見出し画像

主要国の農業支援額が過去最高の8510億ドルに増加、日本は5位

経済協力開発機構(OECD)が2023年10月30日に公表した年次報告書によると、2020~22年の農業支援額は主要54カ国合計で年平均8510億ドル(約130兆円)と、過去最高になりました。農業生産額の20%に相当する金額です。新型コロナウイルスの拡大や、ロシアのウクライナ侵攻に伴う混乱に対応するための費用が膨らんだのが主因です。支援策の中には、気候変動への適応を妨げたり、市場をゆがめたりする措置も多く含まれているとして、OECDは農業支援のあり方を抜本的に見直す必要があると訴えています。
 

農業支援額のうち、6割に相当する5180億ドルが農家への補助金など予算措置によって行われ、残りの3330億ドルが関税など国内の農産物価格の引き上げによる市場価格支持(MPS)として行われました。予算措置は税金の負担によって行われるので「納税者による支援」、国内価格の引き上げは小売価格の値上げになるので「消費者による支援」とOECDは分類しています。いずれも国民による農業支援である点では変わりありません。ともにこの5年間は増加傾向にあるということです。

2000~02年以降、農業支援額はほぼ2.5倍に増えました。この間、農業生産額は3.6倍も増加したので、支援額の割合は低下傾向にあるようです。しかし、コロナ前の2017~19年は年平均で6960億ドルだったので、この3年間で22%も急増しました。
 
国別では、中国が世界全体の36%と最も多く、インドが15%、米国が14%、欧州連合(EU)が13%と続き、主要農業国・地域が上位を占めました。中国とインドが新興国全体の87%を占め、米国とEUが先進国全体のほぼ3分2を占めました。OECDは「農業支援は一部の大生産国・地域に集中している」として、これらの国・地域に対して見直しを進めるよう促しています。

一方、日本は世界全体の5%と、これらの国・地域に次いで5位になっており、手厚い農業保護を行っていることが改めて指摘されました。しかも、農業生産額に占める農業保護額の割合は54%と、世界平均の20%を大きく上回っています。農業支援額の上位4カ国・地域は分母となる農業生産額も多いため、この割合は中国が17%、EUが22%、米国が27%などと、日本よりかなり低くなっています。これまでも言われてきたことですが、世界的には日本の農業保護はかなりの高水準であることがここでも浮き彫りになりました。

年次報告書は気候変動対策も取り上げました。干ばつや洪水、熱波、暴風などが世界各地で相次いでいることを受け、「気候変動は世界の農業生産にますます影響を及ぼしている」と指摘し、農業では緩和策より適応策の方が特に重要だとの認識を示しました。
 
主要54カ国の政策を分析した結果、気候変動への適応計画や人材育成、金融メカニズムの構築など約600の対策が既に導入されているということです。しかし、「現在の農業支援の大半は既存の生産システムを強化し、気候変動への適応を妨げる」として、各国に見直しを求めています。
 
中でも、農産物の価格をつり上げるMPSについて、「生産シグナルをゆがめ、生産システムの変革を損ない、国際市場をゆがめる」と批判し、こうした取り組みを早くやめるよう改めて求めました。上のグラフから分かるとおり、日本は農業支援額の中でMPSの割合が大きいのが特徴です。
 
その上で、OECDは重点投資すべき分野として、適応策の研究開発(R&D)などの「イノベーション」と、自然災害に強い農業生産を支える「インフラ」、病害虫に強い農業を支える「バイオセキュリティ」の3分野を明示しました。しかし、2020~22年の農業支援額に占めるこれら3分野の割合は12.5%と、2000~02年の16%から低下しており、現状に強い懸念を示しています。

農業生産額に占める割合も2.5%と、20年前の4.6%から大きく低下しました。OECDが望ましいと考える農業支援のあり方と逆行していると言えそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?