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10月に読んだ本の感想をゆるりと。

職場で「なにかおすすめの本ある〜?」と聞かれて、待ってましたとばかりにエッセイを2冊ほど伝授すると、その本をすぐさま購入してくれた同僚。食べものやお笑いのツボが合うひとだから、自信を持っておすすめできたし、読書の秋をたのしんでいるようでなにより。

10月に読んだ本9冊の感想を、ゆるりと紹介していきます!

オリエント急行の殺人(アガサ・クリスティー)

アガサ・クリスティーを古本屋で見かけて懐かしくなり、ひさしぶりに読んでみたのが今年7月のこと。

このとき読んだ「ひらいたトランプ」は初読みだったのだが、今回は「オリエント急行の殺人」を手に取る。著者の代表作のひとつといわれていて、わたしも10代の頃に繰り返し読んでいた記憶。おぼろげ。なんせ20年ぶりの再読なのだ。

読むうえで必要な覚悟としては、登場人物の多さとややこしさ。伯爵、公爵……全員カタカナ(当たり前)。慣れるまでは登場人物紹介のページを行ったり来たりしながら、読むことになります。これも「あぁ、いま海外の推理小説を読んでいる……」と実感できるのできらいではないのだが、人物像を自然とイメージできるようになるまでは苦労した。

物語の舞台は、大雪で立ち往生した列車の車内。国際列車ということもあり、クセつよ…いや個性豊かな登場人物が魅力のひとつ。密室殺人、ガチガチのアリバイをどう突破するのか。没入しすぎて、睡眠時間が30分、1時間と削られがちだったので、それも覚悟が必要な1冊。

ワンルームワンダーランド ひとり暮らし100人の生活(落合加依子・佐藤友理)

近所にすごくすてきなセレクトの書店があり、行くとだいたい数冊の本と目が合い、あれもこれもと買ってしまう。だから頻繁に行かないようにはしているのだが……。「ワンルームワンダーランド」もその書店で出会った1冊、ひとめぼれだった。

この本は、ひとり暮らし100人分の部屋の写真とエッセイが記録されたもの。職業、住む場所、年齢層もさまざまな100人、写真もそれぞれの部屋の住人が撮ったもので、プロの撮影ではない。そこに、暮らしの手ざわり感というか、パーソナルな部分が反映されているようで、わたしはこの本がとてもすきになってしまった。ページを開くと、雑誌やインスタでは感じられないリアルな生活感があり、おしゃれじゃなくても整ってなくても、それがとても魅力的なのだ。

考えてみると「部屋」ってすごく不思議な存在だと気付く。同じ部屋なんてひとつとして、存在しない。そして明日もあさっても、変化し続ける。そんな儚い一瞬を切り取った1冊だからこそ、魅力を感じるのだろう。

点と線(松本清張)

長編ミステリーを読みたい欲に火がついて、10月は松本清張の「点と線」を再読。これは最初に読んだとき、おもしろすぎて衝撃だった……。著者の作品を読むのも「点と線」がはじめてで、難しそうなイメージが先行して恐る恐る読み始めたのだが、猛スピードで読破したのを覚えている。この本がきっかけとなり、松本清張作品にハマったのだ。

事件の発端は、博多・香椎海岸で発見された男女の死体。心中事件として疑いようなく思われたが、些細な違和感から疑問を抱き、捜査に乗りだす刑事たち。捜査の範囲は北海道にまで及ぶ。交通手段を駆使することから「時刻表」が大きな鍵となるのだが、この緻密なトリックがえげつない……。

鳥飼刑事という、古参刑事が渋くていいのですよ。冴えない服装で、たぶん長年の激務のせいで身体にもガタがきていて、くたびれている。とはいえ頭の回転はキレキレなのだが、お風呂で思考するもんだから長風呂しすぎて奥さんに文句を言われたりしている。たまらん。鳥飼刑事の閃きや、足を使った愚直な捜査も見所です。

日の名残り(カズオ・イシグロ)

読み終えるまで、何カ月かかっただろう……。本当にゆっくりペースで読み進め、たぶん2か月くらいかかって読了!正直なところ挫折しそうなタイミングもあったけれど、後半は物語の流れもつかめてきて、それに委ねて読むことができた。なかなか読み進めらなくてもどかしかったからこそ、読了の達成感もあってよかった!

物語の語り手は、執事のスティーブンス。スティーブンスは新しい主人から暇をもらい、車で小旅行をしながら、執事として歩んできた過去を回想する。スティーブンスの視点で、現在の旅行シーンと過去の回想シーンが行ったり来たりする構成だ。

スティーブンスの語りからは「品格」という言葉が頻出するのだが、品格を追い求めたことのないわたしには、取っつきにくかった。スティーブンスは父を執事の鑑として、人生をかけて「品格」を追求してきた人物。だから言葉づかいも終始丁寧で、乱れたところが見当たらない。その文体に慣れてくると「○○○○なりますまい。」という堅苦しい語尾も、なんだかクセになってくるから不思議だ……さすがすぎるカズオ・イシグロ……。

死神の精度(伊坂幸太郎)

ずいぶん前に読んだ「死神の精度」を再読。6つの短編集のようでいて、それぞれが絶妙にリンクし合うという、伊坂作品ならではの構成が快感だ。

この物語の登場人物は、死神・千葉と調査対象の人間たち。死神は人間に扮し、対象者の人間を1週間調査したのち、死の可否を判断する職業なのだ。

生きざま・死にざまを描いた人間ドラマでありながら、ダークで重くなりすぎないのは、なんといっても千葉さんのキャラクターの秀逸さだろう。この物語の「死神」は決して悪魔的ではなく、淡々と人間を査定していく。千葉さんは必要な情報を与えられ人間に扮しているだけなので、人間が多様する比喩表現にすこぶる弱い。例えばわたしのすきな箇所としては、千葉さんが会話の流れで出てきた「年貢の納め時」という表現に疑問を感じ「年貢制度は今もあるのか?」と質問するところ。クールな死神キャラなのに、たまにずっこけさせられるから、会話文ひとつひとつ読み逃せない。

おいしいアンソロジー 喫茶店

わたしは仕事にしちゃうくらいコーヒーが好きだし、喫茶店に行くのも大好きだ。味はもちろん、空間や雑貨も魅力的だし、そこで過ごす時間まるごと、なくてはならないものだ。そんな喫茶店の至福が詰まった1冊がこの本。総勢40名の作家による、喫茶店にまつわるエッセイがつづられている。すてき!!!

作家さん勢は、シソンヌじろうさんから太宰治さんまで幅広く、いろんな時代を通した喫茶店の風情を覗けるのも魅力だ。最盛期に比べると、全国の喫茶店は減少し続けていると聞く。通りを歩けば何軒も喫茶店があったという、ピーク時の東京はたのしかっただろうなぁ……。考え事をしたり待ち合わせをしたり、喫茶店がいろんな役割を担っていた、その存在感もおもしろい。

喫茶店との付き合い方、ひとそれぞれ。わたしもいま住んでいる地域で、ほっと一息つけるお気に入りの場所を、もっと開拓したいと思った。

塩狩峠(三浦綾子)

夫とむかし読んだ小説のはなしをしていて、夫が若いころに読み「めちゃくちゃ考えさせられた」と言っていたのが、この「塩狩峠」という作品だった。現在、夫が手に取る本はほとんどビジネス書。小説を読んでいる姿を、出会ってからほとんど見たことがないので、夫にも印象に残っている小説があったのかと新鮮だった。わたしが知らない小説だったこともあり、興味を惹かれて速攻ポチってしまった。

読み終えて本を閉じたあと「うわぁ……」と考えさせられ、数日間ズンとこころにこたえる。そんな小説をひさしぶりに読んだ。自分の人生では到底体験しえないことを、物語を通して疑似体験しているわけだから、そりゃ没入度合が深ければ深いほど、こころは揺れるよなぁというかんじ。けっしてネガティブな感想ではなく、すごい物語に出会ったな……と思う。

主人公は、鉄道職員の永野信夫。まっすぐで愛情深い信夫の生涯が描かれているのだが、若くして最期が……。キリスト教の洗礼を受けた著者ならではの視点で、迷い悩んだときに「信仰」とどう向き合うのかという、主人公のこころの機微が鮮明に表現されていて震えた。夫よ、いい本の紹介をありがとう。

ブルーハワイ(燃え殻)

小説とエッセイを、行ったり来たり併読しがち。眠る前に5分でも活字を追いたいわたしは、だいたいエッセイを携えて布団に行く。初読みだった燃え殻さんの「ブルーハワイ」は、ほとんど布団のなかで読んだ。文章の温度も、ちょっと脱力感があって寄り添ってくれる気配もあって、夜読むのにぴったりだったのだ。

もしも「おもしろいタイトル選手権」たるものがあれば(ありそう)、わたしはこの本を推薦したい、というくらいに、章のタイトルが面白くてこころ惹かれるものばかり。すきなエッセイはだいたい「なにそのセンス!」という、読ませるタイトル率が高いのだ。この本のなかの「その後のイノセントワールド先輩」なんて、読む前から想像がはかどって困ってしまう。

人生で多々起こる神妙なできごとのなかにも、ひとかけの面白さをすくい上げる、燃え殻さんの視点がとてもすきになった。

男の作法(池波正太郎)

10月はビジネス書の類を読んでいない……!と思ったけれど、おとなのたしなみとしてこの1冊は、とても価値があると思う。食事に行ってスマートに振る舞えるか。家族間での立ち回りをどうこなすか。語りおろしという本の性質からか、著者の友人の問いも合間に入ったりしていて臨場感がある。実生活ですぐ実践できる、粋な知恵が満載なのだ。

お刺身を食べるとき、醤油にわさびを溶かなくなったのも、思い返せばこの本を読んで覚えたのだった。いまでは特に意識もせず、刺身本体にわさびを乗せて、お醤油を濁さずに食べている。自分では当たり前になりすぎていて、読み返すまで忘れていたくらい。令和になっても先生の教えを実践しているひとがここにいますよと、著者に教えてあげたい。

以上9冊、ありがとうございました!
また来月に!

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