読書ノート『火狩りの王』
作者:日向理恵子
絵:山田章博
出版:KADOKAWA
死の描写がとても生々しく、人間の悪意が濃くまとわりつき、目を背けたくなるくらい過酷で刺激的な世界がそこにある。
物語の舞台となるのは神族が統治する世界。
人体発火病原体によって、人間は天然の火に近づくと内側から発火する体になっていた。
生活に必要な火は、黒い森に住まう炎魔から火狩りたちが採取している。
最終戦争前に打ち上げられた、千年彗星〈揺るる火〉が戻ってくる。
揺るる火を狩った者は火狩りの王となる。
緻密な世界感と複雑な構成が滑らかに溶けこんでいて、素晴らしい物語を構築している。
生きるのすらやっとの世界だからこそ、命をかけることの美しさが際立つのかもしれない。
生きるために狩る。
目的がシンプルだと、活力が湧いてくる。
火狩りの王〈一〉春ノ火
頁数:384
文庫本:2022.11.22
2人の主人公の視点が切り替わりながら物語は進んでいく。
紙漉きの村に暮らす「灯子」は掟を破り森へと足を踏みいれる。
炎魔に襲われた灯子を守るために死んだ火狩りが連れていた狩り犬「かなた」を家族の元へ帰すため、回収車へ乗せてもらい首都へと旅立つ。
その旅路は困難を極めたが、その出来事が少女を成長させる。
首都で暮らす「煌四」は灯子を助けた火狩りの息子。
工場の毒で母を亡くし、病弱な妹と2人で工場の経営者である燠火家へ居候することになる。
その目的は、蜘蛛に対抗する武器を造らせるためだった。
灯子の不器用だけれど直向きな姿は、こうやって生きなきゃダメだよなと思わせてくれる。
煌四は頭がいいのに現状を打開する力をもたず、利用される側になってしまうが、腐ってしまいそうな状況なのに懸命に抗う姿をみていると、自分もまだまだ足りないなと勇気をもらえる。
「蜘蛛」と呼ばれる元神族が天然の火を克服したことで、人間たちはまた争いを繰り返してしまう。
おなじ過ちを繰り返しているように見えるけれど、譲れないモノのためには戦うしかないこともある。
火狩りの王〈ニ〉影ノ火
頁数:400
文庫本:2022.12.22
首都にたどり着いた灯子は無事に煌四と出会うことができた。
神族、木々人、すこしづつこの世界の真実が明らかになってくる。
そしてはじまる蜘蛛の反乱。
結界を抜けて閻魔が次々に首都へと入り込む。
灯子は、赤毛の火狩り「明楽」、捨てられた蜘蛛のこども「クン」に助けられながら炎魔の群れと対峙する。
過酷な旅を終えても、また新たな試練はやってくる。
神は乗り越えられない試練は与えないというけれど、死と隣りあわせの世界では、失敗したら終わりなのだ。
ひとにはそれぞれに役割があって、どれだけ不遇であってもそれが自分の領分だと思って、その中でやれることを懸命にやるしかないのだ。
火狩りの王〈三〉牙ノ火
頁数:352
文庫本:2023.1.24
ついに蜘蛛が首都に入り込んだ。
神族と元神族の争いに巻き込まれる人間たち。
次々と命が失われていく。
日常を普通に生きていただけなのに、悲しみが渦巻いて止まらない。
現実にある戦争となにも違わない、正義を主張し、貫くことは狂気だ。
その狂気をもつ者は、それが正常なのだから、狂気も正常も立ち位置の違いでしかないのかもしれない。
人間はおなじ過ちを確実に繰り返すのだ。
火狩りの王〈四〉星ノ火
頁数:384
文庫本:2023.2.24
帰還した揺るる火は人類を滅ぼすと決めていた。
灯子は懸命に説得する—
真実がすべて明らかにされる。
神族の謎、揺るる火の存在理由、古き時代は終わり、ついに火狩りの王が誕生する。
若いときは、生きる意味をよく考えていた。
40代になってそれも変わった。
意味を考えたり模索することも大切だけれど、人生を楽しむことの方が何倍も大切なんじゃないか。
巷に溢れる理想やべき論に振り回されているだけで、そんなの幸せじゃない。
自分の内側からくる欲求に素直に生きるだけでもいいのではないか。
しかし、自分の人生を生きるのは意外と難しい。
火狩りの王〈外伝〉野ノ日々
頁数:304
文庫本:2023.3.22
人類最終戦争前の世界、まだ天然の火をつかえていた時代。
本編後の世界が描かれる。
過去から未来へ、本編を補完するお話。
「火狩りの王」シリーズ完結。
物語は終わる。
どんなに面白くても終わらなければいけない。
こどもがオトナになるように、夢からは覚めなければいけない。
ファンタジーのいいところは、冒険をとおして教訓を得られるところだ。
オトナになって忘れてしまった、元こどもとしての気持ちに戻れるからいいのだ。
ファンタジー世界は心が帰る場所なのかもしれない。