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コーヒー&ムービー&ブック&ラーメン&シガレッツ

長い鉄橋の欄干には既に電気燈が輝いている。淡き夕の星光も三ツ四ツと、憂鬱なる蒼白い空から燦き初めると、広漠たる河口の空を遮る佃島や石川島の建物、さては両岸に立連なる人家の屋根は、等しく暗い夜の影の中に沈もうとして、新しい燈火の光が殆ど数限りなく水の上に流れた。

永井荷風『夢の女』
岩波文庫より

明日から金曜日まで北陸に出ることを念頭に、本日は日曜日なれど何処に出る訳でもなく、ゆるりと時間を過ごした。

普段、夜の時間帯を除けば自宅で映画を観ることが少ない。しかし貴重なる休日には変わりないゆえ、昼過ぎまで寝転がっているわけにゃいかんと思い立ち、11時頃より3本立てで鑑賞(オンザベッド)

先ずは『パーム・スプリングス(2020)』、次に『ワイルドキャット(2022)』、最後に『コーヒー&シガレッツ(2003)』という流れ。

(C)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

『パーム・スプリングス』はコメディ色の強いタイムループもので、まさに現代の娯楽映画といった作品。そういえば今年に入ってからこの類の作品は観ていなかったな、なんて思いつつ、やはり観易いな、なんてことも。

最近はドラマものだったりアートちっくな作品を観ることが多く... 正直に申し上げますと睡魔に負けてしまった作品も少なくないもので。「そうそう、これこれ」といった感覚が少なからずありました。

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作品についても少し。繰り返される日常、自らの周囲に何の変化もない日常に意義を見出す。或いは安楽的な日々から嫌悪していた日常への回帰、といった点は極めて現代的な観点でもあるなと。

当然ながら大抵の人々にとってのこの世界は、規範に雁字搦めにされ続けたがため、そのことすら忘れてしまうような、理想郷とは程遠いもだ。そんな中でニヒルに走るのではなく、どう生きるのか、何を見出すのか。ちょびっと考えさせられました。

Wildcat | Prime Video

さてさて。『ワイルドキャット』は打って変わってドキュメンタリーもの。アマゾンの熱帯雨林で行われる動物保護活動に携わる若者を追う。彼は退役軍人でPTSDの症状を持っている。

ヤマネコの自然復帰補助を軸としながらも、作品の主題となるのは彼の心のレジリエンス。ヤマネコを心配して情緒が不安定になる彼に、見てるこちらが心配させられるほど...

Wildcat | Prime Video

ヤマネコをはじめとする自然との関わりと、彼を支える仲間や家族。先の『パーム~』ではないが、〈ひとはひとりでは生きてゆけない〉ということを強く実感させられた。

ドキュメンタリー映画はちょうど一年ほど前に観た『オクトパスの神秘』以来であったが、蛸さん同様に当作の出来も素晴らしかったと思う。他の作品も積極的に観ていこう。

(C)Smokescreen Inc.2003 All Rights Reserved.

ジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』は見直しという形。というのも以前観た際に 一ベッドの上で観たのを覚えている一 序盤で眠ってしまい、そのまんまになっておりまして。

だいぶ間が空いちゃったので初めから。ああ、ここ面白いよな〜なんて思いながら眺めていた前半部のまま、最後まで軽めのスタンスで鑑賞。リズムの悪さがまた良いのなんので。

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終始流れる気まずい空気感と、それを淡々と映し出すカメラ。これで笑えるってのは性格が悪いからなのかなんなのか。ユーモアという言葉が当てはまるのであれば、それはそれで人類の素晴らしい機能ではないのなんて言ってみたり。

というわけで3作を観終えてからは自宅近くの喫茶店へ。いつもはアイスティーの所をアイスコーヒーにする。とはいえ苦いものの気分では無かったゆえ、シロップはふたつ入れた。

荷風の『夢の女』を読み、読み終える。昨日の『冬の宿』といい何が好きで斯様な暗い物語を読まねばならんのだと、数分前に本棚から選書した自身に憤りつつページも捲り、捲り、捲る。

読了する頃にはあら不思議、作中の顛末に反して、悲痛或いは悲哀の感があまり残らない。緻密かつ都雅の漂う情景描写への感服が勝ったのだろう。何にしても良いものを読んだ。

清々しい気分で、前々より気になっていたほど近くのラーメン屋〈あかぎ〉へ。濃い、旨い、、、旨い!!!2種類のチャーシュー(これにまたスープがたんと染みる)と玉葱のアクセント、しっかりスープに絡む中太麺の歯応えまで。

ROTY2023(Ramen of the Year)のファーストノミネートです。ちなみに昨年は〈麺屋 勝時〉が初登場初グランプリを飾っている。今年も熱い闘いに期待している。

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