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EUが森林破壊規制の実施を1年延期 域内外から懸念相次ぐ

欧州連合(EU)の欧州委員会は10月2日、森林を破壊して生産された農産物の輸入を禁じる森林破壊防止規制(EUDR)について、実施時期を2025年12月30日以降と、当初の予定を1年延期すると発表しました。ブラジルやインドネシアなど影響を受ける国が反発しているほか、EU域内でも準備が遅れている国があるとして、見直しを迫られました。環境規制がまた一歩後退することになりました。
 
この規制は、世界各地での農地拡大が森林破壊を招いているとして、森林を伐採するなどして生産された農産物のEUでの流通を禁じるものです。対象となるのは、大豆と牛肉、カカオ、コーヒー、パーム油、木材、ゴムの7品目とそれらの関連製品です。これらの品目をEUに輸出しようとする場合、森林破壊に関連していないと証明する文書を提出しなければ、輸出できなくなります。
 
森林破壊や森林劣化が気候変動や生物多様性の喪失を招いているとして、これらを防止するのが狙いです。欧州委員会は、国連食糧農業機関(FAO)の推計を引用し、1990~2020年にEUの面積を上回る4億2000万ヘクタールの森林が世界で失われたとして、事態の深刻さを強調しています。
 
2050年に温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す欧州グリーンディールの一環として検討が進み、欧州委員会が2021年11月に規制案を公表しました。その後、欧州理事会や欧州議会での議論と承認を経て2023年6月に発効し、大企業は2024年12月30日から、零細・小規模企業は半年遅れの2025年6月30日から施行されることがいったん決まりました。世界自然保護基金(WWF)などの環境団体が実現を強く働きかけていました。
 
これに対し、欧州メディアなどによると、ブラジルやインドネシア、マレーシア、コートジボワールなどが「貿易障壁によって貧しい小規模農家がEU市場から締め出される」と反発しています。ブラジルは世界最大のコーヒーの生産・輸出国で、インドネシアやマレーシアはパーム油の大輸出国です。コートジボワールはチョコレートの原料となるカカオ豆を多く輸出しています。これらの国ではEUDRの影響が特に大きいと予想され、懸念を強めているようです。
 
EU域内でも、EUDRを導入すれば、サプライチェーンが混乱し、商品の価格上昇を招くといった不安が出ています。ドイツやオーストリアなどから規制の延期や緩和を求める声が出ました。
 
こうした現状を受け、欧州委員会はEUDRの適用を延期せざるを得ない状況に追い込まれました。欧州議会と欧州理事会の承認を得た上で、大企業については2025年12月30日、零細・小規模企業については2026年6月30日から実施されることになります。延期される期間は、「EUDRを適切、効果的に実施するため、12カ月間の追加の導入期間となる」と欧州委員会は説明しています。
 
欧州委員会は延期の理由について、「予定された施行日の3カ月前になって、ニューヨークの国連総会ハイレベルウィークなどで国際パートナーから準備状況について繰り返し懸念が表明された」と説明しました。さらに、「欧州の関係者の間でも、準備状況にばらつきがある」との認識も明らかにしました。

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