ある夏の日のできごと
君の手をとり
僕は突然 走り出す
いつもの
気まぐれな
強引な誘いに
ほんの少し 戸惑いながらも
走るのが好きな君は
すぐに状況を飲み込んで
それを楽しむように
同じ速度で走って
ついてくる
少しでも気を抜くと
僕の方が君に
引っ張られそうだったから
絶対にそうはなりたくなくて
半ばやけ気味に
男らしくなく
本気で
全力で 走る
そんな
僕との戦いに
真剣に挑む君も
本気で追い越そうと
全力で 走る
今だけ感じる
手のひらから伝わる一体感に
永遠を願いながら
自然と力の入る
絡まり合った指と指は
絶対に離さない
絶対に離したくない
と
阿吽の呼吸で
無言の会話となる
偶然にも
同じ所で
力尽き
つながる指だけ
そのままで
一緒になって
砂浜に
ひざまづき
倒れ込む
そして
このレースの
勝負のつかない
思いがけない結末に
笑うしかない 二人
ひとしきり笑ったあとの
荒い息づかいと
気だるい表情に
僕は思わず
視線をそらし
今度は
自分の気持ちと
戦う
赤く染まった顔と
やばい鼓動を
悟られたくなくて
下を向く
心臓の速さは
倍になる
血流の
ドクンドクンと
なりひびく音が
酸欠状態の脳を
よりいっそう
空白にさせた
そんな
たあいもない
ある夏の日のできごと