100万円
銀河売りが銀色のギターをギャンギャラギャンギャラかき鳴らしながら銀貨を銀皿へ入れてくれと言わんばかりにジロリギロリと睨んだ先、銀歯や金歯をギラギラギラギラギラつかせながらジリジリとギリギリまで詰め寄ってくる銀行員へ銀河売りが一言!
この銀河はいらっしゃりませぬか〜!
はぁ…はぁ。
目の前の人が、一気にのたまう。
なんだ…これは。
見学に訪れたアナウンサー養成所。
教室の前方、ホワイトボードに書かれた文字は『ギ』の一文字。
先ほど息を切らしていた生徒の話によると、こちらのレッスン、『ア』から始まって、五十音を終えたのち、濁音シリーズへとステップアップして来たそうだ。
先週『ガ』を終え、今週は『ギ』…ということは、修了はまだまだ先となる。
しかも、発声の練習だけでなく、この意味のわからない発声練習の台本まで、生徒が毎週作るという。
講師はというと、先程から腕組みをしながら同じことだけを繰り返し言っている。
「『ガ』じゃなくて『ンガ』!」
「滑舌良く、ハッキリと!」
「頭の中に想像して!もっとリアルに!」
この3つを繰り返すのみ。
結局、2時間のレッスンは生徒がひたすら『銀河売り』を発声し、講師は3つのことを繰り返し言う。
あっという間と感じることはなく、頭が割れそうな、気が変になるような時間であった。
何なんだ、このレッスン。
バッグの中からチラシを取り出し、改めて確認する。
100万円って、高くないか?
受付で礼を言い、ビルを出て駅へと向かう。
駅の近くの掲示板の張り紙に、ふと目がとまった。
くるりと踵を返し、先ほどのビルへと向かう。受付で挨拶をし、面接の予約をお願いした。
そんな訳で、入会はせず、もちろん生徒になることもなく、あっという間に腕組み講師となった。
100万円をレッスン代につぎ込む代わり、講師のアルバイト代として、あっさりと100万円を手にしたのだった。
さ、今日もレッスンだ。
優秀な生徒は基礎編プラス(濁音)を修了し、今日からいよいよ基礎編プラスアルファ(半濁音)が始まる。
小牧幸助さんの楽しい企画に参加させていただきました。
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