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あなたに首ったけ顛末記<その22・曖昧は望んで混沌を揺蕩う【前編】>【小説】
ご来店ありがとうございます。コチラは『異能もの現代ファンタジーラブコメ』女子向けライトノベルなお話の<その22>です。お口に合いそうでしたら、ひと口だけでもいかがでしょうか?
最初のお話:
<その1> はじめまして、首フェチの生き霊です
前回のお話:
<その21>歌い踊るは人の性(さが)
・『あなたに首ったけ顛末記・目次』
:サブタイトル込みの総目次を載せた記事です。
・マガジン・小説『あなたに首ったけ顛末記』
:第一話から順に並んでます。
・ハッシュタグ #あなたに首ったけ顛末記
:”新着”タブで最新話順になります。
・全記事へのリンクが、この記事の最後にもあります。
・記事内 の『▼』
:過去話の該当記事の、さらにサブタイトルへのリンクです。(ブラウザでの閲覧時のみ有効。noteアプリの場合は該当記事表示まで、サブタイトルには飛ばないです……。作者の備忘録的役割があるとかないとか。)
+++
当記事へのご来店、誠にありがとうございます!
<その22>……22本目の記事にして、やっとここまで辿り着きました。
この話の着地点を探してはや幾年月、遥か上空から落下し続けながら、ぶ厚ーい雲に覆われてずっとその存在すら疑っていた地表が、チラッとだけ見えた……ような?
まだまだ先は長そうで(汗)……もしも、もう少しだけでもお付き合いくださったなら駒井は、泣いて喜びます。そんなアナタ様がいると信じて、明日も生きる!(←ちょっと重い)
ではでは。ごゆっくりどうぞ~。
あなたに首ったけ顛末記<その22>
◇◇ 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【前編】 ◇◇
(約20000字)
御崎十緒子:絵を描くのが好き、幽体離脱で生き霊になりがちな、首フェチ27歳会社員女子。黒髪ロングふっくら頬の和顔。十匹の実体のないヘビを従者にしている。
水野春臣:十緒子にナイスバディと認められた体の持ち主、顔立ち濃い目、口が悪く霊感体質の27歳会社員男子。十緒子と付き合っている。
御崎華緒子:十緒子の姉(正確にはハトコ)。十緒子と同じ能力者で従者は金色のヘビ、ハナ。
御崎玄:十緒子の父親。十緒子と20年ぶりの再会を果たす。
御崎真緒子:十緒子の母親。黒のヘビを従者に持つ。
御崎高緒:御崎家当主、十緒子の祖母。銀色ヘビを従者に持つ。
水野睦也:春臣がチカと呼ぶ、春臣の従兄。
水野里香:睦也の妻。十緒子が通うヘアサロンの店長。
戸田:十緒子の同僚で二歳年上の先輩。ゆるふわボブカットに丸メガネの癒し系女子。
十三匹のヘビ:人語を話す、手のひらサイズの実体のないヘビたち。それぞれ違う色の体を持つ。自身を蛇神に捧げた巫女(とみ)の選ばれた子孫の前に現れ、その子孫の”従者”となる。それぞれで様々な特殊能力を持っている。
・以下の十匹十色は十緒子の従者。幼少時の十緒子がそれぞれの色に合わせて名付けた。
登場順:白(しーちゃん)/紫(むーちゃん)/青(あおちゃん)/赤(べにちゃん)/灰(はーちゃん)/茶色(ちゃーちゃん)/桃(もーちゃん)/緑(みーちゃん)/黄色(きーちゃん)/橙(だいちゃん)
・金色ヘビ:華緒子の従者でハナと名付けられている。
・銀色ヘビ:高緒の従者。
・黒のヘビ:真緒子の従者(詳しくは→ 『闇呼ぶ声のするほうへ』)。
<1>御崎十緒子の曖昧な日常(1)
(約6000字)
弊社が入るビルの、主にトイレに出没する幽霊さん、キヨさん。
彼女は、いわゆる『死霊』ってモノでは、なかった。
幽霊さん=この世にさまよえる死者の魂、すなわち死霊ってことだよね、と思ってたんだけど……アチラ側の世界にもいろいろ、諸事情があるらしく。
キヨさんの魂の本体部分はすでに、しっかり成仏しており、もうこの世にはいない。なのだけど、キヨさんの魂の一部と言ってもいい、彼女の思い残しがあって、その強力な残存思念から、あの幽霊さんは出来ているようで。
つまり彼女は、そんな……幽霊さんが形作られてしまうくらいの強い思いを、この場所に遺してしまった、ってことなのだ。
(寄せ集め……集合意識……んふっ)
私の耳の横でそんなふうに、うっとりとつぶやいたのは、橙色ヘビ・だいちゃん。
だいちゃんの、オレンジのゼリーみたくおいしそうな色をした透明なヘビの体が、私の顔の前を通って、トイレの天井に向かって、ふよふよと泳いでゆく。
誰もいない……ええっと、いつものように洗面台にめり込みながら、大きく首をかしげてる幽霊さん、キヨさん以外に誰もいない……このトイレで。
私、27歳のしがない霊感持ち会社員、御崎十緒子は、だいちゃんのつぶやきをそのまんま、確かめるように繰り返した。
「……寄せ集め。集合意識?」
(♪ 奴だけじゃない、残存思念の寄せ集め ♪)
歌って答えてくれたのは、茶色ヘビ・ちゃーちゃん。キラキラの透き通る茶色、琥珀色って感じの体が、オレンジなだいちゃんの隣に並ぶ。ヘビのみんなは視るたびに色味が変わったりするのだけど、いまのだいちゃんとちゃーちゃんは、わざと色味を合わせてるみたいで。
なんかこう、アースカラーな感じの、コラージュ……。
「……あ、そっか。うん、なんとなくわかる」
頭の中でなにかがひらめいて、つながって。
つぶやきながら私は、キヨさんのほうに顔を向けていた。
キヨさんは、キヨさんの残存思念だけで、出来ているわけじゃない。
他の人の残存思念や、他の霊の一部がちぎれたモノやなんかが、元のキヨさんの強力な残存思念を核にして集まって、いまのキヨさんになったんだ。
……私がそういう、幽霊さんの諸事情なんかが、わかるようになっちゃったのは。
封印されていた記憶を思い出し、『脱皮』して……私のご先祖様であり蛇神様の巫女でもある、とみちゃんと、繋がるようになってしまったからだと思う。
の、だけど。なにもかもがすぐにわかる、ってわけでもなく。
しかも、わかったと言い切るにはちょっとビミョーな、とーっても曖昧な感覚、だったりもして。
キヨさんのことに、話を戻すと。
この土地、それともこのビルの、意識、みたいな……ええっと、うまくことばに出来ないんだけど、そんなモノもキヨさんに混じってる、ような?
キヨさんは地縛霊ともちょっと違う、座敷わらしじゃないんだけど……どっちかっていうと付喪神っぽい気もするし、地霊、だと遠いのかな……うーん、こっちの、人の目には視えない世界も多様性の時代、みたいな? 線引きして考えるとちょっと違っちゃう、って感じの……。
と、洗面台の鏡の前でくるくると回転していた紫色の煙のうず、その真ん中らへんの、邪を捉えて巻き付いていた部分がそれごと、うずの中心を引き絞るようにしてボワン、と消え。残った煙も、回転からほどけてあたりに広がり、漂いながら消えてゆく。
少し離れたところにいた紫ヘビ・むーちゃんのほうに顔を向けると、むーちゃんの、アメジストみたくキレイな体が瞬間、スッと消え……たかと思ったらすぐに、私の目の前に、ポンッと音を立てて現れた。
(……十緒子、終わった)
「うん。むーちゃん、ありがと!」
むーちゃんに返事をし、あたりの空間を確かめたところで私は、さっきまでの、結論の出なさそうな、ぼやぼやぼやーんとした思考を、いったんストップすることにした。
え? いつも通りの、棚上げ思考?
ハイ正解、そのとぉーり!
いつものとおり、お気楽に……あんまり、悩まない方向で!
「よーし、オッケイ! じゃあ出社するとしますかー! キヨさん、いってきまーす」
(…………、いってらっしゃい)
とまぁ、こんな感じで。
過剰な陰の気を帯びる、悪さをしそうな邪がいれば、ヘビのみんなに『お片付け』してもらって。
それからキヨさんにあいさつをして出社するのが、私の日課となりつつある。
◇◇◇
キヨさんと『歌』を交わして、名前を教えてもらった、あの日。
このキヨさんの件で、ちょびっとだけケンカしつつもちゃんと仲直りを果たした私のカレシ、水野春臣に、キヨさんの件について『一切合切すべてを、逐一俺に報告しろ』▼と言われていた私は、その日私がしたこと、キヨさんから教えてもらったことを全部、春臣に話した。
スーパーでちょっとした量の買い出しをしてからウチに来て、炊飯器のセットだけ済ませたら、夕ごはんを作る前の小休憩も兼ねて、その話をすることになり。
ちゃぶ台を前にしてふたりで並んで座り、春臣の、血管が浮く手の甲と手首とを見つめながら、私は……キヨさんとつながった、あのときの感覚を思い出し、そしてそれを少しずつ、春臣に説明するためのことばに変換していった。
キヨさんの『歌』とともに私に流れ込んできた、キヨさんの記憶を。
「えっとね、キヨさんは。指輪をね、失くしちゃったんだって……」
……大事な人から初めてもらった、大切な指輪。仕事中は指から外して、でもずっとそばに持っていたくてポケットに忍ばせていて、でもそのせいで、どこかに落として失くしてしまった。
正直に打ち明けると彼は、『あれは安物だったのだから』とキヨさんをなぐさめてくれた。そして、『ちゃんとプロポーズしろ、って神様に言われた気がしたよ』と言いながら、新しい指輪をキヨさんに差し出してくれたのだ。
幸せな、結婚生活。けれど、キヨさんの心の中にはずっと、失くしてしまったあの指輪のことがあった。自分の寿命が思っていたよりも短くなると告げられたとき、これはあの指輪を失くした罰なのだろう、そう思ってしまうほどに……。
「……指輪がいまも、あのビルのどこかにあって。でもその場所が例えば、下水槽の底とか、そういう汚れた場所だったとしたら、って考えてしまうと、もうどうしようもなくて、どうにかしたい、しなくちゃ、探さなくちゃ、って」
「なら、指輪を見つけてやれば、奴は成仏するってことだろ?」
「ううん、キヨさんの本体はもう、すっかり成仏してて。あの幽霊さんは、ええっと、キヨさんの一部? でしかなくって、あとね……指輪がどこにあるのかも、本当はわかってるみたい」
春臣は沈黙し、私はそんな春臣に寄りかかってなんとなく、彼の手に自分の手の甲を添わせた。
「でもね、それは見たくない現実、みたいな感じで。そこに残った気持ち……指輪がある場所がキレイな場所であってほしいって、強く願う気持ち、行き場がなくなってしまった想いが、あのビルの中で渦巻いてしまって、ほかの魂のカケラなんかも吸い寄せて、いまのあのキヨさんになっちゃった、そんな感じっぽい。
だから、たぶんキヨさんは……そんなに悪い幽霊さんじゃない、と思うんだ」
「……そうか」
するり、と春臣の手が位置を変えて、私の手を取った。それに応えるように私も、彼の指を軽く握ってみる。
「指輪、か。結婚指輪失くしたってのに、そろってヘラヘラ笑ってるだけの夫婦もいるってのにな」
「え。それって、まさか、」
「里香さんとチカ。失くしたっつうから何度となく家中探して見つけてやって、けど何度目かで奴ら、『まぁいっか』で済ませやがった。結局家ン中じゃ見つからねぇままだったから……ふたりとも、家の外で落としたんだろうな」
「えええ、それ豪快すぎる、それに里香さんってそんなキャラだったんだ……でも、」
結婚指輪、かぁ……。
私だったら絶対、大事にするのにな。
……と、続けようとして。
口を開きかけたところで私は、ハッ、と我に返る。
あれっ?
その言い方ってさ、なんかちょっと……アレな感じがする、よね?
え、いま私、声に出してゆっちゃったりなんか、してないよね?
ギリ・セーフ、だったよね?
バッ、と春臣を見上げると、春臣もこっちを見下ろしている。
それでつい、からめていた手に力が入ってしまい、すると春臣の手も反射のように、きゅっと握り返してきて、目が逸らせなくて、でもって春臣の反応が怖い、どうしたら……。
「……里香さんのキャラが、なんだよ?」
……あ、よかった。
これって、よく聞き取れませんでしたよ、的な訊き返し、だよね?
ハァ。聞こえてなくて、よかった……。
だって。結婚指輪を『私だったら大事にするのにな』なんて、ゆっちゃうのって、さ?
なんか、ちょっと……おねだりしてるっぽく、聞こえちゃうんじゃないかな、ってさ?
俗に言う、あざとい、ってヤツ?
っ、わぁやだ恥ずい、私ってば、ヤメテヤメテ!
指輪をおねだり、だなんて……ねぇ?
……ん?
結婚指輪をおねだり、って、どっちかっていうと。
『指輪』じゃなくて……『結婚』を催促しちゃうようなモノ、なのでは……?
………………。
っ、ケッ、ケケ、ケケケケ、ケッコン?!
ち、違う!
ソコまで考えてなくって、ただ、指輪は大切にしたいな、って思っただけで!
でもでも、春臣との結婚がイヤだ、とかそーゆーんじゃなくて、でもほら、指輪だけでもなんか重たーい感じだし、重たーいとやっぱり、その、なんというか……。
「……十緒子?」
「ハッ、あのっ、えっと、」
春臣の訊き返しからここまでの経過時間はおそらく約5秒、体感時間はこの限りではない……って、それはさておき!
「……えっとえっと、ええっと、ね……なに言おうとしたのか、わかんなく、なっちゃった、みたいな? あはは~」
「なんだよ、それ」
「さって、とぉ。休憩、おしまい! そろそろ、ごはんの支度しよっか?」
春臣の手を引っ張りながら立ち上がり、でも急に、つないだままの手に気付いて、パッと手を離す。まだしゃがんだ体勢だった春臣は、手を宙に挙げたまま、私をにらんだ。
「おまえ……」
「たっ、タイミング間違えた、ごめん」
「なんで、そもそも、おまえのほうからだろ?」
立ち上がった春臣に両手を、指と指をからめるように掴まれ、見下ろされる。
「っ! わたっ、私のほうから?!」
「握って欲しそうに、手ぇすり寄せてきただろうが」
「え、あ、そっち……は、確かに、そう、でした……」
「あ? それでなんで、急に手離すんだよ」
「そっ、それは、その、」
一瞬だけ、いま握り締め合ってるこの手この指に、おそろいの指輪してるのを想像してみちゃったからで~す、ものすごーく動揺しました! テヘヘッ☆ だなんてそんなの……言えるわけ、ないじゃん!
答えなきゃ許さねぇ的なお顔でこう、詰め寄られたってね、無理ムリ、無理ですから!
一方的にそんなコト考えてる、なんて絶対、ぜーったい重い、確実にドン引きされちゃうもん!
……あっ。
待って待って、いまの手を離したのって、まさか?
まるで私が、春臣がイヤで手を離したっぽく、なっちゃってた?
そんなの違うし、でも誤解されちゃってる?
やだやだ、それは絶対、違うから!
「っ、違くて! イヤで離したわけじゃないから!」
掴まれていた手にぎゅっと力を込め、春臣を見上げて言うと、ふいに春臣の手がゆるみ。
それに反応した私の体が、その瞬間の思い付きのままに動いて……春臣の手から自由になった両手を、春臣の胴体から背中に滑らせるようにして、春臣にガバリ、と抱きつく。
そして私は、そのままの体勢で、春臣に言い聞かせるようにゆっくりハッキリと言い切った。
「ちゃんと好き、なので!」
「………………」
うん、ヨシ。ちゃんと言えた。
またヘンな誤解ですれ違ったりするの、絶対イヤだもん!
と。ふいに、髪を梳くように、頭を押さえられ。
抱きついたまま春臣の顔を見上げると、春臣は片手を口で押さえて眉根にタテジワを寄せ、そっぽを向いていた。
「はる、おみ?」
「なんだよ、急に……カンベンしろよ」
わー、顔が赤ーい。
って……あれ、もしかして?
もしかしなくても、いまの私のセリフって、かなり……コッパズカシイ、感じ?
出来る限りそうっと、何事もなかったかのように春臣から体を離した私は、無意識化の『ごはんの支度』にうながされて、ふらふらとキッチンへ向かう。顔が熱い……たぶん、私の顔も真っ赤だ。
キッチンにはふよふよと、でもリズミカルに宙を踊り泳ぐちゃーちゃんが、そして冷蔵庫の上でじっ、と動かずとぐろを巻き、ちゃぶ台方面を見つめる、むーちゃんがいて。
ぐぁああ……すぐそばに、ちゃーちゃんとむーちゃんがいたってのに。
私ってば最近、みんなの前でもかまわずに、春臣とイチャイチャしちゃってるよね?
顔が、顔が熱いぃ……ふぐぐ……。
あーもう、これは。
この、後発的に湧き上がってくる、いたたまれなさを解決するには、ね、これしかない……。
冷蔵庫から缶ビールを二本取り出して、まだちゃぶ台のそばに立っていた春臣のほうへ戻ると、春臣が「……火曜日。まだ火曜日だ……」とか、ぶつぶつとつぶやいていて。
首をかしげた私に気付いた途端に春臣はそれを言い止め、私が差し出した一本を受け取った。
二人して無言のまま、プシュッ、と音を立てて栓を開け、缶を軽く合わせてから、ひと口飲む。
そして、どちらからともなくキッチンへ移動し、手を洗ったりエプロン着けたりなんかしているうちに、落ち着いてきて……それはたぶん、春臣も。
「……そういえば、今日のお昼。春臣、社食に来れなかったよね? 外回り、大変だった?」
「……ああ。話が長い顧客のトコ行って、まぁ大変っつーか、いつものことなんだが。ああ、そういやおまえ、『あかないさん』とかいうの、聞いたことあるか? 都市伝説らしいんだが、なんで知らねぇんだって、客に言われた」
「え、初めて聞いた。流行ってるんだ?」
そこからはいつものように、ビールをチビチビ飲みながら、お味噌汁とサラダ、麻婆春雨を作って。とりあえずふたりとも、私のコッパズカシイ告白から、立ち直った、かな?
……ふう。
指輪とかケッコンとか、春臣に重いって思われちゃいそうな話も、しなくて済んでよかった。
なんかね、それ系の話はもうちょっとだけ曖昧に、ぼかしといたほうがいいかなー、なんて。
なんとなく。なんとなーく、なのだけど!
……曖昧に、って。
ただいま絶賛、カレシカノジョ的お付き合いの、真っ最中! の、はずなのに。
もう……なんなんだろ、これ……?
<2>御崎十緒子の曖昧な日常(2)
(約7400字)
「はい、じゃあ始めます。わざわざ集まってもらったのは先日の、社内報の件。各課ごとに対面で確認取れ、って上のほうから指示が来たんでね」
会議室に集められた我々、販売促進部第四企画課の十数名を前に、チーフがいつもの、ほのぼの~な口調で話し始める。
朝礼の習慣がない我が課にしては、ちょっとめずらしい事態。朝イチにいったい、なんでなんだろ、なんて思ってるのは私だけではないっぽい感じ、けれどチーフの次のことばに、場の空気が変わった。
「先日の社内報の、通り魔の件、なんだけど。……あーみんな、件名見て読み飛ばしてたでしょ。まぁ『退勤時における注意喚起の件』じゃ正直、意味不明だったよね。ん、オケオケ。指示通り、改めて僕から説明するね」
……え? 通り魔の件って、ええっ?!
社内報は通常、各自パソコンで確認することになっているのだけど、私にはあんまり関係ないかなーなんて、斜め読みで閲覧終了のチェック送っちゃうこともあって、でも……そんなの読み飛ばしちゃってたの、私?
それに通り魔、って。
やっぱり、全国で頻発している、あの通り魔事件と、関係ある……?
「この前ウチの社員が何者かに襲われ、刃物で切りつけられました。被害に遭った社員は幸い怪我だけで済んで現在自宅療養中、それでいまのところ、犯人は捕まってません。場所はその社員の出張先、新店の立ち合いで半月ほどそっちに行ってて、店舗からマンスリーマンションまで帰る途中のことだそうです。
それで……まだなにもわかってはいませんが、弊社社員だから襲われた、という可能性も否定出来ない、そういうことで社が、全社員に注意喚起をしたわけ」
チーフは反応を確かめるように、私たちそれぞれに視線を送りながら続けた。
「つまり、会社が知らずに恨みを買ってる可能性、犯人が社の人間を把握・特定してる可能性があるかも、ってことね。ですから、違う土地で起きた事件だからと他人事にせず、念のため帰り道、とくに人気のない夜道には気をつけるように、お願いします。
あーちなみに、襲われたのは男性社員だからね、男も女もないから。もし不審な人物を見かけただとか、不安に思うことやなんかがあれば、僕か部長、あと社の専用のホットライン……お悩み相談のヤツね、そっちでも対応するそうなので、とにかく誰かに相談してください。それと、」
……こんなに、身近に?
襲われてしまった男性社員さんは、私が顔知ってる人なのかな、チーフが名前を出さないってことは、ウチの課からはちょっと遠い部署の人なのかな……。
けれどチーフの話は、詳細を説明する方向へは行かず、業務連絡的なものに移っていってしまった。
「……で、残業は当面の間、すべての部署でナシにするように通達が来てて、その調整の関係で、一部部署の業務が遅れてます。特に、被害者の彼の所属する開発戦略部が、バタバタしちゃってるみたいで……いや、ゾッとするよ、部署の仲間が被害に、なんて。みんなは頼むから、無事に家まで帰ってね?
はい、そういうわけだから、新店関連のメニューブック、販促物のスケジュールが、ちょっと厳しくなるかもしれないです。状況の把握、共有は早めに、困ったらその都度僕に相談してください。以上、質問等なければデスクに戻って結構です」
あ、少しだけ聞けた。
開発戦略部、かぁ。
お会いしたことは、なさそうだなぁ……。
ガタガタとパイプ椅子を動かす音、私もよいしょ、と立ち上がって、戻ろうとして。
でも、来たときと同じように、連れ立って戻るだろうと思っていた戸田さんが……隣の席に座ったまま、動かないでいた。
同じ課の、デスクが隣同士の先輩で、ほわほわ~っとした雰囲気の、その存在だけで私を癒してしまう、ゆるふわボブのステキ女子、戸田さんが。
なんだろう、いつもの感じじゃない、感じ……?
「……戸田さん?」
呼びかけにも、反応しない。
見ると、長テーブルの上で組んでいる両手が、ぎゅっと握りしめられていて……微かに、震えてる?
私はもう一度座り直して、戸田さんをよく見た。
いつものまん丸メガネの下には、うっすらとクマ……それにそもそも、顔色がよくない、よね?
伏し目がちなままの戸田さんと目が合わず、「だいじょぶですか?」と声をかけながら、戸田さんの腕にそっと触れてみる。と、ビクリ、と体をこわばらせて、戸田さんがこちらを見た。
「御崎、さん?」
「えっとあの、顔色悪い、かなって。立ち上がれない感じ、ですか?」
「え?」
戸田さんは不思議そうに私を見、それからあたりを見回して、「あ……終わって、た?」と小さな声でつぶやくように言う。
「はい。あの、気持ち悪いとか、どこか痛いとことか、」
「あ……平気、なんでもない……」
……『なんでもない』はず、ない。
なんだろ、この感じ。
それ絶対違うよね、っていう……確信と、予感。
……そうだ。
私には、わかるはず。
腕時計が巻かれた、細い手首に触れながら。
私は『見る』だけじゃなく、戸田さんを『視る』。
いつもの私は、あの、どこにでもある気持ち悪いもやもや……人や、人じゃないモノが発する陰の気に惹かれてしまわないように、そちらにピントを合わせないようにしている。『脱皮』後の私はいつの間にか、そのピントの調節が、難なく出来るようになってしまっていて……。
いまから意識して『視る』のは、普段はなるべく、視ないようにしている世界。
人の目には視えないはずの非現実なモノ、この世とあの世との、はざま、さかい、あわい……この世でもあの世でもない曖昧な部分、けれど重なるように存在する世界。
イメージするのは……紫ヘビ・むーちゃんの、淡い紫色の光。
むーちゃんの光が、あわいを照らし出し、そして。
それが視えた途端に私は、戸田さんの左肩をパシン、と手ではたいた。
ちゃーちゃんの力をイメージした、引力とは反対の力で。
そこに視えたのはあのイヤな、ザワザワするような感覚になる濃い灰色のもやもやで、それが私の手を避けるかのように弾かれ、それからスッ、と消えた。
「おーい、そろそろここのカギ閉めるけど? どうかしたの?」
入口近くからチーフに声をかけられた私と戸田さんは、ハッとしてチーフを見た。
「あ……の、えっと、戸田さんが少しだけ、調子悪いみたいで、その、」
「あっ、もう大丈夫です、少し座ってから戻ります」
戸田さんが即座に私のことばを継いだのにびっくりして、思わず戸田さんを見た。
「オケオケ、ゆっくりでいいよ。じゃ、カギかけて返すの、御崎さんにお願いするね」
「……はっ、はい」
名前を呼ばれて今度はチーフのほうに顔を向け、するとチーフがカギを差し出しながら歩いて来たので、私はあわてて立ち上がり。チーフの元へ飛んでいって、両手でカギを受け取る。
パタン、と会議室の扉が閉まるまでチーフの背を見送ってから、ゆっくりと振り返る。
座ったままの戸田さんが、まっすぐに私を見つめていた。
会議室に残っているのは、私と戸田さんだけ。
それと……戸田さんのうしろの天井近く、ポンッ、と音を立てて姿を見せた、むーちゃんとちゃーちゃんがいる。
「……御崎さん、」
「は、い」
立ち上がった戸田さんが、動けないでいた私の前まで来る。じいっ、と私を丸メガネ越しに凝視する彼女から、視線が外せない。
「いま。私に、なにをしたの?」
「っ、なに、って……えとその、肩にゴミ、が、」
「それ、嘘だよね? この、急に霧が晴れたような感じ……トイレで御崎さんと会うとき、トイレにイヤな感じがしないのと同じだもの。……私ね、少しだけだけど霊感があるみたいで。と言っても、そういうモノがはっきりと視えるわけじゃなくて、イヤな感じがする、くらいな感じ……でも、だから、」
へっ、霊感があるって、え? え? え?
と、気がつけば、カギを持っていた両手をガシッ、と戸田さんの両手に挟まれていて。
戸田さんの顔がズズン、と迫り、近くなって……。
「……だから、わかる。御崎さんにも霊感があって、それでたぶん、霊能力者、なんだよね? その力を貸してほしい……助けてほしいの!」
……え。
私が、霊能力者……?
『助けてほしい』、って……。
ええええ、えええええっ?
◇◇◇
その日の、仕事終わり。
戸田さんに「外じゃ話せないから、ウチに来て!」と引っ張られ、会社から戸田さんのお宅、マンションのワンルームのお部屋に連行された私はいま、戸田さんちのパソコンの前にいる。
そして、パソコンの画面には、な、なんと……『御崎コンサルティングのサイトへようこそ!』なんて文字が、表示されてたりなど、しておりまして……!
「この会社、なんだけど。御崎さんに関係ある会社だったりしない?」
関係あるもなにも、華緒ちゃん、そしておとーさんとおかあさんが、この御崎コンサルティングの人間で、っていうか、私の祖母が興した会社なんですけどねっ!
なーんて答えを私は、戸田さんには言わずに、呑み込んで……。
ななな、なんだろう、この事態。どうしたらいいんだろ?
ウチのことって、秘密にしといたほうがいいのでは?
……でも。戸田さんの話は、ちゃんと聞いてみたい。
戸田さんにくっついて悪さをしてたっぽい、もやもやのことも気になるし。
だからここまで、ついて来てしまったんだし……。
などと逡巡し続けていた私はとりあえず、というかもう半ばやけくそ&ノープランで、素直に返事をしてみることにした。
「……初めて見ましたけど、確かに、ウチの家族の会社、です。ホームページがあるなんて、いま知りました」
「やっぱりそうだったんだ、すごい! 私ね、このページを、偶然見つけたんだけど……」
戸田さんが困って、いろいろ検索しているときに見つけたらしい、そのサイトのトップページには、不動産や建築関連の相談、土地の売買やリフォームなんかの具体例が箇条書きにされていて。
そのいちばん下にある『その他霊障・風水等の各種ご相談』をクリックするとページが変わり、そっち方面の具体例の箇条書きが、ズラズラッと表示された。
原因不明の水漏れ、家鳴りまたは家鳴りのような音が止まない、電化製品が勝手に作動する……などなど。
「ええっと、『まずはお見積り』、『状況に応じて当社より各方面の技術者を派遣し最後まで責任を持って問題解決』、『霊障の場合も実績のある登録スタッフを派遣いたします』……」
「御崎さんって、いつだったか朝に、会社のトイレでお祓いの呪文? みたいなの、唱えてたでしょ? 御崎さんがお祓いとか出来ちゃう人で、ならもしかしたら、この会社の関係者なんじゃないか、って思ったの。親戚どころじゃなくて、ご家族の経営だったとはね、ますます納得だなー」
へ?
お祓いの、呪文?
って、それは。
たぶん、キヨさんに『いってきまーす』ってあいさつしてるだけ、もしくは、ヘビのみんなと話してたのが聞こえちゃったのかな……。
うーん。
戸田さんちに来るまで、戸田さんの追及を濁してたんだけど。
もう御崎の家の会社のことも、知られてしまったわけだし、多少なら……話しちゃっても、いいのかな?
「ええっと。確かに、霊感はあります。でもお祓いの方法とかは……よくは知らないし、家族がやってる仕事も私には、まだよくわかんないことが多くて、」
「でも今朝の、私の肩を叩いたアレは? 私程度のレベルじゃ視えないなにかが、いたんでしょう? 御崎さんが祓ってくれたんじゃないの?」
「アレ、は。えっと、ですね……まぐれ、っていうか。なんとなく出来ちゃった、みたいな?」
答えながら、戸田さんじゃないほうに目が泳いだ私の口元が、エヘヘ、とごまかし笑いを浮かべてるのが、自分でもわかる。
いや、だって……お祓い? 私におまかせあれ! なレベルじゃない、コトもないけど……でも実際まだ、自分でどうやるのかビミョーにわかってないし、でも、とみちゃんやヘビのみんなのチカラを借りちゃえば出来ないこともなさそうで、だけど!
そもそもそんなコト言えないし、ヘビのみんなのことなんか特に、それだけは、絶対絶対、戸田さんには話せないし……。
にしても、私って……ごまかし方、下手すぎだよねぇ……。
そんでもっていま必要なのは、匙加減考えながら話し過ぎないように気をつけて話す、なんていう高等スキル、嘘つくのも下手クソな私がそんなの、どうやって……。
などと、私が内心ダラダラと滝汗を流していたところへ。
予想していたよりも、静かな声が返ってきた。
「あれが……まぐれ?」
「は、はい」
「……そう。そっか、そうなんだ」
戸田さんのほうへ目を向けるとそこには、スッと真顔になった戸田さんがいて。
「うん、でも……あのとき、すごく楽になった。だから、ありがとう、お礼だけは言っておくね。それで……それでも、話は聞いてくれないかな? 聞いてくれるだけでいいから」
「……はい。うかがい、ます」
返事をした私の声も戸田さんにつられ、少しだけ神妙なものになり。
そのおかげで私は、いまの状況を思い出した。
そうだ、気を引き締めないと。
自分のことばっか、気にしてる場合じゃない。
戸田さんの部屋に到着してすぐに、中にいたもやもやは、ちゃーちゃんとむーちゃんがお片付けしてくれていた。もちろん、戸田さんにはわからないように、気配を消しながら……どうやら戸田さんには、みんなの姿は視えないようなのだけど。
だから、つまり。
この部屋には、もやもやが……陰の気が、溜まっていたわけで。
冬芽さんのときみたく▼、戸田さんの幽体がズレているわけではない。
もやもやは戸田さんが、どこからか連れてきてしまったもののようで。
そうして連れてきてしまったもやもやが、戸田さんが悩むことで増幅され、別の、そのへんにいるもやもやを引き寄せてしまう、という、ちょっとイヤな悪循環になってしまってたみたいだ。
「少し待ってくれる?」
戸田さんが言い、パソコンのブラウザを検索画面にする。
横にいる私が画面を見ているうちに、サクサクと検索結果をスクロールしてクリックし、とあるサイトが表示されたころで戸田さんが、「これ。なんだけど」と言い、私のほうを見た。
「『閲覧注意、浮気再犯率ゼロのおまじない・最凶の最終手段』……?」
「これを、さ。私、教えちゃったんだ、ヒビノに」
まっ黒な背景に、怖い話なんかによく使われる例のひび割れたフォントの白文字、という、わかりやすい組み合わせなデザインのサイト。本文をわざと読みにくくしてるかのように、文字を普通よりも小さくしてるのがまた、なんとも怪しい感じで……。
「えっと……ヒビノさん、に、これを?」
「会社の、私の同期。日比野、って名字で呼んでて、彼女は社内恋愛してて、それで……」
画面の『浮気』というワード、それに『社内恋愛』。
言い淀む戸田さんに向かって私は、「あ、」と声をあげた。
「もしかして。浮気されちゃってた、っていう、あの?」
「うん。あーそっか、少しだけ話したことあったよね」
私が春臣に詫び弁当を持たされて、戸田さんとお昼をご一緒したときに聞いた話。▼
戸田さんに、春臣が浮気してるんじゃないか的なこと言われて、あのとき、すっごく驚いたのだ。
「え、その、浮気されちゃってた日比野さんに、このおまじないを、教えて……?」
「冗談のつもりだった。あの男のいままでを考えると、これくらいしないとダメなんじゃない? くらいの……でもまさか、本当に実行に移すなんて、思ってなかった」
画面には、そのおまじないに準備する物と、その手順が出ていて。
白い服、包丁、自分の髪の毛、相手の髪の毛、それと……。
新月の夜、午前二時に、髪を結びつけた包丁を自分の枕元に置き、刃には血を数滴と、そのあとに……。
目で追いながら、ここに説明されている内容と、戸田さんの口から出た『実行に移す』が、なんだか結びつかない。
「『目が覚めて、枕元の髪の毛が切れていたら、願いが聞き届けられた証し』……『そして、このおまじないの力で、あなたの相手は一生消えない傷を負うことになるだろう』?」
思わず、声に出しながら読んでしまっていて。
そこまで読み上げたところで戸田さんが、画面をスクロールした。
「御崎さんは。『あかないさん』って、聞いたことある?」
「え? あ、はい、ありますけど」
最近、春臣から聞いて知ったばかりの、都市伝説。
「このおまじないは、ね、」
言いながら戸田さんがクリックし、このページのコメント欄を広げた。
「『あかないさん』を呼ぶ儀式、なんだって。ここのコメント欄だけじゃない、ほかのサイトやSNSでも言ってる。それで、」
画面の『試したら本当に、あかないさんが来てくださいました!』なんていうコメントのいくつかを見ながら、春臣と一緒に観た動画の、あの、どうやってもバッドエンドな終わり方を思い出していた。
『あかないさん』……誰もいない夜道に、真っ白な服に真っ白なエプロンを着けて現れる、彼女は。
対象に問いかけ、しかし対象がどんなふうに応えたとしても、隠し持っていた包丁で、対象を切り裂く。
「最近流行ってる都市伝説だと、頻発してる通り魔、あれは『あかないさん』の仕業だろう、って」
「っ、通り魔が、『あかないさん』?」
『通り魔』ということばに、華緒ちゃん、それに睦也さんのことが、頭をよぎる。
華緒ちゃんの、あの傷。▼
それに今日、会社で聞いたばかりの……。
「今朝、聞いたよね、開発戦略部の人間が通り魔に襲われた、って。その被害者の開発戦略部がね、日比野のカレシなの。犯人はまだ捕まってない、ってそりゃそうだよね、だってあれは人間の仕業じゃないんだもの。
都市伝説の通り、『あかないさん』の仕業で、だとしたら?
私がこんなものを教えたせいで、おまじないを実行した日比野がおかしくなって、それで日比野のカレシも切られて、それって……ねぇ、御崎さん。私の言ってること、わかってくれる……?」
戸田さんが私の腕をつかみ、その手が、小刻みに震えている。
彼女に返すことばが見つからないまま私は、ぞぞっ、と背筋に走った悪寒、そしてその悪寒のイヤな余韻を、黙ってこらえるしかなかった。
<3>御崎十緒子の曖昧な日常(3)
(約7000字)
「来てくれてうれしい、ありがと。差し入れも助かるー、外に出るの億劫だったから。戸田、いつもありがとうね」
ガサガサとコンビニ袋からカップのデザートやお菓子、ペットボトルを取り出す部屋着姿の彼女はパッと見、想像してたよりも元気そうに見えた。
「でも後輩を、こんなこと付き合わせるなんて。戸田は意外とマイペースだからねぇ。あ、どれでも好きなの選んでね? なんて、買ってきたの、私じゃないのにね?」
と言ってフフッ、と笑みをこぼす彼女、日比野さんが、二人掛けのテーブルに差し入れを並べていく。テーブルとセットの椅子には私と戸田さんが向かい合って座っており、日比野さんは差し入れを並べ終わると、別の部屋から木製のスツールを運んできた。
戸田さんと私に挟まれる位置に納まった日比野さんは、私たちが来訪したときから、ずっとニコニコしている。
現在時刻、夜の八時半過ぎ。
戸田さんちで話してたときは、こうなるはずじゃ、なかったんだけど……。
◇◇◇
「日比野は……もう一週間も、会社を休んでるの」
「えっ?」
口から出てしまった声が思いのほか大きくて、私はあわてて口を押さえた。
震えていた戸田さんが落ち着きを取り戻し、やっと話し始めてくれたところだった。
「スマホにも出てくれないし、メッセージも既読にならないから、直接日比野が住んでるマンションに行ったの。でも行ったらどうしてか、ゾッとするような、イヤな感じがして……なんとか我慢して、日比野もちゃんとドアを開けてくれて、でもなにか様子がおかしくて、」
戸田さんはまた、組んだ両手をぎゅっ、と握り締めていた。
視界の端っこで、もやもやがこちらに近寄ってくる、気配がして……それをちゃーちゃんが、ヘビの尾でサッサッと軽やかにはたいて散らし、そのまま緩やかに回って、また別のもやもやをはたいている。
「……開口一番にね、『ありがとう』って、私に言ったの。『戸田のおかげ、あのおまじない、ちゃんと成功したから』って。で、次の日会社で、日比野のカレシが通り魔に遭った、って話を開発戦略部に近い知り合いから、聞いて……全部がパッ、と、つながった気がした」
戸田さんが続けるのを、私は黙って聞いていた。
「それで、やっぱり……日比野の様子がおかしい、絶対に変。あんなふうに、意味のわからないことを一方的に話すようなヤツじゃなかった。でも、ちゃんと話を聞いてあげたいのに、あのマンションに行くのが……あの部屋にずっといるのが、怖いの。私のせいなのに、本当、自分がイヤになる……」
そうか、だから。
日比野さんの様子がおかしくなったのは、おまじないのせいで『あかないさん』のせい、だったらそれは霊障だろう、ってことで。
その解決方法を探して、ウチの、御崎コンサルティングのサイトを見つけたのか……。
「っ、あの! 一度、家の者に相談してみます。それで日比野さんのお宅に、すぐにでもうかがえるようにして……そのときに、日比野さんからお話が聞ければ、だいじょぶなんじゃないか、って」
うつむけていた顔をパッ、とあげた戸田さんが、私のほうを見る。
こわばらせていた表情をわずかに緩めて、戸田さんが言った。
「……うん。御崎さん、ありがとう。お願い、します」
私が黙ったままうなずくと、戸田さんがゆっくりと息を吐き。
それで肩の力が抜けたみたい、いつものゆるふわな戸田さんが、ちょっとだけ戻ってきたように見えた。
むーちゃんの紫色の煙が、戸田さんを包み込むように漂っている。
部屋の陰の気は、もうだいじょぶそうかな、と考えていると、戸田さんがまた、ぽつりぽつりと話し始めた。
「私……日比野にね、差し入れを持っていってるの。会社を休むようになってから、なるべく毎日。差し入れ渡すだけ、長居したくなくて、すぐ帰ってしまうんだけど。
たまに通話に出てくれたときに話すと、ほとんど外に出てないみたいで……彼女も私と一緒で実家遠くて、頼れる人が近くにいないんだよね。
今日もね、これから日比野のところに行くつもりで。それで御崎さん、少しだけでいいから、一緒に行って様子を見てくれない? 日比野の家、実はこのすぐ近くなんだ。日比野の顔だけ見たら……見れるかわからないけど、御崎さんを駅まで送るから」
……という、そんな流れで。
五分ほど歩いたところにある別のマンションに、戸田さんとふたりで来て。
少しだけ様子を見る……玄関先で顔だけ見て、差し入れを手渡して退散する、くらいのイメージだったんだけど。
日比野さんに「一緒に食べてよ」と請われて戸田さんが断らず、そうすると私も断りにくく。
さらには、「少しだけ待ってて。テーブルの上、片してくる」と日比野さんが奥に消えたところで、戸田さんにヒソヒソと、小声で頼まれてしまい……。
「御崎さん、ごめん。今日の日比野、なんか調子良さそうだし……私も、今日はそんなに怖くないし、イヤな感じがしないからさ、御崎さんのおうちの人に来てもらう話、してみようかと思う。だからもう少しだけ、付き合って?」
……うん。
戸田さん、いつもより怖くなくて、よかったです。
日比野さんも、調子が良さそう、で……。
なんですけど。
それには理由が、ございまして。
目に視えない方面で少々、ひと苦労ありまして、ですね……。
日比野さんのお宅に向かう、途中の道。
もやもやとか邪とか幽霊さんとかその他諸々の、普通の人の目には視えない系のあんまりよくないモノがいる割合が、ちょっと多めな感じ、で。
そのうち、それらのよくないモノたちがどうやら、一部の建物を中心に集中してるっぽいとわかってきて。
その建物の周りにもやもやの帯が、イヤ~な感じで、ぐーるぐーるしてて。
で、案の定戸田さんに、「あのマンションなの」って言われ。
フフッ、ですよね~!
っていうか……やっぱりかーっ(泣)
と、心の叫び声を上げずにはいられませんでしたよ……。
ううむ、これって……ちょっとどころじゃなく、ヒジョーにヤバいよね?
戸田さんに纏わりついてたもやもやの由来が、よーくわかった、っていうか。
そりゃここに来るのが怖いって思うよ、うんうん納得納得! じゃなくってぇ……なんでこんなことになっちゃってるの、怖すぎでしょ……?
え、やっぱり『あかないさん』のせい、なのかな?
うーん、わかんないけど……まずは身の安全を確保したい、切実に!
どうしようか考えて、むーちゃんとちゃーちゃんに小声で、戸田さんと私の周囲だけでいいから守って、とお願いする。こんなの全部をどうにかするのは無理、だからとにかく、せっかくもやもやを払って復活したっぽい戸田さんだけでも守らねば……。
ちゃーちゃんが戸田さんの頭をパシッ、と尾ではたき、すると戸田さんの体がうっすらと、琥珀色味のある透明な膜に覆われるのが視え、それでもう、もやもやのみなさんは戸田さんには寄れず。むーちゃんは私のそばにいてくれて、周囲の空気が淡い紫色を帯びる。
そこで、ポンッ、と音がして。
(あらあら。これは大変ね)
灰色ヘビ・はーちゃんが、姿を現すなりすぐに風を起こし、その風がもやもやたちを、やんわりと吹き飛ばした。
「っ、はーちゃん?」
(…………呼んだ)
なんで? って私が訊く前に、むーちゃんが答えてくれて。
はーちゃんの風でマンションまでの道がひらけ、日比野さんがドアを開けたときにも、はーちゃんの風が、中からあふれるように流れてきたもやもやたちを、私と戸田さんのほうに来ないように、うまく流してくれて。
そこからはもう、三匹のヘビのみんなの、おうっふな特殊効果頻発のお片付け大会、でもって、いま現在も絶賛開催中! なのですよ……。
戸田さんに害がなくて、日比野さんの調子が戻ったのなら、ね、まぁよかったのだけど。
そのおかげで、顔だけ見て帰る、が出来なくなってしまった、という……。
◇◇◇
「すごいたくさん買ってきてくれたんだねー。おにぎりにパン、ちゃんとスイーツもあるし、」
ニコニコと笑顔の日比野さんは、言いながら、でもなにかを手に取ったりはしない。
「戸田は私の好み、わかってくれてるよね。うれしい、ありがとう」
「…………」
戸田さんは日比野さんを見つめたまま、返事をしなかった。
たぶん……絶句、してる。
それというのも。
調子が良さそうに見えたはずの、日比野さんの様子が……やっぱり、明らかにおかしいのだ。
戸田さんにはたぶん、日比野さんが言ったことの、全部が聞き取れていない。
はっきりしたことばに聞こえたのは、玄関先での『一緒に食べてよ』と『少しだけ待ってて』あたりまでだったかもしれない。
小さな声、途切れ途切れに聞こえてくる単語……けれど私には、日比野さんが話しているつもりのことばが、全部聞こえている。
なんで声が途切れ途切れなのか、っていうと。
日比野さんの実体のカラダと幽体が、ズレちゃって、まして……。
幽体がまるで、実体の輪郭かのように、ぼんやりと重なるように浮かんでいて。
実体と幽体との重なりが途切れ途切れになるのに合わせて、声が聞こえなくなってしまう。
私はもうほとんど、幽体が話すのを聞いている感じで。
だから、というか、どこまで聞こえたことになっているのかわかんなくなっていて、どう反応したらいいのか、非常に困る……どうしよう。
そもそも、中に通されたのはいいんだけど、部屋の中が……かつて春臣に罵倒された私の部屋▼よりもレベルの高い、なかなかな散らかりっぷり、で。
正直、これはヤバいよね的なニオイも漂ってきて、はーちゃんが風でなんとかしてくれなかったら、もっとつらかったかもしれない。
日比野さん自身も、はっきり言ってしまうと、ヨレヨレの部屋着にスッピン&だいぶブラシを通してなさげなロングヘア、青白い顔でやつれた感じ。出来れば、『とにかく早く休んでくださいっ、お邪魔しましたーっ!』というセリフを残して、速攻でおいとましたいくらいで、でもそんなわけにもいかず……。
ポンッ、ポンポンッと音がして。
(うーわー)
(十緒子ちゃ、)
(静粛に)
青色ヘビ・あおちゃん、それに緑ヘビ・みーちゃんと、顔をみーちゃんの尾に巻かれてことばを遮られた桃色ヘビ・もーちゃんが、天井近くのすみっこに姿を現した。
……え、なんで。
むーちゃんてば、呼び過ぎじゃない?
ポンポンッ、とさらに音がして、今度は黄色ヘビ・きーちゃんと、赤色ヘビ・べにちゃんが。
(おや、)
(わっ)
べにちゃんは小さく声をあげるなり、姿を消した。とたんに、背骨あたりに熱を帯びたような感覚を覚えて、べにちゃんが私の体の中に入ってくれたんだな、とわかる。大地から分けてもらったチカラを吸い上げ変換することで、私の精力を補ってくれて……。
あっ。
私ってば……力を、使い過ぎてる?
ヘビのみんなに力を借りると、私の精力が減ってしまう。精力が減りすぎると、おなかがものすごーくすいて、タイヘンなことになってしまうし▼、精力を使い果たす、なんてことになると、もっとタイヘンなことになってしまう。▼
けど、いまここで、精力を使わないように手加減するなんて……出来ない、無理。
ああ、だからヘビのみんなも、なるべく力を抑えて、最小限でやってくれてるんだ。
おなか、は……うん、まだそんなにはすいてない。
でも、気をつけておかないと、だ。
まさに、いま。
目の前、テーブルの上には、大量の食べ物があって。
……よーし。もう、こうなったら。
「たっ、食べましょう、か? 私この、あんドーナツ、いただきますねっ」
二人に向かって言いながら、一応並べられたパンの中でも小さめな、あんドーナツ(こしあん)の袋を手に取る。遠慮を知らない困ったチャンになっちゃうかもだけど、この際、背に腹は代えられない。あわよくば、これで場が和んだりなんか……しないかな?
袋をガサガサ言わせながら、あんドーナツをもぐもぐと頬張り。
でも、お二人は……なにも手に取らずに黙ったままで、いらっしゃるぅ……。
わぁん、空気読まないチャンでごめんなさい!
でもでも、もやもやがまだ、たくさんいて……非常事態だし、もうしょうがない!
なにより、日比野さん自身に邪が……ヘビのみんなが祓ってくれてるのに、日比野さん目指して寄って来て、うじゃうじゃっと巻き付こうとしていて……。
「御崎さんのカレシは、浮気しない?」
日比野さんの唐突な、はっきりした口調に虚を突かれ、私の体がビクリ、とはねる。
咀嚼していたあんドーナツの、大きなカケラを急いで飲み込み、日比野さんのほうへ顔を向け。けれど、彼女のまっすぐな視線に気圧されて、ことばに詰まってしまった。
「いえ、その、」
「いい方法が、あるの。戸田が教えてくれた、おまじない。やってみるといいわ」
「日比野、なにを、」
幽体がズレているのに、日比野さんの声が、音のある声としてちゃんと耳に届く……戸田さんにも、はっきり聞こえている。
さっきまでの、途切れ途切れのか細い声で話していた感じが、嘘のようだ。
「私の気持ちをわかってくれて、彼のために悪縁を断ち切る方法も教えてくれたの! 私でもちゃんと、切れた……だからもう大丈夫。彼はもうすぐ、私のところに帰って来てくれる、私と彼はちゃんと付き合ってる、恋人で、遊ばれてるとかただの浮気相手の一人だとか、そんな曖昧で不確かなものなんかじゃない、彼には私だけ、私と彼は深い絆でつながれててっ、」
(……来る)
(来るわね)
どんどん早口になって、止まらなくなる日比野さんの声に圧倒されそうになっていた私の耳に、むーちゃんとはーちゃんの、音のない声が聞こえてきて……。
『来る』、って……なにが?
……ああ。
そうだ、わかる。
このイヤなニオイを、私はどこかで知っている。
ヘビのみんながずっと探していた、あのニオイ、つまり。
華緒ちゃんの腕に傷を負わせた怪異が、残していったニオイ。
(来るか―)
(来ちゃう来ちゃうっ)
(♪ そこまで来てる ♪)
あおちゃん、もーちゃん、ちゃーちゃんの声。
(へぇ。やっとお出ましかい?)
(まったく、大した圧だな)
きーちゃんとみーちゃんが言い、そして背後に、いままで感じたことのない……重たくて冷たい、なにかの気配を感じる。
ニオイも濃さを増して……っ、ダメ、マズい。
このままだと、二人が危ない……。
「……だから私は悪くない、殺したかったわけじゃない、殺してない、違う、私のせいじゃ、違う違う違う違う、」
「っ、日比野、やめて! なんか怖いよ!」
「アガナイサマのおかげなの! 全部うまくいくの!」
戸田さんが椅子から立ち上がり、日比野さんの体を抱えるようにして、それでも日比野さんはしゃべり続けていて。
私も椅子から立ち上がり、けれど二人にはかまわず、背後に体を向けるためにゆっくりと振り返る。
「みんな……戸田さんと日比野さんを、絶対守ってね」
小さな声でつぶやき、部屋の掃き出し窓の向こうで濃さを増す、陰の気の靄を見つめる。
「アガナイサマに! すべてを捧げます!」
日比野さんが叫んだちょうどそのとき、真っ黒でカタチの定まらないなにかが、外からすっ、とガラス戸を抜けて、部屋の中に入って来て。
その、禍々しさしか感じられないない、邪のかたまりのようなモノが、日比野さんの声に反応し、蠢いて……。
うれしそうに……笑っ、た?
顔が見えたわけじゃない、むしろ、どこが顔なのかもわからない。
気味の悪い笑い方をしている、そうとしか思えない感覚情報があって、そのカタチのない、残像のような感覚、気味の悪さが、この空間に満ちて、広がってく、ような……。
ポンッ、と音がした。
(十緒子様。奴と目を合わせてはいけません。奴の悪意に呑まれませんように)
白ヘビ・しーちゃんが、耳元で囁く。
……そう、だ。
うん、そうだったね。
怪異と目を合わせてはいけない。
けれど、目をそらしてはならない。
……まずはそこから、そして。
私はきっと、怪異に相対する『やり方』を、私の意識しないどこかで知っている。
「みんな、とみちゃん……力を、貸して」
私は、つぶやくように言い。
いつかの……『春臣を守らなきゃ』という想いとともに感じた、あのとき▼の感覚に身を任せた。
つづく →<その23>はこちら
あなたに首ったけ顛末記<その22>
◇◇ 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【前編】 ◇◇・了
(この物語は作者の妄想によるフィクションです。登場する人物・団体・名称・事象等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。)
【2024.11.30.】up.
☆あなたに首ったけ顛末記・各話リンク☆
<その1> はじめまして、首フェチの生き霊です
【生き霊ストーカー・編】
<その2> 鑑賞は生に限るが生き霊はイタダけない
<その3> 水野春臣の懊悩と金曜日が終わらない件
<その4> 御崎十緒子のゴカイ☆フェスティバル
<その5> 手は口ほどに物を言うし言われたがってる
<その6> 日曜日には現実のいくつかを夢オチにしたっていい
【ヘビたちの帰還・編】
<その7> 吾唯足知:われはただ「足りない」ばかり知っている
<その8> 天国には酒も二度寝もないらしい
<その9> どうしようもないわたしたちが落ちながら歩いている
<その10>「逃げちゃダメだ」と云わないで
<その11> アテ馬は意外と馬に蹴られない
<その12> ”〇〇”はゴールではない、人生は続く
<その13> イインダヨ? これでいいのだ!
【御崎十緒子の脱皮・編】
<その14> 耳目は貪欲に見聞し勝手に塞ぎこむ
<その15> 人生と誕生日は楽しんだもん勝ち
<その16> 隠者のランプは己を照らす
<その17> 闇で目を凝らすから星は輝く
<その18> トラブルには頭から突っ込まないほうがいい
<その19> 痴話喧嘩は甘いうちにお召し上がりください【前編】
<その19> 痴話喧嘩は甘いうちにお召し上がりください【後編】
【あかないさん・編】
<その20> 招かれざる客は丁重にもてなせ
<その21> 歌い踊るは人の性
<その22> 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【前編】
<その23> 曖昧は望んで混沌を揺蕩う【後編】
・『あなたに首ったけ顛末記・目次』
↑ サブタイトル込みの総目次を載せた記事です。
・マガジン・小説『あなたに首ったけ顛末記』
↑ 第一話から順番に並んでます。
・#あなたに首ったけ顛末記
↑ ”新着”タブで最新話順になります。
・マガジン・小説『闇呼ぶ声のするほうへ』(スピンオフ・完結)
↑ <その14>のあとに書いたのでその辺でお読みいただくと楽しいかも?
#眠れない夜に #長編小説 #小説 #物語 #現代ファンタジー
#ラブコメ #ラノベ #駒井かや #あなたにニヤニヤしてほしい
#あかないさん #ちょっぴりホラー
#残存思念 たぶん3×3EYESで初学習した言葉
#残留思念 のほうがいいのかなと思いつつも”残存”にしてみるなど
#あんドーナツ こしあんもつぶあんもどちらもよきかな
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