選手は14人抜きの爆走だたものの昨年樹立した区間記録には及ばず、22秒差の3位まで進出するのが精一杯でした。ここで先頭に立って20~30秒の貯金が欲しかった倉敷としては、苦しいレース展開でしょう。4位はサミュエル選手が大健闘の8人抜きを見せた札幌山の手、5位埼玉栄、6位大牟田、7位仙台育英、8位八千代松陰と有力校が続きます。首位の学法石川は、馬場選手が区間44位のブレーキとなり、21位に転落してしまいました。4区中継時点では、1時間00分46秒と昨年の大会記録を30秒ほど下回っています。
区間賞 サムエル・キバティ(倉敷3年・岡山)22分47秒
第4区8.0875km(国際会館前~丸太町寺町)
3区を逆走する4区8.0875㎞は、下り基調のコースで、スピード自慢の準エースが起用される傾向があります。今日は、軽い向かい風が吹いています。
首位の佐久長聖は、昨年2区2位、高校総体1500m・5000mの2種目で入賞している実力者の濱口選手が、冷静に歩を刻みます。追い掛ける展開になった倉敷の主将、三年連続出走の桑田選手は、2位の須磨学園をかわしてからもじわじわと先頭との差を詰めて10秒差くらいまで忍び寄ったものの、濱口選手がラスト1㎞でペースアップし、5区中継時には15秒差まで戻しました。3位は須磨学園、4位は大牟田が2人抜きで上がってきました。好走の桑田選手は、2年連続の区間賞獲得です。
区間賞 桑田駿介(倉敷3年・岡山)23分10秒
第5区3km(丸太町寺町~烏丸紫明)
2区を逆走する上り基調の3km。通常、チーム7番目の選手が走る区間ながら、優勝を争うチームであれば、この最短区間にも5000m14分台前半の持ちタイムを持つ好ランナーを起用してきます。
首位を行く佐久長聖は、ここに高校総体3000m障害8位、5000mで14’02”のタイムを持つ佐々木選手を起用。他チームなら間違いなくエース区間を担える実力者は、最初1㎞を2’40”のハイペースで入ると、上り基調のコースをそのままのスピードで押し切り、最古の区間記録を51年振りに8秒更新する圧巻のタイムを記録しました。2位倉敷との差は決定的な51秒へと広がり、勝負あった感があります。4区終了時点では1分近く遅れていた大会記録にも追いつき、更新できる状況まで挽回してきました。
3位須磨学園、4位大牟田、5位埼玉栄は順位は変わらず、6位、7位、8位には札幌山の手を抜いて、八千代松陰、洛南、仙台育英と有力校が上がってきました。
区間賞 佐々木哲(佐久長聖2年・長野)8分14秒=区間新
第6区5km(烏丸紫明~西大路下立売)
近年勝負の行方を左右する重要区間になっている6区の5㎞。前半の約3㎞が上り、以降は一気に下るチェンジ・オブ・ペースの難しいコースです。
セーフィティリードとなった佐久長聖は、5000m日本人高校記録保持者の吉岡大翔選手の弟で、5000m13分台ランナーの吉岡(斗真)選手が走ります。前半の上りを抑え気味に入り、後半の下りでスピードを全開するセオリー通りの見事な走りで、区間賞を獲得。2位の倉敷との差は1分35秒まで広がりました。
上位陣に順位の変動はなかったものの、8位に前評判の高かった小林が、飯田選手の区間2位の好走で8位の入賞圏内に進出してきました。9位の仙台育英とは9秒差であり、8位入賞争いは熾烈です。
区間賞 吉岡斗真(佐久長聖3年・長野)14分16秒
第7区5km(西大路下立売~たけびしスタジアム京都)
最終7区は全体的に下り基調の5km。優勝を争うチームは、最後のトラック勝負を想定して、ラストの斬れ味があるスピードランナーを起用してきます。
先頭を走る佐久長聖は、昨年も6区を走って経験があり、5000m13分台の記録を持つ2年生の篠選手が淡々とピッチを刻みます。向かい風の影響で、史上初の2時間0分台には届かなかったものの、全く危なげのない走りで、昨年倉敷が樹立した大会新記録(2時間1分10秒)を破る2時間1分00秒でテープを切りました。2位の倉敷を後半5‐7区で突き放し、終わってみれば前評判通りの圧勝でした。3位表彰台には、平山選手が快走した八千代松陰が三人抜きで滑り込み、4位の須磨学園は学校最高順位(5位)を更新しました。5位埼玉栄、6位大牟田、7位洛南、8位仙台育英と有力校が上位を占め、名門小林は7秒差の9位で久々の入賞を逃しました。
区間賞 平山櫂吏(八千代松陰3年・千葉)14分19秒
勝手に寸評
終わってみれば、5000m13分台ランナー6人、メンバー7人の平均タイムが13分台という史上最強チームの呼び声が高かった、佐久長聖の圧勝、大会新という結果に終わりました。後半5‐7区のランナーの実力差は大きく、中でも5区で区間新をマークした佐々木選手の快走は特筆ものでした。高校生一流ランナーならば、トラック5000mの持ちタイムは13分台半ばが当たり前、という時代が完全に到来したようです。心配されていた寒波は和らぎ、留学生にも比較的走り易いコンディションだったかもしれません。
これまでも優勝チームの条件として、3区に登場する強力な外国人留学生ランナーの存在だけなく、1区、4区の長距離区間を区間上位で走れる日本人エースの存在が不可欠だったものの、後半3区間に13分台~14分1桁の走力を有する選手を起用するチームが現れたことで、主力選手に次ぐ層の選手の強化が課題になりそうです。
個人的には、単身赴任中である長野県の佐久長聖が優勝したこと。数年前まで低迷が続いていた故郷の兵庫県から、昨年の長嶋選手(西脇工業→旭化成)や前田選手(報徳学園→東京農業大)、今年の折田選手のような、超高校級の逸材が登場していることを大変嬉しく思います。
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