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京大生の本棚.9(多分)~「アイヌ文化で読み解く『ゴールデンカムイ』」〜

三億年ぶりにこのまとめを更新します。本は読んでいたのですが、感想をひとまとめにする時間がとれず、ほったらかしになってしまっていました。
久しぶりの感想記事は少し毛色を変えて、新書系を。
いやいや推し活の気が丸見えですね。すみません!

でもとても学びになることが多かったので、内容を簡潔にまとめながら感想記事を書きたいと思います。


1.カムイとは

タイトルにもついている「カムイ」という言葉。日本語の「神」と似た言葉ですし、実際日本人が神社で祈りを捧げるように、アイヌの方もカムイに祈りを捧げます。
しかし、「カムイ」が「神」と異なるのは、動物や植物、昆虫や食器類、火に至るまで、それらそのものをカムイと見なすところです。

動物を神様の化身や神の使いと見なす神社は日本にも多い(牛を天神様の使いと見なすなど)ですが、アイヌのカムイはそうではなく、「そのもの」がカムイなのです。

火がカムイというのは、火の神様がいて、その神様が火を持ってきてくれたということではなく(日本だと迦具土神でしょうか)ではなく、火それ自体をカムイと見なすということだそう。

アイヌの「カムイ」は、動物のみならず人工物も含めた人間を取りまくもの、もっと言えば人間にできないことをするものや人間の役に立ってくれているものをカムイと呼ぶのだそうです。

著者の中川さんは、カムイに最も近い日本語として「環境」を挙げていらっしゃいました(「自然」でも間違ってはいませんが、それだと鍋や茶碗などの人工物も含まれるという要素が抜けてしまうとのこと)。
確かに、人間とカムイが良好な関係を築くことで幸福な生活を保つのだという考え方を踏まえると一番しっくりくる気がします。

アイヌは、カムイたちは「カムイモシリ(リは小文字)」と呼ばれるカムイの世界に人間と同じ姿で生活していて(このときは霊魂の状態であり人間には見えない)、人間の世界(アイヌモシリ)にやってくるときは動物や植物の衣装をまとってやってくるのだと考えています。

そしてそれらの衣装はまた、人間へのお土産でもあるのです。
火のカムイは光と熱を、木のカムイは樹皮や木材(樹液)を、クマのカムイは毛皮と肉を…というように。

これらは人間は創造することはできないので、人間はカムイからいただいて感謝の言葉を述べ、お酒やお団子など人間でないと作り出せないものを贈り物として捧げるのだそう。
対等な、ギブアンドテイクの関係ですね。

狩猟民族のアイヌは、「食べることは、命をいただくことである」と強く意識しているのです。
こうした考え方があったため、食べ物を残すときつく叱られるのだと。
その動物(もしくは植物)に変身したカムイが「あの家で粗末にされた」と他のカムイたちに報告してしまうため、カムイからの恩恵をいただけなくなるからだそうです。

スーパーやコンビニで簡単に食材を買えてしまう環境にある我々は、一度「食べることは他者の命をいただくこと」という意識を持ち直す必要があるのではないかと思います。

昨今問題となっている食品ロスについて考える上で、一つの指針になり得る考え方だと感じました。


2.アイヌ民族のルーツ

アイヌ文化の成り立ち


北海道では7世紀ごろまで縄文文化が続き(続縄文文化)、その後は13世紀以前までは擦文文化とオホーツク文化の二つが存在していて、前者は擦文式土器を、後者はオホーツク式土器を使っていました。

このうち擦文人はアイヌの先祖とされ、また擦文人が縄文人を滅ぼして入れ替わったという考古学的証拠もないので、同じ流れを汲む民族だと考えられています。

定説では、オホーツク文化のほうがやがて擦文文化に吸収されて、今日のようなアイヌ文化のもとになったとされています。
ここで大きな変化がありました。
それは、「土器の使用をやめた」こと。

本州に住む人間にとってはお茶碗や湯飲みなどの焼き物は必要不可欠ですし、今も多くの人が使っていると思いますが、アイヌ文化になると、それがぱったりなくなるのです。
理由としては、鉄製品を豊かに使えるようになったことが挙げられます。

アイヌ料理の中心となっているのはオハウと呼ばれる汁物で(筆者もよくまねっこします)、これらは鍋で作られるのですが、土鍋ではなく鉄鍋が使われました。

臼や食器などは木で、それも「マキリ(小刀)」や「タシロ(山刀)」を用いて作られました。
アシリパさんも身につけているアレです。

これらの鉄製品は、やはり本州から来たと考えられます。
「アイヌ」というと、山の中で狩猟や最終をして自給自足の生活をしていたと考えられがちですが、実際は、本州と積極的に交流していたようです。


アイヌの歴史

江戸時代に入るまでは、アイヌと和人は対等な関係だったとされます。
1604年に松前藩が徳川家康からの黒印状をもらって正式に松前藩が確立すると、アイヌと和人の関係は変わっていきます。
今でこそ「ゆめぴりか」など、北海道は米どころというイメージがありますが、江戸時代の北海道では米は採れませんでした。

そのため松前藩は俸禄の代わり(当時は給料として米が与えられており、「○○石」というのは米の単位)にアイヌの交易権を藩士の給与として与えていて、この制度を商場知行制といいます。

これによってアイヌは自由貿易が行えなくなり、松前藩士の言い値で取引しなくてはならなくなります。
さらにキリスト教を禁止する禁教令から逃れた本州の移民たちが砂金を狙ってアイヌの居住地に流入しました。
これが数百年経って「ゴールデンカムイ」の物語へと繋がっていきます。

溜まっていった和人への不満は、1669年にシャクシャインの反乱という形で噴出します。
一言で言えば、松前藩はシャクシャインというアイヌのリーダー的存在の一人だった人を和議(と偽った酒宴)の席で酒に酔わせてだまし討ちにしました。

これを契機として、松前藩によるアイヌへの支配は苛烈さを増していき、アイヌの老若男女をニシン漁や鰯漁にかり出し、そのしめ粕が綿花の肥料になったのだそうです。

江戸の人間たちが木綿着物を身にまとう影で、アイヌは労働力を搾取され、彼らの文化は衰退の一途をたどります。
1789年に起きた「クナシリ・メナシ蜂起」を最後に、アイヌは和人に屈することになってしまいます。

こうして数多の戦いの末に和人がアイヌを完全に支配下に置いたことが、アイヌは明治時代に日本へと組み込まれる土壌になったのでした。

3.アイヌ料理

アイヌの歴史や文化の成り立ちをざっくりとまとめてきました。
皆さんお待ちかねのアイヌ料理についてもまとめたいと思います。

アイヌ料理には日本で言う米のような意味での主食はないと言われており、アイヌ料理の中心となるのは「オハウ」という鍋でつくる汁物です。
鮭入りのオハウを「チェプオハウ」、肉(とくにクマ肉)が入ったオハウを「カムオハウ」と言うらしいです。

なんとなく、アイヌ料理は生食のイメージを持っていたのですが、むしろアイヌは生食できるものとそうでないものをきっちり分けていたのだそうです。

クマの肉や鮭の生身は寄生虫が居るので生では食べないのだとか。日常的に狩りをしますから経験上知っていたのかも知れませんね。

そう考えるとにぎり寿司というものがいかに野蛮奇想天外な食べ物だったかを感じさせられます。つけ込むこともせずお酢で長時間締めることもせず、刺身と酢飯を握って食べるというのは本当に勇気が要る。試食段階で一体何人の人がお腹を壊したのでしょう…

さらに「卵かけご飯」とかいう生卵をご飯にかけて混ぜ混ぜするというこれまた無法特殊な食べ物もありますね。

海外の方が日本で卵かけご飯を食べてハマったものの、自国の卵は生で食べると危険なので火を通した結果チャーハンのようなものを爆誕させた、なんていうのも聞いたことがあります。

「ゴールデンカムイ」に出てくる料理はジビエ肉が多く、一般ピーポーが手に入れるのはなかなか難しいのですが、比較的マネしやすい料理として
ムニンイモ(ジャガイモを発酵させて練った芋餅みたいなもの)
サヨ(おかゆ、重湯のようなもの)
ラタシケプ(山菜と豆の混ぜ煮。現代ではカボチャと豆が多い)
などが挙げられていました。

素材の味を活かす料理が多くてどれも美味しそうですね。
引き続き再現飯企画をできる範囲で開催したいと思っております!

感想

勉強になったことをまだまだ書きたいところなのですが、これ以上書くと尾形記事レベルの長文を生成しそうなので、一旦この辺りで感想に移りたいと思います(また書きたくなったら続編をするかも)

結論
ゴールデンカムイ好きはファンブックと合わせてこれも買いましょう!!

アイヌの歴史、文化、ルーツ、言語についてかなり詳しく学ぶことができ、アシリパさんの裏設定のようなものも知ることができます。
もう一度漫画・アニメを振り返りたくなること間違いなし。

同時に、作者の野田先生のストーリー構想の緻密さ、調査の深さに感服しました。本当にすごい。

失礼ながら筆者は、「和人がアイヌの方々を迫害した」という知識が先行していて(実際歴史もそうなのですが)、アイヌの方を「か弱くてかわいそうな人たち」とざっくりしたイメージしか持っていなかったのですが、

この本を読んで、それだけではないアイヌ文化の奥深さ、そしてアイヌの方々の知恵や力強さをわずかながら知ることができたと思います。

とはいえ、やはり本を読んで分かった気になるのは傲慢でもあるので、引き続き勉強していきたいです。なんなら北海道に行って体験もしてみたくなりました。

この記事をもって、京大生の本棚シリーズを緩やかですが再開していきます。
本を読んでそれをまとめることになるので、決して更新頻度は高くないと思いますが、温かい目で見守ってくださいますと幸いです。





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