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からあげキアゲハ③ハコイリなわたしたち。

からあげキアゲハのおうち

これは本物のからあげキアゲハの写真です。ウソみたいな話ですが、こんな風に虫かごはおろか囲いもしていませんでした。というのもこのキアゲハはいつも同じところにいたのです。別な葉っぱをを食べに出かけ、真ん中の葉っぱに帰ってきます。そして少し下におりてポトリとフンをしては、また同じ場所に帰ってくるのです。

我が家の小さな畑に毎年現れるキアゲハたちもまた、毎日同じところにいます。今朝も畑にいるキアゲハの幼虫を見てきましたが、やはり昨日と同じところにいました。いろいろなチョウチョウの幼虫を飼いましたが、ほかの幼虫たちは囲いをしないと逃げてしまいました。キアゲハには、おうちに棲む習性でもあるのでしょうか。

箱の中のキアゲハ

からあげキアゲハは、この開かれた閉鎖空間で順調に育ってゆきました。今や5センチ近くなり、1日1枚以上葉っぱを食べています。
ゴミ箱に捨てられて死ぬはずだったキアゲハがこんなに大きくなった!きっともうすぐチョウチョウにもなれるなれる!
わたしは、からあげキアゲハに奇跡を起こしたのだと鼻高々でした。

ある朝、いつもどおりアシタバを摘みに畑へ行った時のことです。気づけば季節は9月下旬。わたしが「ケムンパスシーズン」と呼ぶ、いろいろな幼虫が畑に現れる時期です。例に漏れず、畑のアシタバにもたくさんのキアゲハの幼虫がいました。そしてびっくりしたのです。彼らはに比べて、わたしのキアゲハは随分か弱く見えました。

ごはんに不自由はしていないはずですし、窓際において日が落ちたら暗い部屋においていましたから、外界と似た環境にいたはずです。「家」と「外」の違いがこうも歴然と出るものかとわたしはショックを受けました。

井の中の蛙なわたし

ところで、立派に育ったアシタバからは、ツボミがたくさん出ていました。それが冒頭の写真です。まるで親指姫みたい、と数年前に撮った写真です。外のキアゲハたちはこのツボミをもりもり食べていました。その時わたしは初めて彼らはツボミも食べるのだと知りました。そして慌ててツボミを摘みました。わたしのキアゲハにも食べさせてあげたかったのです。

最初から外に逃がしてあげれば、太陽の光で目を覚まして、月の光を浴びながら眠れたのに。仲間と一緒に暮らせたのに。
「きみはもっと、いろんな世界が見たかったかもしれないねぇ。」
その日わたしはキアゲハに謝りました。
奇跡を起こしたと思ったじぶんを、恥ずかしく思いました。

せっかくツボミを摘んできたのに、その晩キアゲハは何だかソワソワとして、なかなか葉っぱを食べようとしませんでした。まるで、どこか別な所にじぶんの居場所を探しているようでした。蛹になる時が近づいています。
「おいしそうだよ。食べてよこのツボミ。」
からあげキアゲハから奪ったものの大きさを思って、わたしはとても悲しくなりました。

翌朝、キアゲハはまだ幼虫のままでした。そしてツボミをもりもり食べていました。わたしはほっと胸をなでおろすと同時に、お別れが近いことも感じました。


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