オリジナル寓話「戦士長の選び方」
昔むかし、国同士が互いの領土をめぐって戦争をしていた時代。
ある国は、戦争にまったく勝てず、衰退の一途をたどっていました。その状況に危機感を持った国王は、戦力を強化するため、新たな戦士長を募ることにしました。
手を挙げたのは、三人の男。
一人目は、大きな背丈に鍛えられた肉体で、見るからに屈強な男。ただし、物事を考えることが極端に苦手だそうだ。
二人目は、体格はひょろりとして一見弱そうな男。ただし、知恵がよく働くのだそうだ。
三人目は、背丈や体格は人並み程度な男。かつ、知恵も人並み程度に備えているのだそうだ。
国王はこの中から戦士長を選ぶため、側近の者から提案を受けた次のような試験を行うことにしました。
「今から、この国の戦士長を選ぶため、試験を行う。
その試験とは、ここにある巨大な岩を、向こうに見える山の頂上まで運ぶこと。
一番早く運んだ者を、この国の戦士長として迎えたい。」
国王は、近くに並んだ三つの巨大な岩を指さし、そして次に遠くに霞んで見える高い山を指さし、言いました。
国王の合図とともに、まず一人目の屈強な男が一目散に走り出し、力任せに岩を押し始めました。
二人目のひょろりとした男は、その場を動かず、何かを考え始めました。
そして三人目の、体格も知恵もそこそこの男は、しばらく巨大な岩の様子や、山頂までの道の状態、近くに落ちている道具などを観察してから、木の棒と大きめの石を使い、てこの原理を利用して岩を転がし始めました。
一番目の男が先陣を切って進み、その後ろを三番目の男が追いかけます。
二番目の男は、じっと考えたまま動きません。
一番目の男と、三番目の男の姿が遠く小さくなっても、二番目の男はそのひょろりとした身体を全く動かしませんでした。
耐えかねて、国王はその男に尋ねました。
「お前はなぜ動かない? 戦士長になりたくて来たのではないのか?」
その問いに、二番目の男はこう答えました。
「はい。私はこの国が戦いに負けてばかりいる状況をなんとかしたく、今日ここに来ました。
しかし、この岩を山頂まで早く運ぶことできたから、何なのですか? それができる者が戦士長として兵を率いたら、この国は強くなるのでしょうか。
本当に優れた戦士長を選ぶのであれば、もっときちんとした試験を課すべきです。
まずは、このくだらない試験を出した側近の者をやめさせることが、この国が強くなるための第一歩だと思います。」
【完】
※解説※
このお話は、前田裕二さんが塾長を務めるオンラインサロン「メモ魔塾 特進科」で課題として出された「寓話制作」に提出するために、私個人が書いたものです(クラスで協力して課題を作成するため、採用されなかった作品になります)。
込めたメッセージとしては、以下の2点です。
何かを成し遂げたいのであれば、そのために必要な行動を細分化し、正しい努力を積み重ねよう。
問題や課題が与えられた時、すぐに飛びついて解を探すのではなく、そもそもなぜその問題が出されたか、何を目的に行うのかを明確にしよう。
私自身、何かを始めたら、継続することは得意なほうです。また、問題を与えられたら、答えを出したくなるタイプの人間です。
だけど、やみくもに続けたり問題を解いていることは、「頑張っている」「努力している」という風に思えても、目的やどこに行きたいかが定まっていないと、ほとんど意味のないものになります。
自分が何を目指し、どうありたいか。
そのために、今何をすべきか。
そこをしっかり考えて行動しないといけないという、自分自身への戒めを込めて書きました。
(ちなみに、この「寓話制作」の課題に取り組む意味はちゃんと腹落ちしています。物語として面白く、メッセージ性の強い昔話・寓話は、何年も語り継がれる。何か伝えたいメッセージがあり、それを効果的に伝えるため、ストーリーの力を利用する。そういった力を付けたいと思っています。)
それにしても、物語を作るのってやっぱり楽しい。
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