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過剰なほど親に守られていた彼が親になった話
「もう無理です」
2年前のある日、一人の若手社員が「もう無理です」と涙を流しながら人事の私の席を訪れました。彼の言葉の背景には何があるのか。私はすぐに彼が落ち着いて話せる場を設けて話を聞くことにしました。
勤怠記録と上司のマネジメント状況を調査
彼は「残業が続き、労働基準監督署に駆け込むレベルだ」と訴えていました。そこで、調査をすることになったのですが、勤怠記録を確認すると、22時を過ぎる残業があったのは3日程度(直近一年間という期間で確認)で、忙しかった期間も直近約3週間でした。勤怠の観点からは大きな問題は見つかりませんでした。
また、上司のマネジメントについても調査しましたが、パワハラなどの問題は確認されませんでした。ただ、部署全体が多忙を極めていたことは事実であり、上司自身もプレイングマネージャーとして負担が大きい状況でした。そのため、彼が求めるほどのサポートが十分に提供されていたとは言えない部分もあったかもしれません。
一方で、マネージャーは彼の業務経験(3年目)を考慮し、「これまでできていた業務なら、今回も十分こなせるはずだ」と判断して業務をアサインしていました。
最終的な調査の結果として、組織として大きな問題はないと判断しました。
突然の診断書と親の関与
そんな中、彼は「労基署に行く」と言いながら、後日「うつ病」と診断された医師の診断書を持ってきました。会社としては診断書が提出された以上、休職手続きを進めざるを得ません。
手続きの説明をしている際、彼が漏らした言葉が印象的でした。
「自分よりも両親が怒っていて、労基署に行けだの、知り合いの病院で診断書を書いてもらえだの言われて、結局こうなった」
彼自身は「少し休んだことで調子も戻ってきた」と話していましたが、親の圧力により「引くに引けない状態」になってしまったと嘆いていました。
さらに、彼の兄弟も同年に別の会社を退職し、その際に労基署に相談、現在は労働裁判中とのことでした。そのときも親が大騒ぎし、「子どもを守らなければ」という思いから周囲を巻き込んでいたそうです。
彼は「親がいろいろ言うから断れなかった」と苦笑いしながら話していましたが、その目にはどこか無力感が漂っていました。親の愛情が強すぎるがゆえに、彼自身の選択肢や自由が狭められていたように見えました。
人事として伝えたこと
診断書の件を聞いて、私は「信頼できる第三者の医師に診てもらい、適切な治療を受けて元気になろう」と伝えました。
また、「親の意向に頼りすぎるのではなく、自分の意思で決断し、歩んでいくことの大切さ」についても話しました。
なぜなら、彼は数ヶ月前に会社の同期と社内結婚し、新しい家庭を築いたばかりだったからです。これからは親の意見だけでなく、自分自身が家族を守るという自覚を持ち、自立した選択を後押しする必要があると感じました。
その後の彼の決断と新しい道
最終的に、彼は会社に復職することはありませんでした。うつ病の診断書を提出してしまった手前、「すぐに戻るのは難しい」と判断したのかもしれません(これも親の助言が影響した可能性があります)。彼は地元企業に転職し、そちらで新たなスタートを切りました。
守られる側だった彼が、守る側に
退職後、彼は新しい職場で働き始め、家庭の生活を築いていきました。その後、彼の配偶者でもある女性社員から妊娠報告を受け、私が妊娠手続きの説明をするために面談を行いました。その際、彼の近況を聞くことができました。
「彼、いま新しい職場で頑張ってますよ」と彼女が笑顔で話してくれました。「ただ、転職して一年経っていないので男性育休は取ってもらえませんでした。そこが少し残念ではあります」と少し残念な顔で話していました。
そしてつい先日、その赤ちゃんが無事に誕生したと報告がありました。かつて親の過剰な愛情に守られていた彼が、いまは父親として家族を守る側に回った―その事実に、時の流れと人の成長の可能性を強く感じました。
守るだけでは守れない――未来へのメッセージ
守ることは簡単ではありません。ときに親の愛情が子どもの自由を奪い、未来を狭めてしまうこともあります。しかし、子どもの力を信じ、寄り添うことでしか得られない成長があります。
「あなたが誰かを守るとき、その守り方は未来を広げていますか?」
この記事を読んでいる方も、この問いを胸に、守るという行動を見つめ直していただけたらと思います。そして、守られる側から守る側に変わっていく中で、私たちもまた学び続ける存在でありたいと心から思います。
私もまた子の親です。気をつけなければと心に刻みました。
また、「もう無理」と泣いていた若手社員が父親になった―それは、どんな困難な状況でも未来が拓けることを教えてくれる物語でもあります。
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