高石真梨子のお耳のトリセツvol.2 情報保障ってなあに?|2024.啓蟄・蟄虫啓戸
■ 蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)
・わたしは、いちごが好きです。
なにをいまさら……
と言われてしまうかもしれないけれども、わたしはいちごが好きなのだと最近やっと気づいた。いちご柄とかいちごそのもののフォルムのような見た目も確かにかわいい。でも、オトナになった今「いちご柄が好きです」と言うのはなんだか気恥ずかしいような気もする。
そもそも「オトナ」って何なのだよって感じなのだけれども、わたしのイメージしていたオトナはいちごよりもピスタチオを好むし、コアラのマーチよりもポッキーを好む。オトナになったら急に味覚や好みが変化するのだろうとどこかで思っていたけれども、現実のわたしはポッキーよりもコアラのマーチが好きだし、ピスタチオだってイマイチどんな味なのか分かっていない。
ただ「今スーパーにいるんだけど、どのアイスが欲しい?」と送られてきたメッセージにものの30秒で「豊潤いちご!」と返事をしては「だろうなと思ったよ」と苦笑いされるオトナであることは事実で。
だから「もうわたしはオトナだし」なんて澄ました顔をするのはやめて、この春はいちご狩りの計画を立てた。一度しかない人生だもの。わたしのなかの勝手なオトナ像に支配されないで、大きく振り切ろうと思う。
それになんといっても、岡山という国はくだもの王国だから。春にはいちご、夏にはもも、秋にはぶどうがそれぞれおいしく食べられるんだそうな。旬のくだものを自分で狩ってきて食べる生活は憧れだったので、こうして春を迎えるタイミングにさっそくいちご狩りに誘ってくれる人が隣にいること、とんでもなく嬉しい。
はあああ。本当はいちご狩りを終えてから「いちご狩りに行ってきました」と、どや顔でnoteを書こうと思っていたのに、あまりにも楽しみだから行ってもいないのに楽しみな気持ちを書き連ねてしまった。もう、800字も。原稿用紙2枚全部使って「いちご狩りが楽しみ」なんて書くオトナは、わたし以外にいるのだろうか。
まぁ、いいや。だって、楽しみなんだもん。
■ 高石真梨子のお耳のトリセツvol.2 情報保障ってなあに?
・「情報保障」とは
2月の末に、岡山県地域おこし協力隊ネットワーク(OEN)主催の「協力隊のフロンティア」という研修に行ってきた。
地域おこし協力隊になって、はじめての大きな研修。岡山県内の現役隊員とOBOGが集結する機会ということもあり、これは絶対に参加してみたかった。でも、ネックとなるのは情報保障。
わたしには、聴覚障がいがある。静かな場所で、慣れた相手と一対一で会話するぶんにはそんなに困らない程度の難聴だけれども、初めての場所で大人数の初対面の人と交流する研修は、お手上げだ。
じゃあそんなとき、どうしているのかというと研修の主催者に「情報保障」のお願いをする。
情報保障とは。
わたしが学生時代にとってもお世話になった日本学生支援機構さんのHPによると
とされている。
じゃあわたしはどんな方法をお願いしているのか。
・情報保障 ①手話通訳
ベストは、手話通訳付きで研修を受けられること。手話は目で見て分かる視覚言語なので、聞き逃してしまうリスクを減らすことができる。特にわたしは手話で読み取ったことは手話で思考したほうがスムーズなため、音声情報を手話通訳してもらうこととわたしの手話を音声日本語に通訳してくれる読み取り通訳の両方がいてくれると、とても心強い。
最大の難点は、通訳の派遣費用がかかること。倉敷市では、1時間の手話通訳に対して4,000円+通訳者の交通費が必要になる。費用の負担をするのはわたしではなく、研修の主催者。
通訳というと、かの有名な野球選手大谷さんの記者会見なんかにも隣にいらっしゃいますよね。仕組みとしてはあの日英通訳と同じなので、専門用語が多かったり話者の話すスピードが速いと通訳は追いつかない。
日本語に方言があるように手話にも方言があって、わたしはまだまだ岡山県の手話表現を習得している途中。通訳の方と理解度を確認しながら通訳を受けている。
・情報保障 ②音声認識アプリ
本当なら必要とするすべての場面で手話通訳を受けられるとありがたいのだけれども、実際のところは金銭面だったり資源不足だったりでそれはまだまだ叶わない。
そんなときは、音声認識アプリを活用している。スマートフォンに向かって話をすると、アプリが音声を文字に変換してくれるサービス。
学生時代と前職ではUDトークを使っていて
現職では、YYProbeを使っている。
UDトークはドラマsilentでも使用されていて、有名になったアプリなんじゃないかなと思うけれども、わたしの体感としては最近はYYProbeのほうが認識率が高い気がしているのでこちらを採用していて。
こちらの難点は、マイクから遠い人の声は拾えないこと。それから、雑音化ではほかの音声も拾ってしまうために、精度がぐっと下がること。それから、誤変換があっても気付けない。
先日、上司が「2020年代は……」と話していたのに、わたしの見ている画面には「2000年代は……」と誤変換されてしまったときには、その後の話が全然話がかみ合わなくてびっくりした。20年の違いは、大きすぎる。
だから、YYProbeを使うときは話者にも画面を確認してもらうようにしている。同じ画面を確認することで、誤変換に気づいてもらいやすい。
・情報保障 ③補聴援助システムロジャー
人間の脳は「聴きたい音」が増幅され、エアコンや風の音のような「環境音」は気にならない程度の音量に小さくなるように音を処理しているらしい。
「らしい」というのも、わたしは補聴器がなければ環境音の存在には気付けないし、補聴器越しにきこえる音はいわば昔のホームビデオの録画した映像のような音声なので、周囲の環境音も同じような音圧で耳に入ってくる。
そんなときに便利なのが、補聴援助システムロジャー。マイクの近くにいる話者の声を大きくして周囲の環境音を小さくできる仕組みになっている。
先週、岡山県の検査機関でこの効果測定をしたんだけれども、わたしに聴き取りの認識率は
と、明らかにロジャーがあるときのほうが聴き取りの認識率が良かったのでちゃんと効果はあるんだと思う。ただし、音圧はめっちゃ大きいのでずっと聴いていたら疲れてしまうのが大きな難点。あと、聴き取りにくい人の声はロジャーを通しても聴き取りにくいというのが実際のトコロ。
そうそう。ロジャーの機種によってはBluetooth接続できるものもあるので、スマホと繋げば音声認識アプリの認識率も上がるので、ロジャーと音声認識アプリは併用することが圧倒的に多い。
・情報保障 ④要約筆記
現職ではまだお世話になっていないのだけれども、学生時代から前職までによくお世話になっていたのが、この要約筆記。大学時代は、両脇に要約筆記ボランティアの学生さん(といってもだいたいお友達)に座ってもらって、90分パソコンを打ち続けてもらっていた。
聞いたことを書いたり打ったりする作業なので、わたしが学生の頃は前の年に同じ講義を取ったことがある先輩や友人に頼み込んで要約筆記をしてもらっていた。大切な友人たちが貴重な空きコマを使って情報保障をしてくれていたこと、本当に本当にうれしかったなぁ。
昔は手書きが主流だったけれども、現在はパソコンでの要約筆記がメインになっている印象。だけれども、最近は音声認識アプリの性能もよくなってきたのでだんだんとアプリに移行していくのかな。
・「情報保障」はスタート地点に過ぎなくて
このような「情報保障」があることで、わたしはやっときこえる人たちと対等に情報を得ることができる。下のイラストでいうと、情報保障がないときのわたしは、左の絵の紫の子の状態。そして、情報保障があるときのわたしは、右の絵の紫の子の状態。
同じチケットを購入しているんだったら、せめて同じ景色を見たいよね。それと似た感覚で、同じ研修に参加するんだったら、同じ情報を得たいよね。と思う。
・もちろんそれが「合理的配慮」かどうかは、当事者だからこそ心にとめておきたいもので
じゃあなんでもかんでも「権利だから!」と情報保障を訴えるべきなのかというと、そこも悩ましい。なぜなら、どの情報保障も多かれ少なかれ金銭的・人的負担が必要になる。
そういうときに大切な考え方のひとつに「合理的配慮」というものがある。
この「負担が過重でない範囲」というのが、とても難しい。だって、わたしたち当事者が「必要!」と言っているのに、それを受ける支援者が「それはできないよ!」なんて言いにくい場面だってきっとあると思うし、その逆だった起こり得る。
だから、今回の研修会に参加するにあたっても、求める情報保障のパターンを複数提案して、その中から主催者が過度な負担なく提供できる情報保障を選んでもらうよう、対話を重ねた。
結果、わたしの第一希望のプランが採用されたのだけれども、自分の権利を主張するだけでなく、支援者と互いに歩み寄りながらお互いが気持ちよく過ごせる選択をしていけたらよいなと常日頃から思っている。
【余談】 岡山県地域おこし協力隊ver.オスカー賞「オコスカー賞」を受賞しました!
研修事務局と対話を重ねて、無事に受講できた協力隊のフロンティア。当日は、午前のプログラムを音声認識アプリとロジャー、午後のプログラムを手話通訳で受講した。
何よりもうれしかったのは、研修が開会するタイミングで事務局の口から直接
「本研修には、聴覚障がいのある受講者がいます。我々としては、どの受講者も平等に研修を受ける権利があると考えているので、情報保障をしていきます」
と言っていただいたこと。そして、閉会式で
「聴覚障がいのある地域おこし協力隊を、岡山県内の地域おこし協力隊みんなが応援します」
と、オコスカー賞をいただいたこと。
と語った採用面接での一言が、ちょっとずつ現実になっていった。そんな研修に出会えたこと。
まだまだ活動は始まったばかり。
たくさんの人たちに支えられながら、わたしなりに精いっぱい活動していきます。
素敵な機会を与えてくださった 一社)岡山県地域おこし協力隊ネットワーク- OENのみなさま、ありがとうございました。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。