週報20240506-12
この週報はアーティスト井口真理子が、福岡県宗像市大島という離島を舞台に、「一日も無駄にせず、慈しんで生きる」というモットーのもと暮らす、その記録である。
毎週末に、先週号を振り返りつつ、当週号を書き綴る形式のため、配信は1週間ずらしている。
マガジンのサブタイトル「心技体」は、今年の書初であり、その1年における自分との約束である。
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5月第2週、酷使による両手負傷。整骨院で治療を続けた1週間。腱鞘炎の一種らしく、手を閉じられないほど痛みが出たのは初めてなので不安もあった。思うように手が動かず悶々とする一方、強制停止のおかげで変わる景色。広がる視野。のびやかな時間に恵まれることになった。
読書をしたり、動かせる範囲でグラフィック制作の方にシフトしたり。
野花を摘んで、アンティークの花器に生けたり。
私の好きなネイティブアメリカンの思想に、こんな一節がある。
「すべては正しいときに正しい場所で起こる」
このブレーキのおかげか、不思議な巡り合わせによってか、描きたい絵も新たに生まれ、個展の制作内容/構成にも変化が出て来た。
余白で得たものの中には、詩もあった。
突如現れた思索の森。舞い降る言葉を紡いで。
あいまいな時間に憩うインスピレーションたち。
詩5篇収録。
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しあわせ
お日さまは神様なんだ
ふかふかとあたたかいのはお母さん
つれてきてくれたのはお父さん
そしてお日さまは神様なんだ
いつも上へ上へひっぱってくれる
でもね
ときどきなかまたちは
元氣をなくしたり病氣になったり
上へいくことがむずかしくなる
下におっこちる
でもね
お母さんがまたつつんでくれる
お父さんが氣をはこんでくれる
たまたまうまくいかなかっただけ
そして
神様が照らしてくれる
またもどってこれるようにと
だから下にいったって平気さ
みんながむかえてくれるから
またひとつになってやりなおそう
ただいっしょうけんめい
上へ上へ伸びていく
ただそれだけでしあわせなんだ
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船
暗闇に光る青い船
宝石のようにかがやいて
みんなあつまってきたんだね
この船に乗ってみたくて
この船からの景色がみたくて
その世界はあまりにうつくしく
永遠のようにたくましく
触れるほどには儚かった
全てが目にみえたわけじゃなく
だからみんながみんな
知っていたわけじゃなかった
船が進もうとするみちを
みちは冒険にあふれていて
みんなの力がひつようだった
その力こそがほんとうは
船がみんなを乗せた理由だった
世界は当たり前のようにうつくしく
幻のようにみんなをみていた
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虹
おんなじじゃないよ
晴れて
曇って
雨が降り
また晴れて
わたしたちは虹になる
まっすぐじゃないよ
屈折して
輝いて
虹になる
ひとつじゃないよ
重なって
溶けて
虹になる
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愛裁判
裁判長に異議申し上げる
とひとりが声高にせまる
愛とは許すことではないのか
またひとり立ち上がる
愛とは正すことではないのか
裁判長も立ち上がる
わたしはどちらも裁かない
今日から裁判長はやめにする
わたしたちはひとつだからだ
愛のもとに裁きとは一体全体
裁判長をやめたひとりが近づく
わたしたちがひとつになることだ
それ以外に方法はないのだよ
それがすなわち愛することだと
それが唯一の法なるものだと
みんなは黙った
そしてしずかに手を取り合った
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あべこべちゃん
あべこべちゃん
きみはわかりにくいね
きみはまわりくどいね
ごめんならばおこらせて
ありがとうでうなだれて
あべこべちゃん
きみのこうぶつはしってるさ
すきなひとのこまったかおさ
やれやれいつまでつきあわせるんだ
わたしがきみにかまうだろうって
どうにもぜったいはなさないって
うたがってないんだろう
やれやれいつまでそうしてるんだ
たいしたことじゃないはずなのに
きみをてばなすことなんて
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iPhoneのボイスメモに、作曲ごっこをして歌ったりもした。
それはもちろん永久にお蔵入りになるだろう(照)。
何が言いたいのかというと、時に人は立ち止まることによって、詩を書き、作曲して歌うことができるということだ。
それって、なんだか、とても贅沢な時間の使い方だ。
禍転じて福と成す。ではまた来週。