月と六文銭・第十四章(20)
田口静香の話は続いていた。厚労省での新薬承認を巡る不思議な事件の話に武田は引き込まれ、その先の展開に興味を示していた。
高島都は、パイザーのネイサン・ウェインスタインと彼の上司のヴィンセント・オイダンとホテルの最上階のバー楽しく飲んでいたが、ウェインスタインの過去の話が出てきた。
~ファラデーの揺り籠~(20)
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日本と違い、米国では夜の夫婦生活はコミュニケーションの一つだから、男性側が元気ないと夫婦の危機につながる。医者に行って「青いピル」を処方してもらうことも、夫がそれを使うことも夫婦ともに抵抗がない場合がほとんどだった。ED自体が医者の処方箋が出る病気と認識されているからで、日本では隠したり、恥ずかしがったりすることが多いと思われる。
いや、もしかしたら、日本で「青いピル」が活躍するのは年配の男性が若い女性と頑張りたい時かな、と思った都はオイダンに話を振ってみた。
「ヴィンセントは、使っているの、青いピル?」
「私は幸い、まだ必要がなくてね。今のところ、まだ妻も満足してくれているようだよ」
「まぁ、奥様がうらやましいわ」
都は笑いながら、パンパンとオイダンの上腕を叩いたが、鍛えられているようで、意外と硬かった。
都は次にウェインスタインに話を振った。
「ネイサンは若いから、まだ必要ないよね?」
都は悪戯っぽい笑みを浮かべて、テーブルの下で思わせぶりにウェインスタインの手を握り、彼の視線が自分に向けられているか確認した。
「僕は当分いらないと思いますよ」
都はウェインスタインにたたみ掛けた。
「あら、本国に恋人がいらっしゃるのかしら?」
昨日無理に誘ってこなかったのも、毎晩決まった時間に携帯電話を見ているのも、時差のあるアメリカに恋人がいて、定期的に連絡を取っているからかな、と思いついたので、聞いてみたのだ。
「想像に任せますが、僕はずっと軍隊に行っていて、恋人がいない状態が長いんです」
都は何か聞けるかもと思って質問を続けた。
「軍人だったんですか?イラクとかアフガニスタンに行ったことがあるの?」
「イラクにね」
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