世界のアグリフード

世界の農業や食料問題の動きをまとめています

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最近の記事

EUの戦略対話が最終報告書 農業政策の抜本見直しを提言

欧州連合(EU)の農業政策の在り方を検討してきた戦略対話は9月4日、最終報告書をまとめ、フォンデアライエン欧州委員長に提出しました①②。報告書は「今こそ変革の時だ」として、補助金の支給対象の重点化など、EUの共通農業政策(CAP)の抜本的な見直しを提言しました。欧州委員会が2025年春ごろに策定する「農業・食料ビジョン」にどう反映されるかが、次の焦点となります。 欧州委員会は2020年5月に「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」を公表し、農薬半減や有機農業

    • 米国がGM小麦を初めて承認 数年後に市場投入か

      アルゼンチンの農業バイオテクノロジー企業バイオセレス・クロップ・ソリューションズは8月28日、同社が開発した遺伝子組み換え(GM)小麦について、米農務省(USDA)から商業栽培の認可を得たと発表しました。米食品医薬品局(FDA)の食品安全審査は既にクリアしており、GM小麦として米国で生産・販売が初めて承認されました。業界団体の米小麦連合会(USW)によると、試験栽培などを経て、数年後に米国市場に投入される可能性があります。 この小麦は、「HB4小麦」と呼ばれ、GMによって

      • 英農業団体が食料自給率の堅持を要請 2023年は62%

        英国最大の農業団体ナショナル・ファーマーズ・ユニオン(NFU)は8月14日、農業への投資を増やすなどして、2023年に62%にとどまった食料自給率をこれ以上下げないようスターマー新政権に要請しました。1980年代以降、低迷していることに懸念を示し、食料安全保障の観点から、歯止めを掛ける必要性を訴えています。日本以外で食料自給率をめぐる議論が起きている国は珍しいです。(上の写真はNFUウェブサイトより) 英環境・食料・農村地域省(DEFRA)は生産額ベースで食料自給率を算出

        • 「トレド水危機」から10年、農業界は改善アピール

          米中西部オハイオ州トレド市で2014年8月に発生した「トレド水危機」から、ちょうど10年が経過しました。水質汚染の元凶として批判された農業界は、さまざまな取り組みにより事態が改善していると必死にアピールしています。しかし、2024年夏もアオコによってエリー湖は汚染されており、依然として改善は道半ばです。(上の写真は「FLOW」ウェブサイトより」) トレド水危機は、北米五大湖のエリー湖西岸で有毒アオコが大量に発生したため、エリー湖を水道水源としていたトレド市などで8月2~

        EUの戦略対話が最終報告書 農業政策の抜本見直しを提言

          中印の除草剤に米国が反ダンピング課税へ 農業界は価格上昇を懸念

          中国やインドから除草剤が不当に低い価格で米国に輸出されたとして、米当局が反ダンピング(不当廉売)関税や相殺関税を課す公算が大きくなっています。これに関し、米国の上下両院の18議員は8月5日、「税率を算出する際には慎重に検討してほしい」との書簡をレモンド商務長官に出しました。トウモロコシや大豆など米農家の間で幅広く使われているため、高い関税率が適用されれば、除草剤価格の上昇によって経営が圧迫されると農業界が懸念を強めていることが背景にあります。課税はやむを得ないにしても、税率は

          中印の除草剤に米国が反ダンピング課税へ 農業界は価格上昇を懸念

          世界の飢餓人口は7.3億人に増加 SDGs達成は一段と遠く

          国連食糧農業機関(FAO)や世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)など国連5機関は7月24日、2024年版の年次報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」を発表しました①②。2023年の世界の飢餓人口は7億3340万人(7億1330万~7億5720万人)と、6年連続で増加したとの推計を示しました。 世界人口の9.1%(8.9~9.4%)に相当し、「世界で11人に1人が飢餓に見舞われている」と警鐘を鳴らしています。国連の持続可能な開発目標(SDGs)

          世界の飢餓人口は7.3億人に増加 SDGs達成は一段と遠く

          米国の次期農業法の策定が難航 500超の農業団体が年内成立を要請

          米国のファーム・ビューロー(AFBF)など500超の農業団体が7月22日、次期農業法の年内成立を求める共同書簡を民主、共和両党の有力8議員に提出しました①②。本来なら、次期農業法は現行法が失効した2023年9月末までに策定されるべきものですが、両党の対立で調整が難航しています。これだけ多くの農業団体が書簡に名を連ねたことで、米農業界が危機感を募らせていることが浮き彫りとなりました。 書簡に名を連ねたのは、米最大の農業団体であるAFBFのほか、小規模農家が多いナショナル・フ

          米国の次期農業法の策定が難航 500超の農業団体が年内成立を要請

          米国が綿花輸出で世界一から転落 初めてブラジルに抜かれる

          米農務省(USDA)は7月12日、2023~24年度(23年8月~24年7月)の米国の綿花輸出が初めてブラジルに抜かれるとの予測を公表しました。首位転落は30年ぶりです。米国は小麦や大豆も首位から既に転落し、トウモロコシも一時的にブラジルに抜かれており、農産物輸出大国としての地位が徐々に低下していることが浮き彫りとなっています。 USDAの予測によると、2023~24年度の米国の綿花輸出は前年度比9%減の252.6万トン(1160万俵)にとどまりそうです。これに対し、ブラ

          米国が綿花輸出で世界一から転落 初めてブラジルに抜かれる

          EUが新戦略「農業・食料ビジョン」を策定へ 再任の欧州委員長が表明

          欧州連合(EU)の欧州議会は7月18日、フォンデアライエン欧州委員長の再任を賛成多数で決めました①②。同氏は、農業関係者との「戦略対話」の結果を踏まえ、「農業・食料ビジョン」と名付けた新戦略を策定すると表明しました。農薬の使用半減などを盛り込んだ「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」が農家の反発で軌道修正を迫られる中、どんな内容を打ち出すのかが焦点となりそうです。(写真はEUのウェブサイトより) 2019年12月に欧州委員長に就任したフォンデアライエン氏

          EUが新戦略「農業・食料ビジョン」を策定へ 再任の欧州委員長が表明

          英国で政権交代、重点分野に「食料安全保障の強化」 農業界は予算拡大を期待

          英国で7月4日に総選挙が行われ、野党第一党の労働党が与党・保守党を大差で破り、14年ぶりに政権が交代しました。環境・食料・農村地域相に就任したスティーブ・リード氏は優先課題として、「食料安全保障の強化に向けた農家支援」など5分野を挙げ、重点的に取り組む考えを表明しました。農業界では、削減が続く予算の拡大に期待が強まっています。 首相に就任した労働党のキア・スターマー党首が7月5日に組閣を行い、環境・食料・農村地域相にリード氏を任命しました。同氏は、野党時代の「影の内閣

          英国で政権交代、重点分野に「食料安全保障の強化」 農業界は予算拡大を期待

          24年の世界穀物生産は過去最高の見通し 地域別では明暗

          国連食糧農業機関(FAO)は7月8日、2024年の世界全体の穀物生産は28億5420万トンとの予測を公表しました。過去最高だった前年を0.1%上回り、再び過去最高となります。供給から消費を差し引いた在庫も増加する見込みで、世界全体では需要の伸びに対応し、生産が着実に増えていると言えそうです。しかし、アフリカ南部が干ばつの影響で大きく落ち込むなど、地域別では明暗が分かれています。 世界全体の穀物生産が前年を上回るのは6年連続です。在庫も前年比1.3%増の8億9430万トンと

          24年の世界穀物生産は過去最高の見通し 地域別では明暗

          世界の食料消費、インドと東南アジアの影響力が拡大へ OECD・FAOが予測

          経済協力開発機構(OECD)と国連食糧農業機関(FAO)は7月2日、2024~33年を対象とした新たな農業見通し①②③を公表しました。今後10年間も世界の農産物消費は新興国や途上国にけん引され増加し続けるとしつつ、中国による爆買いの勢いは弱まり、インドと東南アジアの影響力が強まるとの見方を示しています。世界の農産物需給に地域的な変化が起きることを強調する内容となっています。 今回の農業見通しによると、飼料や燃料を含んだ農産物の総消費は今後10年間、平均で年1.1%増えると

          世界の食料消費、インドと東南アジアの影響力が拡大へ OECD・FAOが予測

          デンマークが「げっぷ税」導入へ EU全域への拡大を期待

          デンマーク政府は6月25日、牛や羊に課税する「げっぷ税」を含め、農業部門から排出される温室効果ガスを対象に、2030年から世界初の炭素税を課すと発表しました①②③④⑤⑥。各国が追随し、欧州連合(EU)全体への拡大に期待を示しています。ニュージーランドのげっぷ税構想は農家の反対を受けて撤回されましたが、農業部門からの温室効果ガスの排出削減を目的に、新たに課税する動きが広がっています。 現地からの報道によると、デンマークは温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比70%

          デンマークが「げっぷ税」導入へ EU全域への拡大を期待

          世界の漁業生産は過去最高の1億8540万トン 養殖が初めて漁獲を上回る

          国連食糧農業機関(FAO)が6月7日に公表した「世界漁業・養殖業白書」(SOFIA)によると、2022年の世界全体の漁業生産量(藻類除く)は1億8540万トンと、2年前に比べ4.5%増え、過去最高を更新しました。漁獲漁業が1.3%増の9100万トンにとどまったのに対し、養殖業が7.6%増の9440万トンと大きく伸び、初めて漁獲漁業を上回りました。中国やインドなどアジアを中心に養殖業の拡大が鮮明になっています。 養殖業の生産量は1990年代には平均で年2180万トンだったので

          世界の漁業生産は過去最高の1億8540万トン 養殖が初めて漁獲を上回る

          ニュージーランドが「げっぷ税」構想を撤回 政権交代で方針転換

          ニュージーランド政府は6月11日、牛や羊に課税する世界初の「げっぷ税」構想を撤回すると発表しました①②。農業界が猛反発し、中止するよう求めていたことを受け、政権交代により2023年11月に誕生した国民党などの連立政権が方針転換に踏み切りました。農業界からは歓迎する声が聞かれる一方、環境団体などは「気候変動対策が後退した」と批判しています。 げっぷ税構想は、牛や羊がげっぷによって強力な温室効果ガスであるメタンを多く排出することから、牛や羊の飼養頭数に農家に課税することで、牛

          ニュージーランドが「げっぷ税」構想を撤回 政権交代で方針転換

          WTO漁業交渉の部分合意から2年、いまだ発効せず

          世界貿易機関(WTO)の漁業補助金の削減交渉で2022年6月に部分合意が得られてから2年が経過しました。2001年にドーハ・ラウンドが始まって以降、加盟国の対立でほとんど成果を生み出せない中、数少ない成果として当時はアピールされましたが、その後の正式な受諾手続きが進まず、いまだに発効しないという異常事態が続いています。WTOの弱体化が一段と進んでいます。 WTOのオコンジョイウェアラ事務局長は6月7日、翌日の世界海洋デーを前にビデオメッセージを出し、「毎年、世界各国の政府

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