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海のそばを、私はずっとつま先を見ながら歩いていた。2歩ぐらい先に歩いている彼の背中を視界に入れたら見つめてしまいそうで、視線が熱を持ってしまう気がして、見ることも眺めることもできなかった。彼もまた、後ろを歩く私を振り返ることなく、前を向いて「お前次第だ」とひとこと言った。 私は迷っていた。自分のやりたいことが一体どこでできるのか、前に進んでも道があるのかどうかわからない。そんな中、ずっと下を向いて歩いていたときに掛けられたのが、その言葉だった。 その言葉は、冷たいわけでもな
日に日に寒くなっていく11月。そろそろ手袋を出さないとな~と思いつつ、昨年どんな手袋を使っていたか、記憶をたどれずにいた。 思い当たる手袋はひとつだけ。臙脂色の薄めの生地でできた、ほっそりと手を包むような手袋。 でも、これだけで冬を乗り切れたとは思えない。北国の冬は想像以上の寒さ、想像以上の積雪である。深々と降り積もる雪に埋もれ凍えそうななか、あの赤い手袋だけでは心もとなかったはず…。 部屋に戻り、思い当たる場所を探してみると、妹が以前使っていた厚手のミトンの手袋が出てき
ああもう。ちょっと黙ってて! 最近、ため息とともによく思うようになった。ああもう。 大学生活の四年間を一人暮らしで過ごし、就職活動をするも納得がいかずに結局流されて実家に帰ってきた私は、自由過ぎた四年間に慣れてしまったせいで、実家暮らしにどうしようもなく窮屈な感覚を覚えてしまっていた。 一度感じてしまえばどんどん窮屈になっていくもので、朝ごはんが食パンでないこと、ヨーグルトが低脂肪なこと、コーヒーメーカーが勝手にコーヒーを淹れていること、パンツの畳み方がおかしいこと・・
「そんなの、宇宙から見たらどうでもいいことでしょ?」それが彼女の口ぐせだった。 僕がいつものように酒に呑まれた日のこと。どうしてあんなに酔っ払ってしまったのかはもう忘れた。きっと、なにか悲しいこととか、辛いこととかがあったのかもしれない。同僚といつもの居酒屋に飲みに来て、中ジョッキ三杯でフラフラしながら辿りついたトイレで、僕は彼女に出会った。 彼女は、白いワンピースに黒髪ロングでトイレにかぶさって、リアル貞子みたいだった。鍵がかかっていない男女共用トイレでその光景を見たと