【書評】伊藤絵美『スキーマ療法入門』
想定読者層
・ある程度集中して本を読める人。
・スキーマ療法に初めて触れる人。
・セルフスキーマ療法を実践したい人、してる人。
書籍情報
スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用 https://www.amazon.co.jp/dp/479110854X/ref=cm_sw_r_cp_api_i_U2w0CbSFP1BFY
2013年 伊藤絵美 著 『スキーマ療法入門』 3024円 400ページ
全体評価
オススメ度 ★★★★★
読みやすさ ★★★☆☆
専門性 ★★★★☆
スキーマ療法に初めて触れる人が1番初めに読むとよい本です。日本にスキーマ療法を輸入した人が書いた入門書です。400ページと決して短い本ではありませんが、理論編と事例編があり、2/3が事例編になっているので、本を読みなれている人なら簡単に読めるでしょう。
理論編は一部読みにくいところがありますが、スキーマ療法を知る上でもっとも重要な部分はわかりやすい文章で書かれています。事例編は理論編で得た知識が実際の場面でどのように活用されているのかを知るのに有益です。それだけでなく、ひとつひとつの事例が物語としても面白いので、ストーリーを読むだけでも楽しめると思います。
理論編と事例編に共通して、著者が実際に使用しているワークシートが載っています。理論編で使い方を説明し、事例編で使用例を提示します。このワークシートはそのままコピーしてセルフカウンセリングに利用すると、セルフカウンセリングがより濃いものになると思います。
全体を通して、何度も読み直し、わからなくなったら立ち還る原点となる本と言えます。章ごとに参考文献が充実しているので、研究目的の人も楽しめると思います。注意点としては、全ての情報が2013年時点のもので、最新の研究状況と比べてだいぶ古いというということがあげられます。研究目的で参考文献を探す方は記載されている論文に続きの論文がないか注意してください。
本の目次と読書ガイド
はじめに
第1部 スキーマ療法入門
第1章 筆者とスキーマ療法との出会いとその後
スキーマ療法とは
筆者とスキーマ療法との出会い
ジュディス·ベックのアプローチ
ふたたび,筆者とスキーマ療法との出会い
『スキーマ療法』の翻訳
セルフスキーマ療法の実践
臨床現場でのスキーマ療法の実践
その後の展開と現在の状況
スキーマ療法の起源と日本に輸入されるまでの経緯が書かれています。セルフスキーマ療法をやりたいだけの方は読む必要はないでしょう。
第2章 スキーマ療法の理論とモデル
認知行動療法からスキーマ療法へ:「スキーマ」とは何か
統合的アプローチとしてのスキーマ療法
早期不適応的スキーマとは
早期不適応的スキーマの起源
5つのスキーマ領域
18の早期不適応的スキーマ
スキーマの作用:持続と修復
コーピングスタイルとコーピング反応
スキーマへの服従
スキーマの回避
スキーマへの過剰補償
スキーマモード:スキーマ療法の新たなアプローチ
スキーマ療法における4つの治療戦略
治療関係:共感的直面化と治療的再養育法
標準的なCBTとの共通点と相違点
スキーマ療法における重要な言葉の説明が書かれています。目次や小タイトルには小難しい言葉が書かれていますが、説明を全て読めばきちんとわかるように書かれています。どんな目的で読む人もこの章は必読です。この章だけでは、スキーマやコーピングについてよくわからなかったという方には次回紹介するヤング『スキーマ療法』をオススメします。ヤングの本は研究目的でより深く知りたい方にもオススメの本です。
第3章 スキーマ療法の進め方
スキーマ療法をいつ導入するか:スキーマ療法のお膳立て
スキーマ療法の心理教育と導入
スキーマ分析:ヒアリングとスキーマの徹底理解
過去の体験のヒアリング:スキーマおよびその起源の探索
質問紙を使ってスキーマに当たりをつける
フォーミュレーション:スキーマの全体像を描く
スキーマのモニタリングと自我違和化
感情抑制スキーマや遮断·防衛モードへの対処
「スキーマ分析」での注意点,配慮すべき点
スキーマワーク:多種多様な介入と新たなスキーマの創出
モードアプローチ:モードワークの使い方
終結とフォローアップ
スキーマ療法のさまざまな適用のあり方
心理教育的にスキーマ療法を紹介する
スキーマ分析だけ実施して、あとは様子をみる
「スキーマ療法」の紹介だけして,あとはクライアントに
任せる
モードアプローチのみ活用する
この章も全員必読です。実際にスキーマ療法を進めるにあたってどのような道具を使ってどういう手順で進めるのかが書かれています。モードワークについてより知りたい方は、アーノウド・アーンツ,ジッタ・ヤコブ 『スキーマ療法実践ガイド スキーマモード・アプローチ入門』をオススメします。
第4章 スキーマ療法のセラピストになるには
標準的な認知行動療法を習得する
ヤングのテキストを熟読する
治療者·援助者自身がスキーマ療法を体験する
勉強会や研修会を開く
ワークショップや研修会に参加する
クライアントと共に学ぶ
スーパービジョンを受ける
おわりに
ほとんどの人が読まなくていいと思います。スキーマ療法のセラピストがどのような覚悟や訓練をしているのかを知りたければ多少役に立つかもしれませんが、ほとんどはセラピスト向けに書かれているのであまり読む利益はないと思います。
第5章 スキーマ療法のエビデンスと今後の展開
スキーマ療法のエビデンス
スキーマ療法の現状と今後の展開
スキーマ療法に研究的関心がある人向けです。またはスキーマ療法の効果を疑っている人向けです。多くの読者は読む必要はないでしょう。
第Ⅱ部事例で学ぶスキーマ療法
第6章 事例1:境界性パーソナリティ障害を持つクライアントと行ったスキーマ療法
事例の概要
インテーク面接で聴取された情報
BクリニックC医師からの紹介状(診療情報提供書)の概要
インテーク面接に対する本人の感想
インテーク面接を経ての合意事項
インテーク面接での本人の様子
インテーカーの所見
心理テストの結果の概要
心理テストの結果の解説
その後の事例の経過
スキーマ療法の導入に至るまで:スキーマ療法のお膳立て
関係づくりと構造化
数々の応急処置
きめ細かくケアしながらのヒアリングの実施
気分の波に対するアセスメントとコーピング
ヒアリングとアセスメントを通して見えてきたスキーマの問題
スキーマ療法の紹介と開始するか否かの話し合い
スキーマ分析のためのヒアリング
スキーマ分析のための尺度の実施
スキーマ分析のとりまとめ:徹底的な外在化とモニタリング
早期不適応的スキーマに対する統合的認知再構成法
治療関係の活用/体験的技法/モードワーク/行動パターンの変容
治療関係の活用
体験的技法
モードワーク
行動パターンの変容
心理テストの結果の概要
心理テストの結果の解説
クライアントの回復の過程
おわりに
セルフスキーマ療法を実施したい人はとりあえずこの章は読みましょう。この本の中で最も分量が割かれていますが、事例ですので、ストーリーがあり、楽しんで読めます。2章と3勝で学んだスキーマ療法の知識のほとんどを活用している事例で、スキーマ療法を受けるクライアントの中でも治療が難しいと分類されるタイプの方の事例です。とりあえずこの章を読めば、スキーマ療法を行うというのがどのようなことかが大体わかります。
第7章 事例2:社会適応は良好だが生きづらさを抱えるクライアントとのスキーマ療法
クライアントと事例概要
インテーク面接とテスト結果の概要
インテーカーの所見
心理テスト結果の概要
第1段階: CBT
アセスメント(#2~#9)
問題の同定と目標設定(# 10 ~ # 11)
認知再構成法(#12)
第2段階:スキーマ療法
スキーマ療法導入までの経緯
スキーマ分析·スキーマワーク(# 13 ~ # 34)
スキーマ分析途中での認知的ワーク適用についての話し合い
終結セッション(#35)
フォローアップ
本事例のスキーマ療法のプロセスを振り返って
読んでも読まなくてもいいです。ほとんどのことは事例1でわかるので新しく得られることは少ないです。単純に多くの事例を読んで楽しみたい方、セルフスキーマ療法をやるにあたって少しでも実際のスキーマ療法の場面をイメージできるようにしたい方向けです。セルフスキーマ療法を行うときはなるべく多くの事例を読んでセラピストがどんなことを言うのか何パターンも知っておくのがよいでしょう。
第8章 事例3:発達障害傾向のある女性とのスキーマ療法
クライアントと事例の経過概要
インテイク面接と初回心理テスト
インテーカーの所見,感想
インテーク時心理テスト
CBTにおけるアセスメント (#1~#15) 305
CBTにおける問題同定·目標設定·技法選定(#16~#20)
CBTにおける技法実践およびスキーマ療法実施の合意(#21~#29)
スキーマ療法におけるスキーマ分析(#30~#44)
スキーマ療法における新スキーマの実践(#45~#62)
新スキーマの認知的ワーク
新スキーマの行動的ワーク
終結時心理テスト
本ケースの考察
クライアント-セラピスト間のコミュニケーション
発達障害傾向のあるクライアントとのスキーマ療法
本ケースにおいてモードワークを用いなかった点
読んでも読まなくてもいいです。前章同様、少しでも事例を多く読みたい理由がある方向けです。ただし、発達障害を抱えている人は、自分と同じ失敗パターンを持っている人の例として読めるかもしれません。
第9章 陪席者から見たスキーマ療法
スキーマ·スキーマ療法そのものについて
スキーマの厄介なところ
スキーマ療法導入前にCBTを行う意味
スキーマ療法の導入
スキーマ療法と時間
スキーマとの距離
セラピストについて
セラピストに必要なものとその役割
共感的直面化と治療的再養育法
クライアントの変化について
セッション外(受付)での様子の変化
セッション内の様子の変化
読んでも読まなくてもいいです。当たり障りのない内容ばかりで、個人的にはそれほど面白くありませんでした。関心のある人向け。研究目的でもセルフスキーマ療法目的でもあまり読まなくてよいでしょう。
次回はヤング『スキーマ療法』の書評をします。
書評の仕方についてご希望があればなんらかの形で伝えてもらえればできる限り反映します。