うまくいかないとき
人生においても楽器演奏においても大事だと思うことは、何かにつまずいたときに、きちんとその根本を見直して立て直すということ。闇雲にもがいていると、本当の問題が見えなくなってしまう場合が多く、同じところを堂々巡りしていては、時間ばかりかかって、なかなか糸口が見えない。何度も繰り返すことで身体に染み込ませる方法は、小さいお子さんには有効だと思うけれど、大人の方は、まず原因を突き止め、しっかりと理論づけて頭で理解することで、あっという間に解決したりする。私は生徒さんにヒアリングをしながら、その問題点を探り当てるのが、とても好きだ。
例えば、左手のシフト (=ポジション移動) がうまくいかないと悩んでいて、何度練習をしていてもうまくいかないのに、姿勢や楽器の構え方、または音をとらえる感覚を少し変えるだけで飛躍的によくなるなんてことはしょっちゅうだ。原因が分かってはじめて、具体的に練習の仕方をアドバイスする。何もしないで改善する方法はないけれど、知恵を振り絞ればいくらでも近道はできると思っている。長時間かけるしかない練習もあるけれど、短時間にできるところはできるだけ短時間にして、その分楽譜を読んだり、自分の好きなことに時間を使ってほしいと、無駄な練習をたくさんしてきてしまった私は身に染みて思う。
私は天才肌でもなければ、小さい頃から基礎を叩き込まれたと言えるほどの英才教育は受けていない。一生懸命はやっていたけれど、プロを目指すための最短コースを辿ってきたとはとても言えない。音大に入ってからも、自分で本を読み漁ったり、試行錯誤しながら繰り返し繰り返し奏法をゼロから変えてきた。でもそうやって遠回りした分、うまくいかないことがあった時の対処法は言葉である程度きちんと伝えられると思うし、実際レッスンをしながら一瞬で生徒さんの音が変わり、生徒さんの目が嬉しそうに輝く瞬間に立ち合うと、自分の時間も決して無駄ではなかったと思える。そんな風に思わせてもらえることが、今、本当にありがたい。