信号を待つ
大きな輝きを放つ美しい満月を見た。
古代のひとはフラワームーンと呼んでいたらしい。
最近は星を読む人が急激に増えた。
2020年という年は想定外の事象が私たちの日常を大きく揺さぶって、
時代の変化を余儀なくされると聞いたのはいつだったろう。
人生史上、過去に類のない星周りが天空で配置されるとわかっても、それが私たちの生活にどんな影響を与えるかまでは想定がつかない。
世界中が密集を避けて自粛生活をおくるこ日常が人生に用意されていたことを誰が予測できただろう。
人知れず桜は散り、街が声を潜めていくほど、何層にも増幅した声がオンラインに混雑していく。病院や企業、既存のシステムは悲鳴をあげ、それでも新しい生命は産声をあげつづける。
浮遊しながら通り過ぎていった綿毛は、もう根を張る場所を決めたのだろうか。
まぶたを閉じると赤が透ける。
乾燥でささくれた指で、そっとマスクを外す。
雲ひとつない、青々とした空。
混じり気のない澄んだ空気の清々しさに
大空の下に呼吸しているという実感があった。
信号が青に変わるまでの間に。