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ラデュレ(07)

 アフタヌーンティーをすることになった浅間唯あさま・ゆいは明るく、快活という感じの女性だった。冷静に見ると計算して明るく振舞う「あざとい」系と思われたが、車に詳しいことが楽しい時間を期待させた。

 浅間くらいのスタイルの女性がたくさんいることを知っている武田にしてみたら、浅間が上から目線で話すのが気になった。
 断られる前提で、浅間にSMプレイを提案してみたが空振りに終わった…。


浅間「武田さん、私では不足ですか?
 何か足りませんか?
 失礼がありましたか?」

武田「いいえ、全然問題ありませんよ。
 浅間さんみたいに素敵な女性と楽しいひと時を過ごすことができたら嬉しいですよ。
 ただ、焦って関係を作っていくのが果たして正しいのか?
 ちょっと立ち止まって考えてほしいだけです」

<なんか、上手く丸め込まれている気がする。いや、ヨーコの言っていたことに嘘も偽りもなく、武田はいい人そうだ。絶対はないけど、多分変なことはしないだろう。付き合ってみるか>

浅間「武田さんさえよければ、この後の時間、私、空けてあるのですが…」

<板垣陽子はのぞみの存在に気が付いているのに、この子を僕にぶつけてきたということは、この子がいい子である自信があるし、のぞみにバレずに楽しい時間を過ごすことができると思っているからこその紹介なのだろう>

武田「試したい玩具があるのですが、そこから始めてもいいですか?」

浅間「いや、機械入れられて、イかされるのは、お断りしたいです」

武田「人間のならいいのですか?」

浅間「ご、む、着けてもらえるなら」

武田「大きな玩具にゴムをつけるのはダメですか?」

浅間が苛立ってきた。

<アタシはアンタの玩具じゃないんだよ。他で探すわ!>

浅間「今日はありがとうございました。ごちそうさまです」

 浅間は立ち上がり、軽くお辞儀をして、そのまま店から出ていった。

 武田は携帯電話を取り出し、板垣に掛けた。

武田「陽子さん、浅間さん、怒って帰っちゃった」

板垣「玩具入れたいとか言いませんでした?
 彼女は私と違ってそう言うのはバツなのよ」

武田「大きくてぶっといの入れるよ、ゴム付きで、って言ったら」

板垣「もう!
 秘密厳守のいい子なのに。
 前彼というか前の人は岩佐正一いわさ・しょういちよ。
 めっちゃ口堅い子よ。
 ユイと正一さんのことを知っているレース関係者、ほとんどいないくらい守られた秘密よ」

武田「君は今、僕にバラしてしまったけど」

板垣「もう終わった話だからよ」

武田「好きではないタイプです、岩佐。
 サーキットでのマナー悪い人です、かなり」

板垣「そうなんだけど、それは置いといてください」

武田「浅間さん帰っちゃったので、僕も引き上げますよ」

板垣「ちょっと切りますけど、すみません、そのまま待っててください」

 板垣陽子はそう言って一方的に電話を切った。
 武田は3杯目の紅茶をゆっくり口に含み、携帯電話の画面に映し出される「アサマ・ユイ」のレースクィーン姿、ファッションショーでのランウェイ姿、モーターショーでのショートパンツとノースリーブのキャンペーンガール姿を見ていた。

 ドサッと音がした。浅間が再び武田の前に座った。

浅間「オモチャは無し、その代わりナマでもいいわ」

 浅間は座るなり、一方的にセックスの条件を突き付けてきた。
 武田は内心驚いていたものの、冷静に画面から目を上げ、浅間を見つめた。

武田「それでは行きましょうか?」

 武田が立ち上がろうとすると、浅間は「えっ?!」となって武田の手を取り、動きを止めた。

 浅間は、もし今日、武田が「大人の関係」を求めたら避妊具付きで応じるつもりだった。正直に言えば、危ない時期だった。普段はピルを服用しているのだが、今はちょうど飲んでいない時期に当たっていた。
 先ほど「この後の時間、私空けてあるのですが…」と誘ったのは浅間の方だった。その誘いに武田が応じただけで、浅間が立ち上がれば、この話はこのまま成立する可能性が非常に高かった。
 浅間は口に出さず、目で武田が座り直すよう懇願しているように見えた。
 ちょうど入替えの時間帯に入ったのか、いくつかのテーブルからカップルが立ち上がって会計に並び始めていた。
 両サイドのテーブルが空いてためか普通に会話しても大丈夫となったので、二人ともストレートに要求を出し合った。

武田「あれ、ダメなのですか?
 先ほどは、アナタからのお誘いだと思ったのですが」

浅間「それはそうなんですが、今夜は、その…」

武田「ピル抜き期間で、ゴム無しではできないということですか?」

浅間「え、えぇ、そういうことです」

 武田は立ち上がり、浅間を促して、会計に向かった。

浅間「今夜は…」

武田「今夜は連絡先を交換して、いろいろ整えてから次にお会いする時にいかがでしょうか?」

浅間「は、はい…」

 浅間は不満そうだったが、ここで無理に武田と関係を持っても続かないかもしれないなと思いなおして、一旦引くことにした。
 武田が会計を済ませ、ペニンシュラの方に向かって歩き出した。浅間はもしかして、と一瞬思ったが、武田が大通りでタクシーを捕まえるのを見て、今夜は引いて正解だと思った。

武田「どうぞ」

浅間「あ、ありがとうございます」

 武田は浅間をタクシーに乗せ、タクシー代を渡して彼女を帰した。

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八反満
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