
あなたに首ったけ顛末記<その24・矛盾に付ける薬はないし温泉も効かない>【小説】
ご来店ありがとうございます。コチラは『異能もの現代ファンタジーラブコメ』女子向けライトノベルなお話の<その24>です。お口に合いそうでしたら、ひと口だけでもいかがでしょうか?
最初のお話:
<その1> はじめまして、首フェチの生き霊です
前回のお話:
<その23> 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【後編】
・『あなたに首ったけ顛末記・目次』
:サブタイトル込みの総目次を載せた記事です。
・マガジン・小説『あなたに首ったけ顛末記』
:第一話から順に並んでます。
・ハッシュタグ #あなたに首ったけ顛末記
:”新着”タブで最新話順になります。
・全記事へのリンクが、この記事の最後にもあります。
・記事内 の『▼』
:過去話の該当記事の、さらにサブタイトルへのリンクです。(ブラウザでの閲覧時のみ有効。noteアプリの場合は該当記事表示まで、サブタイトルには飛ばないです……。作者の備忘録的役割があるとかないとか。)
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当店へのご来店、誠にありがとうございます!
今回もたっくさん書いちゃったので、ゆっくり読んでってください!
いえ、速読的に読み飛ばしていただいても、もちろんオッケイ!
そんなこと出来ちゃうくらい、読みやすいといいのですが……もっともっとそうなれるよう、これからも精進します!
ではでは。
ごゆっくりどうぞ~。←ココハキマリモンクナノデ!
あなたに首ったけ顛末記<その24>
◇◇ 矛盾に付ける薬はないし温泉も効かない ◇◇
(27700字)
御崎十緒子:絵を描くのが好き、幽体離脱で生き霊になりがちな、首フェチ27歳会社員女子。黒髪ロングふっくら頬の和顔。十匹の実体のないヘビを従者にしている。
水野春臣:十緒子にナイスバディと認められた体の持ち主、顔立ち濃い目、口が悪く霊感体質の27歳会社員男子。十緒子と付き合っている。
御崎華緒子:十緒子の姉(正確にはハトコ)。十緒子と同じ能力者で従者は金色のヘビ、ハナ。
御崎玄:十緒子の父親。十緒子と20年ぶりの再会を果たす。
御崎真緒子:十緒子の母親。黒のヘビを従者に持つ。
御崎高緒:御崎家当主、十緒子の祖母。銀色ヘビを従者に持つ。
水野睦也:春臣がチカと呼ぶ、春臣の従兄。
水野里香:睦也の妻。十緒子が通うヘアサロンの店長。
戸田:十緒子の同僚で二歳年上の先輩。ゆるふわボブカットに丸メガネの癒し系女子。
日比野:戸田と同期入社の、戸田の親友。
内藤:御崎コンサルティングの関係者。
十三匹のヘビ:人語を話す、手のひらサイズの実体のないヘビたち。それぞれ違う色の体を持つ。自身を蛇神に捧げた巫女(とみ)の選ばれた子孫の前に現れ、その子孫の”従者”となる。それぞれで様々な特殊能力を持っている。
・以下の十匹十色は十緒子の従者。幼少時の十緒子がそれぞれの色に合わせて名付けた。
登場順:白(しーちゃん)/紫(むーちゃん)/青(あおちゃん)/赤(べにちゃん)/灰(はーちゃん)/茶色(ちゃーちゃん)/桃(もーちゃん)/緑(みーちゃん)/黄色(きーちゃん)/橙(だいちゃん)
・金色ヘビ:華緒子の従者でハナと名付けられている。
・銀色ヘビ:高緒の従者。
・黒のヘビ:真緒子の従者(詳しくは→ 『闇呼ぶ声のするほうへ』)。
<1>御崎十緒子は矛盾する(1)
(6400字)
パチン、と目が開いた。
まるで、ほんとにそんな音がしたかのように。
常夜灯の灯る、見慣れた天井。
綿毛布から出ていた腕に冷えを感じて、肩の上まで綿毛布を引き上げてくるまるようにしながら、いつもみたく、すぐ隣にある『熱』に、体をすり寄せる。
まぶたはパチンと開いたのに、目の奥も頭も、ぼんやりしている。
ヘンなふうに、目が覚めてしまったみたいだ。
ん、と……まだアラーム鳴ってない、も少し眠ってもだいじょぶ……あれ、でも。
この部屋で眠るときは、アラームなんて掛けない、なのに……。
……ああ、そうだった。
朝起きてこれから始まる今日は、休みじゃなくて平日、だ。
こうして私、御崎十緒子が、この人肌な温度の『熱』源であるところの彼、水野春臣の部屋で眠るのは、いつも決まって週末、次の日は絶対に休みの日で、だからアラームなんて掛けたりしない。
けど明日は平日、仕事に行かなくちゃいけなくて、だからアラームを掛けた。
アラーム……スマホ、どこに置いたんだっけ?
なんて思いながらも、体を動かしたくなくて、探す気になれなくて。
ただ、スマホのことを考えたら唐突に、昨日の夜に華緒ちゃんから送られてきたメッセージが浮かんできた。
《 すぐにそっちに行けなくてごめんなさい。
でも水野くんがいてくれて、本当によかった!
諸々の話はまた今度ね。
とにかく今夜は、回復に専念すること!》
そして、それと同時に昨日の出来事が、私の脳裏にポツポツと、浮かんでくる。
戸田さんに連れられて行った、日比野さんの部屋と、そこで起こったこと。
……あの、おぞましい怪異のこと。
怪異を……ヘビのみんなの力で、なんとか追い返したこと。
そしたら春臣が、日比野さんの部屋まで迎えに来てくれて、そして。
平日なのにもかかわらず、春臣の家に泊まることになったんだ。
まだ眠くて、頭もぼんやりしていて、なのに。
ぼんやりした思考のくせに、こうして、昨日の記憶をあれこれと、引っ張り出してきて。
それらを思い出した私は思わず、春臣の部屋着の袖を、ギュッとつかんでしまう。
怪異の切っ先がこちらに向いた、あの瞬間。
あのときの、ギュッと身のすくむような、恐怖、とか……。
すっごく怖かった、なぁ。
あのとき……怖くてもう、いろんなことが吹っ飛んでしまった。
――トオザケロ。
気付けば、私の中に残っていたのは、そのことばだけで。
私はとっさに、ことばから連想した、茶色ヘビ・ちゃーちゃんのチカラを借りることで……怪異の、あの刃物のような糸を、弾き返すことが出来たのだ。
だけど……でも。
あのときは、そうするしか出来なかった、けど。
ほんとは、もっと上手にやらなくちゃいけなかった……んじゃ、ないかな?
怖いからって、自分を守ることしか考えられなくって。
後ろにいた二人、戸田さんと日比野さんのことなんか、すっかり忘れちゃってたよね……?
もぞり、と人肌な熱源が、身じろぎする。
仰向けになっていた春臣が、私のほうを向くように、横向きに体の位置を変えて。
起こさないようにしなくちゃ、と思いながらも私は、位置の変わった彼の腕を追うように、指先を沿わてしまう。
起こしたくないなら、触れてはいけないのに。
でも。
……あのね。
私、すっごく怖かった。
だから、私が自分の部屋に帰る、って言ったとき、春臣に引き留めてもらって……春臣の部屋に泊めてもらって、よかった。
春臣の、スー、スーと規則正しく繰り返される寝息を聞きながら、彼の固く閉じられたまぶたのあたりを見つめながら、心の中で彼に言ってみる。
だけど、でも。
「華緒ちゃんの、バカ……」
思わずつぶやいた声は、ほとんど音にはなっていなかったのだけど。
その内容に私自身が驚いて、でも思考が止まらない。
……華緒ちゃん、さぁ。
ヘビのみんな経由で、私の状況を知ったからって。
なんで春臣に、私のこと頼んじゃうかなぁ?
そりゃ、心配させちゃったんだろうけどさ、でも。
春臣のこと。
こんなふうに、巻き込みたくなんか、なかったのに。
睦也さんにも警告、されてたのに。▼
けれど、いま。
隣に春臣がいて、それにホッとしてしまっている、私がいて。
そんな私が、華緒ちゃんを責めるなんて、絶対におかしい。
……なのに。
春臣を巻き込んだのを、華緒ちゃんのせいにしておきながら。
私の中の、仄暗い部分がそれを、ウレシイと喜んでいる……。
華緒ちゃんに、怒っている自分。
華緒ちゃんのせいにして、喜んでいる自分。
矛盾してるし、それに。
ずるくてイヤな考え方、だ……。
やだ、なぁ。
ヤな感じだ、私。
カーテンの向こう側はまだ暗くて、だから私は結局、時刻を確かめもせずに、目をつむってしまう。
支離滅裂に矛盾する思考と自己嫌悪を少しだけ、無視して……もう少しだけ、この熱の温かさにホッとしていたい。
――『いいから。もう全部、明日でいいだろ?』
昨日の夜、春臣が言ってくれたことばに、すがるように甘えてしまう。
ほんとにあと、もう少しだけ。
明日、起きたらちゃんと、考える、から……。
◇◇◇
あの怪異に遭遇した次の日を休んだ戸田さんは、その次の日にはもう出勤してきて。
以前のいつも通り、始業ギリギリにオフィスに滑り込んできて、「おはよー」と言いながら私に、以前のような戸田さんスマイルを浴びせてくれた。
ゆるふわボブカットに丸メガネが抜群に似合っちゃってるオトナ女子からの、素敵かつ無敵のほわほわ癒し系スマイル、キラキラッ☆って効果音や特殊効果なんかは、私の脳内限定オプションですが。
ああ、やっぱり私は、美人素敵お姉サマに弱いぃ……。
なーんてメロメロになっていると、急に真顔になった戸田さんが、すでに着席していた私のほうに身をかがめて寄せ、声をひそめて言った。
「御崎さん。おとといの、詳しい話とか……昼休み、時間もらってもいい?」
「はい! あの、体……だいじょぶ、ですか?」
戸田さんにならって小さく訊くと、「もちろん!」と明るい声が返ってきた。
「なんだか、体が軽くて! 御崎さんこそ本当に、なんともないのよね? その……関係者、の方から、御崎さんのほうはまったく問題がない、大丈夫だって、聞いてはいたんだけど」
「はい、なんともないです」
「……よかった。じゃ、昼休み、よろしくね!」
そして、お昼休み。
弊社フロア階の多目的スペースで戸田さんと落ち合うと、テーブルの上にはお弁当が三つ並べられていた。
「途中でちょっと抜けて、買ってきちゃったんだー。お弁当、一つは私がもらうから御崎さんに二つで、あとこっちにスイーツもあるんだけど……御崎さん、足りそう?」
「じゅっ、じゅうぶんですっ! でも、ほんとにいいんですか?」
「むしろ、お礼としては足りないと思うし。もちろん、これで終わらせるつもりなんてないから、ね?」
お昼は奢るから絶対に手ぶらで来て、と念押しもされてたし、もうありがたくいただくことにして。けど、ジャンボシュウマイやエビチリなど豪華ラインナップの中華弁当、それに、絶対にイイお肉だとわかる牛カルビ焼肉弁当、って!
その二つのお弁当を私のほうへ並べながら戸田さんは、「もうとにかく肉、肉をガッツリ食べたい、って思ったんだよね」と言いながら、もう一つあった牛カルビ焼肉弁当を取る。それからスッ、と背筋を正し、向かいの席に座る私のほうへ、まっすぐに向き直った。
「……御崎さん。今回のこと、本当にありがとう」
「えっ」
びっくりして固まってしまった私にかまわず、戸田さんが続けた。
「御崎さんがいてくれて、よかった。私ひとりじゃ、どうすることも出来なかったもの」
「……あっ、あの、でも、すみませんでした。戸田さんを置いて、私、先に帰ってしまって」
「えぇ? そんなの、だって御崎さんも、病院に行くほどじゃないけど、調子悪かったんでしょう? それに、御崎コンサルティングの方がすごく良くしてくださったから、何の問題もなかったし。……むしろ、こっちからなんの連絡もしなくて、ごめんね。出勤してからでいいかな、って甘えちゃった」
「いえ、そんな」
……そう、かぁ。
御崎の会社の、ええっと……そう、内藤さんは、そんな説明をしてくれてたんだ。
うーん、あのときは……精力を使い過ぎて、おなかが減ってしまっただけ、だったのですが。
それを『調子が悪い』と表現しても、差し支えない、でしょう、か……?
戸田さんが「あっ、ごめんね、食べて食べて!」と気を取り直したように言い、ふたりそろって「いただきます」と手を合わせ。
食べながら戸田さんが、あの夜私が帰ってからのこと、つまりは、戸田さんが目を覚ましてからのことを、説明してくれた。
目を覚ましたらそばに、御崎コンサルティングの者だと名乗る男の人、内藤さんがいたこと。
いろいろ思い出せなくて頭が混乱していたが、『十緒子さんから頼まれた』と言われ、ゆっくりと丁寧に現状を説明されることで、落ち着いたこと。
しばらくして日比野さんも目を覚まし、けれど日比野さんは自力で起き上がれなくて、後から到着した御崎コンサルの人が持ってきた車椅子に日比野さんは乗せられ、一緒に病院へ連れて行かれたこと。
「霊障、って言うの? それがわかる人にも診てもらったほうがいいから、って。私はなにが起きていたのかもわからなくて、それに、あのときのことをよく思い出せないんだけど……名刺をいただいた内藤さんによると、日比野が良くないモノの呪いを受けてしまって、そのとばっちりみたいなのを、私も御崎さんも浴びてしまったんだ、って。だからああして意識を失って、倒れてしまったんだって、説明してもらったの」
お弁当を食べ終わり、隣の椅子に置いてあった袋から、透明なカップに入ったスイーツを取り出して私の前に置きながら、戸田さんが言った。
「御崎さんは、おうちの人から持たされた強力なお守りのおかげで、私や日比野ほどひどいことにはならなかったんですってね。あと、そのお守りが、日比野の良くない呪いを弾いてくれたらしい、って」
……う、はぁ。
内藤さんによる、嘘の説明、を。
私もここで、初めて耳にするわけ、なんですが……?
えーとえーと、なんて返したら……。
「あっ、でもね。『十緒子さんはそのお守りの効力に、気付いてないかもしれません』、ですって。お守りのこと、知ってた?」
「っ! あ……はい、いえ、知らなかったです、びっくり……しました。そうだったんです、ね、アハ、ハハハ……」
ふああ、よかった、すっごく焦ったぁ。
にしても、すごいなー、設定がしっかりしてる。
ヘビのみんなことを教えられない、そのための嘘、なのだけど。
……あっ。そうだ、それよりも。
「日比野さん! 日比野さんがどうされてるのか、戸田さんはご存じですか?」
ヘビのみんなは、だいじょぶだって言ってたけど……。
「ああ、うん。日比野、ね。あの夜病院で、別々の部屋に泊めてもらって。朝起きて顔を合わせたらね、嘘みたいに元の日比野に戻ってて、でもまだ混乱はしてたかな。それで……日比野は私よりもだいぶ弱ってるから、念のためもう一泊入院するかどうか、夕方まで様子を見て決めましょう、ってなったの。
『じゃあ夕方まで付き添うよ』って提案したら日比野は『付き添わなくていい、大丈夫』って。御崎さんの会社の方にも『こちらにおまかせくださって大丈夫ですよ』って言われて、だから私だけ、午前中には帰ってきちゃったんだけどね」
戸田さんがそこで、テーブルの端に置いていたスマホに、チラリと視線を投げながら続けた。
「で、本当に大丈夫だったみたい。妹さんに、あ、結婚して隣の県にいるらしいんだけどね、連絡取って、夕方に迎えに来てもらうことにした、って。会社にも、連絡して……もう少し休ませてもらう話になった、ってメッセージくれた。その後にも何回かメッセ寄こして、今頃は妹さんとあの部屋の大掃除をしてるはず。帰ってきて、自分の部屋の惨状にびっくりしたみたいよ? あ、コーヒー、飲むよね?」
カップ式自販機からコーヒーを手に戻った戸田さんに「ありがとうございます」とお礼を言い、置かれたコーヒーを手に取って口を付ける。顔を上げると、こちらをじっ、と見つめていた戸田さんと目が合った。
「あのね、それで……依頼料のこと、なんだけど」
依頼料……。
なんのことかわからなくて黙ったまま、戸田さんの続きを待った。
「御崎さんの会社の方に、私が御崎さんを通して、依頼をするつもりだったことも、ちゃんと話したんだけど……病院の診察料だけでいい、って言われてしまって。実際に処置らしい処置はなにもしてないし、呪いを受けた経緯を聞けたから、それが貴重な情報だったので、って説明されたんだけど、あんなにいろいろ、病院や車の手配までしていただいたのに、なんか……」
あ。御崎コンサルティングへの、依頼料ってことか。
うーん、よくわかんない、けど……あっ、そういえば!
「あのっ、それより私、いまごろ思い出したんですけど! あのとき戸田さんが日比野さんに買っていった、差し入れ! 『たぶんもったいないことになるから』って、持たされて、えーと……全部、食べちゃったんです! むしろ、そちらのお支払いが、」
「えー? やだ、そんなのいいに決まってるじゃん。要冷蔵のデザートとか、あんなの丸一日放置されてたら日比野、もっと泣いてるわよー。もう、じゃなくてー、依頼料の話!」
「ええっと、そっちの話はさっぱりわかんなくって」
「ええー、それじゃ困っちゃうよー」
それから。「こうなるとまだまだ奢り足りないから、今度は仕事上がりにドカンと行こう」なんて言う戸田さんにあわててしまったり、デザートのカップスイーツ、モーモーチャーチャーという不思議な名前のそれがめちゃくちゃ美味しくて感激してたら、「そんなに?」って、戸田さんに笑われたりして。
よかった、すっかり元の戸田さんだなぁ……って思っていると、戸田さんが明るい声で言った。
「あーなんか、すっごく気持ちが軽い! 私、本当に……あのおまじないに関わったせいで、おかしくなってたんだなー。でも、」
と、そこから少しだけ、戸田さんが声のトーンを落とし、続けた。
「……日比野は。まだ入院してるカレシのこととか、会社辞めるかも、とか……まだ全然、問題解決、だなんて言えないんだけど。でも、正気に戻ってくれて、本当によかった。怖かったし、けど、御崎さんがいなかったらどうなってたんだろう、って。それ考えると、もっと怖い……」
「っ、だいじょぶ、です!」
私は、反射的に答えていた。
「戸田さんにも、日比野さんにも。あの良くない呪いはもう、近付くことが出来ない、から」
私が、あの糸を断ち切った。
だからもう、呪いは解けた、でも。
あの怪異はまだ、どこかにいる。
私が、結果的に……逃がしてしまった、から。
それでも私は戸田さんに、もう大丈夫なんだってことを、はっきりと伝えたかった。
「……そっか、御崎さんがそう言うんなら……でも、なにかあったときは、御崎さんに相談出来る、そう思っててもいい?」
「もちろん、です!」
「……ありがとう。うん、これでもう怖くない、夜中のトイレも大丈夫そうよ?」
「フフッ、そんな。でも、よかったです!」
……守る、って決めたのは、私だ。
だから絶対にもう、あの怪異を二人に近付けさせない。
私は戸田さんに、しょうがなくとはいえ、嘘をついてしまったから。
だから、それだけは『嘘』じゃなくて、『本当』にしなくちゃ。
……嘘つきの、くせに。
私の言うことを信じて安心して、だなんて。
ここでも私は、矛盾しまくり、なのだけど。
<2>御崎十緒子は矛盾する(2)
(6000字)
「島崎さん、お待たせしてしまって。御崎十緒子、私の妹と、水野春臣です」
「初めまして、島崎と申します。ようこそお越しくださいました。この度はどうぞ、よろしくお願いいたします」
と、目の前の、この旅館の関係者とおぼしき、小柄で人の良さそ~な男性に、深々~とすっごく丁寧なお辞儀をされて、あわててこちらも頭を下げる。
ほんとはこっちからも、なにかことばを返すべきだったと思うのだけど、それが出来ずに口をパクパクさせてしまったのは、こうしてここに至った経緯やなんかを、まだぜんぜん飲み込めてないせいだ。
「十緒子、水野くん。今回うちにご依頼くださった島崎さんはね、この旅館の若旦那さんなの。島崎さん、例のお部屋には、この二人が泊まりますので」
「かしこまりました。それではご案内……っ、あの。……現場、を通るルートでご案内したほうが、よろしいでしょうか?」
「そうですねぇ……いえ、そちらは後ほどにしていただいて。お部屋のほうからお願い出来ますか?」
「は、はい。それでは、こちらへ」
行く先へ手を向けながら歩く島崎さんの後を、私の姉……実際は従姉、の御崎華緒子が続く。
濃い色なのに初夏の蒸し暑さを感じさせないとろりとした布地の、やっぱりハイブランドだよねぇ、ってすぐにわかるジャケットとパンツに身を包み、ピンヒールで旅館の絨毯の上を颯爽と歩いていく後ろ姿を、私は、ぽかんと口を開けたまま見送ってしまう。
え、『ご依頼くださった』って……え?
『この二人が泊まりますので』って、あの、どゆこと?
「おい」
「え? ……あっ」
春臣に肩を軽く押されることで、華緒ちゃんとの距離に気付かされた私は、小さく声をあげ。
華緒ちゃんの美しい後ろ姿、ゆるく巻いて落ちる、明るいブラウン系のセミロングを追って、春臣とともに早足になる。
そのセミロングに、ほんの少しだけ開いた隙間、そこから……一瞬だけ、普通の人の目には視えない金色のヘビ、ハナちゃんが顔を出してこちらを見、けれどすぐに華緒ちゃんの髪の中に姿を消したのが、視えた。
◇◇◇
華緒ちゃんと約束していた、土曜日。
元々、待ち合わせ場所なんかは当日に、という話では、あった。
『十緒子ごめん~、緊急の依頼でね。私もいま現地に向かってて、悪いんだけど十緒子もこっちまで来れる~? 水野くんに、車出してもらえないかな?』
「お願いしてみる、けど……場所は? あ、スマホで位置情報受け取ったほうがいいのかな?」
『んん、そうねぇ……あっ、それより! この前のアレのほうが、楽チンじゃな~い!」
「この前の、アレ?」
華緒ちゃんとの通話を切って、今度は春臣に連絡をし、私のアパートの部屋まで、車で迎えに来てもらい。
「華緒ちゃんの位置情報を、ハナちゃん経由、ウチのヘビのみんな経由でほんとにちゃんと伝わるのか、もっかい試してほしいんだって。この前の、日比野さんのマンションに春臣が来てくれたのって、そういうことだったんだね?」▼
「ああ……まぁ、な」
春臣の車の助手席でそんな説明をし、それから体をひねって、ヘビのみんなのほうに顔を向けた。
今日のみんな……しーちゃん、あおちゃん、もーちゃん、みーちゃん、きーちゃん、だいちゃん、ちゃーちゃん、べにちゃん、白青桃緑黄橙茶赤色の八匹が後部座席に、とぐろを巻いてたり、転がったり、踊ったり、置いてある私のボストンバッグの陰に隠れたりなんかしていて、なんだかちょっと楽しそうにしていて。
「ハナちゃんから連絡、来た?」
(うんっ、来てるよっ)
(てゆーかー、共有するだけだかんなー)
もーちゃんとあおちゃんが言い、けれどその後に続くだろうと思っていた目的地のことを、ヘビのみんなは誰も、なにも言わなくて……しん、とヘンな沈黙が訪れた。
(……ったく。橙の、アンタの担当だろう?)
と、きーちゃんが、言いながらペシリ、と、だいちゃんを尾ではたいて。すると、ダラリと転がっていただいちゃんが、むくり、と身を起こし、それからすぐに、ポンッ、と瞬間移動した。
ダッシュボードに移動した、だいちゃんの気配を追うようにして、ひねっていた体を直してそちらを向くと。なんと、だいちゃんがカーナビを、つんつん、と口でつついている。
「えっ、だいちゃんすごい。スマホだけじゃなくて▼、カーナビも使えちゃうの?」
「おまえ、知らなかったのかよ……って、おい?」
「……えっ、その場所って、え?」
だいちゃんが目的地を入力して設定が終わったカーナビの画面、その行き先を見た、私と春臣の……開いた口が塞がらなくなったのは、思えば、そこからだったのかもしれない。
画面に表示されている、目的地到着までの所用時間は、三時間はかからないくらい。しばらくして春臣が「まぁ、行けねぇ距離でもねぇし……行くか」と言って車を出し、途中高速道路にも乗りつつ、ほとんどカーナビの指示のままに、車を走らせて。
春臣の運転する車は、観光地に疎い私でも知ってる、有名温泉地に到着した。
途中にだいちゃんが入力し直した、目的地の旅館の、駐車場に入ると。
すぐ目につく場所に華緒ちゃんが立っていて、こちらに向かって、ヒラヒラと手を振っている。
「ウフフ、ちゃんと来れたわね。到着するタイミングがわかるのも、すっごく便利よねぇ。さて、と。じゃ、行きましょうか?」
「えっ? 華緒ちゃん、どこに?」
そして……旅館に入るなり、ロビーで待機してもらってたらしき若旦那さんに、サクサクッっと紹介されてしまい……。
華緒ちゃんと電話したとき確かに、『緊急の依頼』だ、とは言ってた……けども!
いやでも、ここに泊まる、なんて……聞いてない、絶対絶対、聞いてない、よね?!
はじめに挨拶を交わした旅館の建物を出て、少し歩いた場所にある、『こちらは別館です』と案内書きのある建物に入り、エレベーターに乗せられ三階建ての二階で降りて、長い廊下の突き当り、いちばん奥のお部屋へと、案内され。
華緒ちゃんが若旦那さんに「中を調べます。少しだけ、外でお待ちいただけますか?」と声を掛け、若旦那さんだけが部屋の外へ出て行ったところで私は、たまらず「華緒ちゃん!」と声を上げた。
「ねぇ、私と春臣がここに泊まるって、どうゆうこと? 説明とか説明とか、説明とかっ! もうぜんっぜん、足りてないよ?!」
「あれ、説明して……なかったわね、ごめんごめん。この部屋はねぇ、要するに、事故物件なの。とにかく、誰かがここに泊まって、この部屋は安全なんだってことを、証明する必要があってね」
「じ、事故物件……?」
「でもね、大丈夫なのよ。ほら、だって……幽霊や怪異の気配なんて、どこにもないでしょう? ハナ、なにか問題ある?」
(ない、の)
華緒ちゃんの肩、セミロングの髪から顔を出してハナちゃんが、ちょっとつまらなさそうに、はんなりと言い。
部屋に入ってからずっと、部屋のあちこちを見て回っていた華緒ちゃんが足を止め、私のほうへ向き直って言った。
「やっぱりね。そもそもこの部屋では、なにも起きてないのよ。現場はここじゃなくて、別。この部屋は、被害に遭ったお客さんが泊まってた、ってだけなの」
「現場は、別……?」
「そ。若旦那さんの話によると、どうやらね、『あかないさん』が、その現場に来たみたい」
「えっ?」
華緒ちゃんがくるり、と私に背を向け、カラカラと引き戸を開けると、華緒ちゃんの向こう側にゴツゴツした岩の湯船、張られたお湯の白い湯気が立ち上るのが見えて。
「んんん~、広いし、すっごくいいお部屋よね~。十緒子ほら、部屋付きの露天風呂! いい感じじゃない、私が泊まる本館のお部屋には露天風呂、付いてないのよ~。あ、夕食は本館で一緒に食べましょう? 詳しいことはそのときでいいでしょ、水野くんも運転、疲れたでしょうし。そうそう、水野くんには後で少し、頼みたいこともあるけどね、まずは温泉にでも浸かって、ゆっくり休んで? じゃあね、七時に大食堂でねっ」
「え、華緒ちゃん、待っ、」
「島崎さん、お待たせしました~。やはりこちらは問題ないようで……」
と、そこで、部屋の入口の引き戸が、ガラガラ・ピシャリと閉まってしまい。
えええ……華緒ちゃん、肝心の『あかないさん』の話、は?
なんで? なんでそれを、後回しにしちゃうかなぁ?
……それに!
もっともっと肝心の文句を私、言いそびれた!
なんで華緒ちゃんのお仕事に、春臣を巻き込んだりするの、って!
私はともかく、春臣の予定も聞かず、なんの断りもなくて、こんなの……大体この前の、日比野さんのマンションに春臣が来たことだって、私は、まだ……。
むむむむ、と華緒ちゃんの理不尽にプルプルしていると、後ろの方でガラガラ、カラカラ、という音がして。玄関近くの洗面所への引き戸と、その先の部屋付き露天風呂へつながる引き戸を開けている春臣を見つけた私は、おそるおそる春臣の背に声を掛けた。
「……はる、おみ?」
「ん?」
露天風呂を覗いていた春臣が、こちらのほうへ振り返る。
彼の表情は、怒ってない……あれ?
「あ、の……なんかごめん、その、華緒ちゃんが、いろいろ勝手に、」
「いや、べつに?」
「でもほら、春臣の明日の予定とか、ぜんぜん訊かずにさ、こんなのって、」
「おまえたぶん、週末はよく俺んちに泊まるとか、華緒子さんにも話してるよな? だからだろ」
……あれれ?
なんだか、のれんに腕押し~な、感じ?
「怒って、ないの?」
「行き先見たときに、なんとなく予想はついただろ? おまえは、怒ってんのか?」
「うん……だって、ぜんぜん説明してくれないし」
「まぁ、客の前じゃ、しょうがねぇよ。けど……やっぱ、この前のアレに、関係ある依頼みたいだな」
「……うん」
ここに来るまでの道中、車の中で、私は。
この前の、あの夜に起こった『一切合切すべて』を、春臣に訊かれ、話していた。
戸田さんに、様子のおかしい日比野さんのことを、相談されたこと。
その原因が、戸田さんが日比野さんに教えた、ネットで見つけたおまじないだったこと。
そのおまじないに、『あかないさん』、そしてニュースにもなっている通り魔事件に、関係があるらしいこと。
連れていかれた日比野さんのマンションで、日比野さんが『アガナイサマ』と呼ぶ、あの怪異に遭遇したこと。それを、ヘビのみんなの力を借りて、どうにか遠ざけることが出来たこと。
運転しながら私の話を聞く春臣は、途中途中で質問を挟んできたりはするものの、どことなく……淡々としているような、感じで。
……そして。
いまの春臣がまさに、そんな感じになっている……気がする。
本人の言う通り、怒ってはいない。たぶん。
んじゃ、あきれてる、とか?
でも……なんだろう、それとも違う、ような……?
「確かにこの部屋には、嫌な気配なんざ微塵もねぇし。おまえも同じだろ?」
「そう、だね。幽霊さんどころか、陰の気のもやもやも、ないもんね」
「これじゃあ俺らからすりゃ、タダ泊まりだな、あっちは依頼料払うってのに。客として泊まるんならこの部屋、そこそこの値段、取られんじゃねぇの?」
そこで春臣がふいに、ぐい、と私の腰を引き寄せる。
まばたきをしている間に、鼻先がこすれそうなくらい顔が近付いていて……春臣が、言った。
「なぁ。風呂、入ろうぜ」
「へっ……」
私が息を呑んで黙っていると、春臣がいつもの、悪い笑みを浮かべて、お風呂へのお誘いを繰り返してきた。
「これ、露天風呂。割に広いよなぁ、一緒に入っても余裕で足伸ばせるぞ」
「……い、いま? ってゆーか、ドウゾオサキニ、オハイリクダサイマセ」
「フッ、なんだよいまさら。この前一緒に風呂入ったの、もう忘れた?」▼
「忘れてマセン。春臣こそっ、あのとき、私がのぼせたのをお忘れデスカ?」
「ああ、なら俺が先に入って、待ってりゃいいよな。後から入れば、そんなにのぼせねぇだろ」
「イエ、そーいう問題ではなくぅ……」
あれぇ、なんでなんで? いつの間に、こんなハナシに?
話の展開と顔の熱さに困り散らかしていると、春臣がフハッ、と吹き出した。
「まぁ、いろいろと……集中出来ねぇようだし、風呂は後でにするとして? ってかその前に、車に荷物、取りに行かねぇと」
「……、荷物、うん……そっか。……あっ、春臣の、着替え! お泊り予定だったし、私は一式持ってるけど、」
「ああ、トランクの収納ボックスにアンダーシャツと下着、靴下くらいは入ってるから」
「すごい。用意良すぎだ……」
「あー……チカの奴に、急な思い付きで連れ回されることがあったからな、その名残りで……って、なんだ、この既視感? そういやおまえの姉ちゃん、チカっぽいとこあるよな?」
「っっっ、そうかも! うわー、なんかやだ!」
「フッ、『なんかやだ』っておまえ」
荷物を取りに、外へ出て。話しているうちに、夕食まで時間もあることだし、温泉街を散策してもいいんじゃないか、ってことになって、一応華緒ちゃんに電話で許可を取ってから、旅館の外へ出た。ヘビのみんなは姿を消していて、というか、実はここに着いたあたりで方々に散っていて、それぞれで行動しているらしい。
(金のと話して、みんなで探し物をしてるんだよ)
ハナちゃんみたく、私の肩の上、下ろしている髪の陰から、べにちゃんが言った。
(ボクはお留守番で、十緒子ちゃんと一緒! でも、デートは邪魔しないようにするから、安心してね)
「デート……」
春臣にもべにちゃんの声は聞こえていたはずで、けれどなにも言わずに、手をつないだまま歩いている。この温泉地の階段街、と呼ばれる観光スポットを、週末らしい人混みや、それに伴って増える陰の気のもやもやを気にせず、二人でゆっくり見て回れたのは、べにちゃんの結界のおかげで。
(この地の熱をちょっとだけ借りて、ボクの炎に混ぜてみたよ。だから十緒子ちゃんも、あんまり疲れないはずだよ)
結界発動のときにだけ視えた、私と春臣の体を包むように現れた、淡い薄紅色の炎を目にしても春臣は、特になにも言わなかった。
……なんでだろう。
手をつないでいて、こんなに近くにいるのに。
ちょっとだけ、春臣が遠い……そんな気がする。
近くて、遠い?
って、自分でもなに言ってるのか、よくわかんないし、温泉地デートな状況が、こんなにもうれしくて、楽しんでるくせに……。
っ、まさか私、春臣の態度に不満がある、ってこと?
やだやだ、違う! そんなんじゃない!
きっとこれは、華緒ちゃんと、ちゃんと話せてないから、もやもやしてるだけ!
それか、私が……春臣に欲張りになっちゃってる、たぶんそれだけ、だから。
<3>御崎十緒子は矛盾する(3)
(6500字)
約束の七時。華緒ちゃんと旅館の本館、大食堂の前で落ち合って、けれど旅館の人に案内されたのは、大食堂脇の個室だった。
「あらぁ? 浴衣、着てないじゃない。ふたりとも、まだお風呂入ってないの?」
「え? うん、まぁ……」
いろいろ諦めて散策には行った、でもね、華緒ちゃんからまだなーんにも事情を知らされてないし、落ち着かなくてね? 私も春臣も、お風呂に入ろうって気には、なれなかったんだよ……。
と言いたいのを、仲居さんがいる手前、私はクッとこらえる。
三人とも、到着したときのままの格好で、個室の六人掛けテーブルの席につく。春臣と私が並んで座り、向かい側に華緒ちゃん。
テーブルの上にはすでにずらずらっと、海の幸山の幸が並んでいて。仲居さんが、いくつかの料理の説明をしてから固形燃料に火を点け、「ごゆっくりどうぞ」と退室していき、それを見計らって華緒ちゃんが、声のトーンを落として続けた。
「さっきまでね、旅館の中をひと通り、若旦那さんと巡回してたのよ。まー当然、いろいろといるわよねー、老舗旅館なんだもの。今回、本題のほうでやれることがほとんどないから、依頼料分、そっちのほうのお掃除をすることにしようかなー、ってね」
「……華緒ちゃん。あのね、説明をしてくれないとこっちは、なんにもわかんないんだよ? そろそろ、怒ってもいい、よね?」
「んんん、やだ十緒子、怒んないでよ~。ちゃんと説明するから、ねっ? でもおなかすいたでしょ、ちょっといただいてからでも、いいわよね?」
言いながら華緒ちゃんが一度席を立ち、ショーケース型の冷蔵庫から、ノンアルコールビールの缶を取り出してくる。
仲居さんには、こちらから連絡するまで入室しないようお願いしてあって、だから飲み物はセルフサービスなのだそうで、「二人は飲んでも大丈夫なのにー」と華緒ちゃんに散々言われながらも私と春臣は、華緒ちゃんにならってノンアルコールビールを手に取った。
「それで、今回の依頼のハナシ、ね」
華緒ちゃんが話を切り出したのは、ノンアルビールで乾杯後に三人してしばらく黙々と、目の前の豪華なお料理を堪能してからのことだった。
「先週末。十緒子たちが泊まる、あの部屋に宿泊したお客さん、三十代男性と二十代の女性のカップルだったんだけどね。その男性のほうが、深夜の十二時近くに、額から血を流した状態で恐慌状態になっているのを、巡回していた守衛さんが発見したんですって」
合間に合間に華緒ちゃんは、抜かりなくパクパクと料理を口に運び、そして急がずに、ゆっくりと料理を飲み込んでから、話を続ける。
「彼の額と腕に、複数の切り傷があって。守衛さんが救急車か警察かを呼びましょうと言ったら、どうしてか彼に、必死になって止められてしまって……まぁでも、だんだん落ち着いてきたようだし、しょうがなく守衛さんが、傷の手当をしてあげることになったのね。
手当の間も、男性は腰を抜かしたまま、ずっと震えていて、なにか意味のわからないことをブツブツと言い続けている。それで、手当が終わって部屋まで送ったんだけど、それから三十分もしないうちに、彼は旅館から出て行ったそうよ。タクシー呼びつけて、部屋には彼女さんを残したままで。もう、明らかにおかしいわよね。
でね、守衛さんから報告を聞いた若旦那さんは、防犯カメラを確認したの。男性がへたりこんでいたのは、本館と別館をくの字のように繋ぐ、渡り廊下。渡り廊下のまわりは簡易庭園と塀、塀の向こうは駐車場になっていて、庭園にはそちらの駐車場へ抜ける勝手口もあるから、カメラを付けていたのね。
カメラの映像を見た若旦那さんは、これはたぶん、警察なんかに相談しても解決出来ない案件で、もしかしたら巷で話題になっている『あかないさん』の話に似ているのでは? と思った。それで、ウチに相談、依頼をしてくださった、というわけ。
そして依頼を受けたウチの会社は、『あかないさん』に絶賛苦戦中、だからね、どんな些細なことでもいい、手掛かり得る目的もあって、この依頼を受けたのよ」
……その、お客さんの男の人は。
なにかに襲われて傷を負った、ってこと、でも、その防犯カメラの映像を見た若旦那さんは、警察には通報しなかった……?
「カメラに、なにが映ってたの……?」
「浴衣着た男性が一人で、腰を抜かして後ずさり、途中で腕を振り回したり、額を押さえたりしてる様子。男性がなにかに怯えて逃げようとしている、というのはわかるんだけど、その『なにか』は、映ってない。私も確認したけれど、映ってなかったわね」
ぞくり、と背筋に、寒気を感じる。
その『なにか』が映ってても、映ってなくても……怖いんですけど?
「渡り廊下はいま、修繕工事のため通行止め、ということに、なっているんだけどね。今回の依頼は、彼らが宿泊した部屋と、その渡り廊下のお祓いを、必要であればしてほしい、ということなのよ。それでね~、水野くん」
ニッコリ、と効果音が聞こえてきそうな笑顔で、華緒ちゃんが言った。
「水野くんに頼みたいこと、ってのが、ね?」
◇◇◇
「水野くんにお願いした、これ。本当は、海藤の仕事だったんだけどねぇ」
タブレット端末の画面を見ながら、華緒ちゃんが言い。
画面には、この旅館の防犯カメラの映像が映し出されている。タブレットは若旦那さんにお借りしたもの、なんでも専用のアプリで映像を管理しているのだそうで、しかも華緒ちゃんは、そのアプリの扱いに慣れているようだ。
「こういうのもいつもなら、海藤が適当にやってくれるんだけどねぇ……緊急だったから、しょうがないわよね。あ、来た来た。ほら、水野くん」
アプリの画面には例の渡り廊下、華緒ちゃんがタップを繰り返してカメラの角度を変えると、渡り廊下の真ん中に腕組みして立つ春臣の、浴衣姿な全身が写し出された。
現在時刻は、夜の十一時半近く。私と華緒ちゃんは、私と春臣が泊まる部屋にいて、春臣はわざわざ本館の大浴場に入ってから、渡り廊下を経由してこの部屋に帰ってくることになっている。男性がなにかに襲われたときのシチュエーションを再現し、でも何事もありませんでしたー、っていうのを証明したいのだそうで。
『……華緒ちゃん。それって、やる意味あるの?』
『あるわよー。お客様の納得と安心を得ないと、なの。ご依頼料を頂くからには、目に見えた成果ってものが必要なのに、それがしっかりとご提示出来ない、因果な商売なのでねー』
……という、私と華緒ちゃんのやり取りを聞いていたはずの春臣は、食事をしながらの打ち合わせ中、ほとんど無言で。最後の最後にひと言だけ、『わかりました』と華緒ちゃんに、返事を寄こすだけだった。
画面の向こう、これから大浴場に向かう浴衣姿の春臣は、手首に旅館のビニール製の巾着をぶら下げ、腕組みをした手にスマホを持っている。
私は、二つのくつろぎ椅子置かれている部屋の窓際、片方の椅子に華緒ちゃんがゆったりと座る横で、膝立ちになって画面をのぞき込んでいたのだけど。
視線を感じたので見ると、華緒ちゃんがニコニコと、過剰なくらい微笑んでいた。
「ねーえ? 二人で旅行するのは、これが初めて?」
「……そう、だね」
初めての、旅行……春臣との。
それはさっき、華緒ちゃんが来る前、『実は私、旅館にお泊りするの初めてなんだよね』って春臣に話したときに、気付いてたんだけどね?
でも私も春臣も『初旅行……いや、これ仕事だろ』『そう、だね。お仕事だよね』って、なんか違うよね、って……うん、あんまり認めたくないです。
それどころか私って、家族と旅行に行ったことないから、つまりはこれが、人生でほとんど初めての旅行、修学旅行と大学受験のときを除けば、だったりして……。
「部屋付き露天風呂は、お楽しみいただけましたでしょうかー?」
「……とっても気持ちよかったです」
時間もあったし。
いろいろ諦めて、入りました……。
「二人一緒に入れるのも、よかったでしょ?」
「えーと。一緒じゃなくて、それぞれ別々に楽しませていただきましたので」
「んんん、不自然に敬語! 怒んないでよ、浴衣着た十緒子、かわいいのにー」
私は返事をせずに、タブレットの画面を見つめる。
怒ってる、っていうか……ああ。
ずーっと言いそびれていた文句を!
おかげでいま、フツフツと思い出しましたっ!
華緒ちゃんが、タブレットをローテーブルに置き、代わりにスマホを取り上げてタップする。画面の中の春臣がスマホを耳に当てると華緒ちゃんが、「オッケイ、水野くん。じゃ、また大浴場の帰りに、よろしくね。時間だけ気をつけて」と、スピーカーで通話し、「わかりました」という春臣の返事を聞いたところで、通話をオフにした。
「私も、これが終わったらやっと温泉に浸かれるわー。結局、食事のあとも旅館のあっちこっちをハナとお掃除して回ってたら、そんな時間、なくなっちゃったのよね。夜中でも入れる大浴場って助かるわよね、まぁこういうことが起こると、大変だけど」
「……華緒ちゃん、」
私は華緒ちゃんの顔を見ずに、絞り出すように言った。
華緒ちゃんの「ん、なぁに?」という返事を耳にし、ローテーブルにスマホがそっと置かれるのを見つめながら続ける。
「もう、いまさらだけど。春臣を、こんなふうに……巻き込んじゃうのは、ダメだよ」
「……十緒子?」
「だって。この依頼は、御崎の家のことなのに」
「うーん。べつに……水野くんならもう、遠慮なんかしなくてもいいんじゃない?」
思わず顔を上げると、すぐ横にいる華緒ちゃんが、小首をかしげて私を見つめていて。
そこから距離を取りたくなってしまった私は、向き直りながら正座に座り直して、華緒ちゃんを見上げた。
「っ、よくないよ、ここに呼ぶ前に、きちんと説明しないと、だよ? ……この前、だって。華緒ちゃんが春臣を、あそこに呼んだんだよね?」
「この前? ああ、この前、ね。確かに私も、水野くんにメッセージを送ったけれど。あれは、十緒子のヘビさまたちの考えに従っただけよ」
……そう、ヘビのみんなが私の居場所を、ハナちゃん経由で華緒ちゃんに知らせたのは、華緒ちゃんたちが探してる怪異だったから、それと……私のことが心配だったから、で。
そしてみんなが、春臣のそばにいた、だいちゃんに知らせて。だいちゃんが春臣を連れてきてしまったのも、やっぱり……みんなの力を借りて、精力を急激に減らす私を、心配してのことだった。
だから、華緒ちゃんを責めるのは、ほんとは違う。
それは。私にも、わかってる……わかってる、けど!
「っ、そうかもしれないけど! でもっ、」
「十緒子。水野くんに、内緒にするつもりだったの?」
「内緒? ううん、そんなのしない、『一切合切すべてを逐一報告』するって、約束してる」
「じゃあ、問題なくない?」
「問題あるよ! 私は春臣を、あんな怪異に遭わせたくなんか、なかった!」
いつの間にか私と華緒ちゃんから離れ、ローテーブルの上にいた二匹のヘビ、べにちゃんとハナちゃんが並んで、こちらを見ている。華緒ちゃんの視線に耐えられなかった私は顔をそちらに向け、その透き通った赤と金色のそれぞれの体を、ぼんやりと見つめた。
「……そうね」
と、しばらくしてから、華緒ちゃんが言った。
「確かに今回、水野くんに説明せずに呼びつけて、仕事を手伝ってもらったのは悪かったわ。サプライズで十緒子に、温泉一泊旅行をプレゼント出来る、って……手伝ってもらうのが仕事らしい仕事じゃないからって、調子に乗り過ぎたわね。それは、ごめんなさい。でもね、」
すとん、と華緒ちゃんが椅子から降りて、私の、膝の上で握りしめていた手を取る。
「この前、水野くんを呼んだことは……私は、謝らないわよ。ハナから、十緒子がもうすぐであいつに遭遇する、って聞いたとき、目の前が真っ暗になった気がした。白のヘビ様の、箱状の結界? なにそれ? って思ったわよ。また十緒子のことを止められない、なんて……そんなの、二度と御免なのよ。私が言いたいこと、わかる?」
私はハッとして、華緒ちゃんを見た。
『二度と』が、なにを意味するのか、それは……華緒ちゃんが言いたい『一度目』は、六歳の私が自分の力以上の結界を創り出したことで精力を使い果たし、そのせいで昏睡状態になってしまった、あのときのこと、だから。▼
「私はね、十緒子を守れるのなら、十緒子に憎まれるくらい、どうってことないわよ? だから水野くんにも遠慮なんかしないし、それにね。あれくらいのことで、巻き込まれた、なんて音を上げるようなら……彼に、十緒子のそばにいる資格なんてないわ」
そう言い切った華緒ちゃんの、明るく穏やかな声音が……痛い。
胸がキュッ、と縮むような痛みに、両手を華緒ちゃんに取られたままでは耐え切れずに、私はその苦痛を顔に出してしまう。
華緒ちゃんはたぶん、そんな私を見て、困ったように微笑んだ。
「ねぇ、十緒子。水野くんの代弁をするつもりなんてないけど、でもね。大事な人に、大事なことを教えてもらえない、大事な時に呼んでもらえない、のは……その理由がわかってたとしても、結構キツいものなのよ?」
「っ、そんなつもりじゃない、私はただ、……でも」
とっさに、言おうとしたことが嘘のような気がして、言い淀んでしまう。
私はただ……春臣に怪異を遭わせたくなくて、イヤな思いなんかしてほしくなくて、だから彼を巻き込みたくない。
そう言おうとして……もちろんそれは本当のことで、でも同時に、ただの建て前でもあり、自分に都合のいい嘘、のような気がした。
私は。
春臣を『私』に巻き込んでしまうのが、どうしても怖いんだ。
……私は。
春臣に、そばにいてほしい、って思ってる。
っ、違う、私が春臣のそばにいたい、でも。
ねぇ華緒ちゃん、『十緒子のそばにいる資格』って、なに?
違うよ、私こそ、その資格が……春臣の横にいる資格が、ないんじゃないかな?
……だって、私は。
ヘビのみんなと一緒にいることを、いちばんに選んでしまうのだから。
いちばん大好きなはずの春臣を、いちばんに選ばないで。
『……最近、気付いたんだが。おまえが、御崎十緒子が御崎十緒子である以上、絶対に怪異に関わらないなんて生き方、出来るわけがねぇんだよな』▼
……春臣が、そう言ってた通り。
そして春臣は、私がこんな私だって知って、それでもそばにいてくれる。
でも……ほんとに、それでいいの?
何度も何度も、私でいいのかって、迷う。
何度も何度も春臣が、ことばとか態度とかで、大丈夫だ、って言ってくれているのにも、関わらず……。
スマホがローテーブルの上で振動して音を鳴らし、華緒ちゃんの手が私から、ゆっくりと離れてゆく。
「あ、水野くん? ん、映ってる。じゃあまた時間までそこで待機、よろしくね」
タブレット端末の、防犯カメラの映像の中の春臣は、通話が切れた後はスマホに視線を落としたまま、そしてそのまま、何事も起こらないまま時間が過ぎて。
「若旦那さんのご厚意で、チェックアウトは十二時でいい、って。すぐそこで渡り廊下のドアの鍵を水野くんから受け取るし、そのときに水野くんにも伝えておくわね。私は迎えの海藤が到着次第、たぶん十時前には出るけど、あ、出るときに一応メッセージだけ入れる、でも私にかまわず、ゆっくりしていって?
それと。今回、ここに二人が来てくれて、とっても助かったわ、ありがとう。それで……ねぇ、巻き込むっていうなら、私こそ、十緒子を巻き込んじゃってる。ちょっと前になるけど、一緒にこの仕事やらないか、っていう私の提案、覚えてる?▼ その返事を聞いてもいないのに、私ったら、ひどかったわよね。でも、悪いけど……『あかないさん』の件だけは、巻き込ませてもらうわ。
じゃあ、ね。次の予定がわかり次第すぐに連絡するから。また今度、時間を作ってくれる?」
「……うん」
華緒ちゃんがハナちゃんを連れ、タブレットを持って部屋を出て行ったけれど。
私は見送らずに、華緒ちゃんに小さな声で返事をしたときのまま、自分の膝をぎゅう、と力をこめて抱え込んでいた。
<4>御崎十緒子は矛盾する(4)
(8800字)
「おい、体冷やすぞ……って、冷えてんじゃねぇか」
戻って来た春臣が、私の肩に手を当てて、言った。
気がつけば私は、まだくつろぎ椅子の脇で、膝を抱えてるままだった。
けれど、旅館の浴衣一枚の割に、そんなに寒さを感じてない。見れば、べにちゃんがいつの間にか、私の膝の上で、ヘビの体を沿わせている。
「そうでもない、ほら、べにちゃんがカイロになってくれてたから」
「そんなんしてる時点で、体が寒がってんだろうが。夏でも、こういう土地の夜は冷えるんだよ」
「そっか、そうなんだ」
「いいから、とっとと布団に……」
「ひゃっ」
(キュウッ、十緒子ちゃんっ)
春臣に立たされ、肩を抱かれた私は思わず、手の中にいたべにちゃんに力を込めてしまう。「あっ、ごめん」と言ってべにちゃんを放し、それから、くるり、と春臣の腕の中で回転して向き直り、想定外に冷たかった春臣の腕をつかんだ。
「春臣こそ、冷えてる! そうだよね、ほとんど外でじっとして立ちっぱなしで、こんな薄いの一枚だったし」
「あの渡り廊下で待機しながら、もう一度風呂入んなきゃなって思ってた。おまえも体、温めねぇと……なぁ、一緒に入らねぇ?」
「……え、っと」
「フッ、なんもしねぇから。さっき華緒子さんに、チェックアウトは十二時でいい、って言われたけど。なんか、仕事してるような感覚が抜けなくて落ち着かねーし、起きれるなら、もう少し早く出たい気がする。おまえは?」
「そう……だね、うん。春臣んちのほうが、ずっと落ち着く気がする」
「じゃ、さっと浸かって、とっとと寝ようぜ」
「うん。って、え?」
軽く、振りほどけるくらいの力で、手を引かれ。
ガラガラと音を立てて引き戸の内側に入るなり春臣は、私から手を離し浴衣の帯をほどいて、着けているものを脱衣カゴに放り込む。
カラカラ、という音、そして「まぁ、信用ねぇよな。なんなら、その赤ヘビも連れてくりゃいいだろ?」という声が、目をそらし、見ないようにした方向から聞こえてきて、それからもう一度、カラカラ、と引き戸の閉まる音がした。
(あれっ、ボク、ついてきちゃってた。どうしよう、ごめんね十緒子ちゃん)
肩の上にいたべにちゃんが、おろおろと、私の髪の陰から出たり入ったりを繰り返して、右往左往してる。
その首筋のくすぐったさを感じながら、なんでか好奇心みたいなのが湧き上がってきた私の口が、「べにちゃん……一緒に、入ろっか?」とつぶやいていた。
意を決して、髪ゴムで髪を頭の上にまとめてから浴衣の帯を引っ張り、すべてを脱ぎ捨ててもう一つのカゴに入れ、もじもじしているべにちゃんを頭の上に乗せる。
一度深呼吸をしてからカラカラと引き戸を開けると、春臣は湯船の中で、こちらに背を向けていて、難易度が低くなっててよかった……と息を吐き、私は後ろ手に引き戸を閉めた。
まっすぐにカランのあるほうへ歩いて行って、ザバザバと自分の体に掛け湯をし、桶を置いたときにコンッ、と想定以上に音が響いたのにビクリとしつつ、立ち上がり。
そして、春臣の背中を見ながらその左側に、ザブン、とほとんど一瞬で、体を肩まで、お湯の中に沈めてみせた。
……湯船の水面が、凪いでいき。
私はまだ春臣のほうに顔を向けられず、春臣も無言で。
チョロチョロチョロ……と、かけ流しのお湯が木の樋からこぼれていて、深夜だからなんだろう、それ以外の音がしない、静かな空間に耳を澄ます。
お湯に浸かってない顔が、外気にさらされひんやりして、冷えていた体に熱が通って。
なんだか……冷静に、肩の力が抜けてきた。
頭の上のべにちゃんのことを思い出して、お湯から肩が出るくらいに体を少し出してから、べにちゃんを手のひらに乗せ直し、そのまま湯船に、べにちゃんの体の半分くらいを沈めてみる。
透き通る赤い色の体が水面に揺れて、きれいだな、と思う。
「……ほかのヘビどもは? どうしてんだ?」
ふいに横から、春臣の囁くような声がして、べにちゃんが頭を、春臣のほうに向けた。
(あのね、金のとお話ししてるよ。あと、この地の土地神たちがいっぱい話しかけてくるから、それを聞いたりしてる)
「……そうか」
と、べにちゃんの体が私の手から離れ、湯気の立ち上る水面を、頭だけを出した状態で、つつつ、と泳いでゆく。
そして、温泉のお湯が出て来る樋にぴょん、飛び乗って、そのまますぐに樋のかげに体を引っ込め、それから頭だけをおずおずと出してきて、べにちゃんが言った。
(十緒子ちゃん、春臣くんも。いいお湯だから、ゆっくり浸かってね)
「……うん」
私も囁くような声で、べにちゃんに応える。
春臣は、なにも言わなかった。
チョロチョロチョロ……と、お湯の流れる音だけが、響いている。
深夜の露天風呂は、ほんとに静かだった。
春臣も私も、口をつぐんだまま。
私はお湯の中で、膝を抱えるようにしていて、春臣とは手もつないでない。肩すら、触れ合っていなかった。
チャプ、と水音がして。
反射的に、ぼんやりとそちらに顔を向けると、春臣が、湯船から片手を出して顔をぬぐったところだった。
やっぱり……きれい、だなぁ。
春臣の、男の人らしい骨格と筋肉に、いつものように見惚れてしまう私がいる。
まるで彫像みたい、なんて、月並みな表現では足りない。
どこもかしこも、全部好き、って思う。
『あなたの、首が。首に触りたいって、思っちゃったんです』
『首、フェチ? そういうこと、か?』
『わ、わかりません! ほかの人のは、あまり興味がないので!』▼
……そう。
いちばん最初に、春臣に言った通り、なのだ。
春臣以外の男の人の体、首に、私は興味がない。
春臣じゃない他の人の体を、わざわざ観たい、とは思わない。自分のフェチを確かめたくて、あえて雑誌とかネットとかで探して観てみたことは、実はある。けれど、春臣を観たときのと同じ感覚にはならなかった。
観ていてこんなにドキドキして、触れたい、って思ってしまうのは、春臣の体だけ。
だから、私を『首フェチ』、と言うのは……ほんとは、ちょっと違う。
いろんな人の、首ばかりを鑑賞対象とするような、そういう性癖では、私はなかった。
っ、ほんっとうに!
春臣の首、だけなのだ。
私が好きで、触れたくて、出来れば……唇でも触れたい、なんてことを願ってしまうのは。
……首へのキスは、執着心とか独占欲の現れ、らしい。
最近になって、ネットの記事かなにかでそれを知ったとき、ああ、そういうことだったんだ、って思った。
これは私のもの、私の『番い』なのだ、と。
電車で、遠くから春臣を見つめていた頃の、私にも。
たぶんそれが……なんでだか、わかっていたのかもしれない。
どうしてか、そこに光が射すように、わかってしまう瞬間。
いつか私はあの人の首に触れるのだ、という、根拠のない淡い確信と、期待。
……だいちゃんが、いつだったか言っていた、『先見の力』▼のような、感覚。
って、こんなの……妄想強すぎ、重い重い重いっ!
でも……それくらい。
私は春臣を、手放せない、そう思っているくせに。
こんなふうに思ってるなんてこと、春臣には言えない。
『まぁ、信用ねぇよな』
ついさっき春臣が私に言ったフレーズがふいに、脳内で再生される。
私は……春臣を、信用してない?
こんなにも、すっごく好きだって、思っているはずで、なのに……。
「そろそろ、出るか」
現実の声。春臣が私のほうに、ゆっくりと顔を向ける。
目が合って、だけど私は黙ったまま、春臣を見上げていた。
「どうした? ……ああ、俺が先に出ないと、だよな」
立ち上がるために体を傾けた春臣に向かって、私は手を伸ばそうとして、思い留まる。
夕方に、観光スポットを歩いているときにも感じた、遠さ。
電車の車内で、遠くから観てたときより、こんなに近くにいるのに。
隔てるものはお湯だけしか、ここにはないのに。
私は……私から、手を伸ばせない。
そしてずるがしこく、春臣が私に手を伸ばしてくれるのを、待っている……。
◇◇◇
春臣の後からお風呂を上がり、部屋に戻ると。
畳の上に並べられた二組のお布団、その片方の上で春臣は、上掛けをめくったところに、あぐらで座っていた。
私も、もう一方のお布団の上掛けをめくり、膝を崩すようにして座り。
お布団とお布団の間、ちょっと距離あるよなぁ、って思いながら春臣を見ると、春臣も私のほうを見ていた。
「……寝よっか」
言いながら私は、枕元に置かれてた、和なデザインのスタンドライトのスイッチを入れる。室内灯はどうやって消すんだっけ、と思いながら立ち上がると、春臣の手が、私の手首を捕まえた。
「……少し、いいか?」
静かな部屋に、春臣の……いつもよりも落ち着いた声が通る。
ここは都会みたく、建物の外からの喧騒も聞こえてこない。
べにちゃんも、ついさっき(おやすみなさい)って言って、姿を消してしまっていて。
だから、私か春臣が音を出さないと、この部屋は、しん、と簡単に静まりかえる。
「話しておきたいことがある」
引かれた手に従ってそのまま、春臣のお布団の上に、なんとなく正座で座る。
改まって、なんだろう……と、考える暇もなく春臣が「これ、」と言って、私になにかを差し出してきた。
受け取ったそれは、文字が書かれた和紙、だった。
七夕の短冊くらいの大きさ。白い紙に細い筆、黒で書かれているのは、漢字の八の字みたいなたくさんの線と、そのまん中に象形文字のような違うような、見たことのない文字、で……。
…………あれ?
なんだろう、この感覚。
だって、この文字、は……。
「見せたことなかっただろ、俺が扱う護符。水野の家の秘伝で、限られた子孫にしか扱えねぇ、ってハナシ。それで、これを書くときは、墨に自分の血を混ぜる。使う血は、ほんの一滴程度でも効果がある。
例えば、子孫以外の他人、あと霊感のない子孫が同じことをやっても、この符は発動しないらしい。扱えるのは本当に限られた子孫だけ、とはいえ水野の家はこの技を、決して他人に漏らさず、限られた子孫の中でもさらに人を選んで、代々言い伝えてきたんだそうだ」
……えっ?
そんなの、私が見ちゃってもいいの?
こんな、触っちゃったりもしてるんですけどっ、と焦っていると、春臣が急に、浴衣の上半分を脱ぎ。私の手からそっと、護符を取り上げる。
「それで。こうするんだ」
春臣が護符を、自分の体の中心、おへその上あたりに当てる。そのまま、護符の上から手を当てたままで春臣が目を閉じると、その護符がふわり、と、ほんの少しだけど、光ったように見えた。
春臣が、目を開け。
手にしていた護符を、そっと上向きにしてみせる。
すると……さっきまでそこに書かれていた、いくつかの文字が、なくなっていた。
「これで俺に、俺を守る結界が張られた。こいつは、まとめて仕込んであって、いつもその何枚かを持ち歩いているんだが」
そう説明を続ける春臣に、文字が消えていない別の一枚を見せられる。
いま春臣が使った護符からは、まるで手品みたいに、あの不思議な文字だけが消えているのだと、はっきりわかった。
「効果は、護符の出来にもよるんだが、一週間から一か月。おそらく、混ぜる血の量や書き手の意識状態によって、変わるんじゃねぇかと思う。俺は、そこまで詳しくは教わらなかった。
符の種類はこれ以外にも、いろいろある。俺の部屋に結界を張るときのヤツとか、この前の……チカが、指の間に仕込んでたヤツ、あんなのとか」
春臣のお兄さんであり祓い屋さんの睦也さんが、春臣の部屋に来たとき。言われてみれば、睦也さんがみーちゃんに攻撃を仕掛けたあのとき、手の中に白い紙が見え隠れしていた気がする。▼
「私に……教えちゃって、いいの? 秘伝をこんな、ガッツリ触っちゃったりもして。睦也さんに、怒られたりしない?」
「チカは、さぁな、そりゃ奴は気にくわねぇだろうな。けど、そっちは正直、どうでもいいし、」
「え? えっと、」
「だが、まぁ……奴にはそのうち、話さなきゃなんねぇかも。それより、」
春臣の言ってる意味、話の先が見えなくて、戸惑う私にかまわず、春臣が続けた。
「どうして水野の子孫が、こんな秘伝を扱ってるか、なんだが、」
浴衣をはだけたまま、手に護符を持ったままで春臣は一度、私から目をそらし。
そしてまた、私をまっすぐに見据えて、言った。
「おまえの、ヘビが。いや正確には、おまえのヘビに願った誰か……おまえの先祖、ってことになるのか? とにかく、その誰かが願っておまえのヘビが、俺の先祖と『血の契約』を交わした、らしい」
「え……」
「オレンジ、いや……橙色のヘビに、確かめた。あのヘビは、それを認めた」
「だいちゃん、が?」
ヘビのみんなが、私のところに来て私に力を貸してくれるのは、私が、蛇神様の下で巫女神になった、とみちゃんの子孫だから。
私だけじゃなくて、華緒ちゃん、おかあさん、それに御崎の家の当主である、おばあさまのところにもいて。それは全員がとみちゃんの子孫だからで、当然とみちゃんは、私たちより上の世代の子孫たちにも、ヘビさまを授けてきたはずで。
直近だと、黄色ヘビのきーちゃんが、何代か前の御崎家の当主に……って、それはちょっと置いておいて。
だから。
ヘビのみんなには過去、私じゃない他の子孫の元で、力を貸したことがある、ってことだ。
そして……昔々の、だいちゃんは。
子孫の誰かに力を貸し、それで春臣の、水野のご先祖様と『血の契約』? を交わすことになって。
それで水野家のご先祖様は、この護符を扱えるようになった、と……。
「……えっ、ええっ? すごい、すごいね! 世間は狭い、ってヤツなのかな、そんなことってあるんだ! そっか、だからだいちゃん、春臣に興味があるって感じだったんだ!」
「……そう、か」
「そうだよ! そっかそっか、これ、この文字は、だいちゃんが、」
「十緒子。悪い、もう少し話したいことがある」
思わずはしゃいでしまった私を、春臣が遮る。
見ると、春臣は無表情、で……。
「はる、おみ? どうしてそんな、」
「俺は。この前……おまえの命を、危険に晒すようなマネをした」
◇◇◇
……命を、危険に?
言われている意味が、よくわからなかった。
「俺はおまえに黙って、橙色のヘビにこの護符や、チカが扱ってるような符を、教わろうとした。それがなにを意味するのかも、考えずに」
「だいちゃんに、護符のことを?」
「そうだ。ヘビどもはおまえのために動く、おまえの精力を使って、な。結局橙色が俺のために動くことはなかった、だとしても……つまり俺は、なんの考えもなしに、おまえの精力を削ろうとしていた。しかも、おまえに黙ったままで」
「……そんな、の。命の危険とかって、そんな、」
「大げさか? でも俺は、白や緑色にそれを指摘されて、ショックを受けた。俺のバカさ加減に……」
しーちゃんと、みーちゃんが?
「おまえがヘビに願ってヘビの力を使えば、おまえは精力を奪われる。それは命を削るのと同義だってことに、俺は思い至らなかったんだ」
「大げさだよ、だって食べればだいじょぶだし、」
「緑色に言われた。この『血の契約』、橙色が遠い昔に使った力が子孫の俺にまで及んでいる意味、つまりその『血の契約』の代償ってモンが、どういうものなのか、考えてみろ、と」
「っ、代償、って……」
「おまえは過去に、星型の完璧な結界を創り出して、その代償に、一か月、昏睡状態になったんだろ? なら橙色の、過去の主人は? チカや歴代の水野の人間が、祓い屋として食っていけるだけの技だぞ?」
「それ、は……」
精力を大量に失ってしまっただろう、その人がどうなったのか、それは……。
ああ……そうか。
春臣は、だからそんなに、つらそうなんだ……。
「だから、悪かった。おまえにちゃんと、謝りたかった」
「春臣は……なんにも、してないよ」
「いや、ダメだろ。他ならぬおまえのことなのに、考えが及ばねぇとか、おまえに黙ったままでハナシ進めるとか、いろいろ……とにかく。ここできっちりけじめを付けて、俺がしでかしたことをおまえに、はっきりさせておきたい。じゃないと、俺は……おまえの隣にいる、資格がねぇんだよ」
「っ、……『隣にいる、資格』……?」
華緒ちゃんが言ったのと同じことば、なのに、全然違う。
違うどころか……どうしよう、聞いた瞬間に体が、ゾクゾクッとして……胸が苦しくて、甘い。
それって……つまり、春臣は。
私の隣にいようとしてくれている、ってこと?
……うれしい。
どうしよう、うれしくなっちゃった、こんなときに……でも。
春臣は私を、とてもとても大切に想ってくれてる、ってことで……いい、のかな?
たぶん。きっと。
ねぇ。そんなふうに考えても、いいですか……?
ちょっと……泣いちゃいそう、でもここは、こらえて……。
「……わかった」
私が言うのを、春臣は黙って聞いていた。
「うん。じゃあ……これで、けじめが付いて、私の隣にいてくれるんだよね? それなら! 今度は私が、春臣の隣にいる資格を頑張らないと、だ」
「……は? ……資格?」
なにを、どうやっても。
私は春臣を『巻き込んで』しまう。
いまだって、そう。
だって、私がヘビのみんなと一緒にいるからこその特殊事情のせいで、春臣を悩ませてしまったのだから。
そして。
それはきっと、これから先も起こり得ること、何度も起こってしまうだろうこと、で。
けど、ね。
なんでだか、もういいや、って気に……どうしてか、なった。
……春臣。
もう手放せないあなたを、私の人生に、盛大に巻き込んで。
それでも私は、あなたと一緒にいたいんだ。
「……ほんとは私に、春臣の隣にいる資格なんてないよね。こんなふうに御崎の家とか怪異とか、面倒なことに巻き込んで、さ? 私が御崎十緒子じゃなかったら、こんな面倒なことなんてなかったのに」
「いや、おまえは、」
「でも! そういうのはもう、やめる。その代わり、私が御崎十緒子でよかった、って……そう言ってもらえるように、頑張ってみようかな!」
春臣を遮って一気に言い切った私は、さっきから引っかかっていたことに、意識を集中する。
それは、あの文字の記憶。
とみちゃんと、とみちゃんの部屋が持つ膨大な記憶の中から、だいちゃんの、かつての主人の記憶に触れられる……そんな感覚があったのだ。
春臣が手にしていた使っていないほうの護符、文字が残っているほうのそれを左手に乗せた私は、右手をその上にかざす……とみちゃんの力を使って。
……すると私の手の中で、ふわり、と文字が浮き上がり。
そして紙の上、二次元に存在していた文字が、三次元的に、立体化する。
だいちゃんの創ったこの文字は、この一文字を構成するのに、いくつかの……ええっと、概念? が組み合わさって、出来ている。
それらが収縮して平面化したときの形が、護符の文字になっていた、ということ。
だからいまは、その逆の工程になってるって、ことで……ああでも、これ以上バラバラになんなくっていい、ストップストップ。
とみちゃんにつながって、その圧倒的な『力』のようなものに、浮かされながら。
私は、そこに書かれていた五つの文字をひとつずつ、護符から剥がし立体化させる。
文字が無くなった護符を布団の上に置き、両手をかざして。それ以上は分解してしまわないように、その状態で留めておけるように、意識する。
そうしてから、またひとつずつ、手のひらに乗せるようにして、春臣に見せていった。
「これは、言祝ぐ。漢字でいうと、お祝いの『祝』かな。次が、天と地の『天』。真ん中が『彼』、ええっとね、あなた、あの人、みたいな? それでその次が『在』、存在の在、だね。最後が『地』、天と地の。それでね、」
春臣がそれらの、ぼんやりと光を帯びる文字を、私の説明に合わせて、ひと文字ずつ注視している。
護符から剥がれた五つの文字が宙に、護符に収まっていた時のように縦に並んだ。
「『祝』、『天』、『彼』、『在』、『地』。……あなたが、この天と地の間に在ることを、言祝ぐ。それが彼女の願いで、そして祈りでもあって。だいちゃんは、それを叶えてあげたんだね」
ふう。もう、いいかな。
私は肩の力を抜き、すると文字たちはそれぞれ、バラバラにほどけ、宙に溶けるように消えてしまった。
それから私は、黙ったままの春臣の手を取って、言った。
「……春臣がいてくれて、よかった」
気持ちが、あふれる。
そのまんまのそれを口にした私は、春臣に近付いて春臣の、素肌の両肩に手を乗せて身を乗り出し、春臣の頬に、それから彼の左の首筋に、軽いキスを落とす。
そして、ほんとはパクリと食んでしまいたい、という欲に耐えつつ……春臣がはだけさせていた浴衣の、襟を首のところまで持ち上げてキッチリ、肌がすっかり見えなくなるように着せ、しっかりと帯を結び直してあげ。
そうしてから私は、春臣を見上げて、言った。
「寝よう? 明日は早く帰りたいし……でも、こっちの布団で、一緒に寝てもいい?」
「…………おまえ。俺への効果的な拷問を、よく知ってるよな……ああ、お仕置き、ってヤツ?」
「ん? 声ちっちゃい、なんて言ったの?」
「いいに決まってるだろ? 全部、おまえの好きにしろよ」
「フフフッ、そんなの、眠れるかなぁ」
「っっっ、おまえ、なぁっ!」
布団の中、春臣の腕の中で、目を閉じながら。
ずっとこのままでいたいなって気持ちと、早く春臣の家に帰りたいなって気持ち……これもすっかり矛盾してますよねぇ、なんてことを考えていて。
でもこれは、どっちもほんとで、どっちも大事。
たぶん……それで、いいんだよね?
つづく →<その25>執筆中です
あなたに首ったけ顛末記<その24>
◇◇ 矛盾に付ける薬はないし温泉も効かない ◇◇・了
(この物語は作者の妄想によるフィクションです。登場する人物・団体・名称・事象等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。)
【2025.02.28.】up.
【2025.03.01.】加筆修正
☆あなたに首ったけ顛末記・各話リンク☆
<その1> はじめまして、首フェチの生き霊です
【生き霊ストーカー・編】
<その2> 鑑賞は生に限るが生き霊はイタダけない
<その3> 水野春臣の懊悩と金曜日が終わらない件
<その4> 御崎十緒子のゴカイ☆フェスティバル
<その5> 手は口ほどに物を言うし言われたがってる
<その6> 日曜日には現実のいくつかを夢オチにしたっていい
【ヘビたちの帰還・編】
<その7> 吾唯足知:われはただ「足りない」ばかり知っている
<その8> 天国には酒も二度寝もないらしい
<その9> どうしようもないわたしたちが落ちながら歩いている
<その10>「逃げちゃダメだ」と云わないで
<その11> アテ馬は意外と馬に蹴られない
<その12> ”〇〇”はゴールではない、人生は続く
<その13> イインダヨ? これでいいのだ!
【御崎十緒子の脱皮・編】
<その14> 耳目は貪欲に見聞し勝手に塞ぎこむ
<その15> 人生と誕生日は楽しんだもん勝ち
<その16> 隠者のランプは己を照らす
<その17> 闇で目を凝らすから星は輝く
<その18> トラブルには頭から突っ込まないほうがいい
<その19> 痴話喧嘩は甘いうちにお召し上がりください【前編】
<その19> 痴話喧嘩は甘いうちにお召し上がりください【後編】
【あかないさん・編】
<その20> 招かれざる客は丁重にもてなせ
<その21> 歌い踊るは人の性
<その22> 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【前編】
<その23> 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【後編】
<その24> 矛盾に付ける薬はないし温泉も効かない
・『あなたに首ったけ顛末記・目次』
↑ サブタイトル込みの総目次を載せた記事です。
・マガジン・小説『あなたに首ったけ顛末記』
↑ 第一話から順番に並んでます。
・#あなたに首ったけ顛末記
↑ ”新着”タブで最新話順になります。
・マガジン・小説『闇呼ぶ声のするほうへ』(スピンオフ・完結)
↑ <その14>のあとに書いたのでその辺でお読みいただくと楽しいかも?
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#温泉 の回にしてしまったのは実は展開に困っての苦肉の策だったらしい
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