帰りたいのに帰れない。世界が再び遠くなった日々。
父が入院した。胆石が苦ったらしく腹は切らず穴を開けて1cmほどの石を6個ほど取り出したらしい。母曰く麻酔が効かず術後半日唸ってどうもならなかったらしい。腹を切ったらその4倍は苦しむと医師には言われたと言った。母はその日帰宅するつもりだったが、あまりしんどそうなので、病院で一晩父に付き添うことにした。
母の計らいでフェイスタイムで父と繋がったが、ベッドに点滴の入った体を横たえて辛そうだった。やっと目を開いて私と二言三言話しただけでもう休むとゆっくり薄くうなずいた。それから私は母と2時間近く話した。久しぶりだと母は言ったが、父の初めての入院で心細かったと思うから、普段より私を恋しく感じたのだと思う。次の日は点滴を引いて病院の廊下を歩く父の写真が送られてきた。トイレにでも立った時だと思うが、相変わらず時と場所を選ばない母。術後の痛みは引いたが食欲がないらしいとのこと。3日目、庭に咲くデイリリーや黄色い睡蓮と朱色の金魚、蔓にぶらさがるぶつぶつのニガウリの写真が送られてきた。母は帰宅して庭をいじっている。雑草がすごいと言っていた。
4月の始め、婆さんが死んだ。老衰だった。しゃんとした頭のまま、寝ている間に天に召された。去年秋先に帰国した時は、長女の叔母さんと、私の両親と毎週老人ホームに遊びに行った。婆さんはもうすっかり死顔に近づいていたので、椅子で眠りに落ちる祖母と無口で向かい合う父の顔を見て、切ない思いになった。今年7月まで生きていたら101才になっていた祖母だが、父にとってはたとえ大往生だとしても、いなくなると寂しいに決まっている。
今朝母親からフェイスタイムがかかってきた。受けるともう一人の婆さんが写っていた。車椅子の上にクッションを横に置いて細い体を支えている。
「おばあちゃん、まりよ」
母の声が聞こえて、婆さんの手をとり振らせている。相変わらず無理やりする。タブレットの左上の小窓の自分の顔が寝起きで少しむくみ、すこぶる卵型なのと、すっかり大人になってと感慨深く思った!婆さんはこの老けた顔じゃ私と分からないんじゃないかとふと思った。年相応にうつろな婆さんと私の時を刻んだ彫りの深くなった顔と、ピタッと合致するには相性が悪い。婆さんが若い時の記憶、すなわち私が子供の時の記憶の方がきっと強いだろうから。
この婆さんには幼児の時からずっと育ててもらった。毎日仕事で忙しい両親に代わって、うちに来て新鮮で安心な手料理を私たちに与えてくれた。子守中、私が投げた積木が弟の頭をヒットして流血したために、自分の娘に土下座して謝った事もあったらしい。ある時弟の入院により、私は婆さん宅へ泊まることがあった。その時婆さんと風呂に入るのが嬉しくて、はしゃぎすぎて風呂ですっころんだ記憶がある。小学生になると、婆さんの家の前が通学路だったから、下校したら家で会うのにも関わらず、よく玄関に出て私達を見送ってくれた。照れ臭くて素っ気ない態度を取った自分に今さら後悔してもしょうがない。婆さんはとても上品な人で、活きが良い母や私とは正反対だ。そして私の事を家族で一番よく誉めた。ほんとうに大事に育ててもらった。ってまだ死んでないけど。
どちらの婆さんも娘や息子がずっと側にいて幸せだなと思った。
このコロナの狂気で世界がまた遠くなってしまった。グローバライゼーションがもたらした「自由」は回り回って今人類の首を絞めている。人間が死んでいったら地球が生き返るってのもすこぶる皮肉な事だ。
激流行りのZoomミーティングも便利で、ロックダウンの初めのうちはよかったんだけど、どんどん集中度も重要度も落ちていった。家にいるそのままの感覚だから、ついついカチカチクリックしながら通話をしてしまう。家族とのネット通話も離れているという感覚を一層強く感じるのは私だけかしら?
イギリスはゆっくりとロックダウンを解除し始めているけど、イギリス、レスターでクラスター感染があり、そこだけロックダウンをすると発表があったばかり。中国でまた新しい新型ウイルスが養豚から見つかったとか、これからも引き続き予想不可能な世界情勢が続きそう。
ありとあらゆる食用の動物を扱う市場から始まった今回のパンデミック。でもコロナは中国だけのせいじゃないと思う。人間の欲の為に生態系や地球のバランスを崩してしまった結果だ。いい加減、肉食やめりゃいいのにと思う。利潤のみを求めた大規模農場って、百害あって一利なしじゃん。どんだけ怠惰で欲張りなんだよ。フライドチキンとか、なんとかバーガーはああゆうところのチープなお肉が使われているのはご存知の通りですが、冷凍食品とかの加工食品って原料の原産国の記載がないでしょう。ああゆう物に恩恵を受ける先進国全てに非がある。規制の緩い国から国へ安いものが流通するシステムは変えなきゃ行けない。地産地消、改めて信頼性が高くなる。
あー書いていると腹が立ってきた。そうゆう無知、もしくは欲深いあなたたちのせいで私は今、仕事もままならないし、友人にも会えない、旅行にも行けないし、もしもの時に日本に帰れないの!