『エンジェル・ウォーズ』と最低賃金のバイト
この前、数年ぶりに『ジャスティス・リーグ』を観ました。アメコミに詳しい方ならお察しかもしれませんが、新しく公開されたスナイダー・カットのほうです。
ご存じない方に説明すると、『ジャスティス・リーグ』とは、2017年に公開されたスーパーマンやバットマンの登場するヒーロー映画です。
この映画ができた経緯は少し、いやかなり複雑なものでした。
初めにこの映画の製作を任されたのは、ザック・スナイダーという人でした。彼の監督作は、『ウォッチメン』や『マン・オブ・スティール』など、全体的に画面が暗めで、カットの美しさを重視し、アメコミを神話のように描くという特徴があります。
ところが、撮影も終盤に差し掛かったところでスナイダーが降板。配給会社が次につれてきたのは、『アベンジャーズ』の監督でもあるジョス・ウェドンでした。
会社の方針もあり、ウェドンはすでに撮影された素材を、明るく一般受けする作品に軌道修正するため、パッチワークのような作業を始めることになったのです。
2017年の公開当時。劇場で『ジャスティス・リーグ』を観て感じたのは、教育方針の違う“2人のパパ”がいるということでした。それくらい1本の映画の中で、スナイダーとウェドンの相容れなさが浮き彫りになっていたのです。
ところが、時は流れ2021年。ファンの根強い後押しにより、スナイダーが本来作りたかった映画を思いのままに作った新バージョン、名付けてスナイダー・カットが公開される事になったのです。
撮影は2017年に終わっていたにしろ、同じ映画を2パターン公開するという異例の事態。ファンの声の力を感じる出来事でもありました。
ところで、ザック・スナイダーは前述のようにシリアスで暗い映画を作る監督というのが一般的なイメージですが、自分の中ではちょっと違います。なぜなら、『エンジェル・ウォーズ』の印象が強いからです。
『エンジェル・ウォーズ』はとにかくオタク、それもすごく日本的なオタク趣味全開で、セーラー服の金髪美少女が日本刀でロボットや侍と戦うような映画です。
あらすじだけ聞くとファンタジー映画のようですが、セーラー服や日本刀が出てくるのはあくまで精神世界の話。実際は、監獄のような精神病院に入院させられた少女たちが、現実逃避しながら空想の中で戦うというストーリーです。
話が飛んで、今朝のこと。オンライン読書会に参加したら、主催者の人が『夜と霧』を読んでいました。ナチスの強制収容所に関する本ということしか知らなかったのですが、その本の最後に「どういう人が強制収容所で生き残ったか」という話が出てくるのだそうです。
意外にも、過酷な生活を生き抜くのに適していたのは、繊細で感受性が豊かな人でした。そういった人たちは、労働のあいだも心では妻や子どものことを考えて、今いる現実から逃避していたのだとか。
それを聞いて思い出した事がありました。
学生時代、カフェのバイトをしていた際、閉店後に床を掃除しながら心の中でずっと「チム・チム・チェリー」を歌っていたのです。
そうしていると、ミュージカルの中のキャラクターになれた気がして、最低賃金のまま一向に時給が上がらないクソみたいな現実を忘れることができました。
あれは当時の自分にとって必要な“エンジェルウォーズ”であり、“夜と霧”だったのだと数年越しに伏線回収したような気分でした。
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