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【読書記録8】村山由佳『PRIZE』

こんにちは!🍦マオ¦読書記録 です。
2025年8冊目に読了したのは、村山由佳さんの『PRIZE』(文藝春秋)でした。

2024.02.10読了

天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの?
……何としてでも認めさせてやる。全身全霊を注ぎ込んで、絶対に。
「どうしても、直木賞が欲しい」
賞(prize)という栄誉を獰猛に追い求める作家・天羽カインの破壊的な情熱が迸る衝撃作!

Amazonより

もうこれ、今めーっちゃ読書界隈で話題ですよね!「この本、本当に出版してしまっていいのか!?」って。
貪欲な承認欲求の話でもあるし、出版業界にいる人や読書好きな人たちにとっては“あるあるネタ”がふんだんに詰め込まれた嬉しい本でもある。

欲の色のような、濃いヴァイオレットカラーに玉虫色の箔押し。そう、緑とか黄緑とか蛍光とかではなく、玉虫色と言いたくなる……装丁もギラついていてとてもかっこいいです。PRIZEという文字が一部割れているところも。I(自分)だけ割れていないのもいいよね。真ん中にIがあるのもいいよね。PRIZEとかPRIDEとか。なんてのはまあ後付けかもですが笑

周りで読了される方が増えていくたびに「ウワ〜!私だって早く読みたい!」とうずうずしていたので、ようやく手に入れた二月上旬、満を持してページを捲り始めました。

とりあえず、ネタバレなしで感想をつらつら書いていくので、未読の方も安心してお読みください🧁

……あ、その前に私の村山由佳さん遍歴を少し。早く『PRIZE』の感想を寄越せよッッという方は暫しお待ちを。

私の入口は『おいしいコーヒーの入れ方』(集英社)。これ面白いのがね、中学生のときだったんだけど、小中と一番といってもいいくらい仲良しだった友達が、「これ面白いよ!おすすめ」って貸してくれたんです。で、『おいコー』シリーズって全19巻あって、そのときはまだ完結していなかったのだけど、このなんともプラトニックな、それでいてベッタベタな恋愛小説にどハマりして。

高校生の勝利(カツトシ、通称ショーリ)(余談だが、ショーリっておもろい渾名!などと思っていたらこの後々に佐藤勝利というマジモンのショーリが美しい顔面を備えて台頭してくるのであった)が、父親の転勤の都合でいとこの姉弟と3人で暮らすことになる……という、まあフィクションではよくありそうなんだけど間違いなくエンタメ性抜群でワクワクしちゃうやつ。そして勝利は5歳歳上のいとこ・かれんに惹かれていく――っていう、もうそれだけのシンプルな恋愛がどうにもこうにもあんたら最後までいくのに何巻使うのよ!?!?ってくらいもどかしいヤキモキが繰り広げられるわけですよ。

とにかくとても読みやすくて、中学生当時、元々本は大好きだったけど、そんな私にもドキューンと刺さり、1巻また1巻と読んでいくのが寂しく勿体ない気持ちになりながら読み進めました……🥺そう、それで何が面白いかって今こんなにも本が好きで、好きが高じて書店員にまで転職している私に『おいコー』を勧めてくれた友達が、今全く本読まないってことだね🤣どこでどう人に勧めたものがその人の人生に作用してくるかって、ほんと面白い。

いや、まあそれでね?『おいコー』で村山さんを知った中学生の私だったけど、それからは村山さんの作品を読む機会がたまたまなくて。ここ数年でまた本をたくさん読むようになって、『星屑』『二人キリ』を読みました。

『星屑』はスター発掘長編的な、引っこ抜かれてきた少女の才能と才能がぶつかり合い、プロデュースする側の大人たちの奔走もとても文章が生きてて、結構ページ数あるんだけど面白かったなあ。『おいコー』ももちろんそうだし、『星屑』も白村山👼🏻だね。

そしてほんとに最近、一年くらい前に書店員友達に勧められて読んだのが『二人キリ』。私は阿部定事件というものを知らなくて、評伝小説というのも多分読んだことがなかったんだけど、その書きっぷりに圧倒されたね。結構生々しい描写もあるしうえええっとなるところもあるんだけど、なんか読後も数日かけてこの話について考え込んでしまうくらい吸引力があった……これは黒村山😈。


それでだ。『PRIZE』。お待たせしました。『PRIZE』。
これもまた間違いなく黒村山でしょう!!😈

新刊を出せば初版一万部〜スタート、当然のように書店には平積み、本屋大賞にも輝いたことのある、押しも押されもせぬベストセラー作家の天羽(あもう)カイン

『PRIZE』の冒頭はこのカインのサイン会のシーンから始まる。現場には緊張感が漂いつつも、にこやかにつつがなく終了したかと思われるのだが……打ち上げの会食の終盤でカインはぶっ放す。

「じゃ、佐藤編集長。今のうちに終わらせときましょうか」
「何をです?」
「反省会」

そこからのマシンガンにダダダダダダと連射されまくるかのようなカインによるダメ出しに、読者はまずもうここで瀕死状態にされる。ちなみに顔見知りの編集さん、営業さん、――版元の文藝春秋に限らず他社にしても、皆さん一様に呼吸困難になったと言っておられた。

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40ページってめっちゃ多いよ!すごいよ!

ここまで読んだらもう既にこの物語に夢中である。私も新米書店員という身で出版業界の端っこに身を置く者なのだけど、知らない文学トリビアがたくさん!「それって例えば?」という声に、一部挙げるとすれば……

・単行本の初版部数の悩み
・〇冊刷ったときの印税っていくら?
・本屋大賞と直木賞の違い
・直木賞選考会に至るまでの過程
・選考会の結果連絡を待つ<待ち会>の様子
・直木ってなんか文春が獲ること多くない?の秘密・実態……文藝春秋との繋がりってなんなのか

・編集や校正から戻ってきたエンピツへのツッコミや反論
・編集者はどうやって原稿をより良くしていくのか
・原稿が上がり、一冊の本にまとまっていく過程や書店訪問の様子
・一蓮托生となっていく担当編集と作家の関係性

これ、全部書いてあります。もちろん、これ以外にもいろいろと。当然評論やエッセイではないので、ただこういう文学あれこれが解説されているだけではなくて、天羽カインというベストセラー作家が何度候補に上がっても直木賞受賞を逃す過程、次こそはと新作を練り上げていく過程を作家目線と編集者目線を織り交ぜながら描いたエンターテインメント小説です。

自分の作品を我が子のように愛し、そんな我が子を愛してくれる読者も同じように愛するカイン。その怒りの矛先が向くのは出版社……。難癖では!?!?と思うほど細かい落ち度を論って非難し、怒鳴り、怒りメーターが振り切れると目上のお偉方であろうと「おまえ」呼ばわりし始めるカインに、いくらベストセラー作家だろうが何様だよあんた!?とイライラする読者も多いだろうし、私も何度も辟易とした。でもそんな二面性が激しいカインは凄く魅力的なキャラクターで、「私の何がダメなの」と憤る姿は人間くさくて私は結構好きだった。

作中に出てくる文藝春秋の登場人物たちは皆ほぼ実名ということ。私はどなたのことかよく分かっていないけど、業界関係者なら「あの人ね」となるのでしょう……。他にも南方権三や宮野ゆきみなど、一般読者にも実在の作家を連想させるキャラクターがちょこちょこ出てきて面白い。そして「どのくらいモデルに近付けて書いているか」「あの人のモデルは誰なんだろう」と予想させる巧さ。答えは分からずとも、読者は好き勝手に思考を巡らせるのです……。

メインの書き手は天羽カインだけではなく、新人作家の市之丞隆志という人物がまた癖強で面白い(笑) Xでも度々話題になる<新人作家はデビューしてすぐ元の仕事を辞めるべきではない> <軌道に乗るまではしばらくは兼業でいくべきだ>というのは業績右肩下がりの昨今の出版業界では最早当然、常識ともいえる考え方なのだけど、それを平気で破ったり、素人新人作家のくせに、ベテラン編集者からのアドバイス、ここは削りましょうなどといった指摘に「やです。直しませんよ、僕は」「僕の小説なんだから僕が決めます」と頑として譲らない。

「なんやねんおまえ!いいから先輩の言うこと聞いとけや!」と思ってしまうのだけど……。態度のでかい新人作家に苦慮する編集者たちの心のうちにも注目です🙂‍↕️

これらだけでもエンターテインメント小説として一級品の面白さ。そして更に物語に深みとオソロシサを与えているのが……読了された方にはお分かりでしょう。あの人の存在なのですが……是非、この先はご自身の目でお確かめを。面白いですよ‼️‼️

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