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「百年の恋」

最近時事ネタや社会的な話題が多いので
多くの若者が成人の日を迎えた今日は
ちょっと恋の話でも。

これは中学生の小春が恋をした物語。


中学2年生の春、好きな人が出来た。
意中の相手は同じクラスで
爽やかで成績もよく、スポーツもできて
さらにイケメンで学年の中で上位に入る
いわゆる、モテる男子だった。

みんなから「あっくん」と愛称で呼ばれる彼は
そのモテっぷりだが、恋愛にあまり興味のなさそうな
タイプであった。

クラス替えが終わった中2の春
「あの人が噂のあっくんだよ、カッコいい…」と
同級生の女子達が色めき立つ中、小春は彼を見た。その時は、特段何の感情もなかった。
小春はそういう面倒くさいことはどうでも良かった。
黄色い声を上げるより
体を動かして遊んだり、部活に打ち込んだり
そういう方が正直大事だった。

そんな小春はクラスの女子と建前上騒いではいたが
男友達の方が多かった。

ゆえに次第に女子から
「あの子、何?男好き?」と
邪険に扱われるようになる。
しかし、当の本人は邪険にされている方が
都合が良いとさえ思って
休み時間、男子と廊下や体育館を走り回っていた。

そんな男友達と遊ぶ仲間に例のあっくんもいた。

そしてたまたま、放課後遊んだ帰りに
二人になった。
小春とあっくんの家は中学校を中心に
真逆に位置していたので
小春は「また、明日ね!」と手を振って帰ろうとした。
その時「ダメだよ、一応女子なんだから」と
あっくんは、ニッと笑って小春を家まで送ってくれた。


たぶんその時に小春は、あっくんを
「男友達」ではなく「好きな人」と認識した。

いつも女扱いしない男友達が
女扱いした。
そのふいな出来事にときめいてしまった小春。

そこからだ。
毎日あっくんを目で追うようになったのは。

しかし相手は学年トップクラスのモテ男。
自分の恋心が周りにバレると
残りの中学校生活はきっと地獄だと思った。

そして好きな思いを心の内に隠したまま
小春は中3になった。

あと1年で卒業。

その言葉が、男女ともに火をつけた。
あちらこちらで
○○が告白しただの
○○と○○が付き合っていると話が出始めた。

そんな時に小春の耳に届いたのは
あっくんに彼女が出来たというニュース。

あっくんの事が好きと公言していた子も
密かに好きだった子もそのニュースに涙した。

かくいう小春は落ち込むことすら出来ずにいた。
落ち込んだら、自分の気持ちがバレる。
だから小春は必死にいつも通りを演じた。
いつも通りあっくん含む男友達と走り回った。

そして卒業式直前に、熱狂的なあっくんファンが一人
彼女があっくんに果敢にも告白する!と言い出した。

そして告白の後、あっくんは小春に言った。

「彼女ができても普通に遊べる女子は小春だけだ」と。

そこで小春は思った。
もう一生この恋心は届くことがないだろう。
今この瞬間、そして卒業して大人になっても
あっくんとは良き友達でありたい。
好きな人と一緒に楽しい時間を過ごせるなら
別れる心配のない「友達」でいよう。

それが小春の決断だった。


そして卒業式。
定番のように告白されているあっくんを横目に
まだ肌寒い風に吹かれて校門を出た。



月日は経って、小春は高校生。
あっくんや男友達ともたまに会って遊んではいたが
それも少しの間でお互いの高校での
人間関係を優先し自然とみんなが散り散りになって
会わなくなっていった。


小春は実に楽しい高校生活を送った。
それなりに好きな人もできたのだが
あっくんとは連絡を取り合うのをやめていなかった。
会うことこそなかったが、まるで親友のように
お互いの近況報告、愚痴、悩みを言い合っていた。



そうこうしている内に時は経ち
小春は買ってもらった振袖に袖を通し
晴れ着姿で、歩いていた。

成人の日。
まだ寒い中、暖かい式場に入ると
懐かしい顔がたくさん見受けられた。

そして、その中にあっくんもいた。

久しぶりの再会に皆がすっかり
ハイテンションになっていた。

小春も念願だった、あっくんとの再会に浮かれ
中学生の時のように心は跳ね上がっていた。


「○○中学!今夜同窓会参加する人は名前書いてー!」

紙とペンが回ってきた。
そこにはあっくんの名前もあった。
ほんのり期待を膨らませて
小春も名前を書いたのだった。



そして開催された
同窓会という名の、新成人の大宴会。


ある男子に小春は暴露された。
「実は中2の時、小春が好きでしたー!」

酒の勢いで暴露大会が始まった。
小春はその暴露に動揺したがこれはもしかして
チャンスかもしれないと思った。

ずっと隠してきたあっくんへの恋心。
そう、モヤモヤした気持ちとおさらばしよう。

ぐいっとビールを飲み干して
あっくんがいる方に目をやった。



しかし、小春の目に映ったのは
爽やかで文武両道なあっくんではなかった。

顔を赤くし、ビールジョッキを片手に
酔って、複数名の男子と上半身裸になっている。
可愛くなった同級生に今にも
キスをしそうな近さで迫り奇声をあげる
ただのどこにでも居るバカがそこに居た。



そしてその瞬間、小春の「青春」は呆気なく
音を立てて、後ろの方に引いて行った。


そして成人の日に見た
ずっと密かに思いを寄せていた人も
爽やかなイケメンではなく
着実に大人の男として、羽目を外し
醜態を晒していた。


あの時、気持ちを隠して正解だった。

そう思ってビールをもう一杯飲み干し
二次会への人波に逆らい
そそくさと家路に着いた。


百年の恋が覚めるとはこういう意味かと
学んだ、小春の成人の日は終わった。


その数年後

小春が青春を捧げたあっくんは
就職して上京。
そこで再会した、当時異色を放っていた
人形のように可愛い同級生と結婚したと
風の噂で 聞いたのだった。


しかしもう関係の無い事として
小春もまた新たな一歩を踏み出したのだった。

────────

という
全然甘酸っぱくない最後を迎えた
この物語。

フィクションかノンフィクションかは
ご想像にお任せします。

大人になることは
綺麗事ばかりじゃないこと。
でも、案外その先の人生楽しいこと。
それは私が今まさに感じています。

新成人の皆様。
そして昔新成人だった皆様。
成人おめでとうございます。

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まぴこ

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