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【記事レビュー】外国ルーツの生徒に母語支援 日本語も上達、学力伸び進学へ

今回レビューするのはちょっと古いのですが、2021年8月8日に朝日新聞に掲載された記事、「外国ルーツの生徒に母語支援 日本語も上達、学力伸び進学へ」です。前回同様読んで気になった点を列挙していくことにします。

https://digital.asahi.com/articles/DA3S15003977.html

気になる点1 論理の飛躍?

第5段落目に出てくる「母語学習の時間に中国語の単語を覚えることで日本語の語彙も増え、教科学習もスムーズになったという。」とあるのですが、この文の意味がよく分かりません。まず、単語と語彙の使い分けも不自然ですし、中国語の単語を覚えたら自動的に日本語に変換されるわけでもありません。ましてや、語彙の学習だけで教科学習がスムーズになるわけではないので、具体的には何がどうなった全く理解できません。

気になる点2 教諭の感想を定説であるように書くのはいかがなものか?

第7段落目に教諭のコメントが「母語を学び直すと思考力が伸び、日本語も上達する」掲載されています。これもあまりにも飛躍が激しいように思います。まず、
・母語を学び直すと思考力が伸びる
 ⇒まず、母語は「学び直す」のではなく「伸ばす」というべきではないでしょうか。また、母語を学ぶことと、思考力が伸びることに直接的な因果関係があるとは思えません。言語的なリソースが増え、より深く、多様に思考したことを表現できるというのであればまだ分かります。
・母語を学び直すと、日本語も上達する
これもそれぞれが別々にやっていたのでは相乗効果は得られないでしょう。また、大阪の取り組みは、私の印象としては、2つの言語をそれぞれに伸ばすというよりは、2つの言語をフル稼働させて社会参加を目指す方向性があります。ですから、母語学習支援をすれば、日本語が上達するというような単純な話ではないのです。
ただ、コメントを寄せた先生方の認識が間違っているというわけではなく、あくまでも「感想」を周知の事実にのように「見出し」にまで引き延ばした朝日新聞の記者のみなさまの感覚には疑念を抱かざるを得ません。

気になる点3 語学力を生かして…?

単刀直入に言うと、外国人児童生徒が言語能力を生かして仕事をするのは必ずしも容易なことではありません。なぜなら、その言語を使って仕事をしたことはないので、すぐにその言語で契約書を作ることはおろか、仕事のメール一本を打つこともままならないのが現状です。また、来日した後、母語を伸ばす機会は限られており、学校で学ぶ専門知識・用語は日本語でしか学んでいません。つまり、来日時の年齢のままで止まってしまうのです。その点でいえば、母国で高校・大学を卒業し、就職活動を乗り越えた留学生には競り負けてしまうようです。
そうすると、選択肢は
①留学生を打ち負かすだけの母語の能力向上と日本語力向上に努める
②言語以外の自分の長所を見つけて伸ばす
のどちらか、または、両方になってきます。2つの国で暮らした経験や2言語が話せることは非常に貴重な経験であり、資産であることは間違いありません。ただ、そこにしがみついたり、縛り付ける必要はないのです。言語能力以外にも個々の生徒の特長を見極めて指導することの重要性を改めて認識しました。