花顔柳腰(月と六文銭・第22章)2
花顔柳腰:容姿の美しい女性を言い表す言葉。花顔は花のように美しい顔を指し、柳腰は柳のように細く、しなやかな腰を指す。
山名摩耶は三枝のぞみの大学からの親友で今時珍しく果敢に冒険をするタイプの女性だった。のぞみの交際相手・武田が年上でお金を持っているのは知っていたが、のぞみがどんな付き合いをしているのか興味津々だった。山名は武田と直接知り合う機会が訪れたが、そこから彼女のちょっとした冒険が始まった。
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電話の向こうで二人が話しているが、武田にははっきり聞き取れない。
のぞみ(N):あ、もしもし、「興味津々だから行く!」って(笑)
私たちの「愛の巣を拝見したい!」んだって。
武田(T):愛の巣か🤔
可愛いような、エッチなような、微妙な響きの言葉だね。
一応、のぞみさんの好きなデザート・ワインを冷やしておくよ。
N:ありがとう!
摩耶もウンウン頷いているよ(笑)
駅で何か買って行った方がいい?
T:ケーキでも、食べ物でも、好きな物を。
N:哲也さんは食べたの?
T:まだ。
本当に一歩も出ていないんだ。
N:じゃ、何か買って行くね。
T:ありがとう。
時間があったらケンタの和風カツサンドセット。
N:あれ、好きよね(笑)
ケンタ含め、今から1時間ほどで着くと思うから。
T:はい、気を付けて!
N:ありがとう。
一応、片づけておこう。そう思って武田は、使い終わった資料を整理して紙フォルダに戻し、本棚をずらして、その後ろにある隠し棚に立てた。"仕事"用ノートPCもロックして隠し棚に立てて、見えなくなるよう本棚を戻した。ちょうど反対側がベッドルームのキャビネットでまさか本棚とキャビネットの間に隠しスペースがあるとは誰も気が付かないだろうし、壁を叩いても分からないようにしていた。
武田は壁に掛かっている大画面をつけて、英国諜報部の敏腕スパイがアストン・マーティンでイタリアの片田舎を爆走するシーンから始まる英国映画を見始めた。
***
のぞみの正確さは中々大したものだと武田はいつも思っていた。電話を切ってから60分ぴったりで到着した。
のぞみの後ろに立っていたのは髪はあまり長くなく少しボーイッシュだが、目力が強く、格闘したら圧倒されそうな身体能力を持ってそうな女性だった。
のぞみ(N)「ただいまぁ」
摩耶(M)「うわぁ、『ただいま』って言うんだ。
すっかり同棲中みたい」
N「もう、摩耶ったら!
哲也さん、大学時代からの大親友の『山名摩耶』さん」。
摩耶、私の哲也さん」
摩耶は「私の」にピクッと反応し、何か言いたそうだったが、それを飲み込んで、武田に挨拶した。
M「はじめまして、悪友の山名摩耶でーす。
ノゾ、あ、いつものぞみのことをノゾって呼んでいるんですけど、ノゾの恋人の哲也さんのことは、かねがねお聞きしておりまして、今日お会いできて光栄です」
武田(T)「摩耶さん、哲也、武田、哲也です、はじめまして!
光栄なんて、お恥ずかしい。
会えるのを楽しみにしていましたので、さあ、どうぞ」
M「ありがとうございます!」
玄関がいっぱいになってしまうので、のぞみは靴を脱いでそのまま上がった。土間に残された摩耶はブーツを脱ぐ際、ジャケットが開け、武田が上から見下ろす形でEかFカップの大きな胸がドーンと目に入った。ブラウスをわざと空けておいた可能性があるが、元々こういう着方をする人かもしれなかったので、ガン見(凝視)しないようにした。
<左右バランスが取れていて整った顔、バンと張った胸、EかFカップくらいの。腹は出ていないから幼児体型ではない。それにブーツを脱ぐ時のあの腰のしなやかさ。花顔柳腰と称されるタイプの女性だ>
美人を表す四字熟語は幾つかあるが、花顔柳腰は花のように美しい顔と、柳のように細い腰のこと。こうした言葉には他に、解語之花、閉月羞花と沈魚落雁がある。
「解語之花」は人の言葉を理解する花。転じて美女の喩え。唐の玄宗皇帝が「蓮の花の美しさも言葉を理解する花には及ばない」と楊貴妃の美しさを讃えて言ったという故事からこの言葉が生じたとされる。
「閉月羞花」は月も恥じらい姿を隠し、花も閉じてしまうという意味で、並外れた美しさの女性の喩え。
「珍魚落雁」は魚や鳥も恥じて隠れるほどの美貌を持った女性の形容。
「沈魚落雁」と「閉月羞花」は対を成す言葉。美人画の題材として扱われると「沈魚美人」「落雁美人」「閉月美人」「羞花美人」という四人の伝説的な美女を形容する言葉となり、「沈魚美人」=西施、「落雁美人」=王昭君、「閉月美人」=貂蝉、「羞花美人」=楊貴妃が描かれる。
摩耶は武田の方を向き、ブーツを揃えながら、ちょっと肘を絞めて胸を突き出した。のぞみよりは2カップ以上サイズが上なのは明らかだった。胸の谷間は深い。それを目撃して息をのんだ武田を見て、摩耶がニヤッとした。彼女はのぞみの親友だが、悪戯好きだった。そして、武田ものぞみも今夜の展開は全く予想をしていなかった。
テーブルに野菜スティック、ビール缶、そしてケンタで買ってきたものを広げ、のぞみと摩耶は奥のそれぞれの角に座り、武田は二人から桂馬飛びのような位置にあるキッチンに最も近い席に座った。
女性陣はガールズトークで盛り上がり、武田は秘密の女子会に紛れ込んだような雰囲気で、聞く話、聞く話、驚きの連続だった。男性が女子会に参加してはいけないのは、その内容のエロさだったり、エグさだったり、男性のくだらないトークに匹敵するかそれ以上にくだらないからだった。
二人の会社などの職場の男性評は辛らつだったし、摩耶は合コンで会った男性に持ち帰りされたけど下手クソで幻滅したとか、赤ちゃんプレイを要求する変態がいたとか、全然いい男がいないと絶望的発言が続いた。のぞみはどちらかというと職場でいまだに男性が優先される運用の現場に不満を漏らした。
残念ながら、のぞみが合コンで持ち帰られた話とか、ワンナイ(ワンナイトラブ)をした話は出てこなかった。摩耶がまだ酔っていなくて気を付けていたのか、本当にないのかはのぞみ本人しか分からない。
武田は内心ヒヤヒヤしながら二人のあけすけな話を聞いていた。
<のぞみは本当に真面目なんだな。摩耶と一緒にいて、これだけ羽目を外すチャンスがあるのに、何も出てこない>
のぞみと摩耶はさすが大学の同級生だからか、話の土台が共通だったし、年齢の違いとか、業界の違いとかで考えこむことなく、すぐに話の内容が互いに分かるからどんどんエスカレートした。
そして、武田が恐れていた二人のラブライフ(?)に摩耶がメスを入れ始めた。
「武田さん、ノゾに聞いたんですけど、彼女、毎回イってるって本当ですか?」
自分たちの父親くらいの年齢の男性でも物怖じせず話す摩耶は逞しいが、のぞみにしてみたらヒヤヒヤもので、厚意で遊びに来させてもらったホストに対して失礼だし、そもそも最も秘密にされるべき"愛の行為"について面と向かって質問するなんて、とも思った。
T「いや~、それはのぞみさんの自己申告だから、僕が判断できることじゃなくて…」
M「自分で言ってるんで、たぶんノゾは毎回イってると思います。
昔から感じやすいんですよ。
女子会で旅行に行って、夜くすぐったら、メチャくすぐったそうだったし」
N「くすぐったいのは昔から。
でも、感じやすいのとは…」
M「武田さんが上手いのは別物っていうの?」
N「え、そういうツッコミ、私、弱いの知ってるでしょ?」
M「だってさ、武田さん、うまそうなんだもん」
N「え、どうして?
どこから分かるの?」
M「手、というか指。
指も手もメチャきれいだし、すごい細かい動きができそうだから、クリ攻め、メチャうまそう。
ノゾ、うらやましいよ。
アタシなんてハズレばかりで」
N「あの人は?
ほら商社で資源を担当している…」
M「金はあったし、美味しいものも知ってたけど、下手クソで」
のぞみも武田も目が点になりつつあったが、構わず摩耶は続けた。
M「あそこデカいくせに使い方知らないし、顎が痛くなるまで口でさせるんだよ。
遅漏で最低!」
N「大きいのが、好きだったんじゃないの?」
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