📖#1 冷笑と筆で戦う明治のボンビーガール『樋口一葉日記』

マリナデシコ｜さいたまの大和なでしこ

2024年9月23日 21:11

皆様、こんにちは。
ごきげんいかがですか。
マリナデシコです。

2024年7月にお札が新しくなりましたね。
新一万円は、我が埼玉が誇るスーパースターの渋沢栄一様、新五千円札は津田梅子様、新千円札は北里柴三郎様。

このnoteは、昔の大和なでしこを取り上げるnoteなので、新札の中では津田梅子先生に注目してます。

が、その前に！

旧五千円札の樋口一葉さんを忘れちゃダメでしょう！！

というわけで、今回は明治の女性文豪、樋口一葉女史じょしについてです。
（女史じょし＝名声のある女性への敬意を表す言葉）

ご紹介するのは、彼女が書いた傑作小説『たけくらべ』……ではなく、一葉女史自らが書いた日記です。

なぜ代表作よりも、日記を取り上げるのかというと、この日記が小説よりも面白いんです！

日記は一葉女史が15歳～24歳の病気で亡くなる4カ月前まで書かれています。
そうなんです。一葉女史は、たった24歳で亡くなっているんです！　なんてこったい！

短い生涯ではありますが、日記はほぼ毎日書かれていて、そのほとんどのページが残っています。
年上の先生に恋してときめく記事、小説家になるという夢を追いかけて努力する記事、貧乏で苦しむ記事や貧乏で苦しむ記事と貧乏で苦しむ記事。

とにかく貧乏に苦しみまくってます！

「えー！？　現代でも有名な小説家なんだから、お金持ちだったんじゃないの！？」と、不思議に思ってしまいますが、一葉女史はずーっと貧乏。

着替えをする着物もなければ、明日食べるご飯もない！
近所の質屋に走って物を売る綱渡り生活！
年老いた母と2歳年下の妹の生活は、一葉女史一人の肩にかかっている状態！

しかも、当時は女性が家計を支えられるほどに稼げる職業は、ほぼなし！

そんなとき、知人が書いた小説が雑誌に掲載され、高額な原稿料をゲットしたことを知り、一葉女史は「これだ！」とひらめいて、小説家を目指します。

「小説を書くことが好きすぎて、小説家になりましたの。おほほほ」という、かわいい動機ではなく、「お金を稼ぐために、私は小説家になる！　これで母と妹を養うんだ！」という、家族３人分の生活がかかっている切羽詰せっぱつまった状態で小説を書いたのです。

作者：樋口一葉ひぐちいちようさんのプロフィール

お名前：樋口一葉ひぐちいちよう（本名：樋口奈津　一葉はペンネーム）
生年：1872年～1896年（享年24歳）
小説家、歌人
東京生まれの東京育ちの明治シティーガール
責任感が強くて真面目
他人に心を許さない慎重タイプ
ときどき人を見下す
紫式部よりも清少納言派
父：樋口|則義《のりよし》。甲斐国（山梨県）出身。駆け落ちして江戸に引っ越した。江戸時代末期にお金で武士の身分を買い、農民から武士になったものの、半年で江戸幕府倒れる。明治維新後は金貸しと不動産の転売でもうけたが新事業に手を出して破産。病気で亡くなる。
母：古屋|多喜《たき》。甲斐国（山梨県）出身。樋口家よりも格上の農家の娘。則義と駆け落ちして江戸へ。衣食住を娘の一葉に任せっきりで愚痴ばかり言う毒親。
姉：ふじ。元軍医に嫁ぐが翌年に離婚。近所の平民と再婚。
兄１：泉太郎せんたろう。優秀。大蔵省に就職したものの結核のため退職。23歳で亡くなる。
兄２：虎之助とらのすけ。薩摩焼の陶工に弟子入りして樋口家を出る。勉強嫌いで素行が悪く性格も悪い。
妹：邦子くにこ。一葉が書いたもののほとんどを保管しておいて、一葉の死後に出版した姉思い。

一葉女史の知人の証言によると……

・顔の形が良い
・目は一重で切れ長
・鼻筋は通っていた
・きりっと締まった口元
・そばかすがある色白の肌
・髪の毛は赤茶色
・高くてきれいな美声の持ち主

美人だったけれど、化粧っ気がなく、いつもすっぴん同然だったそうです。
お金があれば、きちんとメイク出来て、もっとキレイだったんだろうなー。

一葉女史は、幼い頃、暗いところで本を読んでいたため、ど近眼だったそうです。
友だちにメガネをかけるようすすめられても断ったため、ずっと目が悪かったとのこと。

樋口一葉女史の人生：0歳～15歳

『樋口一葉日記』の本編に入る前に、まずは一葉女史の短い人生をなぞっていきましょう！

◆1857年（安政4）～1867年（慶応3）一葉誕生前

・父と母、駆け落ちして、甲斐国（山梨県）から江戸へ
・長女　ふじ　が誕生
・長男　泉太郎　が誕生
・次男　虎之助　が誕生

▼父、剣術が下手で新選組になりそこねる

一葉女史が生まれる15年前（1857）、お父さんの樋口則義のりよしは、山梨県の裕福な農民でしたが、幼馴染で同じく裕福な農民の多喜との結婚が許されなかったので、駆け落ちして江戸にやってきたのでした。

江戸に着いた則義は、武士になろうと決意し、働いてお金を貯めます。
江戸時代末期では、お金があれば農民でも武士になることが出来ました。
（それでいいのか、江戸幕府！）

則義「武士になるためには剣術も習わないとなー」

そう思った則義は、市ヶ谷にある天然理心流てんねんりしんりゅうの道場、試衛館しえいかんに弟子入りします。

実は、この試衛館しえいかんは、のちに大活躍した新選組の組長・近藤勇、副長・土方歳三、一番隊隊長・沖田総司がいた、ガチ中のガチな道場でした。

一葉女史の父は、新選組になっていたかもしれないんですね！

則義「土方さん、すげー強い！　なんなの、あの人！！　鬼！？　沖田さんも恐ろしく強いし！　もう嫌！　あんなふうに強くなれない！　オレは頭脳派の武士になる！」

と、思ったかどうかは分かりませんが、則義は剣の才能がなかったので、道場通いをすぐにやめてしまいました。

それから、7年後、1867年7月に、則義は貯めたお金で、念願の武士になりました。
がしかし！　同年10月に大政奉還、12月に王政復古の大号令があり、則義が武士になって半年で武士の時代が終わってしまいました！

則義「せっかく苦労して武士になったのに、武士の時代終わっちゃった……どうしよ……そうだ！　強い側に味方しよ！　オレ、新政府側につきまーす！」

則義は計算高かったので、江戸幕府側にはつかず、新政府側について働きました。
新政府では、明治維新で活躍した、薩摩藩（鹿児島）長州藩（山口）土佐藩（高知）肥前藩（佐賀）出身者以外の出世が難しかったので、則義は明治政府での出世を諦めて、金貸しと不動産の転売を始めたところ大当たり。
樋口家は、現代の東大の赤門（文京区本郷）近くに建てた豪邸で、豊かに暮らせるようになりました。

◆1872年（明治5）～1885年（明治18）

・1872年（明治5）3月25日（新暦5月2日）　次女　樋口一葉（樋口奈津）　誕生
・1874年（明治7）　三女　邦子　誕生
・1874年（明治7）　長女ふじ　元軍医に嫁ぐが翌年離婚
・1879年（明治12）　長女ふじ　近所の平民と再婚
・1881年（明治14）　次男虎之助　借金を作り素行が悪かったので樋口家の籍を外され、薩摩焼の陶工に弟子入り
・1883年（明治16）　一葉11歳　成績はトップだったが、母の反対により学校を中退させられる
・1884年（明治17）　一葉12歳　父の知人に通信教育を受けて和歌を学ぶ
・1885年（明治18）　一葉13歳　東京専門学校（現・早稲田大学）の学生、渋谷三郎（のちの婚約者）を紹介される

▼成績トップだったのに、母に学校を中退させられる

一葉女史は、父が成功したおかげで、9歳まではお金の心配をすることなく、幸せに暮らしました。
小さい頃から賢くて、小学校では首席でしたが、母の多喜はそれを良く思っていませんでした。
多喜は「女の幸せ＝良妻賢母以外ありえない」と考えていて、

多喜「女の子がかしこすぎると、将来、結婚できないわ！　奈津、学校を中退して、嫁入りに必要な裁縫のお稽古をしなさい！」

と、一葉女史は学校を中退させられてしまいました。
成績優秀で勉強好きだった一葉女史は、学校をやめさせられたことが、くやしくて悲しくて、母に隠れて夜にこっそりと読書を続けました。
そのせいで、近眼になってしまったと本人は回想しています。
外で遊ぶよりも家で読書をするのが好きで、『南総里見八犬伝』98巻を３日で読み終わったそうです。（まじかよ……）

一葉女史は母の言いつけで、３年ほど裁縫を習いました。
これがのちのち、内職として役立ちます。

母の多喜は一葉女史が勉強することに否定的でしたが、父の則義は協力的でしたので、知人にお願いして、一葉女史に和歌の通信教育を受けさせました。
和歌だったら女性のたしなみとして文句なしだったので、多喜は許しました。

◆1886年（明治19）～1887年（明治20）

・1886年（明治19）　一葉14歳　中島歌子の歌塾『萩の舎』に入門。和歌、書道、古典文学を学ぶ
・1887年（明治20）　一葉15歳　長男泉太郎　肺結核のため亡くなる（享年23歳）

▼超お嬢様たちが通う塾で格の違いにショックを受ける

父・則義は奮発して、一葉女史を上級お嬢様たちが通う歌塾『萩はぎの舎や』に通わせてくれました。

『萩の舎』は、歌人の中島歌子先生が運営する歌の塾です。
ここに通うのは、皇族・華族のいわゆる上流階級のお嬢様ばかりで、彼女たちは黒塗りの家紋入り人力車で通っていました。
今でいうところの、黒塗りの高級車（運転手付き）で習い事先に送り迎えしてもらっていたんですね。

我らが一葉女史も、この頃はそれなりにお金持ちだったのですが、それはあくまでも一般庶民と比べたらの話。
代々続くお公家様やお武家様のお嬢様たちは、幕末に滑り込みで武家になった成金なりきんの樋口家では到底かなわない血統と財力をお持ちでした。
立派な人力車が通り過ぎたあとを、一葉女史は実家から30分以上かけて徒歩で通ったのでした。

▼優秀な兄が結核で亡くなり、樋口家は一葉女史が継ぐことになる

大蔵省に勤めていた優秀な兄・泉太郎が肺結核のため退職し、その翌月に亡くなってしまいます。
これで樋口家は跡取りを失ってしまいました。

一葉女史には、もう一人兄（虎之助）がいたのですが、優秀な兄・泉太郎と妹・一葉に挟まれて凡人だった彼はひねくれてしまい、借金をつくったので、6年前に樋口家から縁を切られてしまっていました。

姉・ふじは、嫁いでしまっているし、泉太郎亡き今、樋口家を相続するのは一葉女史しかいなくなり、翌年に父は一葉女史に樋口家をたくします。

しかし、この泉太郎の死因、結核がこの時点で一葉女史に感染していて、年月をかけて彼女の体をむしばんでいくのです。

一葉女史が代表作『たけくらべ』を発表するまで、あと8年。

続きます。

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