![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/128898912/rectangle_large_type_2_70d40dc37c3a69515398fb7861fba3ed.png?width=1200)
読書ノート『火狩りの王』
作者:日向理恵子
絵:山田章博
出版:KADOKAWA
死の描写がとても生々しく、人間の悪意が濃くまとわりつき、目を背けたくなるくらい過酷で刺激的な世界がそこにある。
物語の舞台となるのは神族が統治する世界。
人体発火病原体によって、人間は天然の火に近づくと内側から発火する体になっていた。
生活に必要な火は、黒い森に住まう炎魔から火狩りたちが採取している。
最終戦争前に打ち上げられた、千年彗星〈揺るる火〉が戻ってくる。
揺るる火を狩った者は火狩りの王となる。
緻密な世界感と複雑な構成が滑らかに溶けこんでいて、素晴らしい物語を構築している。
生きるのすらやっとの世界だからこそ、命をかけることの美しさが際立つのかもしれない。
生きるために狩る。
目的がシンプルだと、活力が湧いてくる。
火狩りの王〈一〉春ノ火
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127573372/picture_pc_8cb9234621655b2b56070310cda00beb.png?width=1200)
頁数:384
文庫本:2022.11.22
人類最終戦争後の世界。
大地は黒い森に覆われ、人類は天然の火に近づくと体が内側から燃え上がる「人体発火病原体」に冒されていた。
この世界で人が唯一安全に扱える〈火〉は、黒い森に棲む獣、炎魔を狩ることによって得られるものだけだった。
そんな中、炎魔を狩ることを生業とする火狩りたちの間でひそかに囁かれる噂があった。
「最終戦争前に打ち上げられ、長い間虚空を彷徨っていた人工の星、千年彗星〈揺るる火〉。
その星を狩った者は、火狩りの王と呼ばれるだろう」――。
千年彗星〈揺るる火〉とは何なのか。
「火狩りの王」の伝説に秘められた世界の真実とは?
森に囲まれた小さな村に生まれた11歳の少女・灯子と、機械工場が立ち並ぶ首都で暮らす15歳の少年・煌四。
2人の人生が交差するとき、運命の歯車が動き出す。
2人の主人公の視点が切り替わりながら物語は進んでいく。
紙漉きの村に暮らす「灯子」は掟を破り森へと足を踏みいれる。
炎魔に襲われた灯子を守るために死んだ火狩りが連れていた狩り犬「かなた」を家族の元へ帰すため、回収車へ乗せてもらい首都へと旅立つ。
その旅路は困難を極めたが、その出来事が少女を成長させる。
首都で暮らす「煌四」は灯子を助けた火狩りの息子。
工場の毒で母を亡くし、病弱な妹と2人で工場の経営者である燠火家へ居候することになる。
その目的は、蜘蛛に対抗する武器を造らせるためだった。
灯子の不器用だけれど直向きな姿は、こうやって生きなきゃダメだよなと思わせてくれる。
煌四は頭がいいのに現状を打開する力をもたず、利用される側になってしまうが、腐ってしまいそうな状況なのに懸命に抗う姿をみていると、自分もまだまだ足りないなと勇気をもらえる。
「蜘蛛」と呼ばれる元神族が天然の火を克服したことで、人間たちはまた争いを繰り返してしまう。
おなじ過ちを繰り返しているように見えるけれど、譲れないモノのためには戦うしかないこともある。
火狩りの王〈ニ〉影ノ火
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127573638/picture_pc_b794f9ed419725a87c5fd0092f2424e0.png?width=1200)
頁数:400
文庫本:2022.12.22
炎魔の群れに襲われたものの、辛くも逃げ延びた灯子。
たどり着いた首都で、自分を助けてくれた火狩りの家族を探し始める。
一方煌四は、凄腕の火狩り・炉六の狩りに同行した先で、思いもよらない残酷な光景を目にする。
父の仲間だった火狩りたちがある男を拷問していたのだ。
それが燠火家当主の差し金によるものと知った煌四は、彼への疑いを深めていくが……。
あらゆる思惑が渦巻く中、首都には〈蜘蛛〉と呼ばれる者による反乱の時が静かに迫っていた――。
首都にたどり着いた灯子は無事に煌四と出会うことができた。
神族、木々人、すこしづつこの世界の真実が明らかになってくる。
そしてはじまる蜘蛛の反乱。
結界を抜けて閻魔が次々に首都へと入り込む。
灯子は、赤毛の火狩り「明楽」、捨てられた蜘蛛のこども「クン」に助けられながら炎魔の群れと対峙する。
過酷な旅を終えても、また新たな試練はやってくる。
神は乗り越えられない試練は与えないというけれど、死と隣りあわせの世界では、失敗したら終わりなのだ。
ひとにはそれぞれに役割があって、どれだけ不遇であってもそれが自分の領分だと思って、その中でやれることを懸命にやるしかないのだ。
火狩りの王〈三〉牙ノ火
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127573870/picture_pc_6ed602e6a836744a8b374a2cbd6c66fa.png?width=1200)
頁数:352
文庫本:2023.1.24
結界を破り首都に侵入した炎魔をなんとか食い止めた灯子たち。
明楽は亡き兄の思いを胸に、願い文を届けるため神族の住む神宮に、煌四は〈蜘蛛〉の進攻を止めるため、自身が作った武器を手に工場地帯に向かう。
しかし、一足先に天然の火を手にした〈蜘蛛〉の進攻は静かに始まっていた――。
ひとり逃がされた灯子は燠火家の娘・綺羅と再会するが、彼女の前にも神族が現れる。
彼らの狙いは一体何なのか。
それぞれが戦いへと動き出す中、ついに千年彗星〈揺るる火〉が帰還する。
ついに蜘蛛が首都に入り込んだ。
神族と元神族の争いに巻き込まれる人間たち。
次々と命が失われていく。
日常を普通に生きていただけなのに、悲しみが渦巻いて止まらない。
現実にある戦争となにも違わない、正義を主張し、貫くことは狂気だ。
その狂気をもつ者は、それが正常なのだから、狂気も正常も立ち位置の違いでしかないのかもしれない。
人間はおなじ過ちを確実に繰り返すのだ。
火狩りの王〈四〉星ノ火
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127573952/picture_pc_ec30279d15729e7cea70bde0e35f0c12.png?width=1200)
頁数:384
文庫本:2023.2.24
一度は神宮を目の前にするも、神族の力により黒い森に戻されてしまった灯子たちは、ふたたび神宮を目指して動き始めた。
煌四は炉六とともに海を越えて首都に戻り、妹の緋名子を探すことに。
一方、森で〈蜘蛛〉が生み出したという特別な虫を探す灯子と明楽は、ある神族と出会い危機に陥るが……。
はたして彼らは願い文を姫神に届けることができるのか。
千年彗星〈揺るる火〉が、最後に下した決断とは? そして、伝説の「火狩りの王」は生まれるのか――。
新たなる王道冒険ファンタジー、堂々の完結作!
帰還した揺るる火は人類を滅ぼすと決めていた。
灯子は懸命に説得する—
真実がすべて明らかにされる。
神族の謎、揺るる火の存在理由、古き時代は終わり、ついに火狩りの王が誕生する。
「意味なんか、いるんかなあ?意味がないと、生きられんのかな。生きて、死ぬのに、そんな大それた意味なんか」
若いときは、生きる意味をよく考えていた。
40代になってそれも変わった。
意味を考えたり模索することも大切だけれど、人生を楽しむことの方が何倍も大切なんじゃないか。
巷に溢れる理想やべき論に振り回されているだけで、そんなの幸せじゃない。
自分の内側からくる欲求に素直に生きるだけでもいいのではないか。
しかし、自分の人生を生きるのは意外と難しい。
火狩りの王〈外伝〉野ノ日々
頁数:304
文庫本:2023.3.22
黒い森に覆われ天然の火が扱えない世界は、ある少女たちの戦いを経て、大きな変化を迎えようとしていた――。
森の中の機織りの村では、ある日守り神が突如姿を消し騒然となる。
村人は厄払いで嫁いできた娘のせいだと噂するが、村の少年・七朱が偶然手にした手紙には思いがけない事実が記されていて……(「第一話 光る虫」)。
話題沸騰のファンタジーシリーズ「火狩りの王」で活躍した「彼ら」の過去と未来を描いた短編に、本編では語られなかった「旧世界」の物語も収録したシリーズ外伝。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127574085/picture_pc_6bf485ff9e612470a45575ad23a775c2.png?width=1200)
人類最終戦争前の世界、まだ天然の火をつかえていた時代。
本編後の世界が描かれる。
過去から未来へ、本編を補完するお話。
「火狩りの王」シリーズ完結。
物語は終わる。
どんなに面白くても終わらなければいけない。
こどもがオトナになるように、夢からは覚めなければいけない。
ファンタジーのいいところは、冒険をとおして教訓を得られるところだ。
オトナになって忘れてしまった、元こどもとしての気持ちに戻れるからいいのだ。
ファンタジー世界は心が帰る場所なのかもしれない。