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花顔柳腰(月と六文銭・第22章)14
花顔柳腰:容姿の美しい女性を言い表す言葉。花顔は花のように美しい顔を指し、柳腰は柳のように細く、しなやかな腰を指す。
山名摩耶は三枝のぞみの大学からの親友で今時珍しく果敢に冒険をするタイプの女性だった。のぞみの交際相手・武田が年上でお金を持っているのは知っていたが、のぞみがどんな付き合いをしているのか興味津々だった。山名は三枝と武田の部屋に遊びに行って、直接知り合う機会が得たが、そこから彼女のちょっとした冒険が始まった。
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一度、行ってみようかとなって、のぞみを秋葉原の「ピンク・ビル」に連れて行ったことがあった。ところが、人の多さと、色とりどりのアダルトグッズの数の多さ、異常な熱気に圧倒されて、すぐにのぞみは武田の袖を引っ張って、店を出たいと告げた。結果的に何も購入せず、早々に退散したのだった。
「あのお店は凄すぎて、私は圧倒されちゃったわ」
のぞみは熱気や異常な雰囲気よりも、アダルトグッズの種類と数に圧倒されて、脳がオーバーヒートしたようだった。正直なところ、どうやって使うのかも想像つかない玩具があったり、エッチな衣装、精力剤などが所狭しと並んでいて、のぞみにとってはいきなり北京かモスクワの真ん中に放り出されて前後左右が分からず、精神的に救いを求める展開になってしまった。
「ちょっと私には情報過多だった。
どう使うのかも想像つかないものもあったし…。
もし、ああいうものを買う時はオンラインにしましょ」
そう言って、のぞみは武田がオンラインで大人の玩具を買う時は一緒に画面を覗き込んで意見を言ったが、二度と実店舗に行くことはなかった。
<そうだ、摩耶は「デカい」ペニスにはコリゴリだったから、細身のスレンダーなディルドゥに定番のピンクローターで丁寧に攻めて、最後はきっちり男根でイかそう>
***
一杯だけという約束で、フルーティーと話題のイタリア産スパークリングワインがテーブルに置かれ、スーツは着ているものの、いかにも軍人上がりという感じの体格・体型の男性と、胸の谷間を強調したスーツを着た女性がテーブルを挟んでいた。再会を喜んでいるようで、二人とも笑顔で話していた。
「大佐、ようこそ東京へ」
「ありがとう」
「乾杯!」
「乾杯!」
「今回手配した日本循環器病院は、日本で最高レベルの病院で大佐の心肺機能の改善が実現しますよ」
「日本のこの分野の手術は最高レベルだし、欧州でも米国でも命を狙われているから、今回密かに日本で手術を受けられるのはラッキーだったよ。君の知人の手術医は世界でもトップテンに入る名医だから、安心だよ」
「高井先生はバイパス手術の件数及び成功例では日本屈指、アジアナンバーワン、欧米の医学雑誌にも名前が載る名医です。安心して手術を受けてください」
「ああ、しかも、密かに日本に入国できたのも、君のNGOが患者名簿を」
女性は人差し指を唇の前に持ってきて、軽く口を開いて、シーと息を吐いた。
「順番を待っている患者がたくさんいるのですから、あまり名簿の話は…」
「おう、そうだったな」
「ええ、こういったものは世間から批判を受けやすいものですから」
「ああ、分かっているさ。
ところで、食事の後…」
「それも口にしないでください。
正規のコンサル・フィーは頂いていますが、今回も私に別途払込みがあったことはきちんと認識していますよ。
大佐にはとても感謝しているので、この後、きっちりお礼の続きをさせてもらいますわ」
「おう、手術前だから、あまり激しいのはダメだろうけど、楽しみだ…」
「大丈夫ですよ、万事はヨシコにお任せください。
気持ち良く手術に向かえるよう、相手をさせてもらいますから」
医療コーディネーター・河島良子は世界中の元首や指導者の健康管理に関する質問に答える国際コンサルティング会社の敏腕コンサルタントだ。適切なアドバイスから、医師団・医療顧問団の派遣、第三国での手術やケアなど、特に指導者が周囲に相談しにくい健康問題に対応していた。
今回、アフリカにあるリベーリア共和国の実質支配組織、リベーリア円卓会議の書記長・ミンナグ・ウォーラン大佐が依頼主だ。国外で無事に心肺バイパス手術を受けさせるのが依頼内容だ。特に重症ではないものの、万一倒れて、暴動や革命につながることを避けたい、或いは健康問題があると知られるのを避ける目的で日本での極秘手術を希望し、河島が派遣された。
大佐はコンサルティングに訪れた河島を一目で気に入り、会社への料金の支払いのほかに、河島にも別途コンサル・フィーを払っていた。通常の個別フィーの4倍ほどが河島のものになる予定だったが、東京都心でマンションが買えるほどの額に上る個別フィーの意味するところを河島も理解し、大佐の出国前に何度も夜のお付き合いに応じていた。心臓に「爆弾」を抱えている大佐は、取り敢えず丁寧に河島を扱い、河島は彼が期待する日本女性の細やかさで応対したため、彼はすっかり彼女に心を許していた。
日本への入国が無事に実現し、大阪と名古屋を廻り、明日の手術のために東京入りしていた。
今夜は心と体の準備をするため、午後4時以降は食事もダメ、運動や飲酒もダメだった。そこで河島が提案したのは、ハイヤットでのランチと「その後の彼女との時間」だった。手術後しばらくは安静にしていないといけないということは、当然、河島に夜の相手をしてもらうのもダメだったからだ。
ハイヤットの最上階のイタリアンレストラン「フィオレンツィア」のスペシャル・ランチは魚と肉の両方がサーブされるコースで、本来なら大佐は魚に白、肉に赤のワインを合わせたいと思っているところだったが、手術もあり、一杯目だけはスプマンテ、後はノンアルコールワインで我慢していた。
「奥様達は?」
「初めは嫌がっていたが、スイスの学校に子供達を入れ、アイツもリゾートでのんびりすることを覚えたようで、だいぶ苦情が減ったよ」
確かに故国を離れ、外国に無理やり送られたことに散々文句を言っていた大佐の妻は、現地でエスコートしてくれる男性が現れて、だいぶ気持ちが和らいだようだった。
<実は相手が「ロメオ」なんだけどね>
河島は大佐の妻の相手が何者かを知っていた。大佐は妻が若い男性と逢っていることを薄々感じていたがリゾート地にいるジゴロの類だと思っていたようだ。
大佐の妻・エレーネは故国の上流階級出身だったが、二女だったため、エリート軍人だったウォーランと結婚し、家を出た。妻の実家のバックアップもあり、ウォーランは順調に出世し、自分も贅沢を続けることができた。
しかし、政変が起こり、夫が国家運営委員会「リベーリア円卓会議」のメンバーになってから、命を狙われていると言われ、外国で生活することとなった。
初めは慣れない環境、知り合いがいない状況などにストレスを溜めていたが、会員限定の施設で知り合った別の国の大使館員マークと親しくなってから精神が安定した。
このマークはオランダ大使館の事務官だったが、下級官吏らしく、お金がたくさんあるわけではなかったが、教養は高く、それなりに洗練されていて、一緒にいて楽しいと思えた。
もちろん、近くに夫はいないし、子供達は学校に行っているので、時間を持て余していて、ジムに行ったり、ブリッジクラブに顔を出したりしながら、マークとの時間を捻出し、やがては昼間の情事へと発展させていた。
河島は組織が大佐の喉元を押さえるため、ロメオを送り込んでいるのを知っていた。
ロメオというのはハニートラップの男性版で、大使館の女性事務官、上級軍人や大使館員の奥方たちを色仕掛けで取り込み、秘密を聞き出したり、自分たちのために秘密工作をさせたりする工作員のことだ。
大佐の妻・イレーネに組み合わされたのはオランダ出身の長身で細マッチョのマークだった。優しい笑顔とジムでの運動や機械類に詳しいこと、そして、オランダ娼館で教え込まれた性技で一般女性をあっという間に虜にするのが得意技だった。彼は見た目のチャラい雰囲気と違って、任務に忠実な工作員で、これまでメディア王の妻やイタリア富豪の娘、旧東欧某国の独裁者の「姪」をコントロールし、重要な情報をしっかり入手したり、彼等に間接的な影響を与えてきた。
想像と違い、ハニートラップは短期にしか効果がないことが諜報の世界では知られていた。ロメオの方が長続きし、かつ、気付かれずに情報を引き出したり、工作を実行するのに役立ってきた。
「欧州のリゾートではお金持ち同士のお付き合いが難しい時もありますからね。
もちろん慣れると大佐の奥様と同じような境遇や背景の女性たちがいますから、すぐに仲良くなって今の境遇を受け入れるようになり、落ち着きます」
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