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📖#18 冷笑ず筆で戊う明治のボンビヌガヌル『暋口䞀葉日蚘』

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【前回たでのあらすじ】

぀いに来た暋口䞀葉ブヌム倧喜びするダバ男カルテットもずい、銬堎孀蝶たち文孊オタサヌ仲間を、䞀葉女史は冷静に受け流す。䞀葉女史の才胜は、文孊界の゚リヌト森鷗倖もりおうがいや幞田露䌎こうだろはん、斎藀緑雚さいずうりょくうも認めるのだった。

◆1896幎明治29䞀葉24æ­³

5月24日
斎藀緑雚さいずうりょくう氏が、初めお我が家を蚪問した。

緑雚氏は、人から嫌われおいるらしい。
文孊界で敵を䜜っおばかりで、玠敵なものは曞けず、埌茩に指導もせず、自分の心の闇やみを曞きだすので「圌が曞くものは憎らしい」ず悪口を蚀われおいる。

森鷗倖もりおうがいずいう人は、裕犏な家に生たれお、順調に出䞖しお名声を埗た人なので、今の地䜍は圓然だろう。

幞田露䌎こうだろはんは、もう少し実力があったらいいなず思う。

森鷗倖もりおうがい氏から批評の䌚にお誘いいただいたが、

䞀葉「私は臆病者おくびょうものなので、ハレの堎に行くのは恥ずかしいです」

ず、手玙に曞いお断った。

䞀葉女史による、文孊界゚リヌトトリオの印象です。

䞀葉女史を心配しおくれた斎藀緑雚さいずうりょくうは、敵が倚かったようです。
敵ができた原因は、緑雚が他人の䜜品を蟛蟣しんら぀に批評したのが原因。
そりゃあ、心血しんけ぀ささげお生み出した䜜品を、厳きびしく批評されおしたったら、䜜者がムカッずするのは圓然です。

森鷗倖の恵たれた家庭環境ず゚リヌト街道に「恵たれおいるのだから、出䞖も出来お名声を埗るのも圓たり前」ず、突き攟しおるずころに、䞀葉女史の鷗倖ぞの嫉劬が芋え隠れしおたすね。

幞田露䌎にいたっおは「実力がたりおないんじゃない」ずバッサリ。

6月頃
知らない人からの手玙が増えた。
小説を曞いたので盎しおほしいだの、文通しおほしいだの。
小説が曞きたいずいう女子には「絶察にそんなこずしおはいけたせん」ず、私が経隓した苊劎を曞いお返事をした。

女性の掻躍がめずらしかった圓時、䞀葉女史の存圚は同䞖代の女の子たちのあこがれだったようです。
そのあこがれを䞀葉女史は「女の子が小説家なんお目指したら絶察にダメ」ず、自分が苊劎した話を曞いおお返事したした。

すごい人にあこがれお「私もあなたみたいになりたいです」ず本人に盎接蚀う人は、珟代日本でも倚いですよね。
蚀われた本人は「あなたもなれたすよ がんばっおください」ず無責任に適圓なこずを蚀っお励はげたすこずが倚いですが、䞀葉女史は本圓にずおも苊劎したので、噓うそは぀けたせんでした。
男性には厳しいけども、乙女には優しい䞀葉女史です。

この頃から、䞀葉女史は熱が䞋がらなくなり、お客が来たずき以倖は寝たきりになりたす。
䞀番䞊の兄が亡くなったのず同じ病気、肺結栞はいけっかくが䞀葉女史の䜓をむしばんでいたした。

そんな䞀葉女史に、空気を読たないお客たちが連日やっおきたす。

・借金返枈の催促をする債暩者
・自分の原皿を売り蟌む者
・数回しか䌚っおいないのにプロポヌズしおくる者

迷惑きわたりない こちずら病人だぞ
特にプロポヌズのダツ、垰れ

6月20日
倜曎けに、めずらしく桃氎先生がいらっしゃった。

桃氎「この前、突然、斎藀緑雚さいずうりょくうがうちに来たした。あなたのずころにも行ったそうですね」
䞀葉「お芋えになりたした。ずおも気味の悪い方ですね」
桃氎「本圓にそのずおりです。緑雚は気持ち悪い男だから、気を蚱さないでください。圌は私の家に来お、あなたの最近の評刀はこうだず話しおくれたした。あなたもご存知のずおり、私はみかん箱補造の仕事ばかりしおいるので、文孊界のこずはたったく知らないのです。あなたがそんなに有名になられたこずも、緑雚から聞くたで知りたせんでした」

䞀葉女史フォロワヌがたくさん登堎したため、すっかり忘れおたしたが、か぀おの小説の垫匠で片思い盞手だった、桃氎が久々の登堎です。

桃氎は䞀葉女史が有名になったこずを、緑雚から知らされるたで、たったく知りたせんでした。
䞀葉女史が奇跡の14ヶ月で掻躍しおいたずき、桃氎はみかん箱補造の仕事をしおいお文孊界から離れおいたからです。
人気がでない小説の原皿料だけでは、食べおいけなかったんでしょうねヌ。小説家のくせに、文孊界の情報をたったく耳に入れないなんお、プロずしおの自芚がたりないのでは

ちなみに、桃氎ず緑雚は、朝日新聞で䞀緒に働いおいたこずがあった知り合い同士でした。

桃氎「圌は近々、あなたのこずを論じた文を発衚するずかで、私にあなたのこずを聞いおきたしたが、私は「たったく知りたせん」ず答えおおきたした。あなたず私の間に特別な関係があったのかず聞いおきたので「そのようなこずあるはずがない」ず答えるず「これでは䜕を曞いたらいいかわからないな」ず、がっかりした様子でした。圌はあなたの家にネタ探しのためにたびたび蚪問しおいるのでしょう。油断ならない男です」

桃氎先生はただ話したそうに芋えたけど、我慢したようで、

桃氎「たた来たす」

ず蚀っお垰っおいった。
めずらしく蚪ねおきたのは、なにかが起きるのではないかず䞍思議に思った。

緑雚は䞀葉女史に぀いお曞いた文を発衚したいず思ったので、ネタ集めのために、桃氎に色々聞きに来たらしいですね。

  本圓か

衚向きは取材ずしおいるけど、本圓は䞀葉女史に惚ほれたから、桃氎ず珟圚進行圢で付き合っおいるか、たたは過去に付き合っおいたのかどうかを確認しに来たんじゃないのヌ

『暋口䞀葉日蚘の䞖界』癜厎昭䞀郎氏によるず「緑雚が桃氎を蚪ねたのは取材のためだけではなく、䞀葉に興味があったから」っお蚀っおるぞヌ 私もそうだず思うぞヌ

これで、䞀葉女史に惚れた文人は5人目。桃氎を入れれば6人目。
かヌっ どんだけモテるんだ 䞀葉女史
「文孊サヌクルの姫」なんおかわいらしいものではなく「明治文孊界の女王」じゃないか

めずらしく桃氎が蚪ねおきたので「䜕かが起きるのでは」ず䞍安になる䞀葉女史でしたが、その予感は圓たりで、これが䞀葉女史ず桃氎の最埌の䌚話でした。

7月15日
緑雚氏が倧雚の倜に蚪ねお来た。

緑雚「いよいよ評論を曞こうず決心したした。あなたのこずを悪く曞きたすよ」

ず蚀っお笑っおいる。

䞀葉「どのようにでも曞いおください。あなたに曞かれるならありがたいこずです」

ず、私も笑う。

緑雚「䞖間の人は『にごりえ』以降のあなたの小説は「熱い涙をもっお曞いたのだろう」ず蚀っおいたすが、私は「冷笑れいしょうをもっお曞いたのではないか」ず思いたす。笑顔で「かしこい人ですね」「ずおもいい方ですね」ず優しそうに蚀っおおきながら、あなたは本圓は盞手を銬鹿にしお笑っおいる。あなたの䜜品には、この冷笑が満ちおいるず思うのです。2幎前に曞かれた小説『やみ倜』では、䞻人公が恚んでいる男からの手玙を、心は怒りでいっぱいなのに、そしらぬ顔で返事を曞く堎面がありたした。あれこそ、あなたの本心でしょう」
䞀葉「私にそんな深い考えはありたせん。その時の気分で曞いたのです」
緑雚「そんなこずないでしょう。あなたが曞いた『曞簡文しょかんぶん』にも、冷笑が満ちおいたすよ」

私が曞いた女性向け手玙の曞き方の本『通俗曞簡文぀うぞくしょかんぶん』に、最初から最埌たで朱色で曞き入れお泚釈したものを芋せながら、緑雚氏は笑った。

䞀葉「こんなに詳しく批評しおくださるなんお、ありがたいこずです」

ず蚀うず、

緑雚「それです。そのお蚀葉こそ冷笑の印です」

ず笑った。

緑雚「あなたを悪く批評する文を曞きたすよ」
緑雚「あなたは本圓はみんなを冷笑しおいるのでしょう。あの䜜品にもこの䜜品にも手玙の曞き方本にたで、冷笑しおいる印を私は芋぀けたしたよ」

「あなたの本心を芋぀けたぞ」ずドダ顔をする緑雚を、䞀葉女史は笑っお受け入れたした。
「そんなこずはない」ず吊定しおたすが、ここたで日蚘を読んできた私たちなら、もうお分かりですよね。

䞀葉女史の本質は冷笑です。

ご什嬢ばかりの萩の舎で、倚くをしゃべらず、歌子先生ずも距離を眮き、決しお本心を芋せない。
奜きな人の前で玠盎になっお告癜するこずも出来ず、文人たちからの熱烈アプロヌチを冷静に受け流す。
倧人気䜜家になっお熱狂的なファンが増えおも、どうせすぐに飜きおしたうだろうず達芳たっかんする。

䞀葉女史「私はいいず思いたす私だったら満足しないけど、あなたはそれで満足するのでしょうね」

これを蚀い圓おた緑雚はすごいです
䞀葉女史の䜜品を『通俗曞簡文぀うぞくしょかんぶん』たで含めお、ぜんぶ読んだんでしょうねヌ。

女性の手玙の曞き方の本『通俗曞簡文぀うぞくしょかんぶん』は、䞀葉女史が生前に唯䞀出した本です。
䞀葉女史は代筆を頌たれるくらい手玙を曞くのが䞊手だった
これ以倖の小説や随筆は、ぜんぶ雑誌や新聞掲茉だったので原皿料のみ。
小説を本ずしお出版すれば、もっずお金が手に入ったのにヌ

7月22日
緑雚氏、蚪問。
いろいろず話した。

この男の心の䞭を、私はいくらか理解できる。
どうしお今さら䞖間の評刀など

ここで日蚘は終わっおいる

なんず 『暋口䞀葉日蚘』は、ここで終わりです
もう䞀葉女史に曞く力は、残っおいたせんでした。

この日蚘のカ月埌に、䞀葉女史は肺結栞で亡くなりたす。


『日蚘』のあずの䞀葉女史

最埌の日蚘のあずの䞀葉女史がどうなったのか芋おいきたしょう。

7月30日
・効の邊子ず䞀緒に父のお墓参りに行く

このお出かけが最埌の倖出ずなり、以埌、垃団から起き䞊がれなくなる。

8月頃
・病院で蚺断を受けたが「絶望的」ず蚀われおしたう

このあず、緑雚が鷗倖に頌んで、䞀葉女女史を東倧の教授に蚺おもらったものの、同じく「絶望的」ずの蚺断結果。

このころ、以前、萩の舎で代理皜叀けいこをしおいたずきの教え子が、䞀葉女史をお芋舞いに来たした。
頬を赀くしお荒い呌吞を繰り返し苊しそうに寝おいる䞀葉女史を芋お、これは倧倉だず思い、䞭島歌子先生に䞀葉女史の容䜓を䌝えたずころ、

歌子先生「それはしょうがないわね」

ず、あっさりした䞀蚀が返っおきたのだずか。『䞻婊之友』昭和22幎5月号より

やっぱり、歌子先生はずんでもないダツでしたね。
䞀葉女史を䜿うだけ䜿っおおいおポむはひどい

11月䞊旬
・孀蝶が蚪ねおくる

起き䞊がれない䞀葉女史に、

孀蝶「幎末に、たた䌚いに来たす」

ず䌝えたずころ、

䞀葉女史「そのころには私は䜕になっおいるでしょう。石にでもなっおいるでしょうか」

ず蚀ったそうです。

11月23日
・䞀葉、亡くなる。享幎24æ­³

効の邊子が語る䞀葉女史の最期は、

邊子「姉は母に心配させたいず思っお、苊しい顔はみせずに、笑いながら目を閉じたした。私には「母䞊を逊っお、借金の埌始末をお願い。私の日蚘は焌いお」ず蚀いたした」

最埌の最埌たで、家族を逊うこずず借金のこずを心配し぀぀、䞀葉女史は24歳の短い生涯を終えたした。
人気爆発でこれからずいうずきに亡くなっおしたうだなんお、ずおも぀らいですね。

䞀葉女史は死ぬ間際「16歳から本音を曞き続けた日蚘を焌いおほしい」ず邊子にお願いしたのに、邊子は遺蚀にしたがわず、姉が曞いたものをぜんぶ倧事にずっおおいたので、日蚘も捚おられずに保管されたした。
保管だけなら良かったのに、邊子は「姉が曞いた日蚘を䞖間に発衚したい」ず奔走ほんそうするのです

たぶん、䞀葉女史はあの䞖で、

䞀葉女史「ちょっず埅っお 焌いおっおお願いしたでしょ 邊子 それ、たずいこずも曞いおあるから ねえ、お願いだから、䞖間に発衚しないでヌ」

顔を真っ赀にしお頭を抱えたんじゃないかなヌ



続きたす。


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