メキシコがGMトウモロコシの輸入禁止を表明、米国が猛反発
メキシコが遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの輸入を禁止する方針を表明し、米国が猛反発しています。メキシコは米国産のGMトウモロコシの重要な輸出先であるため、実際に禁止されれば、米国に大きな影響が出るのは確実であるためです。米政府は撤回を強く求めていますが、協議は平行線が続いており、両国間の貿易紛争に発展する可能性があります。
米農務省(USDA)のテイラー次官と米通商代表部(USTR)のマッカリブ首席農業交渉官は2023年1月23日、メキシコ市を訪れ、この問題をめぐってメキシコ政府の関係者と会談し、改めて懸念を表明しました。しかし、協議に進展はなかったもようで、会談後の声明で「もしこの問題が解決されなければ、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく正式な手段を含め、あらゆる選択肢を検討する」と厳しい姿勢を示しました。メキシコの禁輸措置はUSMCA違反だと米国は認識しており、撤回を求める手続きに入る可能性を示唆しました。
ロイター通信などによると、メキシコのロペスオブラドール大統領は2020年12月末、2024年までにGMトウモロコシと除草剤グリホサートの輸入を段階的に禁じる方針を決めました。グリホサートは旧米モンサント(現ドイツ・バイエル)が開発した除草剤で、GM技術によってグリホサートへの耐性を持たせた同社製のトウモロコシや大豆の種子とセットで多く使われています。禁輸措置の理由として、GMでないメキシコの在来種を汚染する可能性や、人間に対して発がん性があるといったグリホサートの問題点が指摘されています。
ロペスオブラドール大統領は「われわれはGMトウモロコシを受け入れない」と明言しています。その後、禁輸措置を2025年まで1年延期する方針に転換し、譲歩する姿勢は見せています。しかし、米国はあくまで撤回を求めており、延期では全く不十分だとの立場です。
メキシコでは、GMトウモロコシはトウモロコシは家畜の飼料のほか、トルティーヤといった食品にも多く使われ、米国産の輸入全体の18~20%が振り向けられているということです。
米農務省(USDA)の統計によると、2021年の米国産トウモロコシのメキシコ向けの輸出は前年比16%増の1684万トンと、中国(1868万トン)に次いで2位で、全輸出量の24%を占めました。前年までは首位でした。2022年1~11月も前年同期比8%減の1408トンと、中国(1471トン)に次いで2位で、シェアは26%に上昇しています。いずれも3位は日本です。また、別の統計によると、2022年の米国のトウモロコシの全作付面積に占めるGM作物の割合は93%と、圧倒的な量を占めています。大豆と綿花は95%に上り、これら3品目はほとんどがGM作物です。メキシコがGMトウモロコシの輸入を禁止すれば、米国産トウモロコシのほぼすべてが閉め出されることになります。
これに先立ち、2022年11月にはビルサック米農務長官がメキシコでロペスオブラドール大統領に会い、禁輸措置を実際に発動すれば、貿易を大混乱させ、両国の農家を傷つけ、メキシコの消費者のコストが大幅に上昇するとして、「深い懸念」を伝えていました。「米国の農家にとって極めて重要な問題だ」として、米国の国益を損なうとの認識も示しています。
ビルサック長官は声明で「われわれは早急に解決策を見つけなければならない。見つけられなければ、米国政府はUSMCAの下での正式な措置を含め、あらゆる選択肢を検討せざるを得ない」として、ここでも貿易紛争に発展する可能性を示唆しています。さらに、「禁輸措置により、米国の農家に不当な負担が生じるとともに、メキシコの農業と国民にとっても莫大な経済的な損害が生じることも明確にしたい。両国間の通商関係にも大きな影響を与える」と指摘し、米国だけでなく、メキシコにも悪影響を及ぼすとの認識を強調し、方針転換を図るよう改めて求めました。